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水軍設立へ

水軍や商いの話は、いったん終了です。

永禄9年(1566年)2月 信貴山城 居室


俺藤勝は、いつも通り決済の仕事していた。

大和のごたごたもやっと落ち着いてきたところである。


「殿、堺の今井宗久殿がお越しです」


「わかった。すぐ行く」


最近、今井宗久が登場するのが多くないか。

まあ、気にすることではない。


***


しばらくして、書院


今井宗久と山上宗二、それと若い侍が待っていた。

侍といっても、普通と違う。やけに色が黒い。

俺が入って来たのを見て、皆が平伏する。


松倉右近と佐武義昌、偶々来ていた津田算正が同席していた。

今回の商売の話は、根来にも大きく関係することなのだ。


「藤勝様、ご無沙汰しております。

宗二が帰って来ましたので、ご挨拶に参りました。

挨拶だけでしたら、宗二だけでもいいのですが、ご報告とご相談といろいろございますので」


「宗久殿、固い挨拶は無用でございますよ。

 宗二殿、久しぶりですな」


「はい。」

宗二は、少し焼けて精悍な顔つきになっていた。


「はて、お隣の方は?」


「例の船の件で、お手伝いを頂くことになりました、九鬼殿にございます。

志摩の国のお方にございます。滝川様にご紹介頂きました」

今井宗久が、色の黒い侍を紹介してくれた。


「九鬼右馬允嘉隆にございまする」

九鬼と紹介された男が、頭を下げる。


「おおっ、志摩水軍の九鬼殿でござったか。御名は存じておりますぞ」


宗久は、どきっとして嘉隆の顔を見た。

禁句である。九鬼嘉隆は志摩の海賊であるが、北畠に味方した海賊に襲われ敗れ、滝川一益を頼っていたのだ。


「いや、今は宿なしでござるよ。ははは。」

嘉隆は頭を掻きながら、笑っていた。なかなか豪快な男である。

海の男は、こうでなければいけない。

宗久は、藤勝様はなにをするのだ、と言わんばかりにため息をついていた。


「藤勝殿。例の件でございますが、

織田様からもご支援を頂けることになりましたし、筒井様や根来の津田様の分を合わせますと、千石積2隻を建造できそうです」


千石というと150トンくらいが2隻か

まあ、初めはそんなものかな。


「思ったより小さいな」


「今でもこれほど大きな船はほとんどありまぬ。

それに、これより大きな船を造る場所がそもそもござらぬ」


確かにそうだ。

この時代の船は、ほとんど小型船で数十トンクラスの船ばかり。


「どこで、作るんだ」


「伊勢の大湊に発注になります。あそこには、腕のいい船大工がおりますゆえ。

 織田様の尾張に近いし、あのあたりに船の根拠地を作る予定でおります」


「ふーん。とすると、師崎か伊良湖崎あたりかな」


「うむ。そうですな。師崎が良いかもしれぬ。伊良湖では志摩海賊の根拠地に近すぎる」

これには、九鬼嘉隆が答えた。


「伊良湖では、島伝いに来た海賊に襲われかねないというわけか」


「左様。師崎から出て風に乗れば、振り切れよう。それに尾張でもある故、

火急時には、織田殿から支援を受けることもできる」


「なるほど。そのあたりは、九鬼殿にお任せしよう」



「いずれ、2千石積み、5千石積みを作る所存ですが、5千石積みは、

まだ無理でございます。何年もかかりましょう」


「そうだな。5千石積の大型船は未知のものだ。一筋縄ではいかん。

2千石積みなら平戸や琉球に行くことはできよう。

向こうには、多くの唐船や南蛮船が来ていると聞く。それを参考にすれば、可能かの。できれば、中古の唐船を買えればいいが」


日本近海や琉球、泉州までなら、300トン以下の中型船でも可能であろうが、東シナ海、南シナ海の荒波を乗り越えて、マニラ、シャム、マラッカに向かうには、500~1000トン級の大型船が必要になる。

具体的には、西洋式に竜骨があるガレオン船や折衷の末次船のような船である。

その海域にでれば、ポルトガルやスペインの勢力圏になるので、大砲などの武装も必要だ。


1000トンの大型船など当時の日本では、全く未知の大きさだ。ただ大きくすれば良いわけではない。大きくなればそれを支える強度が必要になるし、バランスなども考えなければいけない。



「まあ、そのあたりは、おいおいでございましょう。

 まずは、船を造って、船員を慣れさせなれければいけません。

 琉球や明に行くのであれば、水先案内人も必要になります。

 幸い、堺にも南蛮船が来ておりますので、誰か引き抜くことはできましょう」


「そうだな」


皆々、うんうんと頷く。


「堺、根来から運ぶのは、鉄砲や火薬などの武器類が中心になります。

 伊勢、尾張からは銅、紅花、綿花などになりましょうか」


「そうだな。鉄砲の増産もできて、余裕が出つつある。他にも売れるものはたくさんあろう」


「木綿で織った布は、着心地がいいし丈夫だ。上方で広がれば、いい売り物になるぞ」


「そうですね。織田様の領地で増産して貰いましょう」

この当時、布と言えば麻布が中心で、武家公家などは一部貴族が絹や苧の布が用いられていた。

木綿は、尾張、三河の一部で栽培されていたくらいで、一般的ではなかった。



「そういえば・・・」

ずっと、黙って聞いていた、佐武義昌が呟いた。


「ん?何だ」

皆が、義昌の顔を見る。


「祐光の奴は、天文道や陰陽道に詳しいらしい」


「天文道?」


「星や月の動きをみて、天候を予測したり吉凶を占うものらしい。

一度講釈されたがよくわからんかった」


「何だ。関係ないではないか」


「いや、稀有の才能ですぞ」

今度は、九鬼嘉隆が発言する。

皆が、嘉隆の顔を見る。


「天文に通じているということは、星が読めるということにござる」


「それがどうしたのだ」

義昌が尋ねる。


「夜の海の上では、何を目印にするかご存じか?」


「しっとるか」

「いや」「しらん」

俺を除く皆が顔を合わせる。

もちろん、俺は知っているんだけど。


「星でござるよ。子(北)の方向には、動かぬ星がござる。

また月の満ち欠けや動きを覚えれば、時刻を知ることができ申す。

天候を予測することも重要。全て海の上で必要なことでござるよ」


「つまり、祐光には船乗りの才能があると」


「さよう。まだお若いので新しい知識を得たり応用する、頭の柔らかさがありましょう。

船の改造や新しい航路の開拓にも役立つはず。是非とも欲しい」

嘉隆が頷きながら言う。


なるほど。ちょうどいい。

祐光をどう使うか考えていたところだ。

史実で軍師であった祐光は、部隊の運用などに才能があることはわかっている。

戦略戦術の立案などもできるであろう。陸と海の場所は違えどすることは変わらない。

多くの人間を投入できない新しい事業には、うってつけだ。


「面白い。誰かある!」


「はっ」

横の襖が開き、近習が出てくる。


「祐光を、それに宗幹も一緒に呼んでまいれ」


「ははっ」

近習が出ていった。


控えの間にいた沼田祐光と白井宗幹は、すぐにやって来た。

入ってきて平伏する。


「殿、お呼びでございますでしょうか」


「祐光。そちは天文道に通じているそうだな」


「はい。京にいた頃に陰陽師の阿倍様と関わりがございまして、教えて頂いたことがございます」


「よかろう。そちをこちらの九鬼嘉隆殿の与力とする。嘉隆殿の下で大いに力を発揮せよ」


「そんな!私は殿の下で働きとうございます」

真っ赤な顔をして、頭を擦り付ける。


「嘉隆殿には我が筒井や津田殿、今井殿が投資する水軍を率いて頂く。その嘉隆殿が、天文に通じるそちをぜひ欲しいというのだ。

 お前は嘉隆殿を助け、日の本一の水軍を作るのだ。もちろん、我々が後ろ盾になって、助けていく。よいな」

俺は、声の強さを落とし、諭すように話した。


「・・・。はい、御意にございます」

祐光は、まだ不満げであったが了承した。



「宗幹。そちは、安芸水軍の出であると聞く。その伝を使い水夫を集めよ。

祐光を支えてやってくれ。」


宗幹は、若いながらなかなかの槍の使い手である。海の荒くれ者を制するには、武力のある者も必要だ。

もちろん暫くの間である。軌道に乗れば不要になる。


「はっ」

宗幹は、平伏して答えた。



こうして、水軍計画はゆっくりと動き出したのである。



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