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小牧山城

意外?にも早く、信長が登場です。

永禄9年(1566年)1月 小牧山城


本多正信は、滝川一益に従い、織田信長の居城である小牧山城を訪れていた。

今は一益が信長と話しており、正信は次の間に控えてきた。


小牧山城は、尾張では北側に位置し、北東には犬山城がある。犬山城の北は長良川であり、対岸は美濃の鵜沼である。

小牧山から鵜沼までは、10キロ弱しかなく2時間もあれば到達できる距離だ。

その半面、斉藤家の本拠の稲葉山城へは数十キロあり、尾張の中心である清州からの距離とそれほど変わらない。

つまり小牧山城は、東美濃の土豪に圧力をかけるために作られた城である。

実際、小牧山に居を移してすぐに、東美濃の大沢氏、伊木氏などが下り、美濃攻略後は用なしになり廃城になっている。

ただ圧力をかけるのためだけに居城を移転させる信長もすごいが、東美濃の土豪が意外に頑強であったのかもしれない。



信長の側近、堀久太郎が迎えに来た。

堀久太郎は、織田信長の小姓筆頭にして取次を兼ねる若者である。

優れた観察力と洞察力を持っているため重用されている。面会の者を断ずるのも彼の役目である。


「正信殿、こちらへ」


正信は、ゆっくりと立ち上がり、堀久太郎に従い面会に向かった。



***


面会の間に入ると、正面に信長が座っており、向かって右側に滝川一益が座っていた。

一益が、正信の顔を見る。何か疲れた顔をしていた。

激しく叱責されたのかもしれない。


信長から少し離れた場所に座り、黙って平伏する。


いきなり甲高い信長の声が響いた。

「汝が、本多正信か」


「はっ」

平伏したまま、答える。


「伏せたままでは面が見えんわ。顔を見せい」


「はっ」

正信は、ゆっくり頭を上げる。


信長は片足をつき、今にも立ち上がらんとするような格好で座っていた。

正信の顔をじっと覗き込む。


「汝は、三河の一向宗にいたそうだな」


「はっ」


「一向宗とは何だ」


一益殿を通して話した伊勢分割の件とは全く違う、予想していなかった話に出され戸惑う。


「はっ。貧しき愚者の集まりかと。一向宗の僧侶は、南無阿弥陀仏と唱えれば、

何人も極楽に行けると教えております」


信長は黙って聞いている。


「民は易きに流れます。一向宗の僧共はそれを利用しておるのです」


「うむ。元康も一揆を鎮めるのに苦労したと聞いておる」


「旧主、松平元康も三河の三ヵ寺を焼き鎮めました。ですが、根本的には、解決しておりません。

門徒は、各地に離散し潜んでおります」


「長島にも一向衆がおる」


「は。いずれ災いのもとになりますゆえ、早期に排除すべきかと」


長島は木曽川と揖斐川、長良川の河口にある輪中のことを指す。中には多数の浄土真宗の寺院があり、住民もほとんどが門徒である。川で運ばれている豊かな土により、広大な田畑が広がる。一説には、十二万石にも達するとも言われる。

左右に川が流れる要害でもあり、介入するのが難しい一種の区界を形成していた。


現時点では中立で問題ないが、いつ歯を剥くか分からない大変危険な存在である。

長島の抑えとして、小野木城、一益のいる蟹江城などがある。

史実でも信長は、長島一向一揆には大変な出血を強いられ弟信興を始め多くの武将を失い、殲滅するのに何年もかかった。


「如何にして」


「長島を人が住めない場所にするしかないと存じます」


「・・・」


「自然の力を利用すればよろしいかと。上流に堰を作り一気に流せば、激流に長島は呑み込まれます。

何回か繰り返せば、壊滅いたしましょう」


信長は、あごに手をやり、黙考する。


「わかった。さがれ」


「は?」


既に信長の目には、正信が入っていないようだ。


「一益。伊勢のこと、汝に任す」


「ははっ」

一益があわてて平伏する。


信長は、突如立ち上がり、去って行った。


正信は、しばらく呆然としていたが、一益に促されその場を離れた。



***


しばらくして、滝川一益の屋敷


「まったく肝を冷やしましたぞ。正信殿」


一益が、頭を掻きながらいう。


「一益殿、わしには、何が何やら」


「ああ」


一益は、信長との話のいきさつ説明してくれた。

信長という人は、普段大変無口で、必要最低限のことしか言わない。仕える家臣は、その時々の状況をから判断して、答えなければいけない。話についていけない者は、使えないとされて無視される。


唐船建造の支援などは、当初無関心であったが、織田が得る利益の大きさなどを説明して、概ね了承されたようだ。手順はどうであれ、ひとまず織田の利益になれば良い。


伊勢攻略についても一益の判断である程度動いてもいいようだが、織田本隊は、美濃攻略にかかっており、伊勢には多くの戦力を回せない状態にある。

今は、調略などを用い切り崩しをする段階であり、その過程を筒井と共同で進めるのは問題ないだろうとのことだ。一益自身も助かる。


ただ、北畠壊滅後の伊勢分割の話については、まだそこまで踏み込む時期ではないようだ。

これについては道理だ。伊勢は織田の本拠である尾張に近く信頼ある人間でなければ、安心できない。

一度、藤勝様自身が、信長殿に会い信頼を得るしかなさそうだ。


「しかし、長島を水攻めにする策は、わしも驚きましたぞ。長島には悩まされていましてな。

どうしたものか考えていたんじゃ」


「いや、とっさに出た話で。わしも一時、長島にいたので、いろいろが考えていただけですよ」


「早速手配をさせるように致そう」


「できるだけ、自然に崩れやすいように作った方がいいですな。近江の穴太衆に伝手があるゆえ、手伝うように手配しておきましょうぞ」


「ほう、穴太衆をご存知なのか?」


「そういえば、一益殿は近江の出でござったな。筒井にも、近江にゆかりのあるものが居りましてな。その縁でござるよ」



「唐船を率いる者なら心当たりがある。九鬼右馬允という奴だ。元は志摩の海賊らしいが、追われて逃げてな。

奴に任せれば、水夫はいくらか集まろう」


その後も、正信と一益はいろいろと今後について協議した。




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