正室と妾
結婚してしまいました~。
過日、三好長逸に送った書状は、大きな影響を与えることになった。
永禄8年末に、室町幕府の名で「松永久秀死亡」が公式に発表された。
当人は生きているので、死体が上がる訳もないのだが、三好長逸らが捻じ込んで、そういうことにしてしまったようだ。
長逸らは、帝の綸旨を破った極悪人として葬りさりたかったのだが、それは三好義継によって却下された。久秀が極悪人なら、命じた自分も悪人になるからである。
ご丁寧に略式ながら葬儀も行われた。
それと聞いた当人は、
「全く、ふざけた真似をしやがる。がはは」
と、怒りつつも笑っていたが。
ともあれ、久秀は「死んだ」ことにされてしまったのであった。
これには筒井にも恩恵があった。
よくわからないが、朝廷から「筒井は、松永久秀討伐に貢献とした」と賞賛され、
従五位下大和守と九条家娘の婚姻の内示を受けた。
またか、という気がするが、今回は断るわけもいかず、受けることになった。
また、筒井家と三好家は不戦盟約を結ぶことなった。
特に困ることはないので、受けておく。縁戚関係になる気は毛頭ないが。
永禄9年(1566年)正月
信貴山城 大広間
朝廷より、権大納言九条兼孝が勅使として遣わされ、
筒井藤勝は従五位下と大和守の宣下を受けた。
合わせて、九条家養女多加姫との婚礼が行われた。
九条家当主九条兼孝自身がまだ13歳であり、当然ながらまだ娘はいない。
なので親類の娘を養女にしたのであるが、多加は12歳の少女である。
養父と1歳しか変わらないが。そういうのは、ままあることだ。
俺もまだ16歳なので、丁度良いか。
つつがなく儀式が行われると、そのまま宴会となった。
「いやあ、めでたい」
「我が殿も、やっと男になりましたな」
「新しい奥方はまだ若い。まだ無理だろ」
「12なら十分できるぞ」
「おい、こら。滅多な事を言うでないわ」
「わはは」
家臣たちが、わいわい楽しんでいる。
新しく加わった沼田祐光などは、左近や義昌らに
酒を飲まされ、無茶苦茶になっていたが。
あれ、そういえば白井浄三が見当たらないな。
どうしたんだ。
「宗幹、親父殿が見えぬが、どうした」
「それが・・・」
宗幹が、俯き加減で答えた。
「昨晩、出て行ったようなのです。今朝、起きましたところ、書置きがございまして。
すぐあたりを探してみましたが、見つかりませんでした」
書置きには、
「わしのことは忘れよ。宗幹はそのまま藤勝殿に仕えよ」
と書かれていた。
「そうか」
浄三には、戦いがない筒井家がつまらなくなってしまったのかもしれないな。
残念だが、仕方有るまい。
「宗幹は変わらず、俺の下で働くということでいいのだな」
「はっ、身を賭して働かせて頂きます」
宗幹は、平伏して答えた。
「わかった。親父殿の分も頑張ってくれ」
「ははっ」
なんか興が覚めたので、早めに居室引き上げることにした。
***
その夜、新妻のお多加と床をならべ、座っていた。
「多加でございます」
三つ指をついて、頭を下げる
「うん、藤勝です」
うーん、可愛い。
でもちょっと幼い。12だもんね。
「正室として、大変だと思うけど、よろしくね」
多加が、頬を赤くして、にっこり笑う。
そっと、彼女に手をかけると、しなだれかかって来た。
結構おませなのかな。
肩を抱いて、ゆっくり床に横になる。よく見ると、彼女は震えていた。
やさしく抱いてやり、「ちゅっ」と口づけをした。
真っ赤にながら、答えてくる。
そのまま・・・・
***
ところで・・・。
俺にはもう1人で妻がいる。正しくは妾か。
以前、根来で会った茜、その人だ。
年齢不詳のすらりとした美人で、いい香りがするたまらない人だ。
彼女は、伊賀藤林の女忍びであるが、実は二重人格者である。
茜が主人格であるが、出てくるのは深夜と任務の時だけ。
普段は別人格の「楓」として奥向きの小間使いをしている。
茜は「楓」の記憶があるが、「楓」は茜のことを知らないらしい。
茜は、藤林により暗殺者として仕込まれた。
初めて出会った根来にも密命を帯びて潜入していたようだ。
彼女は、小さいころから、少しづつ少しづつ毒を取らされ、そういう身体になった。
体液に猛毒を含んでいるので、相手と身体を合わせることで殺すことができる。
だが俺には彼女の毒が、なぜか効かない。
逆に、彼女が出す匂いを嗅ぐだけで、癒されてしまう。
身体を合わせようものなら、とろけてしまいそうになる。
彼女も初めは驚いていたが、不思議なものだ。
いつも深夜に、薄い着物一枚のみで現れる。
灯火によって、着物が透け、彼女のなめらかな素肌や陰影がのぞく。
えも言えない美しさで、もうたまらない。
もう幾度となく身体を合わせていて、毎度大変なことになるけども、
翌朝には体力、気力ともばっちり回復している。
そんなわけで、俺は茜を手放せなくなり、藤林から貰い受けた。
ほんのまれに、重要任務のために、貸し出すこともあるが・・・
彼女は、体内の毒のため子供を作ることができないそうだ。
なので、安心して・・・(中略)・・・だけど。
普段の「楓」も凄腕の忍者だ。
小間使いとしてそばに置いているのは、奥向きの護衛の意味もある。
藤林との連絡も彼女の仕事だ。もっとも彼女自身が伊賀まで行くことは、
ほとんどない。普段は手下を使っている。
茜が、俺の妾であることを知る者は、城内にはいない。
小間使いの「楓」を知っているだけだ。
知っているのは、彼女を仕込んだ藤林長門だけである。
九条家養女の多加は、史実でも順慶に嫁いでいますが、
詳しくは不明です。継室だったのかな。




