筒井城攻防戦 後始末
松永久秀を殺すのは、惜しいか・・・
永禄8年(1565年)10月
「なんとか、勝ったな」
筒井順政は呟いた。
筒井藤勝らの夜襲によって、松永勢を壊滅させ大勝利を飾った筒井であったが、もし援軍が1日いや半日遅れていれば筒井城は落城していたはずだ。
実際、藤勝の助言通り準備をしていなければ、1日ももたなかった。
「もう筒井を藤勝殿に任せて良い時期に来ているのかもしれぬな」
順政は、自らの不甲斐無さを感じつつ、溜息をついた。
「順政様。藤勝様が捕虜と共に城内に入られました」
森が呼びに来た。
「わかった。直ぐ行く」
順政は、藤勝を会うため大広間に迎うが、その足取りは重かった。
***
大広間は、藤勝と松倉右近重信らが待っていた。
「藤勝殿、この度はお見事でござった」
「ははっ」
藤勝らが頭を下げる。
「松永久秀、内藤忠俊及びその家臣らを捕縛して参りました。別室に纏めて押し込めております」
「いかにすべきか?」
順政は、その場に居る者を見回して問う。
「死罪にすべきでしょうな」
森好之が、さも当然という顔で言う。
他の者達もうなずく。
「藤勝殿はどう考える。わざわざ召し捕ってきたからには、考えがあってのことであろう?」
藤勝を見つめて問う。
「はい。松永らの家臣は、可能な限り筒井に取り込むべきかと」
皆がざわめく。
当然のことだ。今まで散々自らの領地を攻撃されてきたのだから。
「うむ。それは、いかなるわけか?」
「われらは、先に寝返った国人衆共を始末しなければなりません。
その手伝いをさせるのです。」
「また、今後筒井の領土はさらに広がります。それらを治める者が必要です。
三好ら敵国と国境を接することになりますし、今の家臣の数では足りぬのではと存じます」
「だが、裏切る可能性もあるのではないか?」
「確かにその可能性はあります。領地は与えず、俸禄にて雇えばよろしいかと」
順政は顎に手をやりしばし考え、決断した。
「あい分かった。どの者を筒井に取り込むかの判断は、森に任せる」
「・・・。ははっ」
「叔父上、何卒お願いがございます」
「何かね。申されよ」
「松永久秀と内藤忠俊の身、私に預けて頂けませぬでしょうか」
「一体、何をさせるつもりなのだ。」
「…まあ、よい。藤勝殿が捕えてきたのだ。好きにされるがよいわ」
順政は、ため息交じりで答えた。
「はっ。ありがとうございます」
藤勝は、平伏して礼を述べる。
「さて、藤勝殿が申したが、裏切った国人衆共を討伐せねばならぬ。
順国、そなた総大将を務めよ。平定した地の纏め役も任せる」
「はっ」
筒井順国が平伏する。
「皆の者も、頑張ってくれ。この度の戦の褒美は、手柄次第ぞ」
「ははっ」
***
筒井城 書院
「藤勝殿は、松永久秀を如何するつもりぞ」
「しばらくは静かにして頂きますが、いずれ御伽衆として召抱えたいと思っております。」
「なんと!長年の仇敵を家臣に迎えるというのか」
これは驚きだ。
「松永久秀という方は、大変有能な方です。三好家を大いに発展させたのは、実質かの兄弟です。
領地の支配はもちろん、茶の湯や芸事にも精通されていて、公家や商人等にも顔が広い。
いくらでも学ぶところがあります。
もちろん、そのままだと目立ちますゆえ、出家して頂くつもりですが」
「ふーむ。なるほど」
言われてみれば、確かにそうだ。
あれほど顔の広い人物はそういるものではない。利用価値はある。
「新しき城を築城する際にも、大変役立つと思いますよ」
「城を新たに築城するだと?そのような予定はないぞ」
「この度で、筒井城は城攻めに大変弱いことがわかりました。
この度は何とか奇策を用いて守れましたが、次に同規模の軍勢に襲われれば間違いなく落ちまする」
「古い平城だからな。万近い軍勢に攻められるなど考えもしなかった」
「これから治める領地も広がりまし、兵数も増えます。いずれ、手狭になります」
「ふむ。確かに。で、どのあたりが良いかの」
「すぐ北にある郡山城を拡張する手もありますが、それではこの筒井城とそれほど変わりませぬ。
攻めにくい城というのであれば、少し街道から外れますが、大和川と佐保川が合流するあたりがよろしいかと」
「確かあの辺りは湿地帯ではなかったか?」
「築城とともに堤防を大きくすればよいかと。さすればいざという時の防壁にもなり申す」
「なるほど。だが、かなりの年月と費用がかかるな」
「久秀の甥、忠俊殿は、私と年が近い。しばらくは、信貴山城にて鍛えようかと思っております」
「うむ。それはお任せ致す」
「承知いたしました」
「そうそう。忘れておりましたが、三好長逸に「松永らが山城方面に逃亡したので、始末してほしい」と書状を送るべきです」
「はは。それは面白いことになるであろうな。よかろう、手を打っておく」




