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松永長頼の死

永禄8年(1565年)7月


永禄の変から2か月

三好長逸、三好政康、岩成友通の三好三人衆は、三好義継を傀儡にして三好家の実権を握り、将軍義輝を殺害して、自分らの息のかかる足利義栄を将軍にすべく画策していた。

足利義栄は十二代将軍義晴の弟で堺公方であった足利義維の嫡子である。義維自身も三好長慶の父、三好元長を頼り兄義晴を一時京から追いやり将軍位に就く寸前までいったが、直後に元長が死に失敗。以後三好家の庇護下にあった。

自らの息がかかる義栄が将軍に付けば、権力は欲しいのままである。既に時の関白、近衛前久の承認を得て準備を進めていた。



だが彼らには、身近に目触り存在があった。下賤な身分からのし上がり三好家宿老まで昇り詰めた松永久秀である。教興寺の戦いでの敗戦にて大和の所領の大半を失ったが、丹波守護代の内藤家を継いだ弟、松永長頼(名前を変えて内藤宗勝)の支援で力を取り戻し、先の永禄の変でも活躍して三好家内での地位も戻りつつある。


三人衆は、久秀がいる限り三好家を完全に掌握することはできないと考えていた。最も憎き敵である。本当は松永久秀、長頼兄弟こそが三好家躍進の立役者であり、排除すれば三好家は凋落するのみなのに、三好家一門の彼らには、それが全く分かっていなかったのだ。


すぐに松永久秀を失脚させることは難しいため、まず弟である松永長頼を葬り、久秀の力を削ぐことを考えた。丹波の有力国人で豪勇として名の知れていた赤井直正を焚きつけ兵を挙げさせ、その上で松永長頼に赤井討伐を命じたのである。

松永長頼は守護代内藤家の面目を保つために赤井を徹底的に叩かなければと考え、持てる兵力を全て投入ことを決意。支配下の国人衆に出撃を命じた。これが仇になってしまう。召集に応じた国人衆には赤井方を誼を通じた者や赤井の間者が含まれていた。

そうとは知らない松永長頼は、赤井直正の居城黒井城に向かった。


黒井城攻撃が始ると、内通者が赤井直正に松永方の本陣の状況を逐一伝え、本陣が手薄になった所を直正の精鋭が急襲。長頼はこの時初めて嵌められたことを悟ったが、僅かな旗本衆と共に戦い、堂々と討たれたという。


長頼が戦死したとの連絡を受けた三好長逸は、即手勢を率い内藤氏の居城である八木城に入った。

長頼の嫡男内藤忠俊は援軍を得たと思い、父の仇を討つため再度の黒井城攻めを進言したが聞き入れられず、長逸は一方的に(当初の予定通り)赤井直正と和議を結んでしまった。

この為、丹波守護代内藤家の権威は失墜し、同時に手勢も5千足らずとなり、八木城以外の多くの領地を失うこととなった。後に波多野氏や赤井直正が台頭し、三好家は結果として丹波の支配権を失う。



***


永禄8年8月 信貴山城


島左近、佐武義昌らと話をしているところであった。

そこに城代の松倉右近が入ってきた。


「殿」


「どうされた右近殿、今取り込み中ですぞ」

左近が咎めるように右近を見て言う。

指摘されて右近は慌てて頭を下げ、平伏する。


「まあ、そういうなよ。左近」


「いや、そういうところはしっかりしておくべきでござる」



「右近。で、何があった」


松倉右近は頭を上げて答えた。

「はっ。僧行の武将が殿に面会を求めております」


「僧行の武将?供は?名は何と言う」

はて?全くここと当たりがない。


「はい。白井浄三と名乗っております。年は50ほどでございましょう。供は僅か数人でございました」


「白井浄三?知って居るか?」


「いえ、拙者は存じませぬ」

右近は頭をかしげながら答える。


「わしも知らんな」

左近は頭を掻いている。


「白井というと千葉一族ですね。本家は確か下総ですが、畿内や西国にも子孫がおりますよ」


「おぉ。さすが義昌殿。物知りですな」


「まあ、傭兵働きでいろんなとことろに行きましたらね」



「よし、会おう。皆も同席してくれ」


「はっ」



***


しばらくして、面会の間


僧行の老武将と若者が平伏していた。


「面を上げられよ」

松倉右近が告げる。


老武将が頭をあげる。確かに右近が言う通りかなりの歳のようだ。

顔は皺くちゃで真っ黒だ。目には凄みがあり歴戦の武将の貫禄がある。


「筒井藤勝です。名はお伺いできますか?」


老武将は右の眉毛を少し釣り上げた。まさか俺から先に名乗られるとは思わなかったのであろう。


「・・・。わしは白井浄三入道と申す」


「白井浄三殿ですか。白井と申しますと、東国の千葉一族の方ですかな」

義昌が言っていた受け売りだ・・・。


「いかにも千葉の一族であるが、それもかなり昔のこと。わしは安芸白井の流れのものだ。つい先日まで三好長逸殿に仕えたおったが、出奔して参った」

ふーん。安芸の白井か。三好長逸に仕えていたのか。でも聞いたことはないな。

義昌をの顔を見る。


「安芸の白井家というと、大内家の水軍を率いていた家柄ですね」

すかさず助け船を出してくれた。


「うむ。今でも親類が水軍をやっておる」


「何でまた、出奔などをされたのですか」


「三好家は長慶殿が亡くなられたから変わってしもうた。長逸殿もな。将軍義輝公を殺し奉り、功労者である松永長頼殿を殺してしもうた。長逸殿は権力を握ることにしか目にいかず、周りが何も見えておらん。仕える気になれん。だから暇を貰って参った」


「なるほど。で、どうして我が筒井へ参られたのですか?」


「危機が迫っていることを教えようと思ってじゃ」


「危機?」

「危機だと!?」

左近が大きな声を出した。目をひん剥いて、今にも立ち上がろうとしている。


俺は、左近を手で制して、

「どういうことでしょうか?」


「筒井家は、ここ数年で急速を着けれおられる。新田を開発し、商業を奨励し、軍勢を増やしている。松永久秀殿がおかしいと思い始めているようですぞ。久秀殿自身、筒井には散々な目にあわされているしの」


「・・・」


「久秀殿が、今のうちに筒井を潰し、大和を取り返そうと考えてもおかしくはなかろう」


確かにその通りだ。ちょっとやりすぎたかな。って、ちょっと待てよ。


「あっ!しまった」


「殿?いかがされた」


「いや、なんでもない」

しまった。今年は1565年。筒井城が松永久秀に落とされる年じゃねーか。

すっかり、わ・す・れ・て・た・・・。


「白井殿。久秀の動員兵力はいかほどあると思われる」

義昌が聞く。さすがに冷静である。


「1万は下らぬであろう。大和北部の国人が松永方に付けばもっと増える」


「むむ。北の奴らもつく可能性はあるか」


「十分あるじゃろうな。松永殿に従っていたものも多いからの」



「まずいですぞ。北の物が松永につけば筒井城まではガラ空き。一直線じゃ。万の兵に攻められれば、筒井城は何日も持たん」

義昌が唸る。

その通りだ。かなりまずい。


「いや、むしろ、城の奥深くまで、攻め込ませた方が良い」

浄三が呟く。


「えっ!?」


「城に攻めかかっていれば、直ぐに退却することは出来ぬ。この信貴山城から筒井城までは1日もかからず着く。藤勝殿が命じて整備した街道のおかげでな。そうであろう?」


「はは。その通りです。よくご存じで。」

この爺さん、かなりやるな。


「ここに来るまでに実際に歩いて来たからの。いや、よくできておりますぞ。あれならば大軍の移動もたやすいであろう」



「浄三殿、ご協力いただけますか?」


「もちろんじゃ。初めからそのつもりで来たからの。わしは筒井城に入りたい。いろいろ準備が必要じゃし、仕掛けも作ろうと思う。せがれはこちらに置いていく」


「承知いたした。叔父上に手紙を書いておきましょう」



しばらく松永久秀来襲を逆手に取り撃滅するための準備に専念することとなった。史実通りなら11月、おそらく秋になるはずだ。

杉谷善住坊に命じて忍びを放ち、松永方の動向を監視するさせることにする。入ってきた報告では、すでに大和北部の国人の一部に調略の手が延び、内応の約束などがされていることがわかった。まとめてつぶし筒井の直轄領を増やすチャンスでもあるので、泳がせておく。


筒井城には密かに籠城戦への準備をするように伝えておく。白井浄三が軍奉行として入り、改修の指示を出すことになった。二重壁や弓櫓、柵の増設をする。鉄砲や弾薬、兵糧を運びこむ。

また焼き討ちに合うあろうから筒井城下にも避難させ、家屋を解体して城の改修に使い、一部を堀を簡単に突破できないようにするための逆木にして、叩き込んでおく。


筒井城はもともと中世前期の平城であり、大軍の襲来に備えた城ではないので、幾多の攻撃には耐えられない。

おそらく今回でかなりの損傷を受けるであろう。戦後には新たな拠点を築城せねばいけないかもしれない。




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