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新しい家臣達

永禄7年(1564年)7月


かねてより病に倒れていた、三好長慶が死んだ。

永禄4年あたりから弟の十河一存、三好義賢、嫡男三好義興ら親類を立て続けに亡くし、心労が重なっていたようだ。先月には弟の安宅冬康を飯盛山城に呼び出し謀殺し、重臣の1人であった立花範政一党を謀反の疑いで捕らえ、皆殺した。

近日の長慶の行動は、狂気の沙汰と言われ、長く長慶を補佐してきた一門の三好康長も居城の高屋城に引きこもり、隠居出家して笑岩を名乗る。

死の数日前に正気を取り戻したようであったそうだが。享年43歳、まだ若すぎる死であった。


三好家当主には、養子の義継がついたが、若い義継に巨大な三好家を掌握できる訳もなかった。

義継は傀儡となり、三好政康、三好長逸、岩成友通の三好三人衆が実権を握ることになる。

ちなみに、松永久秀は大和の領地を失ったことにより、三好家での地位が低下。弟長頼のいる丹波で力を蓄え、再浮上の時期を探っていた。



***


俺は、久しぶりに興福寺宝蔵院を訪れていた。


「これは珍しい。藤勝殿をではないか」


「胤栄殿。ご無沙汰いたしております」


「日々精進されておられるか」


「はい、毎朝欠かさず半刻ほど鍛練いたしております」


「ほう、それでは一度、実力の程を見て差し上げねばならんな」

キラリと胤栄の眼が光る。やばいやばい。


「いやいや、まだ胤栄殿の足元にも及びませぬ。ご容赦のほどを」


「ふ、まあよかろう。丁度、粋の良いのがおる。一勝負していかぬか」


「そう断り続ける訳にもいきませんね。やりましょうか」



胤栄殿から胴着と試合用の棍を借り着替え、演武場へ出た。

そこには、既に俺より背が高く体格のいい少年が待っていた。かなり若い。十歳くらいか。俺も十五だからそう変わるものではない。


相対しお互い軽く礼をする。

と、次の瞬間、鋭く突いてきた。すんでのところでかわし、慌てて間合いを取る。

相手も素早く間合いを詰め、打ち込んできた。しばらく防戦一方となった。

暫し相手の攻撃を受け流しながら観察していると、やけに大振りなのがわかってきた。体格の良さに任せた強引さを感じる。こちらが攻撃に出ないのをいいことに防御の意識が疎かになっているようだ。

また大振りになった瞬間、俺は鋭く突いた。相手の棍を弾き飛ばし、見事に相手の下腹に入った。

相手が腹を押さえてうずくまる。


試合は俺の勝ち。


「何で、あんなに攻めてたのに、負けなきゃいけないんだよ!」

少年がいきなり吠える。ビックリした~。


「未熟者!」

胤栄が一喝する。道場の空気が揺れたような気がした。


「主は負けたのだ!早う、藤勝殿に頭を下げぬか!」


「えっ!藤勝さまって、三好の大軍を破ったあの筒井藤勝様ですか?」


少年は慌てて平伏する。

「知らぬとはいえ、失礼いたしました!」


「お手をあげてくだされ。そんな大したものではござらぬよ」


「お師匠様からよくお伺いしております。島左近ら猛将を従える若き君主と。俺を家臣にしてください」

「お名前を伺えるかな」

「はい。美濃可児郷の才蔵と申します」

ああ~、あの有名な笹の才蔵か。道理で強いわけだ。


「才蔵殿はいくつになられた?」


「十一にございます」


「十一でござるか。まだ若いですね。ま、俺も人のことは言えませぬが。胤栄殿の元であと二~三年修業されていかがかな。さすれば体力、精神力ともに成長し、槍術も磨きがかかるであろうよ」


「そんな!今の俺じゃ不足と申されますか」


「そうではない。お主は恵まれた身体と素質を持つのに、武芸を極めずに仕官するのはもったいないと言っているのだ。宝蔵院槍術の印可状を得られたら、喜んで召抱えて差し上げようぞ」


「本当ですか!絶対ですぞ」

才蔵の目が爛々と輝いている。島左近と共に戦うことを夢見ているのだろうか。


「絶対だ。約束は守るよ。但し俺はただの猪武者はいらん。宝蔵院を始め興福寺には貴重な書物がたくさんある。軍学や算用なども勉強しておけよ」


「え~。書物は嫌いです」

心底嫌そうな顔をする。


「だったら、あきらめるんだな」


「わ~!わかりました。やりますから!見捨てないでください!」

表情がころころ変わる。子供みたいな奴だ。十歳だから実際子供だが。弄りがいがありそうだ。


「胤栄殿。才蔵をよろしく頼みますぞ」


こうして、家臣候補に可児才蔵が加わった。

あとで胤英殿に聞いた話だが、負けたことがなく少々天狗になっていたらしい。

鼻っ柱を折ってくれてよかった、と胤栄殿は喜んでいた。



***


永禄7年(1564年)10月 信貴山城

自分の部屋で、書類整理をしていたら、例の如く松倉右近がやってきた。

仮にも当主(見習い)なので結構忙しい。


「殿、仕官したいという方が面会を求めております」


「うん。名は何となんと言うんだ」


「本多正信殿他四名とのことです」


おっ、善住坊やってくれたな。4名か予想より多いな。誰だ?

「おう。早速会おう。黒書院に通してくれ。左近と右近も同席してくれ」



少しして、黒書院に入ると、4名の武士が待っていた。島左近と松倉右近が左に座っている

「長らくお待たせいたした。筒井藤勝にござる。面を上げられよ」


平伏した男達が顔を上げる。

「拙者三河から参りました、本多正信と申す。筒井殿が広く人材を求めておられるとお聞きして参り越しました」

「わしの後ろにおるのが弟の正重、その隣が伊奈忠家殿と嫡男の忠次殿でございます。説得してお連れいたしました」


なんか引っかかる物言いだな。嫌な性格が出ている感じだ。

正信はともかく、本多正重は同姓の本多忠勝に隠れてマイナーだが三河随一の猛将、史実では三方ヶ原の戦いで奮戦して家康の危機を救っている。一向宗というのでいずらくなったのか、徳川を離れ滝川一益他多くの武将に仕えた。部隊長は不足気味なのでうってつけだ。義昌が喜ぶであろう。


伊奈忠家と息子忠次は、正信と同じく三河一向一揆に参加して敗れ、出奔した筋だ。後に帰参して家康の息子信康に付けられるが、信康切腹後また出奔、本能寺の後帰参と繰り返した人物だ。一向宗の関係で冷遇されていたようだ。忠家は薬にも毒にもならない武将だが、忠次は優秀な内政官でありいくらでも活躍してもらう場所はある。


ここは、一旦明るく接しておこう。

「本多殿、伊奈殿の高名はお伺いしておりますよ」

「わざわざお越しいただき、ありがたい。我が筒井家は、人が足りていない状況で大歓迎でござる。ぜひとも当家で力を尽くしていただきたい。」


「特に正信殿は、一揆衆の参謀をされていたと聞く。そのような筒井にはおらぬのでな。伊奈殿も後方支援などお願いいたしますぞ」


「わしも本多正重殿の勇猛さは聞き及んでおり申す。ぜひ一度拙者と勝負してもらいたいものだ」

左近が笑みを浮かべて言う。


「島殿ほどではございませぬよ。お手柔らかに」

正重殿も嬉しそうだ。


「早速、部屋を用意いたそう。右近、丁重に案内して差上げてくれ」


「ははっ。了解いたしました」


四人が出ていこうとするのを制した。左近に目で残るように指示した後、

「すまんが正信殿は残って頂きたい。相談事がござる」


本多正信が座りなおし、右近と他の三人が出て行ったのを確認してから切り出す。

先程とは打って変わって、冷たい声でだ。


「正信殿。あなたのご高名は聞いている。ただ、これだけは言っておきます。一向宗は捨てて頂き、改宗して頂きたい。受け入れられないのであれば、場合によっては斬らねばならぬ」


「なぜでございますか。浄土真宗の教えは、心の拠り所でございますぞ」


「浄土真宗の教えが悪いわけではない。ただその信仰を守るために大名にさえ逆らう姿勢は、支配者には受け入れられぬ。教義の似た浄土宗で構わぬゆえ、改宗してくれぬか。なに、すぐにとは言わぬ。なんとか頼む」


「・・・」正信は黙り込む。

「了解いたした。時間をくだされ」


「正信殿」

「私は、既に藤勝様の家臣。正信とお呼びなされ」

正信が、諭すように言う。その辺りはきっちりしているようだ。


「では正信。お主、何ができる。ここに来るまでに何をしてきた」


「三河を出て、伊勢に渡り伊賀、京を経てこちらに参りました」

正信は顎髭を触りながら、思い出すように言う。


「伊勢の情勢はどうか」


「織田方の滝川一益殿が蟹江城を築城し、北伊勢に攻め込む準備をしております。いずれ伊勢は織田に蹂躙されるでしょう」


「正信は滝川一益殿を知っておるか?」


「一益殿は、旧主松平と織田の同盟に尽力され、岡崎に何度もお越しになっておりました。存じ上げておりますし、話したこともございます」


「我が筒井は、これから伊賀、伊勢方面に勢力を拡大しようと考えている。何れ織田とは接することになろう。だが、織田は今美濃を飲み込まんとしているし、お主の言う通り、伊勢も奪って強大な勢力になろう。今、戦うのはまずい」


正信が頷く。


「そこで滝川一益殿を通して、織田信長と渡りを付けてほしい。なんなら一益殿に何か茶器か茶葉を贈ってもかまわんよ。茶の湯に嵌ってらっしゃるらしいからな」


「承りました。全力を尽くします」


「それから、先日伊賀の藤林殿と話したのだが」


「はい」


「伊賀は、危険な百地を排除し、筒井を名目君主、藤林殿を世話役にした形に持っていこうと思っている」


「筒井を君主に認めるのであれば自治を許すので、その線で藤林殿と協力して切り崩しを行ってほしい。お主も服部ら旧知の者がおろう」


「そちらは時間がかかりましょうが。お任せ下され」


「うん。五年とか時間はかかると思うが、しっかり頼むよ」


本多正信には、伊賀や織田への外交、謀略を任せることにした。

どのような成果を持ってくるか、楽しみだ。



現時点での筒井家

・信貴山城

当主(見習い中):筒井藤勝

信貴山城代:松倉右近重信

部隊長筆頭:島左近清興

部隊長:佐武義昌

部隊長:本多正重

部隊長兼偵察、探索:杉谷善住坊

家臣(外交謀略):本多正信

家臣(内政担当):増田長盛

家臣(内政担当見習い):伊奈忠次

家臣(兵糧管理等):伊奈忠家

内定:可児才蔵

与力:津田算正(根来衆)



・筒井城

当主代行:筒井順政

一門衆:筒井(慈明寺)順国

筆頭家老:森好之

与力衆:井戸良弘

与力衆:箸尾高春

他国人衆


随時招聘:柳生衆

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