表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/39

津田屋敷での宴

俺たちは、杉ノ坊での会合を終えて、門前町にある津田算正殿の屋敷に招かれていた。

寺の中では酒も飲めぬというわけで、こちらでとなった。


津田屋敷は商人の邸宅のような趣きである。広大な敷地の中には端正な庭があり、池が拵えていた。

そこには、寺同様に静かな時が流れている。なんともぜいたくなものだ。

根来鉄砲衆の本元であるから、別棟にはもちろん鉄砲鍛冶場が備えられている。


算正殿は、俺達のために宴を催してくれた。

根来衆の主だったものが集まっている。いくらか雑賀からも招かれていた。既に一部では始まっていて、出来上がっているものもいた。


一度、算正殿が音頭をとり乾杯すると、後は無礼講となった。

この前の戦で一緒に戦い、見知った顔も多く見られる。言わば戦友であり、すぐに打ち解けていた。

戦経験や自身の武功話などに話に花を咲かせているようだ。

弩の試し打ちの場も設けられていて、そこには人集りができていた。皆興味ありげに見ている。



「ふーん。藤勝殿は家臣が足りず、困っているというわけですな」


「はい。特に部隊長として兵を率いれる者が少ないです。実質、島左近くらいしかおりませぬゆえ。松倉右近は信貴山城代ですし、順政叔父上と森好之もおりますが、もう年ですからね」

「どなたか、ご紹介頂くことはできませんでしょうか?」


算正殿に酒を注ぎながら答える


「確かに足らぬな。誰かおらんものか。」


算正は杯に口をつけながら、考えている。


「あ、そうだ、丁度良いのがいるぞ。おい、義昌!ちょっとこっち来い」


向こうの方からいかにも経験豊富そうな武士がやってきた。


「算正殿、いかがなされた」


「こいつは、佐竹義昌と言ってな。元は根来の生まれだ。雑賀で鉄砲を学び、12歳の初陣以来各地の戦に飛び回っている奴だ。ついこの前、四国から帰って来たばっかりでな。のう?」


「はい、本山家の下で2年ほど傭兵をしてましたが、旗色が悪いので戻ってきました」

ようは、本山家を見捨ててきた、ってことね。一緒に死ぬ義理はないわな。


「義昌よ。この藤勝殿を支えてやってくれぬか。なかなか才気溢れるお方だ。お主の豊富な戦経験をもって導いてあげて欲しい」


「わかり申した。筒井様のご活躍はお伺いしております。力を尽くしてお仕えいたしましょう」


「うむ。頼むぞ。それから誰かお前が、これはと思う奴はおらんか?」


「そうですな・・・。杉谷善住坊はいかがかであろうか。無口で癖のある奴ですが、鉄砲の腕は一流。甲賀出身で近江にも知り合いが多いようです。戦以外にもいろいろ役にたつと思いますぞ」


「ふむ。そうだな。家の者達ともいまいち馴染んでないから丁度良いかもしれんな」

「わしもいるので、部隊長はこれくらいでいいかな」


「十分でございます。ご配慮痛み入ります」

俺自身で動かせるのは二千ほど、後はこれから採用していけばいいしね。

それよりも今は大和の国を安定させて、開発していく時期である。


「あとは開発や後方支援を任せられるものも必要だな。だが根来にはおらんの」


「摂津や近江には算用や土木に明るい者が多いとも聞きます。善住坊に使えそうなのを探させるのも手かと」


「ふむ。そうじゃな。善住坊に里帰りも兼ねて時間を与えて探させてみよう」


「戦略を提言できるような参謀のような人間も必要ですね」


「そのような人物は、そうそういるものではないぞ、藤勝殿。わしらが補佐するゆえ、一緒に考えていこうではないか」


「そうですね。少々欲張りに過ぎました」

竹中半兵衛のような軍師がゲットできればいいんだけど、そんな人なかなかいないよね。



***


「お食事の膳をお持ちいたしました」


「ああ、ありがとうござ・・・」

声を方を見ると、17~18歳くらいの女性が立っていた。すらっとした美人である。思わず見惚れ、固まってしまった。


「どうぞ、お注ぎいたします」


「あ、はい。いただきますです」


「ははは。どうじゃ美人であろう。名を楓と言いましてな。出自はわからぬが、数年前ほどになるか、道端に倒れていたのを助けての。今は側女の手伝いをさせておる」


「・・・・」


「どうされた、呆けて。惚れたか」


何か、初めて会った気がしない。

会ったことがあるはずもないのに、懐かしいような不思議な感じがした。



***


算正殿に酒を注ぎながら、話を続ける。

「算正殿は、織田上総介信長という人物をご存じですか?」


「今川義元を討った男であろう。もちろん知っとるよ」


「どう思われますか?」


「どうといわれても困るが、なかなかの人物なのではないか。美濃の蝮(道三)が賞賛して娘を娶らせたくらいだからの」

「この前、三河の松平元康と同盟を結んだらしいが、美濃の斉藤は強大。そう簡単には勝てはしまい」

ん?三河?

そういえば、清州同盟の後に三河で一向一揆が起きて、本多正信とかが出奔するよね。狙ってみるのもありかな。



その後も酒を酌み交わし、宴は夜遅くまで続いた。



***


その夜、


ふと、人の気配を感じ目を覚ました。

足もとに女性が立っていた。薄い羽織一枚の姿で。灯火によって透け、全身が赤く輝いていた。何と妖艶な姿か。宴で酌をしてくれた楓さん?でも雰囲気が少し違う。


「あなたは?」


「茜と申します」


茜と名乗る女性は、ゆっくり俺の横に腰をおろし、添い寝するよう身体を横たえる。

胸のふくらみがうっすらと見えた。ふうっと温かい空気が流れ、心が満たされ癒されていく。


「ゆっくりお休みなさいませ」


俺は、深い眠りに落ちて行った。


ご意見、ご感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ