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・・・化学準備室ってどこよ?
精神的な疲労感は半端ないけれど、一応つつがなく終わった1日目
せわしなく帰宅準備をしていた愛子ちゃんと絵里ちゃんに声を掛け
化学準備室への行き方を聞いた
口頭で説明されたけれど、覚えられるような脳ではないので
簡単な地図を頂く まあ、案内してもらえれば本当はありがたいのだけれど
2人とも帰宅を急いでたっぽいんだよね。
初対面の人にこれ以上我儘は言えないので 地図と荷物を持ち化学準備室へと足を向けた
廊下を歩いているだけなのに
視線が痛い
自意識過剰ではないと思うんだけれど…
指をさされて「ほら、あの娘」「あー噂の…」とかなんとかヒソヒソと聞こえてくる
…人を指さすんじゃない!!幼少の頃教わらなかったのだろうか?
失礼な野郎ばかりだな!
「理事長枠で噂になっている」というのは こーいうことだろうか
そういえば男子はいっぱいまだ校内に居るのに なんで女子を1人も見かけないのだろう?
なんだか…完全な男子校みたい 嫌だなぁ…
特に迷う事もなく化学準備室に着く
トントンと軽くノックすると
「開いてるぞぉー」と今日1日で随分と聞きなれた財前先生の声がした
「失礼します」とドアを開けると なんとも言い難い光景
応接間にあるような ブラウンの皮張り大き目のソファー(2人掛け×1、1人掛け×2)
ガラスのローテーブル サイドボードには鮮やかな色の華が飾られてる
右壁にはガラスの扉の着いた大きい本棚が2つ びっしりと本が詰まってはいる
私の化学準備室の固定概念が間違っているののだろうか?
なんかもっと怪しい薬品やら機材やらがごちゃごちゃしてるんだと思ってたよ
ただの応接室にしか見えないんですけど…
……この準備室でなんの準備ができるんですか?と問いたい
そして今更かもしれないけれど
財前先生、貴方の担当古典ですよね?白衣着ていても古典だって言ってましたよね?
(応接間のような)化学準備室で、我がもの顔してコーヒー飲んでますけど
先生化学関係ないですよね?
部屋を見渡しぼーっとしている私に財前先生は「コーヒーと紅茶はどっちがいい?」と聞いてくる
「…どっちでもかまわないです」
「なんだ斎賀、緊張してんのか?取って食おうなんてしてねえから、そんな所で突っ立ってないで
ソファーに座れ。ちゃんとお前の質問に答えてやっから」
促されるまま財前先生の座っていた正面になるソファーに座ると
目の前にコーヒーが置かれた …仕事はやいな 先生
「まずは…だ 登校初日お疲れさん どーだこの学園に馴染めそうか?」
「はぁ なんか色々正直疲れましたけどそれ以上にわからないことだらけで馴染めそうにないです」
「んー まあ、この学園もちょっと特殊だしなぁ 始めはわかんなくても仕方ねえよ」
「特殊…ですか…」
「じゃあ、まず1つづつお前の質問に答えてやろう」
理事長枠…そんな枠私は知らない
でも周りは当たり前のように「理事長枠の私」を見ている
好奇の目に晒された感じ…正直不快感しかない。
「枠」とやらの説明これだけは今日聞いておきたかった
「お願いします。あの…理事「みなまで言うな!わかってるぞぉ」
質問の内容を遮る先生
そうですよね!わかってますよね!理事長枠とかそんなん他の学校に存在してないですもんね!
どーぞどーぞ説明願います。
ちゃんと聞いてますからちゃっちゃとわかりやすく教えてください
「あれだろ? 俺が古典担当なのに なんで白衣着てんのか?って事だろ?」
・・・・・・・・・・・期待した私が悪かったのですか?
いや、まぁ それも疑問ではありましたけど 特にその答えは聞いてないと言うか
いつでもいいというか… どうでもいいというか・・
「答えは簡単だ。似会うから!ただそれだけだよ」
あー聞かない方が良かった気がします。非常にどうでもいいです財前先生・・・
「はぁ・・」私の気のない返事を遮ったのは新しい声
「それだけじゃないでしょう。財前先生? 貴方がスーツを汚すからその為の保健でしょ?」
声の主は静かにドアを開けクスクスっと笑いながらゆっくり室内へ入って来た
さらさらと音を立てそうなストレート茶色の長い髪を後ろに一つに束ね
にっこりという感じに微笑んでいる優しそうな甘いマスク
なんですかその綺麗なストレートの髪
あれですか?世界が貴方に嫉妬する ってやつですか?
世界は大げさでも 私は嫉妬します。くせ毛の私に喧嘩売ってますよね?((
「なんだよー柳先生ーばらすなよぉ 斎賀はまだ俺がおっちょこちょいだって知らないんだから」
「財前先生のおっちょこちょいなんて明日にでもバレますよ。私にもコーヒー下さいね」
柳先生と呼ばれた人はなんの躊躇もなしに私の隣に腰を下ろした
「貴女が噂の斎賀さんですね?柳宗吾と言います。2年A組担任で化学担当です。よろしくお願いしますね」
「斎賀美音です。よろしくお願いします」
座ったままで恐縮だけれど、ぺこりと頭を下げる
「斎賀さんの聞きたい事は『枠』の事でしょう?」
「!!! そ、そうです!それなんです!!!」
「まったく知らないで編入してきたのか?斎賀」
「知らないですよ…この学園の存在だって1週間前に知ったんですから…」
「1週間前・・・ですか?」
「はい。親の転勤で なんだかよくわからないうちにここに編入が決まってました」
「俺達には20日くらい前にはもう事前に報告上がってたぞ?」
「そうですねぇ 春休みに入る前には貴女が来ること知ってましたからね」
「…20日も前ですか」
「まあ、とりあえずは『枠』の事を話しましょう」