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医療部隊と魔導部隊の二重奏~セリエルさんの受難を添えて~ 4

“循環”を終えて光のヴェールが解かれると、白熱した議論を交わす大人達の姿がありまして。


さっきまでの感覚と現実世界を馴染ませる様に目を瞬かせながらキョロキョロ周囲を見ていると、セリエルさんが“循環”が終わった事に気付いて頭を撫でてくれる。


「ケンカではないから安心しろ」


その落ち着いた低い声に安心して様子を見ていると、どうやら議題は闇属性を使っての光属性の魔力の抑え方についての様だった。


実際に光属性の魔力を扱う側のシエルさんと、扱えないけれども正反対の属性である闇属性を扱う北の魔王城の面々。

それぞれの特徴や相反する故に出来る事、出来ない事、やった事がないけれどもやれそうな可能性がある事をアレコレと熱く議論しているみたい。


「……ユーリは、光属性の魔力をどう捉えている?」


そんな中、セリエルさんがふと思いついた様に問い掛けてきた。

そうだなぁ、私の光のイメージって言うと…


「…灯すもの。癒すもの。包むもの」


端的に言うと、私の中ではそうなんだけど。


「…でも、それは弱いくらいかちょうどいいくらいじゃないと当てはまらないでしゅ」


強過ぎる光は癒しからは程遠い。逆に物理的にも精神的にも苦痛を与える。分かりやすいのは日焼けや睡眠妨害かな。


癒しの力だって、自己免疫疾患の類がそうだ。異物を排除して自分を守る筈の働きが自分の細胞や組織を破壊して異常を発生させる。

自己防衛の為に自ら失った海老の足や触角、トカゲの尻尾が再生機能が働きすぎて何本も生えちゃう過剰再生なんて言葉があるくらいだし。


「失敗できないから、使い方が大事なんでしゅよね?」


恐らく、それを理解しなければ使ってはいけない。

セリエルさんが言いたい事の一つはそれで間違っていないと思うんだけど。


どうかなー? とセリエルさんを見上げると、切れ長の瞳を微かに瞠目させていた。


「……他には?」


そのまま、更に答えを求められる。

…他、何かあるかな。


そのまま少し考えていると、セリエルさんが小さく息を吐いた。

溜息にも、吐息にも、嘆息にも似た、と言うか全部が入り混じった様なそれに思わず小首を傾げる。


「力の認識は合格。但し、その扱う為の心得については要教育だな」

「あい」


セリエルさんの下した評価に取り敢えず頷いていると、二人で話しているのに気付いたらしい周囲が話を纏めていた。




「お待たせして申し訳ない」


ヴィンセントさんがセリエルさんにそう告げるのに、セリエルさんが首を横に振る。


「…何ならそちらはまだ議論を続けても構わない」

「セリエル様、その子に光属性の魔力について講義するんじゃ?」

「必要ない。この子はもう既に光属性の魔力について、ほぼ正しく認識している。不足しているのは扱う為の心得と技術だけだろう。講義が心得だけとなると、あと四半刻もあれば終わる。場所を移す必要も無い」

『は?』


セリエルさんが状況を説明すると、医務室にいた全員が揃いも揃って「何言ってんだ、こいつ」と言わんばかりの半音低い声を漏らす。

おぅ、迫力あって怖い。


「いやいやいや。そんなバカな」

「光の魔術の三要素の概念の把握、過剰供給の弊害、それ故の失敗は許されない覚悟。既に全て認識している」

「…マジ、なんなのこの子。どこでそんな知識覚えてきたの」


シエルさんが頭を抱えているけど、そんなこと言われましても。


「本にのってたのー」


ほら、美容院で出される週刊誌系に載ってた睡眠特集とか。それに健康関連のテレビ番組見るとちょっと気になって調べてみたりしたし。まぁ、あくまでも素人レベルで理解できる範囲なんだけど。


「ちょっと待て、ユーリちゃん。君まだそんな本読む様な年じゃないでしょうが!」

「う?」

「うわ、可愛い。…じゃない!」


いつも思うんだけど、そんな事言われましても中身もういい年ですし。おすし。

そしてシエルさん、自分にまでツッコミ入れ始めた。

お疲れ様です。


「シエル、言ったはずだぞ。その子は、仮とはいえ北の魔王城の隊員だと」

「え。…まさか」

「悲しい事にそのまさかだ。記憶は無くとも北の魔王城の入隊試験と同じ問題を時間に大分余裕を持って満点通過している。知識・能力共に完全に大人顔負けでな。本所属は調理部隊だが、第二部隊として書類部隊にも所属している」

「あ、そこは医療部隊じゃないんスね」


ヴィンセントさんが私のフォローに入ってくれるけど。

寧ろシエルさんの、その「あ」は私が言いたい。

色々とマズイと思うの。ヴィンセントさんの地雷的に。


思わず視線をそっと斜め上の方へ逸らすと、セリエルさんと視線が合った。

何となく見つめ合う事、約三秒。


シエルさんのとても焦ったゴメンナサイが聞こえてきて、セリエルさんが深々と溜息を吐いた。







そんなこんなを経て、このままセリエルさんの講義。

何故か他の面々も討論には戻らず一緒にセリエルさんの講義を受ける姿勢です。


「光の魔術の三要素は、さっきのユーリの言葉を言い換えると攻撃、治癒、防御になる。光属性はどの属性よりも強力な力を秘めている。術が高位になればなる程、失敗すれば使用する側もされる側もただでは済まない。それ故に使用には慎重かつ正確な操作が求められる」

「あい」

「先程光属性の魔力の捉え方を聞いたのは、術者本人のその言葉が三要素の得意分野と発動しやすい術の形態を示す事が多いからだ。ユーリの思い浮かべた形は『灯すもの。癒すもの。包むもの』…恐らく、治癒・防御特化型で攻撃は期待出来ないだろう」


セリエルさんの説明にふむふむ頷いていると、シエルさんがまた頭を抱えていた。


「シエル。…いい加減に割り切れ」

「この子、ホントに何で天使族に生まれなかったんですかね? というか、セリエル様が指導係になって本当に良かったですよ。希少系統オンパレードなんてまともに教育できる大人、天界でも三人しかいないじゃないですか…」


天使族二人のそんな会話に、シェリファスさんの瞳がキラリと光る。


「ちなみに光属性の三要素、天使族では得意分野はどの様な割合に分かれるのか?」

「大多数が攻撃特化ですね。ぶっちゃけ、治癒と防御は基礎こそどうにか全員扱えるけど、応用となると一気に三割切るし、高等魔術が扱えるのは天使族と言えど一握りしかいないんで」

「シエルは攻撃特化の防御型だったな」

「そんでセリエル様は攻撃特化かつ三要素全て基礎でも応用でも何でもござれの万能型っス。その気になれば高等魔術まで扱えそうですけど。そこに魔大陸生まれでまさかの攻撃壊滅、治癒・防御特化型のユーリちゃん、と」

「「「ほー…」」」


魔導部隊の三人が、めっちゃ食いついてる。

揃ってこっち見ないで下さい。

やだ、私、蛇に睨まれたカエルみたい(白目)


「恐らく、周囲に光属性の魔術を扱う者がいなかったせいだ。天使族ならば大人達が訓練などで扱う光の矢や降り注ぐ流星群など派手な攻撃魔術を遠くからでも目にする機会がある故に子供には攻撃系統の印象が残りやすい。それもあって、天使族の光属性の捉え方は第一に攻撃が来ているのだと思う。対して何の偏見も固定観念もないユーリは、文献による知識を元に素直に光属性を思い浮かべた。幼さもあるが、元々ユーリ自身が争いを好まない気質なのも要因だろう」

「…言われてみれば、確かに」


思わずプルプルしながらセリエルさんにへばり付くと、宥める様に背中を大きな手でポンポンと叩かれつつフォローの言葉が入った。


「我々の常識は、ユーリには常識ではない。その齟齬を噛み合わせながら教育する必要があるだろう。それと同時に、これまで天界になかった術を思いもかけない発想で編み出してくる確率はかなり高いだろう。シエル、お前にも関わって貰うぞ」

「もの凄く面倒臭い気配プンプンしてるんですけどー。…はぁ、でも少しだけ面白くなりそう、かな?」


ガリガリと頭を掻いたシエルさん。でもその表情は少しだけワクワクしてるみたい。


「話を戻すぞ。…まぁ、ユーリの基礎的な知識面はほぼ問題無い。あとは実践で必要な事を確かめつつ一つずつ学ばせるからな。問題なのは、扱う為の心得……術を使うユーリの心構えだ」


セリエルさんがここで脱線しまくっていた講義の軌道修正に入ると、全員の視線がセリエルさんに向かう。


「これはオレの勝手な統計だが」


セリエルさんのそんな前置きに、シエルさんが前のめりになった。


「大体、三要素の系統で基本的な心構えが分かれる傾向にある。ひたすら攻撃型に傾いている人物は楽天的な脳筋」

「ぶっふぉっ! ベグエル様…っ」

「防御特化型は苦労性の努力人」

「シャナエル様ーっ!」

「治癒特化型は自己犠牲かつ芯の部分が頑固」

「……っリュシエル様まんま」


何事かと思いきや、セリエルさんの光属性の魔力三要素の系統別性格診断だった。その全てにシエルさんの爆笑付きの名指しが加えられる。

…つまり、あながち外れてない、と。


「ふむ、ユーリは苦労人気質かつ自己犠牲の傾向が強いと」

「これはあくまでもオレのこれまでの部下達の統計で、絶対ではない。だが、少なくとも自己犠牲の傾向にあるのは間違いなさそうだと見た」

「…と言うと?」


今度はヴィンセントさんが反応してセリエルさんに質問する。


「基礎知識以外に思い浮かぶ事は何かないかを質問したが特に答えが返って来なかった。恐らく光属性に纏わる事が他に無いかを考えたのだろう。普通ならば逆にどのくらい勉強するのか、どんな訓練をするのか、正確な操作とは何かといった疑問の声を先に上げてくる。これが無いとなると、出来る所まであと少し、もう少しと自分をギリギリまで追い詰めて初めて、絞りに絞った質問や疑問の声を上げる人種な場合が多い。それは術を使う際にも言える事でな」

「成程。無茶をしがちでいて本人の自覚が薄い恐れがあると」

「この手の系統は周囲が口が酸っぱくなるまで注意するだけでなく物理的にも抑えて、どうにか限界前の線引きを覚えさせる必要がある」

「物理的にも必要、ねぇ」

「無理しましぇん!」


セリエルさんの解説を聞いて、スッと細められたヴィンセントさんの瞳がとっても怖いです!

私、良い子のユーリでいます!!


「…今は良い子の返事だがな」

「ユーリちゃん、全く同じ反応をする大天使がいるけど、大抵無理・無茶を繰り返して大勢に怒られてるんだなー」

「「「「「「ホォー」」」」」」

「ルゥにーしゃま、たしゅけて!」

「無理かな。ボクも今の内にガンガン釘を打たれておくといいと思うよ」


信用ゼロ!?


セリエルさんには全く信用されず、シエルさんには半目で言われ、医療・魔導部隊の六人にはまた揃って声音を半音下げられ、助けを求めたルートヴィヒ少年には笑顔でさっさと却下された!


「ただでさえ取扱い要注意な代物だ。それに無自覚で無理な事をされては困る。心得は心にしっかり刻み込んでもらおう」


そんな味方のいない心得講義は針の筵で、とても居心地が悪かったです(半泣)

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