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医療部隊と魔導部隊の二重奏~セリエルさんの受難を添えて~ 1

本日は医療部隊のお手伝い日。

ヒラヒラ~なナース服以外にも普通のズボンな白い看護師さんの制服もカラフさんから無事に届き、それを着用してみたんだけど。あ、勿論『見習い』腕章は付いてます。


フォルさんだけは「動きやすそうだね」といつもの読めない笑顔で言ってくれたけど。

ヴィンセントさんとバクスさんが始業前の時間かつ一瞬だったとは言え、揃いも揃って残念と言わんばかりの目になったのを私は見逃さなかった。


仕事に関しては調理部隊や書類部隊よりも遥かにシビアかつ評価が超絶辛口なのに、制服に関してはどこよりもやりたい放題。しかもツートップが率先して反応するってこれ、いかに。


「隊長、やはり我々のやる気の為にも制服は重要かと」

「…あれは緊急時の制服にするか」


そんでもって朝一のツートップの相談の一つにそれがすぐさま組み込まれちゃうのってどうなの!?




そんなこんなを経て、始業時間となりました。


「まず、今日の予定の確認をしよう」

「あい。お願いします」


いつもの薬剤室のテーブルに着席なう。


フォルさんが今日の予定のメモを取り出したのを見て、意識を仕事へと向ける。

これが医療部隊での日課の始まり。フォルさんから本日のお仕事の流れを確認。

私もメモを取り出し、本日の日付と予定を一緒に箇条書きしておく。


「まずは講義。今日は包帯の巻き方を覚えようね。それから救急箱の中身の在庫確認と包帯の追加をして、早速闘技場で外警部隊での実戦練習。今日は朝一から戦闘訓練してるから実験体れんしゅうあいてが沢山いるからね、ラッキーだよ」


フォルさんの副音声という名の毒舌というか、率直なご意見は今日も冴えてます。


「で、お昼と休憩を挟んで、午後からは魔導部隊からシェリファス隊長とアルガ副隊長が合流予定。それと噂の天使族のセリエル医師とそのお弟子さんのルートヴィヒ君の来城。ユーリちゃんが“循環”を受けている間に我々もセリエル医師から色々と話を聞き、その後はユーリちゃんはセリエル医師から光属性の魔術の講義と実践を受けて貰う予定」


そう、今日はヴィンセントさんのお宅に泊めて貰ってセリエルさんと出会ったあの日から二週間程が経過しまして。

本当は一ヶ月ごとに“循環”して貰う予定だったんだけど、初回だけは様子見という事で約二週間で来てもらう事になりました。


で、それが今日という訳なんだけど。


…医療部隊、明らかに出勤者多かったよ!

これ、下手したら全員出勤してないか!?


分かってたよ。イオ少年と言う実験体かんじゃの時の経験で充分過ぎる程に。


ここの人達は自分の知識が増える機会を本当に見逃さない。

業務の合間にも意見交換や新旧問わず文献の講義やミーティングだって活発に行っているらしい。

本当に勉強熱心で、技術向上にも余念が無い。その姿は正に「プロフェッショナル」と言うに相応しい。

だって、医療部隊のツートップや上位陣がまずその姿勢だものね。


これに、魔導部隊が加わるんでしょ?

……本当に魔導部隊がツートップだけの参加か、ちょっと疑ってる。

魔導部隊も出勤者多数だったりして。


何だか、今からセリエルさんがちょっと心配な私です。


ルートヴィヒ少年に関しては、何だかんだ上手くやっていける気がする。

だって、あのリィンママとヴィンセントさんの息子だよ?

朝市で見たママの人付き合いの手腕そのままに受け継いで、ヴィンセントさんの仕事ぶりまで受け継いでたら怖いモノなくない?

何となく、ルートヴィヒ少年の持つ雰囲気からそんな気がしてるんだよなー。


「という訳で、早速包帯についてやっていこう」

「あい!」


おっと、いけないいけない。考え事してる場合じゃないわ。お仕事開始っと。




そんなこんなで取り敢えず午前中の講義をこなし、実践してきました。


包帯って伸縮する物としない物があって、正しい持ち方があって、巻き方も基本だけで五種類もあって、巻く時の注意点とかもある。

相変わらずフォルさんの講義は普段から実践してるだけあってポイントを押さえていてとても分かりやすい。


でもフォルさん相手に実践してみると途端に難易度が跳ね上がるんだわ。

頭で理解したつもりでも、その通りに上手く出来ない。

まさに『百聞は一見に如かず』。


患部によっては関節があるから巻き方がとても複雑だし、ちゃんと押さえて巻いたつもりなのに緩かったり、焦るあまり包帯を床にポロリしちゃったり。


そんな不安しかない状態で闘技場に行って、治療補助という名目でフォルさんが診た患者さんの一部に包帯巻きをしてみたんだけど。


肩を震わせて笑いを堪えていたフォルさんだったけど、終いには大爆笑してた。

私に変な風に包帯を巻かれて白い目だったり困った顔だった外警部隊のお兄さん達はフォルさんにテキパキ素早く巻き直されてた事をここにご報告致します。


ゴメンなさい…。ちゃんと練習しておきます(泣)







そんな散々な午前中が終わった所で昼食。


「…今日は制服が違うのか」


なんてちょっとションボリしながら食堂で出迎えてくれたアルフ少年。


ブルータス、お前もか!


そんな感想を抱きつつ、フォルさんと昼食タイム。


本日のお昼のメニューは皆大好き、鶏モモ肉の唐揚げと鶏ムネ肉のチーズフライ!

鶏肉が安いのは魔大陸も同じ。

何せ騎獣以外の食用の鶏も大きいからねぇ。


外見は良く知る鶏によく似ている。サイズ感だけダチョウの様になっているけど。

檻の中いっぱいを元気に駆け回る姿や、飼育員さん相手に威嚇の為にバッサバッサと翼を広げる姿は非常にシュール。

飼育員さんはそんな巨大な鶏相手に今日も奮闘して出荷してくれてる。

いつもありがとうございます。


あ、因みに食用の卵は普通サイズです。

無精卵を良く生む小柄な品種が別にいるので、卵はそちらから。


取り敢えず出してもらったお昼のプレートを受け取り、座椅子を貰ったら食べる準備完了。

手を合わせた所で改めて本日のお昼を眺める。

いい匂いがし過ぎて、お腹の虫は本日も絶好調で営業している。慣れたとはいえ、自己主張が今日も激しいです。


主菜は先述の通り。

付け合わせはたっぷりのキャベツの千切りと櫛型に切られたトマト&レモン。こちらはおかわりコーナーが設けられていておかわり自由。

お皿いっぱいに見るからにサックサクの食感であろう唐揚げとチーズフライがゴロゴロと乗せられるだけ乗ってるから、ある程度減ったら好みで追加で取りに行けっていう無言の主張だった。ある意味、野菜嫌いには少し救いのメニューでもある。

同時に野菜好きの為に野菜専用の新しいお皿も積んである。足りないヤツはこの皿で好きに持っていけって事ね。


そんな野菜達の傍には塩にソースやマヨネーズ、ケチャップ、マスタード、野菜用のドレッシングと主菜・付け合わせの味変調味料も豊富に用意されている。素敵。これ飽きずに無限に食べられるヤツ。


そして主食はそれはそれは長いコッペパン。フランスパンサイズ。これでコッペパンサンドにしても良いのね。

因みに私にはバターロールサイズで用意されていた。いつもありがとうございます。


最後に汁物で、エノキのようなキノコと千切りの人参に青梗菜っぽい鮮やかな緑がたっぷりの白湯スープ。恐らく一緒の仕入れで安くなった鶏ガラで作ったと思われる。

それと、デザートはバナナです。こちらもおかわりあり。


本日の昼食は鶏づくしメニューですね!

さて、いっただっきまーす!


今日も今日とて美味な昼食が終わったら、眠い目を擦りながら医務室に戻って歯磨きからの仮眠室を借りてお昼寝。

最近、お昼寝のお供にヴィンセントさんの騎獣のカルアをモチーフにしたぬいぐるみが出現したので遠慮なく。気付いたらフォルさんに添い寝させられていたんだよなー。

レツやフィリウスと同じ材質である事から、作成者はカラフさんと思われる。

この騎獣シリーズ、もしかしてまだ増えるのかしらん。







さて、お昼寝から目覚めて身支度も整え終わりまして。

いよいよ本日のメインイベント、“循環”のお時間がやって参りましたが。

果たして、いつ始まるのでしょうか?


なんて実況解説風なコメントが脳内に流れるのには勿論理由がある。


セリエルさん、囲まれちゃって身動き取れなくなってるんだよ。

医療部隊と魔導部隊の平隊員さん達に。

それこそ医務室の幅いっぱいに、何重にもなった見事な人垣だ。


セリエルさん自身、凄く身長が高いから、凄くウンザリと言うか困った表情なのが離れていてもチラチラと見える。


フォルさんに手を引かれて入った医務室で最初に目にしたのはそんな光景でした。


「ユーリちゃん」

「あ、ルゥにーしゃま。こんにちはー」

「こんにちは。久しぶりだね、元気だったかな?」

「あい。にーしゃまはー?」

「ボクかい? 勿論元気だよ。ユーリちゃんに会えてもっと元気になったかな」


呆然と見ていると、ちゃっかり人垣から避難していたらしいルートヴィヒ少年が目の前に現れた。

今日も目線を合わせるように屈んで声を掛けてくれる。

リィンさんによく似た優しい笑顔に、口を開くとヴィンセントさん譲りの低音ボイスな美声で甘い言葉。うん、このギャップが何ともたまらんねぇ。お姉さんはルートヴィヒ少年の将来も楽しみだ。


ルートヴィヒ少年と一緒にニコニコしていると、フォルさんが楽しそうに目を細めていた。


「セリエルしゃん、大変?」

「そうだね。医務室に入った途端に待ってたらしい人達にあっという間に囲まれちゃったよ。魔大陸で天使族はやっぱり珍しいし、しかも医療部隊は同職だからね。師匠は凄く有能な人だから大抵は答えられちゃうから気付けば層が厚くなってあんな事になってたよ」


まぁ、ルートヴィヒ少年が師事しようって思う様な人って事だよな。

その辺りの見る目は凄くシビアだろうと想像が付く。だってヴィンセントさんの息子だもん。

きっと、セリエルさんに出会えなかったらルートヴィヒ少年は北の魔王城に入隊してたんじゃないかな。

それをしないで師事を仰いだのがセリエルさんって辺り、その有能さは知らずとも理解出来る。


そんな事を思っていたら、医務室にパンパンと手を叩く音が響いた。

音の発生源の方向を見ると、そこにはヴィンセントさんとバクスさん、そして魔導部隊の隊服を着た三人がいた。


「ユーリが来たから、本題に入るぞ。話はまた後だ」


ヴィンセントさんの鶴の一声に、時間は掛かったが人垣が解消されていく。

とても名残惜しそうに、後ろ髪引かれまくりな平隊員さん達に対し、囲まれていたセリエルさんは深く、それは深ーく溜息を吐いていた。

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