57 不思議体験大集合
大人三人が完食し、それに少し遅れてルートヴィヒ少年が残り物まで全て完食する頃に漸く私も完食しました。
お魚と野菜タップリのカルパッチョはレモンとハーブのアクセントが効いたタレでサッパリ美味しく頂き。
キノコのポタージュもキノコの旨味たっぷりで牛乳の優しい甘さがパンと良く合ったし。
ホロ鶏のグリルもお肉は柔らかジューシーで、ソースが乗ったお芋二種類も食感の違いで味わいも違い、とても美味でした!
この内容ならワインは赤でも白でも絶対美味しく飲める自信がある!
事実、大人な男性二人はあのお話の後に赤と白、両方のワインを料理に合わせてのんびり楽しんでた。
ルートヴィヒ少年は赤でリィンさんは白だけだったけど。
…私は幼児だから当然ながらお酒ではなくお水だったけど。とほほ。
いや、天然水だってとっても美味しいよ、魔大陸。
お水が美味しいのは素晴らしい事です!
水は全ての基礎になるしっ。
でも魔大陸のワイン、どんなお味なのかが気になる。やっぱり地域ごとで味の違いがあるよね、きっと。
スパークリングやアイスワインや貴腐ワインなんかもあると思うし。
あー、一口で良いから飲んでみたい。
大人になったら自分に合った美味しいお酒を色々と探すんだー!!
まぁ、それはさて置き。
ルートヴィヒ少年と食べ終わったお皿を流しまで一緒に運ぶと、お皿洗いはリィンさんでルートヴィヒ少年がお皿拭きをするとの事でお手伝いはお役ご免となりました。
やっぱりお手伝いするにはポムル箱が必要…っ。
そんな決心をしていると、ソファにはヴィンセントさんとセリエルさんが向かい合って座りながら雑談してるのが目に入った。
なんと言うか、セリエルさんは左足だけ胡座をかく様な独特な体勢で座っている。
それを見てたら、なんかフラフラーっと体が自然に誘われる様に動き。
気付いたらセリエルさんの胡座をかいた左足の上によじ登って座っていた。
こう、お尻がジャストフィットと言うか、とっても居心地が良いです。
思わずそのまま丸まってみてから、ふと我に返った。
恐る恐る見上げてみると、呆気に取られたヴィンセントさんとセリエルさんの表情ががが。
「ふぉっ?!」
「―――……」
思わず自分でやらかした事ながら驚きの声を発すると、何故かセリエルさんがよしよしと頭を撫でてくれた。
それと同時に暖かな光でヴェールの様に包み込まれれば、妙な居心地の良さと安心感に驚きがスッと収まる。
そのままポケーっとしている間に頭上で何やら会話が始まったのは分かったが、壁一枚挟んでいるかの様に声が上手く聞こえない。
セリエルさんの温もりも手伝い、何だか目覚める前の微睡みにも似た感覚に浸る。
いや、温泉でゆったりリラックスしてる感覚に近いかな?
暫くその感覚に浸っていると自然と周りの光のヴェールが薄まり、それに比例して意識と感覚が再びハッキリしてくる。
光が完全に消えた所で初めての不思議体験に目を瞬かせていると、リィンさんが別の部屋に行っていたのか丁度居間に戻って来るのが見えた。
「…さて、我々はそろそろお暇しよう」
セリエルさんの声に、いつの間にかヴィンセントさんの隣に座っていたルートヴィヒ少年が苦笑する。
「ユーリちゃんと全然遊べなかったなぁ」
「また次があるさ」
ヴィンセントさんがそんなルートヴィヒ少年の頭を軽く撫でる。
「ちょっと、父さん」
「何、ルゥも大きくなったと思ってな」
「当たり前でしょ。いつまでも子供じゃ困るよ」
ヴィンセントさんの手から逃れつつ、ルートヴィヒ少年が困った表情を浮かべた。
そのまま立ち上がると、セリエルさんも私をソファに下ろしてから立ち上がる。
そのまま玄関に向かう二人にヴィンセントさんとリィンさんが付いていくのを見て、慌てて私もソファをよじ降りて後を追った。
「ルゥにーしゃま、セリエルしゃん、バイバイ」
お見送りのヴィンセントさんとリィンさんの間に入り込んで手を振ると、ルートヴィヒ少年が笑顔で「またね」と振り返してくれた。
セリエルさんも少しだけ口角を緩ませた表情を見せてくれる。
そして二人が去れば、リィンさんに抱っこされた。
「さて、と。じゃあユーリちゃん、今日は私とお風呂に入りましょうね」
「ママとお風呂」
魅惑の単語ににぱっと笑うと、玄関の扉を閉めて三人で室内に戻った。
居間に向かったヴィンセントさんと途中で別れ、いつの間にか準備万端だったお風呂にリィンさんと入る。
心の性別的に、リィンさんとのお風呂は違和感が全く無くて安心感が凄かった。
そしてリィンさんの胸も凄かった。
同性だからこそ感動する。巨乳って、お湯の浮力が働くのね…っ。
過去の私には知り得なかった現象です。
…良いもん。他人様のだからこそ楽しめるもん。
今日はオモチャの出番は無いですとも。
キャッキャウフフでリィンさんとのお風呂を楽しみ、ヴィンセントさんと交代したら歯磨き。
その頃には若干おねむモードが発動してきた。
流石は幼児。睡眠は成長に必要だものね。
リィンさんとベッドに入ると、お昼に読めなかった絵本の最後の一冊がそこにあった。
お姫様と王子様の恋物語。
ヴィンセントさんがお風呂から上がるまで、リィンさんがキラキラした絵本の世界を紡いでくれる。
リィンさんの優しい、少し高めの声がお姫様と王子様の出会いから恋の成り立ちを語り、脳内で広がりかけたそれは少しずつ夢の世界へと変わっていき。
ヴィンセントさんが寝室にやって来る前に、話の途中ですっかり寝落ちてしまった。
懐かしいシンデレラや白雪姫を彷彿とさせた所為か、とてもメルヘンな夢だった。
それはやがて舞踏会の晩餐にシーンを変え、主菜に今日の夕飯のホロ鶏のグリルが出てきた。
夢の中でもやっぱり美味しく頂きましたとさ。まる。