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55 ソレはソレ。コレはコレ。

リビングのソファーを借りてのお昼寝から目覚めると、リィンさんがフルーツたっぷりのゼリーをおやつに出してくれた。

ダイニングテーブルに設置されたお子様椅子に座って頂きます。


朝市でヴィンセントさんが買ってくれた、蜜柑とオレンジの中間の様なミカリンなる名前の旬の果物のゼリー。

周りのゼリーは絶妙な甘さで、ふるふるとスプーンの上で繊細に揺れる柔らかさ。口に含むとゼリーがスルンと溶けて、主役のミカリンのタップリ果肉が出現し、濃い爽やかな甘さを噛みしめられる絶品。


…そういえばゼリーに夢中で気付かなかったけど、ヴィンセントさんの姿が見えない。


「ママ、ヴィンしぇ(・・)ントたいちょは?」

「あの人なら、今、書斎にいるわよ」


リィンさんからの答えに、意識をゼリーに戻す。

仕事に関わる事だったら、お邪魔する訳にはいかない。


リィンさんも今は私の前に座ってくれているけど、夕飯の準備を始めているみたいだし、食べたらお手伝いしましょうかね。


「ママ、おいしーの」

「本当? 良かった」

「これ食べたらおてつだいしてもいーい?」

「まぁ。助かるわ」


リィンさんと二人でニコニコしつつ、ゼリーをしっかり味わって完食。ごちそうさまです!




「今日の夜ごはんはなんでしゅか?」

「今日は朝市で新鮮なお魚とキノコを買ったから、お野菜タップリのカルパッチョとキノコのポタージュにしようかと思ってるのよ」

「ほわー」


ゼリーの器を流しに運び、洗うリィンさんに今日の夕飯のメニューの確認。

聞いただけで涎が出てくる。

一日とはいえ、リィンさんのご飯の美味しさを知ってしまった身としては当然の反応です。


「ポタージュの下拵えは終わってるから、ユーリちゃんにはカルパッチョの準備を手伝ってもらおうかしら」

「よろこんでー!」


どこぞの居酒屋さんくらい張り切って返事しちゃう。

ついでに両手も上げてみたら、リィンさんが微笑む。


…私、男性ばかりの職場環境に思っていた以上に女性成分に飢えてたみたい。

今、凄くリィンさんに癒されてる…っ。




時折味見という名のご褒美を頂きつつ、簡単な作業のお手伝いをしているとヴィンセントさんがお部屋から出てきた。


「リィン、ルゥが夕飯だけ帰ってくるみたいだぞ。丁度近くの仕事らしいな。一刻程で到着予定らしい」

「あらあら」

「師匠も連れて帰るとあるから、二人分追加なんだが」


折り畳まれた跡の残る手紙を手にヴィンセントさんがリィンさんに伝える。


「よっぽどユーリちゃんに会いたかったのねぇ」

「あの子の師匠もよく同意してくれたものだ」


内容にクスクス笑うリィンさんに、ヴィンセントさんは小さく肩を竦めてみせる。


「なら、メインのお料理を追加しないといけないわね。今日の夕飯はさっぱりメニューにしちゃったから、ルゥには全然足りないわ」

「頼む」


早速食材の確認に動くリィンさん。

追加メニューが決まるまでに、ヴィンセントさんにちょっと質問。


「ヴィンセントたいちょ、それ、お手紙でしゅか?」

「あぁ、お手紙だ」

「どうやって届くでしゅか?」


街を歩いた時に、ポストらしき物は見なかったんだよねぇ。

魔大陸の郵便事情ってどうなってますの? と思って。


「魔鳥を使うんだ」

「まちょう…?」

「魔獣の一種で、手の平に乗る位の可愛らしい小さな鳥だ。場所の座標か目的の人物の魔力を魔術で教えてやればきちんと目標に辿り着ける。その特性を活かして手紙を届けたり、探査魔術を付与して離れた場所の調査をしたりするのに利用されている。

大抵の街に魔鳥を貸し出す魔鳥屋がいるし、北の魔王城でも騎獣部隊で飼育されているな」

「ほへー」


つまり、頗る優秀な伝書鳩の様な鳥がいるのね。

流石は魔大陸。どこかアナログなのに最先端なのが凄い。


「追加メニューはお肉にしましょう。ホロ鳥のお肉も今日買ってきたからそれを特製ソースでグリルにすればきっとルゥがいてもお腹一杯になるわね」


感心していたら、食材の確認をしていたリィンさんが戻ってきた。

なんだが聞いただけでも美味しそうなメニューの追加に、涎が再び。


…魔鳥の話を聞いたばかりなのに鶏肉メニューに喜んでしまった自分に、本当に食欲が己の主体なんだと実感してしまった。






お仕事が終わったのか、そのまま居間のソファに座ったヴィンセントさんに慣れた様子で珈琲を出すリィンさん。

のんびり読書を始めたヴィンセントさんを横目に、リィンさんの後ろを追いかけつつお手伝い。


カルパッチョのお魚は鯛に良く似た白身魚。名前はまんまタイ。捻りが無かった…。

それを薄くスライスするリィンさんの横で、野菜を千切ったりカルパッチョのタレを混ぜたりするだけのお手伝いです。


…身長が欲しい。切実に。


次にやるであろう事は何と無く分かるから先に動きたいけれど、小さい体がソレをさせてくれない。

結局カルガモの親子の様な構図になるのがとても歯がゆいです。ぐぬぬぬぬ〜。


今度、ポムル箱を貰ってこよう。うん、そうしよう。


そんな事を考えつつリィンさんの手で仕上げられる夕飯を見つめる。


ホロ鶏のグリルの特製ソースはトマト(トゥート)ベースに香味野菜と隠し味にデミグラスソースを効かせた甘辛さの中に少し酸味もあるソース。ちょっとポークチャップのソースに似てるかな?


それにお肉を暫し漬け込み、フライパンでお肉に綺麗な焼き目を付けたら漬け込んでいたソースを加えて一煮立ち。塩胡椒で味を整えたら火から下ろし、この後は仕上げにオーブンに入るそうな。

このソースがまた絶品。色々応用出来そうだし。

レシピをちゃっかり頂きっと。


ホロ鶏のグリルの準備が出来た所で今度は付け合わせのじゃがいも(タシ芋)の準備。

マッシュ状にしたものと、パセリみたいな葉を散らした粉吹き芋と。

やだー、コレ絶対にソースと合わせて美味しいヤツじゃないですかー。


出して貰ったお皿をテーブルに広げ、椅子に乗ってそれぞれにお芋を取り分けていく。

五枚のお皿は一つが小さい私用。一つが大人用の他の三枚の二倍近い大きさ。とっても既視感デジャヴ


「ルゥはまだまだ食べ盛りから、この位簡単に食べちゃうのよね。むしろお代わりも必要ねぇ」

「…にーにみたい」

「“にーに”?」

「調理部隊の一番若い隊員だ。ルゥと五十も違わない」

「まぁ、ユーリちゃんのお兄ちゃんの一人なのね。北の魔王城の御飯はあなたが美味しいって言う位だもの、その年頃の男の子なら良く食べるのも納得しちゃう」


ソレを口にするとリィンさんが小首を傾げたが、ヴィンセントさんが笑って会話に加われば納得する。


その横でお芋を盛り付け終える。

余った分はお代わり用ですね。分かります。


「後はルゥが帰って来る少し前に最後の仕上げをすればバッチリね。お手伝いありがとう、ユーリちゃん」

「またお手伝いしましゅ」

「頼もしいわねぇ。じゃあ、またお願いしちゃおうかしら」

「あい!」


シンクの洗い物を片付けると、下準備終了を告げるリィンさん。

すると、読書をしていたヴィンセントさんがチョイチョイと手招きしてきた。

近付いてみると、ヴィンセントさんの膝の上に乗せられる。


「折角の休みだ。夕飯まで私と過ごそう」


読んでいた本を退けて、ヴィンセントさんが近くに寄せて来たのは三冊の絵本。


「知ってるお話はあるかい?」


ヴィンセントさんが聞いてくれるが、どれも聞いたことのないタイトルばかり。

大人しく首を横に振ったけど、タイトルにある“姫”やら“冒険”やらのキーワード的にきっと魔大陸の王道の御伽噺と思われる。


「ではユーリの好きな御伽噺を探してみるとしよう」


そして始まった魅惑の読み聞かせタイム。


…ヴィンセントさんの声はここでも凄かったです。

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