54 頑張れ、お父さん!
「…あれ、ユーリちゃん、男の子だったの?」
「ん? 男の子だけど女の子??」
「…………取り敢えず可愛いからどっちもって事にしてるのね。良く似合ってるからいいと思うわ」
シェリルちゃん、アルギス少年、マシュー少年と二台あるブランコにそれぞれ二人乗りで揺られていると、ブランコの脇で三人のお母様方とリィンさんがお話をしていた。
…内容的に、本当に良いのかと思わなくもない話題の当事者です。
「まぁ、じゃあウチの主人が言ってた北の魔王城に仮入隊した子供ってユーリちゃんって事?」
「あ、ウチも聞いたわ」
「ユーリちゃん、あの年で北の魔王城所属なの!?」
そんな会話に小首を傾げていると、私の後ろでブランコを漕いでくれていたこの中で最年長のアルギス少年が口を開く。
見た目的には私よりもずっと大きいアルギス少年だけど、年は二十歳程(人間にすると二、三歳位)しか違わないとの事。
お隣のブランコの二人もアルギス少年と五年位しか離れていないらしい。
まぁ、ユーリ、同年代の中でも小柄みたいだし余計に差が出て見えるのかな。
「オレ達の父さん達はみんな、北の魔王城ではたらいてるんだ」
「オレの父ちゃんは機動部隊だって言ってた」
「私のお父様は、魔導部隊の隊長なのよ」
「…オレの父さんは近衛部隊だって聞いた」
アルギス少年の言葉に、隣のブランコに乗っていたマシュー少年が続き、シェリルちゃんが爆弾発言を放ち、最後にアルギス少年に戻る。
「…みんなのおとうしゃん、しゅごいねぇー!」
さり気無く戦闘職バリバリなエリートなお父さん勢揃いですか!
シェリルちゃん、あのシェリファス隊長の娘さんならそりゃ可愛い訳だよ!!
って言うか、お父さん方、揃いも揃って面食いじゃないのさ! 実はここに居るお母様方超美人揃いです。
「凄いのか?」
「きどう部隊は強くて騎獣をしっかりせいぎょできる人じゃないと入れないのよー。まどう部隊の隊長は、北のまおうりょうで一番魔術のものしりなしぇりふぁしゅたいちょ! 近衛はねー、一番なるのがむずかしいとくべつなおしごとなのよっ」
私、ちょっと前まで色々誤解してたりしたけれど、エリエスさんとかフォルさんとかからちょっと聞き齧ってるから今は違うのよ(キリッ)
「「「……そーなの(か)?」」」
「そうでしゅっ!」
あれ、熱く語ってみたのに肝心なお子様方にお父さんの凄さが全く伝わっていない。
「父ちゃん、母ちゃんの尻にしかれてるだけじゃないのか」
「…お父様、あんまり会えないから」
「ほとんどしゃべらない」
……あれれ?
何か、今、終了の鐘がどこかで鳴り響かなかった?
そんなこんなで遊んでいると、荷物を置いて身軽になったヴィンセントさんが公園に出現する。
それとほぼ同時に、ベビーカーを押した二人のママさんもやって来た。
「あ、アルクとルゥイだわ!」
「ホントだ!」
ベビーカーを見て、シェリルちゃんとマシュー少年が動くブランコから身軽に飛び降りる。
え。私、そんな芸当身に着けておりませんが。
よし、おばちゃんも頑張って…
「危ない」
チャレンジしようとしたら、その前にアルギス少年に抱き止められ。
キチンとブランコを止めてから降ろして貰いました。
アルギス少年は将来紳士になるかもしれません(決して私が目に見えて鈍臭いからと言う訳では無い、筈)
二人に少し遅れてお母様方の側に停められたベビーカーに駆け寄ってみると、そこには円らな瞳の小さな小さな天使がおりました。
二人共目をパッチリ開いて起きているよ。
「…かわいーねぇ」
思わずその無垢な瞳にうっとり見とれて呟くと、他の三人も力強く頷いてくれる。
そっと小さな手に指を伸ばしてみると、反射なのかギュッと握ってくれた。
これにはズッキューン! と萌えに心臓を打ち抜かれました。
可愛すぎるっ。
「あらあら、まぁまぁ」
「ユーリもデレデレだな」
ふわふわのまだ少ない髪の毛を撫でていると、リィンさんとヴィンセントさんのそんな声が聞こえた。
おっと、いけない。
表情筋が思わず仕事を放棄してしまったじゃまいか。
キリッとしようとしたけれども、円らな瞳にじーっと見つめられ。
更には蕩ける様な微笑みを頂きました!
…さようなら、表情筋!
私の顔、デレデレで構わないっ!!
三人組と一緒に赤ちゃんと戯れていると、少しすると赤ちゃんが寝てしまった。
なので今度はヴィンセントさんと公園をお散歩しながら色々な生き物や植物を見てみたり。
そこに三人も加わったと思ったら、終いには何故か三人組と共にヴィンセントさんが鬼な鬼ごっこが始まり。
テキパキ逃げる三人とは対照的にポテポテとっとこ走る私に絶妙にヴィンセントさんが迫れば、三人が逃げるのを手伝ってくれる。
本当に良い子達だわー。おばちゃん、感動です。
私、体力無さ過ぎて早々にダウンしかけるけど、そうなるとヴィンセントさんが他の三人を追い始める。
少し回復すると、また私がヴィンセントさんに追われ始める。
何かこんなトレーニングありましたよね。早く走って、歩いて、また走るのをリズムに合わせてやるヤツ。
三人は非常に楽しそうだけど、キツイ。
そんな午前中は気付けばあっという間に過ぎて行った。
そろそろお昼の時間という事もあり、程良い時間で解散してお家へ帰り。
日除けの頭巾を外して、ヴィンセントさんと一緒に手洗いうがい。
リィンさんの美味しいリゾットが出来上がるまで、ヴィンセントさんが朝読んでいた新聞をヴィンセントさんと共に眺め。
昼食を食べると、眠気にうつらうつらしながらヴィンセントさんに歯磨きをして貰ってお昼寝タイムに入りました。
さり気無く子供の遊びはハードだった事をご報告して、おやすみなさい。ぐぅ。