52 お買い物からの…
リィンさんの後を追いかける様にしながら朝食の準備を終えまして。
今、私の目の前にあるのは素敵な朝食。
きつね色の焼き目と薄く塗られた溶けたバターが素敵な厚切り食パン、賽の目に切った野菜たっぷりのコンソメスープ、おかずプレートには色鮮やかな野菜サラダとフワッ・トローな仕上がりが絶妙なスクランブルエッグとウインナーが二本。
飲み物はヴィンセントさんはコーヒー、リィンさんは紅茶、そして私は蜂蜜を少し垂らしたホットミルク。
…美味しそー!
しかも、子供用の食器に合わせたサイズで大人と同じ様に準備してくれたリィンさんの心遣いがまた素晴らしい。例えば、食パンは同じ厚さで四分の一に切ってくれていたり、ウインナーはポーク◯ッツみたいな小さいサイズで同じ本数とか。
きっと、リィンさんはお子さんに同じ様にしてきたんだろうなー。
本当に素敵なママだよ。うん。私は無理だな。
「じゃあ、いただくとしよう。いただきます」
「「いただきます」」
ヴィンセントさんの号令に続いて、三人で食べ始める。
んー! やっぱり見掛けを裏切らないお味!!
ワイワイ食べる北の魔王城とは違うけど、こうして家族で食卓を囲むって言うのもまた違った美味しさですな。
「ユーリちゃん、ベルチのジャムもあるから、必要だったら言って頂戴ね」
「リィンのお手製ジャムも美味いぞ」
「食べたいでしゅ!」
もきゅもきゅ食べ進めていると、パンが半分くらいになった所でリィンさんがそう言えば…と声を掛けてくれた。
ヴィンセントさんのオススメならば、それは食べるしかないでしょう!
迷い無く食べる宣言をする私に、リィンさんが笑いながら食卓に乗せていた瓶を空ける。
「残り全部に塗る?」
「あい、たっぷりでお願いしましゅ!」
「たっぷりね」
そっと手を差し出したリィンさんに食パンを渡し、オーダーすると、要望通りにジャムが塗られて戻って来た。
ゴロゴロと果肉が残る、鮮やかな赤が美しいツヤツヤの苺ジャム。
あーん! と大きな口を開けて齧り付けば、苺の良い香りと甘みが一気に広がる。
美味しゅうございますぅーっっ!!
「…ユーリが食べていると私も食べたくなるな」
「本当に美味しそうに食べてくれて、私も嬉しいわ」
「おいちーの」
そんなほのぼのした食事の後は、お片付け。
ヴィンセントさんと一緒に食器を流しに持って行き、テーブルの上の調味料なんかを片付けながらテーブル拭き。
その間に、ヴィンセントさんはリィンさんが洗った食器を布巾で拭いていた。
「リィン、今日の予定は?」
「市場に行こうと思っているの。それから公園に寄ってみようかしら?」
「そうだな」
三人で片付けながら、ヴィンセントさんとリィンさんがそんな会話を交わす。
「お買い物?」
「そうよ。お昼と夕飯の材料の買い出しね」
「…ユーリはこの前商業地区には行ったみたいだが、市場に行くのは初めてだな」
「あい」
「この集落の住人が食材を買う為に、住宅地区の大通りに生鮮食品の露店が午前中に並ぶんだ。沢山の食材があるぞ」
「基本のお野菜やお肉、お魚以外にも季節のお野菜とか珍しい食材が出たりするのよ」
「ほわー」
それは是非とも行ってみたい!
「じゃあ、お片付けが終わったら早速皆で行きましょうね」
「あーい!」
いやぁ、楽しみ楽しみ。
思わず上機嫌でるんたったしながら片付けていると、ヴィンセントさんとリィンさんに物凄く温かい目で見られていた。
……は、恥ずかしいな。
そんなこんなで、やって来ました市場!
外出という事で、日除けの頭巾まで追加されました。
すっかりどこぞの村娘の様になっております。客観的に見ると非常に可愛いとは思うんだけど。
何せ自分の中身が中身だからなー。
それは兎も角。
ヴィンセントさんのお宅を出て、商業地区側に歩く事五分。
まるでヨーロッパの朝市の様な光景が広がっております。
ヴィンセントさんとリィンさんに左右の手を繋がれ、まずはぐるっと下見。
「リィンさん、おはよう! 今日は旦那さんお休みなんだね。それに随分と可愛い娘さんも連れてるじゃないか!!」
「おはようございます」
「リィンさん、今日はウチのポンプキンがオススメだよ! まけちゃうから寄ってってよ!!」
「ウチはオマケ付けるよ!」
市場の彼方此方のから、男女を問わずにリィンさんにそんな声が掛けられる。
まぁ、リィンさんほんわかした優しい雰囲気の美人さんだし、凄く納得。
私もリィンさんとヴィンセントさんと一緒にそんなおっちゃんおばちゃんに朝の挨拶をする。
軽く下見を終えた所で、早速お買い物。
ある程度目を付けているから、早い早い。
買い物がてら珍しい物が何かを聞いてみたり、果物試食させて貰ったり。
「おいちいねぇ」
旬の甘い果物に思わずうっとりしていると、気付けばヴィンセントさんが笑いながらお金を払って購入していたり。
何故か購入したモノよりもオマケの方が多かったり。
お礼に目一杯愛想を振る舞っていたら、買っていないお店からも何故か食材がやって来たり。
珍しい食材を見せて貰ったんだけど、大きな食材は重さにプルプルしてたらお店の人は勿論、買い物に来ていたお客さん達にまで微笑ましそうにされた。
いや、そこは助けて下さい。大事な商品に傷が付いたら大事ですから。
半刻(一時間)程、そんな愉快なお買い物タイムをした所で終了。
気付けば結構な荷物になっていた。
ヴィンセントさんは軽々と持っているけれども。
「あなたがいるとお買い物がとっても楽ね」
「偶には荷物持ち位はしないとな」
「今日はユーリちゃんがいたから沢山オマケしてもらっちゃったし」
そんな会話をしつつ、何故か行きとは違う方向へ。
「ままー、お家、あっち?」
「折角お外に出たから、公園に寄って帰りましょう」
「少し遠回りするだけだぞ。きっと公園にはユーリと同じ位の子供達がいるから、遊んでみなさい」
疑問をそのまま口にすると、リィンさんとヴィンセントさんが答えてくれた。
ニコニコ笑顔の二人に、取り敢えず頷いてみるけれども。
……ユーリと同年代の子供って、私、一緒に遊べるのかしらん(汗)