幕間2 鳥籠にあるモノ、無いモノ
ふっと目覚める感覚を覚えて目を開くと、そこは久々に見る場所だった。
ユーリの、鳥籠の様な部屋。そのベッドの上。
けれど主であるユーリの姿が見当たらず、珍しく入口の扉の辺りから人の声が聞こえる。
この部屋に他人がいるなんて珍しい。
鍵を開けてやって来た人はどんな人なのだろう。
興味を惹かれ、ついつい本棚に隠れるようにして入口に近付いてみる。
本棚の陰からコッソリ覗いて見ると、ユーリの小さな背中がまず目に入った。
ユーリの正面に立つのは、無駄に着飾った老人男性三人。
そのけばけばしい無駄に高価であろう外見よりもユーリを見る目に視線が吸い寄せられ、ゾッとした。
明らかに見下し、嘲笑を浮かべ、嗜虐性に満ち溢れている。
「こんな者があのお方の系譜など…」
「単なる穀潰しよりも性質が悪い。この顔立ち。よりにもよってあの様な下賤な者の血もしっかりと引いているのだから」
「それでいてあのお方の髪色と瞳の色を受け継ぐなど、おこがましいにも程がある」
そしてその口から語られる言葉も、とても幼子に聞かせるに堪えない罵詈雑言ばかり。
意味は分からなくても、言葉に含まれる悪意を感じる事は出来るのだろう。
三人の前に立たされているに近いユーリの背は怯え切っていた。
そんなユーリの姿に三人がなおも利己心を満たす様に詰り続け、正に私の我慢が限界を迎えようかというその時になって漸く去る。
ご丁寧にもしっかりと鍵をかけ、笑い声を響かせながら。
三人が去った頃には、ユーリは嗚咽を漏らして泣いていた。
泣き叫ぶ事も出来ない程に怯え、小さくなってただ涙を零す小さな小さな背中。
状況や関係は全く分からないけれど、少なくともさっきの三人が碌でも無いクソジジイ共であるという事は良く分かった。
三人の顔はしっかりと覚えさせて頂きましたとも。えぇ。
もしも私と会う事があったら、覚えてろよ。
小さく復讐を誓いつつ、今はそれよりもユーリだ。
そっと近付き、後ろからユーリの小さな身体をしっかりと抱き締める。
「!?」
「…………良く耐えた。偉いよ、ユーリ」
「ゆ、り?」
「そうだよ。良く覚えてたね」
肩を大きく震わせたものの、声を掛けると私を認識してくれるユーリ。
途端に体を回転させ、私の胸に飛び込んで来た。
漸く声を上げて泣き出すユーリの頭を撫で、宥める様にその背を擦ってやる。
その程度しか出来ないが、今は好きに泣かせてやるのが一番だろう。
こんなにも可愛い子を揃いも揃って甚振るとは、やっぱりあのクソジジイ三人、万死に値する。どうしてくれようか。
ここが何処で、何でユーリがこんな場所に閉じ込められているのかは今回も分からないまま。
ただ、どうやら両親のどちらかが身分のある人である事は間違いないみたい。
そして、その人は銀髪で紫の瞳を持っている、と。
もう一親は、ユーリによく似ている。
あのクソジジイ共にとって歓迎できない出自みたいだけど。
それはあくまでもあのクソジジイ共にとって、だ。
だってほら、見てごらん。ユーリ。
君にも見えるでしょう?
私以外にも、こうして包み込んでくれる存在が。
夢の中に居るのとは別に、現実世界でも怯えて泣いている私達をヴィンセントさんとリィンさんが抱き締めてくれているよ。
こんなにも温かい場所が私達にだってあるんだ。
だから、あんなクソジジイ共の悪意は忘れていい。
それよりももっと沢山の嬉しい事を私と一緒に見付けに行こう。