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49 お世話になります

医務室を後にし、ヴィンセントさんに連れて来られたのは夜の獣舎。

この時間になるとつい先日のお昼に来た時とは違って騎獣達の声が結構聞こえるし、チラホラと姿も見える。


もふもふパラダイスやーん。


ニマニマしながらヴィンセントさんに手を引かれて歩く事暫し。

扉に「医療」の文字が書かれた獣舎の扉をヴィンセントさんが開くと、一番手前にいた騎獣に思わず目を輝かせる。


クルンと円らな大きな瞳。短く折れ曲がった嘴。丸みを帯びたシルエットが特徴な、もふもふ羽毛に包まれた生物。

巨大フクロウ来たー!


「態々出迎えにきてくれたか」


そんなフクロウにヴィンセントさんが近付き、羽毛をそっと撫でる。


「ユーリ、この子が私の騎獣だ。アウラルのカルア」

「かるあ」


ヴィンセントさんの紹介にその名を呼んでみると、カルアがこちらを見て「ホー」と鳴き声を上げる。

その声に釣られてそっと近付いてみるが、特に警戒された様子も無い。


「この様子なら、触ってみても大丈夫だろう」


触ってみたいなーと思ってヴィンセントさんを見上げてみると、ヴィンセントさんが頷いてくれた。

それに後押しされ、そっと羽の辺りに手を伸ばして撫でてみる。


……羽毛、最高ー。


想像以上のもふもふかつ滑らか触り心地に、思わずうっとりしてみる。


「カルア、ユーリも一緒に家に連れて帰る」

「ほーっ」


その間にヴィンセントさんがカルアに声を掛けると、まるで了承の返事をする様に鳴くカルア。

慣れた手つきでカルアを柵から出してやると、ひょこひょこと歩いて自ら獣舎を出て行く。後ろ姿が凶悪に可愛いです。

その後をヴィンセントさんと着いて行くと、少し進んだ所で何やらちょっとした崖状の構造になっている台の上に飛んで移動していた。


「単体ならばそのまま飛び立てるが、人を騎乗させる時は少し高さがあった方が安定して飛べるからな。ここから飛ばせる」


ヴィンセントさんに手を引かれつつカルアの待つ台の上に登ると、ヴィンセントさんに抱き上げられた。

そのまま慣れた様子でカルアに取り付けられていた鞍と手綱を展開させ、身軽にカルアに騎乗するヴィンセントさん。


「行こうか」


カルアに声を掛けると、カルアがそのまま飛び立つ。

そのままあっという間に力強く羽ばたくと、北の魔王城が遠くなる。

それと同時に暗くなり始めていた中、集落の明かりが灯る方へとぐんぐん近付いて行く。


「この間ディルナンと買い物に来ただろう? 一の集落だ。あそこに私の家がある」


本当にあっという間に、一の集落へと近付いて行った。

やっぱり鳥なだけあって、飛ぶのが早い。








集落の入り口前に降り立つと、警備に立っていたおっちゃんの一人が近付いて来る。


「こんばんは、ヴィンセント隊長。お疲れ様です」

「お疲れ様。…いつも通り頼む」


すっかり顔見知りの様子で、ヴィンセントさんが警備のおっちゃんにカルアを託す。


「ヴィンセントたいちょ?」

「私はここに住んでいるから、集落の獣舎を申し込んである。カルアの専用のスペースがあるんだよ」


レツと違う対応にヴィンセントさんを見上げると、私の聞きたい事を汲み取って答えてくれる。

その横で警備のおっちゃんがカルアの鞍と手綱を収納して連れて行く。

やっぱりその後ろ姿がぷりちーです。


そんなカルアと別れた所で、ヴィンセントさんに手を引かれて入口を通過する。


「やぁ、ユーリちゃん。今日はヴィンセント隊長と一緒か」

「今日ねー、お泊りしゅるのー」

「そうかそうか。ようこそ、一の集落へ。ゆっくりしてってくれな」


この間あった警備のおっちゃんもいて、声を掛けてくれた。

バイバイと手を振り、集落の右へと歩き出す。


そのまま歩く事五分程。

立派な一軒家の前でヴィンセントさんが足を止める。


「ここが私の家だ。ようこそ、ユーリ」


ヴィンセントさんが鍵を開け、扉を開くと、リーンと扉に付けられた鈴が涼やかな音を立てる。

それに続いて、奥の方からパタパタと軽やかな足音が聞こえた。


「おかえりなさい、あなた。それとようこそ、ユーリちゃん」

「私の妻の、リィンだ」

「はじめまちて、ユーリでしゅ。おせわになりましゅ」


少しして姿を現したのは柔らかそうな長い栗色の髪に空色の優しい色合いの瞳のおっとりとした雰囲気を持つ外見年齢二十代後半位の、それは可愛らしくて美人な奥様。


…え、年の差いくつ?

結婚した時、幼妻だったんじゃない⁇


そんな私の疑問を余所に初めましてのご挨拶に、ギュッとハグされて頬にキスまでしてくれる。

細身なのに巨乳。超ふんわりしてて良い匂いするし。けしからん。

しかもヴィンセントさんとお帰りなさいのチューを普通にするんですね。いや、実に良く似合う光景だとは思うんだけど…目の遣り所に微妙に困ってしまうんですが。


「自分のお家だと思ってゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」

「さぁ、上がって頂戴」


そんなこんなで通された広いダイニングには、テーブル一杯のご馳走が。




ぐぎゅるるるー




「まぁ。沢山用意したから、お腹一杯食べてね」

「…あい」


初めてもへったくれもない自分のお腹の虫に、恥ずかしくなりつつも。

にっこり笑うリィンさんの優しい言葉が嬉しくもあり。


「ユーリ、手を洗おう」

「あい」


ヴィンセントさんの言葉に、ヴィンセントさんと洗面所へと向かう。

後ろから抱っこして貰い、しっかり手洗いしてお日様の匂いがするタオルで手を拭く。

その間にヴィンセントさんも手を洗い、タオルを回収してくれる。


何だろう、このお家感。

そうこうしている間に、ダイニングの方向から更に良い匂いが漂ってくる。


「さぁ、お待ちかねの食事にしよう」


タオルを片付けたヴィンセントさんが言い、二人でダイニングに戻る。

キッチンではリィンさんが温めたらしいスープをお皿によそっていた。


それを見ていたら、ヴィンセントさんに椅子に乗せられていた。

よく見ると子供用の食事椅子。

そこから降りようとすると、ヴィンセントさんに手で制されてしまった。


「ヴィンセントたいちょ、おてつだいしゅるの」

「それは明日だ。今日はユーリの為にリィンが腕に縒りを掛けて準備したからしっかり食べる事に専念しような」

「旦那様の言う通りよ。今日はお仕事で疲れたでしょう? ゆっくりして頂戴」


降りると主張するが、ヴィンセントさんに笑顔で一蹴されてしまった。

更にはお皿を運んできたリィンさんまでもがヴィンセントさんに同意する。


そっと差し出されたスープも、準備されていた数々の料理も、子供用の食器で盛り付けられている。

置かれていたカトラリー類も全て子供用。


「ルウが子供の頃の物を取っておいて良かったわ。今のユーリちゃんに丁度いいわね」

「う?」

「家の息子だ。名前はルートヴィヒと言うんだが。今日は仕事の都合がつかなくてな。その内会わせよう」


手際良く食べる準備をしつつ、私の眺めていた物を見てリィンさんが微笑む。

出て来た名前に首を傾げれば、ヴィンセントさんが教えてくれた。


ヴィンセントさんの息子さんはルートヴィヒ…カッコイイな、名前。


「あの子もユーリちゃんに会えるのを楽しみにしてるみたいだから」

「だろうな。昔、散々弟か妹が欲しいと騒いでいたんだから」

「次にユーリちゃんが来る予定が分かったらすぐに教えてくれって叫んでましたよ」


どんな兄さんが出て来るんだろう。私も楽しみかもしれない。


「さて、息子の話はこれぐらいにして食事にしよう。冷めてしまうからね」

「あい!」

「うふふ、良いお返事ね」


話がここで一度終わり、ヴィンセントさんの音頭でいただきますをしてから食事を始める。


リィンさんが用意してくれたのはちょっと豪華だけど、どれも温かみのある家庭的な料理が主体。

北の魔王城の食堂のご飯も勿論美味しいけど、それに勝るとも劣らないご馳走だった。


たっぷり野菜のシンプルなコンソメスープ。

特別な素材が入っている訳でも無い。最高級の出汁コンソメって言う訳でも無い。

だけど、それが有里わたしの母親がよく作ってくれた豆腐とワカメの味噌汁を何故か彷彿とさせた。


「……おいちいねぇ」


その優しい味に、泣きたくなるのは何故だろう。


「ユーリ……」

「ありがとう。沢山用意したから、よく噛んでしっかり食べて頂戴ね」


少し驚いた様に私の名前を呼ぶヴィンセントさん。

対してリィンさんは、どこまでも優しかった。おっとり微笑んでまるで母親の様な言葉を掛けてくれる。


それにどうにか小さく頷き、目の前のお皿に向き直る。


食事が進み、お腹が膨れると共に胸も一杯になった。

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