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40 言われてみれば、想像出来ない。

えっちらおっちらヴィンセントさんを引っ張る様にしてやって来ました、食堂。


入口を通過するなり何故かどよめきが起こり、配膳口に立っていたアルフ少年でさえギョッとした表情を浮かべて出迎えてくれた。


何かおかしいのかと周りを見回したが、私達以外に何も無い。

小首を傾げつつヴィンセントさんを見上げてみると、妙に楽しそうに笑っていた。


「ヴィンちぇ・・ントたいちょ、ボク、何かヘン?」

「いや、いつも通りに可愛いぞ」


念の為に聞いてみたけど、ヴィンセントさんにもおかしい所は見受けられないらしい。

それよりも、イケてるオジサマのさり気ない褒め言葉は照れる。


「さぁ、ご飯を貰って食べようか」

「ご飯!」

「しっかり食べないとな」


照れ照れしてたら、ヴィンセントさんに食事を促される。

そうですよ、その為に急いで食堂に来たんだもの。朝ご飯ー!


「にーに、ご飯くだしゃい!」

「ユーリ……」


配膳口の少し手前でアルフ少年に声を掛けると、何だか疲れた声で名前を呼ばれた。


「…にーに、元気ない?」

「いや、兄ちゃんは元気だ」

「にーにもお腹すいたー?」

「そうだな、兄ちゃんはもう腹減ったよ」


心配になって声を掛けると、苦笑してアルフ少年が返して来た。

そうして食事の準備に動き始めるアルフ少年だけど、何だかさり気なくヴィンセントさんに頭下げた?

私、やっぱり何か不味い事やらかしたのかな。


「本当に何も無いからそんな顔をしなくていい。単に私が引っ張られていたのが珍しかっただけだろう。

…ユーリは良い兄貴分がいるな」

「にーにね、だいしゅきなのー」


むーん、と考えてたら、ヴィンセントさんにポンポンと頭を軽く叩かれた。

…まぁ冷静に考えれば、ヴィンセントさんが誰かに引っ張られてアハハウフフなんて光景は想像出来ないけど。

寧ろ笑顔で相手を軽々と引きずってそうなイメージが浮かんだけど。あれ? 何か違う⁇


それを考えると私ってばやっぱりとんでもない事やらかしたって事か。

ヴィンセントさんは許してくれたけど、それは例外的っぽい。

だからアルフ少年がすみませんと頭を下げた、と。


末っ子気質で頼り無い所もあるけど、慣れないなりにしっかりお兄ちゃんしてたんだね、アルフ少年。スマンね。

おねーさんは君がこの先どう育つか楽しみだよ。


「アルフがユーリちゃんの『だいしゅき』に昇格した、だと…!?」

「おのれ、アルフめ…っ」

「オレ達を差し置いて、いい度胸だ!」


………その一方で、三馬鹿トリオの兄さん達の残念さも一層際立って来たのは私の気の所為では無いと思う。


『三馬鹿、口じゃなくて手を動かせ』

「「「サーセン!」」」


三馬鹿トリオの兄さん達に生温い目を向けていたら、調理部隊の他の面々から一斉に怒気が向けられていた。

そんな周囲を軽く無視して手際良く朝食の準備を進めるアルフ少年は、おねーさんが心配しなくてもとても逞しく育っている様です。まる。







アルフ少年に用意して貰った朝食をヴィンセントさんに下ろして貰い、空いているテーブルへと運んで行く。


「ユーリ」

「たいちょ」


ヴィンセントさんに再び朝食を渡し、テーブルに上げて貰っていると、後ろからディルナンさんの声がした。

その手には私用の簡易椅子。態々持って来てくれたみたい。


「スマンな、ヴィンセント。迷惑を掛ける」

「この子は大した手間を掛ける子では無いが?」

「飯が関わるとそうでもないだろう。大方、空腹の勢いでアンタ引っ張って来たんじゃないか?」

「そこは否定出来ないな」


椅子をセットしつつディルナンさんが頭を下げた。そのままヴィンセントさんと二言、三言、言葉を交わす。


「全く。飯となると目の色変えるのはお前の悪いクセだ。もう少し気を付けろ」

「…ゴメンナサイ」


うぅ。アルフ少年にまで頭を下げさせているし、そのお言葉を全く否定出来ません。


「ま、偶にはヴィンセントを好きに出来る強者が出るのも悪くは無いがな」

「う?」

「外警部隊には良い話のネタの提供になっただろ。その分、しっかり応急手当の勉強して取り立てて来い」

「ディルナン、お前も相当なモノだな」


しょんぼり反省してたら、お小言から一変してディルナンさんに私情混じりじゃないかと思える変な激励をされてしまった。

それに当のヴィンセントさんは笑っている。


「安心しろ。医療部隊ウチで預かる以上、しっかりと可愛い看護師さんに育て上げてやる」

調理部隊ウチの料理人にするって散々宣言してんだろうが!」

「隊長がいつまでも遊んでる暇があるのか? さっさと厨房に戻れ」

「本当に食えねぇオッサンだよ、テメェはっ」


二人が仲良しなのはもう分かりました。




ぎゅーぐるぐる…




分かりましたから、そろそろご飯を食べさせて下さい。お腹の虫と一緒にお願いします。


それにしても、お腹の虫はヴィンセントさんと一緒だと比較的大人しい気がする。


「ったく。戻ればいいんだろ、戻れば」


溜息を吐いて悪態をつきつつも、しっかり椅子に座らせてくれるディルナンさんはやっぱりオカンだよなーと思ったり。


「ぁあ?」

「ぴっ!?」

「……今、何か良からぬ事を考えなかったか?」


しみじみしてたら、急にディルナンさんに鋭い視線を頂いてしまった。

取り敢えず必死に首を横に振っておいたけど…ディルナンさん、鋭い。







「いただきまーしゅ」

「いただきます」


ディルナンさんは厨房に戻り、漸くありついた朝食。


本日のメニューは、三種のソーセージが添えられたチーズ入りのジャーマンポテトを筆頭に、洋風トロトロ卵スープ。副菜にはトゥートやパプリカ、オル葱なんかの野菜をアンチョビとニンニク、唐辛子で手早く炒めた物。パスタ無しの野菜のペペロンチーノ風と言えば分かり易いかな? これなんかパンのお供に最高です。意地汚いかもしれないけど、お皿に残った油がまたパンによく合うー!


今日も朝から幸せご飯。うまうま。

こんな朝食が何も言わずに出て来るなんて、本当にこの食堂は天国みたいだ。




しっかりエネルギーチャージして、今日も一日頑張らなきゃね!

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