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別視点24 昼の一時(ディルナン視点)

ユーリが昼寝に入った所で、やれやれと一息吐いてテーブルの上の用紙を手に取った。

昨日、サムが言っていたノートの詳細が書かれた商品案内。

目を通した所で要請書の用紙を取り出して必要事項とサインを記入し、商品案内を一緒に留めた。

それと共に置かれていたオルディマが記入した普通備品の発注書にも目を通してサインを入れる。こちらはユーリ用のノートだろう。




レツのぬいぐるみに抱き着く様にして眠るユーリは午前中の買い出しだけで疲れ果てたらしく、いつも以上に良く眠っている。







カラフにしてやられたユーリの私服。


朝一から食堂で無意味にいじられるわ、ユーリもそれに悪乗りするわ。

”パパ”はまだしも、”おかーしゃん”だと? 

飯抜きをチラつかせたら即行で訂正していたが、あの時のユーリは半分は本気だった。


イラつきをヴィンセントの消毒で紛らわせようかと思えば、無意識に上手く回避しやがって。

それ所か、ヴィンセントを味方に付ける始末。何でオレが逆にヴィンセントの矛先を向けられている?

…本当にこの先どうしてくれようか。


どうにか外出に漕ぎ着けると思いきや、獣舎で新たにオッジのジジイの騎獣をタラシ込むわ。

騎獣に子守されて喜ぶってのはどうなんだ?


カフルに子守されたり騎獣部隊の副隊長であるツェンに可愛がられた挙げ句、レツの機嫌を損ねて必死にご機嫌取りする姿に、思わず騎獣部隊隊長のヤハルとツェンと生温い目を向けたのは仕様が無い事だろう。

お陰で少し溜飲が下がった。


まぁ、ユーリがレツの機嫌を取るその間にユーリを騎獣部隊の管理するドラゴンにいつ会わせるかを簡単に話し合う時間が出来たのは思わぬ好機だった。大体は決められたから、来月のシフトに予定を組み込めば良い。


それにしても、ユーリの中で騎獣のイメージは一体どうなってるんだ? アレ等はやはり魔獣であり、危険生物である事に変わりは無い。

近い内にキッチリ話をする必要があるかもしれん。それか、事のついでに騎獣部隊の二人にその危険性をしっかり教え込んで貰った方がいいか?




そんなこんなを経ての午前中の外出は中々に強烈だった。


辿り着いた集落を連れて歩いた印象では、普通の子供以上に体力が無い。

それでも泣き言を言ったりぐずったりと大声で騒ぐ事は無く、ただの街並みだと言うのに本当に珍しそうに、楽しそうにキョロキョロと見ていた。

オレのいう事をきちんと聞き、フラフラする事も無かった。実に行儀の良い子供と言えるだろう。

そんなユーリを道行く大人達が微笑ましそうに見ていた。


雑貨屋と子供服店では、当分は困らない程度にはアレコレ揃った。

本当はもう少し買っても良かったが、この先間違い無くあちこちからユーリの物が来る筈だ。それも考えて、動き易さを重視してユーリに良く似合った物を必要な分だけを選んできた。

必要に応じてまた増やしていけばいい。


更には金の使い方を実践させた菓子屋では、あれこれ悩む事の無い即断即決の行動力と、エリエスが言う通りの理解力と計算能力を周囲に見せつけた。

普通ならあれもこれもと強請って騒ぐか、決めるのに異常に時間が掛かる子供が多い。

店主のオヤジが度肝を抜かれるのも無理は無い。あんな子供が他にそうそう居て堪るか。





そんな中で気になったのは、ユーリが余りにも視線に鈍感だと言う点。


オレ以上に視線を集めていたというのに全く感じていないかの様に振る舞っていた。それでいて強い感情の籠った視線は酷く敏感に察知し、卒なく対応していた。

オレも何だかんだで他人に見られる事に慣れているが、それは全て受け流しているだけだ。一々反応などしていられない。


形こそ違うがユーリの様な対応を、オレは何度か見た事がある。

違うな。そもそもそういう対応をするのは、必要に迫られているごくごく限られた一部の存在だけだろう。


…要請書の提出と一緒にこれもエリエスに報告するのかと思うと、恐ろしく億劫だ。気付きたく無かった。




「隊長、おかえりなさい」

「あぁ」

「…すっかり”休日のお父さん”と化してたそうじゃないですか。ペアルックな上にユーリちゃんに絵本の読み聞かせをしてたってすっかり噂になってますよ」


溜息を一つ零していると、第一陣が終わって流れが少し落ち着いた隙に休憩の準備に来たらしいオルディマに声を掛けられた。

思い掛けない言葉に思わず眉間に皺が寄る。

絵本の読み聞かせが噂になってるだと?


「ついさっきの事じゃねぇか」

「清掃部隊の隊員と外警部隊の隊員が何人か目撃してたみたいで。凄くほのぼのしてたらしいですよ」

「ありゃ魔術の基礎の絵本で勉強してただけだ」

「あれ? ユーリちゃん、自分で読めるんじゃなかったですか?」

「読める。読めるだけじゃなく自分で更に理論を展開出来る。それでも読み聞かせに憧れる辺り、やっぱり子供って事だ。最初は一人で読ませようとした」


からかいを含んだオルディマの言葉に切り返すと、オルディマの笑顔が少し変わる。


実際、亜空間を実践させた時の魔力コントロールがいい例だ。


普通、本で理論を得たからと言って簡単にコントロール出来るモンではない。大人が付き添う状態で使う事でまずは上手く暴発させ、感覚を少しずつ掴むのが主流だろう。

だと言うのにユーリは暴発させる事は無かった。魔力の動きを見るに、コントロールは甘いが理論を自分で展開させる事で暴発を防いだのだろう。初めてという事を考えれば十二分だ。


それだけの事が出来ると言うのに、ユーリは控えめに読み聞かせを願った。


「本当は途中で止めようかと思っていたが、絵本を綺麗だと言ってどんどん目を輝かせて楽しそうにされちゃ放りだせんだろう。それで結局最後まで読んでやった」

「…それは、」

「何で文字を読める子供が絵本を見て新鮮な物を見る様な反応するんだろうな。…こんな事と分かってりゃ集落でそれなりに絵本でも買ってきたものを」


もう一つ、ユーリについて気になった事を零すとオルディマが口を噤む。


まさかの盲点だった。

文字が読めるのだから、絵本など必要が無いと思ったのだ。

だからこそ雑貨屋の隣の児童書店に目を向けなかった。


「……なら、子供のいる隊員に読まなくなった絵本や児童書があったら譲って貰えるように声を掛けてみましょうか」

「エリエスに相談して色々な本を見せてみるのも良いかもしれんな」


どんな本を読んだ事があるのか。どれだけの知識を有しているのか。ユーリは未知数が多すぎる。

取り敢えず、今度は思い込まずに未知数である物は一つずつ潰して行こう。

ロイスに対する切り札は幾つあっても良い筈だ。むしろ数が必要になると思っておいた方が良い。


「それと、さっきのスープだが」

「あぁ、それなら既に副隊長とじーさんが作業しながら献立の組み合わせを相談していましたよ。作業がそんなに増える訳でも無い割にボリュームが増すし、思わぬお助けメニューになるかもしれないって」

「今から全員が食う気満々だろ」

「それは勿論。アルフなんか早く食べたくてソワソワしてますよ」

「メニュー云々は全員が食ってからだ。詳しくは来週の献立会議で詰めれば良い」


気を取り直して話を変えると、オルディマが頷く。


ユーリのヤツ、昼飯のスープに思い掛けないアレンジをして見せた。

シンプルなオル葱のスープに直接パンを入れてチーズを乗せてから炙るときたもんだ。

あれは主食を変えれば、間違いなく好評なメニューになるだろう。


そういった知識も何かしらの書籍から引っ張って来ているのだろうか。

是非ともこの辺りも確認したい所だ。

もしもそうだとすれば、新しいメニューが増える。調理部隊にとってもいい刺激になる事は間違いない。


「取り敢えずこの後は午前の復習と午後の実践訓練か」

「…ユーリちゃん、体力無さそうですよね。と言うか、チャンバラとか以前に運動自体をした事ある様に全く見えないんですけど」


眠るユーリを見つつ呟くと、オルディマもテーブルの準備を着々と進めつつポソリと呟いた。

コイツの呟き、基本外れないんだよな…。


まぁいい。今からアレコレ考えるだけ時間の無駄だ。

ユーリが寝ている間に、この机にある事務作業を出来る限り終わらせておくとしよう。

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