33 休日の朝
今日は北の魔王城に来て初めてのお休みです。
おはようございます!
目覚めたら、ジーンズに紺色のシャツな私服姿のディルナンさんが朝食を持って部屋に戻って来た所だった。どうやら、食事の匂いに本能を揺さぶられて目覚めたみたい。
しかも無意識に発した目覚めの第一声が「ごはん」だったらしく、ディルナンさんが大笑いしている。
変な夢(?)を見た割にはスッキリとした目覚めだ。ご飯効果か?
「おはよう、ユーリ」
「おはようございましゅ…」
「さっさと身支度して来い。すぐ食べられる様にしておいてやる」
「あい」
取り敢えず大人しくディルナンさんの言いつけを守って行動します。直ぐにご飯食べたい。
トイレと洗顔を済ませた所で、ディルナンさんに渡されたカラフさんに用意してもらった私服に着替えて部屋に戻る。
本日の服装は、ディルナンさんとなんちゃってペアルック。
ジーンズ地のショートパンツに、紺色のシャツにはにゃんこの刺繍入り。それにプラスでサスペンダーを付け、白のハイソックスと軽くて動きやすい布の靴を履いてます。
似た様な服のはずなのに、私にディルナンさんの様な格好良さは無い。全くの別物。ここまで違うといっそ見事だよ。うん。
「おや、ユーリ。おはよう」
「ヴィンちぇントたいちょ。おはよーございます!」
部屋に戻ろうとしたら、食堂にやって来たらしいヴィンセントさんに声を掛けられた。朝からこの美声が聞けるなんて最高です。
おいでおいでと手招きされて近付くと、軽々と抱き上げられた。
「今日は休みか」
「はーい!」
「元気そうで何よりだな。朝食は食べたのかな?」
「今からディルナンたいちょと食べるのー」
「ディルナンも休みか」
食堂から漂う良い匂いに、お腹の虫が同意する様にぐぅっと鳴いた。
「お腹の主も健在だな」
「えへへ」
ヴィンセントさんの笑み混じりのコメントは笑って誤魔化しておきます。
「また抗議される前にご飯にしてくると良い」
「あい。ヴィンセントたいちょ、お仕事がんばってね」
「ユーリに応援されたらいつもより頑張らないといけないな」
「でも、無理しちゃやーよ?」
お医者さんって恐ろしくハードな仕事だと思うの。「医者の不養生」とは良く言ったもので、凄いと思うお医者さん程本当に休めているのかと思うし。
どう考えてもヴィンセントさんはルーズな藪医者タイプでは有り得ない。医療部隊隊長として先陣切ってバリバリ働く有能なお医者さんだろう。ちゃんと休んでる?
「そうだな。では程々に頑張るとしよう」
穏やかに微笑んでヴィンセントさんが私を降ろしてくれた。
手を振ってヴィンセントさんと別れて今度こそ部屋に戻ると、私の格好を見たディルナンさんの目が丸くなる。
「たいちょ、見て見てー。たいちょとおそろいー」
「…カラフめ、侮れん」
くるんと回りつつディルナンさんに洋服をお披露目すると、苦虫を潰した様な表情でディルナンさんが呟いた。
何となくだけど、ディルナンさんは休みだとこういう色合いのラフな服が多いんじゃ無かろうか。そしてカラフさんはきっとそれを知ってたのね。
今日の朝ご飯はハッシュドビーフとパン、それとオレンジみたいな果物が一個乗っていた。ディルナンさんには果物じゃなくてスパイシーな匂いのするボリューミーなサラダが乗っている。
安定の美味しさのご飯をうまうま食べている間にディルナンさんはさっさと食べ終え、今はオレンジもどきの皮をスルスルと剥いて果肉を切り出してくれている。
その心遣いはとてもおかんだけど…滴る果汁をさり気なく舐める仕草がエロいです、隊長。色男全開です。朝からごちそうさまです。
「これなーに?」
「オラジュは初めてか」
そんなディルナンさんをちら見しつつもしっかりと食事を堪能すると、丁度ご飯を食べ終わる頃にジャストのタイミングで差し出された果物。念の為に聞いてみると、名前もオレンジに似てた。
お茶で口をスッキリさせてからいざ実食。
「あまーい」
見た目ただのオレンジだけど、味がもの凄く甘くて濃い。これはたまらんー。
「果物は好きか」
「あまくておいしーの」
「そうか」
パクパク食べていると、あっという間にオレンジ--オラジュはお皿から姿を消す。果汁が残っていたので、しっかり飲み干して完食。
「ごちしょーさまでした!」
手を合わせて食後の挨拶をすると、ディルナンさんに口元を拭われる。
「食器片付けたらまず、一番近くの集落に行って買い物。それから魔術の基礎訓練。昼飯食ったら一休みして接近戦の訓練が今日の大体の予定だぞ」
「あい」
ディルナンさんの今日の予定説明に返事をすると、早速ディルナンさんが食器を片付け始める。
ディルナンさんの動きって基本無駄が無いんだよなー。決めたら即行動タイプ。…グダグダ迷ったりするディルナンさんの方が想像出来ないかもしれない。
取り敢えずディルナンさんにくっ付いてお休み開始しましょ。