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27 開き直りですが、何か? (畑にて)

目の前のおっちゃんが誰なのか答えを貰えず、真っ黒な笑顔のエリエスさんに内心冷や汗だらだら状態です。マルスさんは沈黙中。

畑にいるって事は、農作部隊の人だろう。どうやら、茶色の作業着は農作部隊と見た。

取り敢えずおっちゃんを見てたら、おっちゃんの目が私に向けられた。


「お前さんが例の仮入隊のチビッ子か。美味いトゥート生ってるから食ってけ」


言いつつおっちゃんが私の目の前に差し出してきたのは、真っ赤に熟した大きなトマトちゃん。

大好物の存在に、思わず目が釘付けになる。


「ユーリ、知らない人から物を貰ってはいけませんよ」

「あぅ」


そんなトマトことトゥートが、エリエスさんによってそれは高い所へ取り上げられた。

こんな目の前で取り上げられるなんて、そんな殺生な!


「エリエス、お前さん大人気無いな。半ベソかいてるぞ。食わせてやらんか」


思わず目線でエリエスさんの手にあるトゥートを追いかけていると、おっちゃんがエリエスさんから取り戻して私の手に直接乗せてくれた。

何て良いおっちゃん! 私、このトゥートをもう放さないっ!!


「よしよし、可哀想になぁ。

 おっちゃんは農作部隊の隊長のジーンだ。これで知らない人じゃ無いもんな」

「ジーンたいちょ? ボク、ユーリでしゅ」

「ほれ、食え。農作部隊ウチのトゥートは美味いぞー」


笑顔で食べる様に促してくるおっちゃん―――ジーンさんの言葉に甘えて、うぐえぐと半ベソを掻きながら制服の裾でトゥートをゴシゴシして噛り付く。

ジーンさん、農作部隊の隊長さんだったんだね。道理でエリエスさんと親しい訳だ。


エリエスさんが溜息交じりに「本当はきちんと洗って切ってから、座って食べさせたいんですがね」と呟いているのは聞こえない振りで。


だって、トゥートがすっごく甘いんだもん。

こんなに大きくて立派なのに、果物顔負けの糖度。フルーツトマト並みだ。


「おー。涙でうるうるしてんのにキラキラするとか器用だな」

「おいちーの」

「そーだろそーだろ。おっちゃん達が丹精込めて育ててるからな」


がははと豪快に笑いつつ、ガシガシ頭を手荒に撫でてくれるジーンさんは本当に気の良いおっちゃんだよ。

…農作部隊、トウガラシ爆弾作ってるキワモノ部隊だと思っててゴメンなさい。


「ほれ、お前さん達も食ってけ」


もっきゅもっきゅ食べている横で、ジーンさんがエリエスさんとマルスさんの分も収穫して二人に投げ渡す。

投げられたそれを衝撃で潰す事無く受け取り、エリエスさんが再度溜息を吐いて、マルスさんは淡々と齧り付いた。

一口食べて、二人の表情が僅かに驚きを覗かせる。


「……ジーン、これは」

「構わんよ。今年は異様に出来が良くて、生産に消費が追いついて無くてな。ダメにする位なら食って貰おうって事で、ロイスとディルナンにはもう話を通して食堂にもいくらか回す手はずになってる」

「そんなに出来が良いんですか」

「おうよ。特に、ここ二、三日ばかりは畑から嬉しい悲鳴が上がる程だ。それ故の特別支給だな」


何やらエリエスさんとジーンさんが畑の収穫について話している。

豊作とは素晴らしい。しかも、このトゥートが食堂でも食べられるかもしれないとな。これはそのままが一番のご馳走だと思う。


手を掛けるんでもトゥートと味の濃いモッツァレラチーズをスライスして、新鮮で香りの良いバジルの葉も加えて交互に重ねた物にほんのちょっとの岩塩とのオリーブオイル(エクストラバージン)のみで十二分だ。カプレーゼ、大好きなんだよね。

但し、他の材料が一つでもトゥートに見合う力を持っていなければ、全体のバランスが崩れて味は一気に落ちる。それだけ力強いトゥートだ。

ビバ! 自然の恵み。


「それに、こんな美味そうに食って貰えりゃトゥートにしても本望だろう。

 …つーかよ、お前等はチビッ子見習ってもう少し味わって食いやがれ!」

「美味しかったですよ」

「美味かった」


ジーンさんの怒声で気付いたけど、エリエスさんとマルスさんはいつの間にか食べ終わっていた。早っ!

これには慌ててあぐあぐ食べようとしたら、エリエスさんとジーンさんの視線が向けられる。


「そんなに慌てなくて良いんですよ、ユーリ」

「そうだぞ。こんな大人になっちゃいかん。しっかり噛んで、よーく味わって食え」

「おや、どの口がそれを言いますか。それを言うのなら調理部隊の食事をよく味わってから言いなさい」

「お前さんは少しは年長者を敬うって事をいい加減覚えたらどうだ?」

「歳だけ食ってる方のどこを敬えと? 本当に敬われる方は態々自分でそんな事を言う必要性は無いんですよ、ジーン」


何故だか私の頭上で不機嫌そうなジーンさんとどこまでも笑顔なエリエスさんの舌戦が勃発してるのですが。

一体どうしてこうなった? 私が悪いの??


「あの二人は放っておいていい。気にせず自分のペースで食え」


たらり…と冷や汗を流していると、マルスさんが自分の近くに引き寄せる様にして二人から離してくれた。

未だに舌戦を繰り広げる二人に付き合ってたら食べ終わる気が全くしない。ここは、マルスさんの言う通り気にしない事にしよう。


かぷり、と手の中にある肉厚で瑞々しい果肉を一口。

やっぱりこのトゥート、うまー!







マルスさんの側でトゥートを食べ終わると、エリエスさんとジーンさんの舌戦が丁度終わりを迎えた。…というか、私を見て二人揃って噴出したよ。


「チビッ子、お前さんどうやったらこんな所汚すんだ」


ジーンさんが言いつつ近付きしゃがむと、首に掛けていたタオルで左頬を拭いてくれた。ついでに口周りと手も拭いてくれる。


「ありがとうございましゅ」


うわー、本当に何でそんな所に付いてたんだろ。気付かない程夢中になるなんて恥ずかし過ぎる。


「……お前さん、可愛いなぁ」

「う?」

「おっちゃん、エリエスが母親化した理由が何となく分かった」

「…エリエしゅ・・たいちょはおかーさんじゃないの。カッコイイおにいちゃまなの」


何だかしみじみするジーンさん。変な所汚した私のどこに可愛い要素があるのか意味不明だが、続いた言葉は異議あり!

後が怖いので、ジーンさんのお言葉に即座に訂正を入れさせて貰いますよ。


「ほー? お前さんから見たら、エリエスはしっかり兄ちゃんなのか」

「エリエスたいちょはおっとこまえなおにいちゃまでしゅ。ディルナンたいちょのがおかーしゃんなの」


私の意見に何故か興味津々なジーンさんに、力強く頷いて見せる。


事実、これまでのエリエスさんの言動を振り返ってみます。そこから嫋やかな美貌と優し気な笑顔と丁寧な言葉遣いを外してみると?

出会いの時はディルナンさんが掴み上げていた門番の騎士の兄さんを言葉よりも早くディルナンさんを殴る事で解放させ、他にも自ら色々してたっぽいのを笑顔で有耶無耶にしてるし(そう言えば、あの兄さんその後どうなったのかしら?)。

今日も既に(本人達の自業自得とは言え)隊員達を笑顔で脅し、トドメに仕事を押し付けて散歩に出て来てるよね。

ごく僅かながら、これらの情報から導かれる答え。中々に手の早い、結構お茶目な鬼畜属性のお兄様。


逆に外見男前なディルナンさんの方が言動がエリエスさんに比べて過保護でオカンっぽいし、いっそ大人しいよ?


「きれーな外見だけにだまされちゃめっなのよ」


キリッとしつつ宣言すると、目の前のジーンさんがぽかんと口を開いていた。その少し奥にいる言われた張本人であるエリエスさんも目を瞬かせている。


「…ぶっ」


エリエスさんとジーンさんの反応を見ていたら、三拍程遅れて後ろから噴出された。

思わぬ不意打ちに振り返ると、マルスさんが口元を左手で押さえてそっぽを向きつつ笑いを堪えていた。

いや、堪え切れずに盛大に肩が震えてるんだけど。


「マルしゅ・・ふくたいちょ、ガマンできてないよ?」


思わずツッコミを入れると、何故かマルスさんがお腹を抱えて大爆笑を始めた。挙げ句の果てに、笑い過ぎで咳き込んでいる。

…ツボに嵌って抜け出せなくなったみたいです。


「ふくたいちょは笑いじょーごだったのねぇ」


思わずしみじみと感想を漏らしたら、今度はジーンさんが噴出して大爆笑を始めた。

更にはエリエスさんまで声を上げて笑っていた。いつもの作り笑顔ではなく、自然な笑顔。


何で笑われてるのかイマイチよく分からないけど、三人共楽しそうだから、まぁ、いっか。




「はー…、久しぶりに笑った笑った」


散々笑いまくって落ち着いたらしい三人の中で、ジーンさんが真っ先に口を開く。


「チビッ子、いや、ユーリ。お前さん気に入った!」

「ボクもジーンたいちょ、すきよー」


楽しそうに笑うジーンさんに、にぱっと笑って返す。

好意を持って貰えるのは素直に嬉しい。それに何と言ってもトゥートが美味しかったし!

美味しい物くれる人に悪い人はあんまりいないのだよ!!


「こりゃ中々に面白いのが入ったモンだ。エリエス、お前の所で何をするだろうな」

「もうしてますよ、ジーン。

 いつもの入隊試験のテスト、既定の四分の一程時間を残して満点を叩き出しました。この子の計算能力はそこらの隊員を軽く凌駕しています」

「あっはっは! ……こりゃ荒れるな。久々に楽しめそうな展開じゃねぇか」


髪を手荒くジーンさんに撫でられつつ、頭上で交わされるジーンさんとエリエスさんの会話を聞いていた。

…ジーンさん、気の良いおっちゃんの振りして実は意外と好戦的なご様子。現在、目に肉食獣の様な光が灯っております。顎髭を撫でて何を考えてらっさるの?


「ここに来る前に二階でロイスに会いましたが、まだロイスのお眼鏡には全く適ってませんがね」

「ありゃ、何時もの事だろ。…ユーリ、ロイスを見てどう思った」


いきなり私に話を振っちゃうの? しかも、少し会っただけのあの執事様なロイスさんについて。


「ロイスたいちょ?」

「あぁ」

「んとね、こわーい、まおーしゃま絶対ちゅぎ者!」


”ちゅぎ”ってなんだよ。”主義”って言いたかったんだよぅ。


パッと見は物凄く優しそうで穏やかそうな人だったけど、私の直感はそれを否定した。もし本当にロイスさんがエリエスさんとヴィンセントさんと同じ雰囲気を一人で持つのなら、真の最凶隊長はロイスさんじゃないのかしらん?

あの人を敵に回したら、無事では済まない無い気がする。


それに、見るからに超有能執事様だし、そんな執事様ならあるじ至上主義は鉄板でしょう?

むしろ是非ともそうであって欲しい! 私の萌えの為に!!

しかも、スマートな有能執事様以外にも超絶美形らしき魔王様の側には恐らく最強の近衛部隊隊長(程良くマッチョ、更に言うならタイプの違う美形希望)が控えている筈。

その人も加えて主人の為なら例え火の中水の中な固い主従関係なアレコレを想像してみたら興奮の余り鼻の穴が膨らみそうですよ。むふふ。


「ユーリ」

「こんなちっこいのにな」


そんなろくでもない事を妄想してたら、二人の視線がまるで私の思考を読み取ったかの様に残念な物を見る視線だった。

いや、実は同じ視線が背後のマルスさんからも送られてるのに気付いてはいる。




いいじゃないかっ。行ってみたかったんだ執事喫茶っっ。

それが本物の素敵執事を見れたんだもん! これで美味しいお茶を入れて貰えたら完璧です。


これが私なんだと諦めてもらうべく、虚勢張ってドヤ顔してみた。

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