26 お城探検 一階
階段を降り切った所で、エリエスさんとマルスさんの足が止まった。
「一階は調理部隊と医療部隊の他に設備部隊と鍛冶部隊、それと細々した部屋が幾つかあります」
「せつび部隊とかじ部隊?」
「地下にそれぞれ専用の材料置き場と特殊工房がある。その階段の側に部隊の部屋があるからだ」
「一階にある部屋は、どちらかと言うと注文受付と物品保管、それと作業外の隊員達の仕事場ですね。
衛生面で色々な意見はありましたが、北の魔王城的理由と魔導部隊の特殊魔術で医療部隊と調理部隊は独自の空間を持つ事で現在の形になっています」
エリエスさんとマルスさんの説明を聞きつつ、ふと違和感に気付く。
これまで三階、二階、一階と順番に下りて来た訳だけれど…三部隊、二部隊、四部隊の合計は九部隊。
北の魔王城は十四部隊じゃなかったの? 外勤部隊が近衛部隊しか出て来てないけど。
残り五部隊は何処?
「気付きましたね」
「五つたりないの」
「えぇ。本館では無く、外に東西の別館があります。そちらが外勤部隊の本拠地です」
「外勤の名前の由来は、それも理由だ」
「…おっきー」
「そうですよ。仮にも魔王城の一角を担っていますから」
結構歩いた気がしてたのに、まだまだありますか。
部隊を一つずつ見られる様になるのはいつの事だろう。広すぎて早くも挫折しそうです。
階段から離れて入口を出ると、確かに左右に立派な二階建ての建物があった。
…北の魔王城に来た日はディルナンさんに抱えられてたし、空腹過ぎて周りをちゃんと見て無かったんだよね。
因みに、東西の別館には外勤三部隊の他に騎獣部隊と農作部隊も入ってるらしい。
この内勤二部隊は、お城の後ろにある畑と獣舎の位置関係の上で東に騎獣部隊、西に農作部隊なんだそうな。後は人数の兼ね合いで東に外警部隊、西に機動部隊と魔導部隊だそうで。
はい、一度で覚えられる気が全くしません。メモ下さい。
なんてエリエスさんにお願いしたら、メモはダメだそうな。「少しずつでいいから覚えましょうね」なんて有無を言わせぬ素敵笑顔で言われてしまいました。逆らえません。
「…そろそろいい時間ですし、最後に畑と獣舎をぐるりと回って昼食にしましょう」
「あーい!」
懐中時計を取り出して時間を確認したエリエスさんのこの言葉に、私のテンションはあっさり回復。
お散歩が終われば、愛しのご飯が待っている。そう思えば、諸手を上げてお返事してた。
あぁ、何て単純な思考回路だろう。大人の落ち着きを何処に落としてきたんだか。
西の別館から回り込む様に歩き始めると、そこには赤・白・ピンク・黄と色とりどりの大小様々なバラが咲き誇っていた。微風がバラの香りを運んでくる。
見事なバラ園は散策出来る様に小道が整えられ、その先にはちょっとしたお茶会が出来そうなおしゃれな東屋があった。
「きれーなの。いいにおいー」
花弁の質感を触って確かめてみたり、匂いを嗅ぎ比べてみたりと普段は出来ない事をさせて貰いました。
さり気無くバラの中に他の花も植えられているが名前はサッパリ分からない。けど色の対比も見事な花々は目にとても鮮やかで目の保養だ。
天気も良いし、風もとても気持ち良い気候の中、見目麗しいお兄様達とお散歩って最高の贅沢だよね。
なんて思ってたんだけどさ、ある程度進んだら、キレイな花畑は急にその姿を変えた。
THE☆畑へと。
「…おやさい出来てる」
「この辺りからは客室から見えませんし、外に出られてもここまでお客様を案内する事はまずありません。やはり様々な備えは必要ですしね」
美味しそうな野菜だけど、育てられている理由が微妙に物騒。そして、それ以上にエリエスさんの笑顔が物騒。
「おーい、エリエス!」
そんな事を考えていたら、畑からエリエスさんを呼ぶ声がした。
三人揃って振り返った先には畑からこちらへと歩いて来る、茶色の作業着に麦わら帽子と首掛けタオルが良く似合っている農作業のおっちゃんと言うに相応しい出立の男性がいた。
麦わら帽子から覗く短い茶髪と無精髭が似合います。
ニカッと笑うと目尻に浮かぶ皺がチャーミングですね。鮮やかな緑の瞳も印象的だ。
「お前さん等、休みの日の親子か。父親と母親とチビッ子にお揃いの服とかマジでウケるな」
きゃー、おっちゃん何を言っちゃってるの!?
エリエスさんの笑顔が真っ黒になっちゃって怖いじゃないの!
所で、エリエスさんとやたら親しそうなこのおっちゃんは誰ー?