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23 久々の試験

紙使いのお兄さんに導かれ、エリエスさんにへばり付く様にして入った書類部隊の執務室。


紙とインクの匂いがする室内には沢山の机が何列かに並べられ、それぞれの間を申し訳程度の仕切りでスペース分けしていた。そして、それ以外の場所は通路と必要なスペースを残して所狭しと沢山の本や書類の収められた棚が並ぶ。

机の上には書類の山、何かの資料と思われる本、羽ペンにインクなんかが乗せられていて、機械こそ無いがまさにオフィスと言った感じ。

人によって、机の上の汚さに違いがあるのも同じくだ。汚い人は、机の上に書類と様々なゴミが混在している。あれで仕事になるのがある意味凄い。

そんな中を進み、連れて行かれたのは奥にあったもう一つの大きな扉の先。




さっきまで進んできた執務室と違い、色々な意味で立派な執務机が二つ、左右のスペースに分けて置かれていた。明らかに隊長と副隊長の為の机だろうなー。

四方の壁にはやはり書類や資料の収められた棚がびっちり置かれている。それと、応接用のテーブルとソファーが簡易の仕切りと共に置かれていた。


そして二つの机の間にはちょこんと小さな、幼稚園や小学校の低学年の子供用の机と椅子があった。少しスタイリッシュで、モコモコなクッションが椅子に置かれている。それでも机の左右の荷物を掛けるフックがまた懐かしさを醸している。

…明らかに私専用のサイズだ。微妙に部屋から浮いてるけどキニシナーイ。


興味深く室内をキョロキョロ見回していたら、紙使いのお兄さんが手に持っていた紙の束を机に置いてペーパーウエイトを置いた。

…あれ、まさかの書類なの? 特別な紙とかじゃなくて??


思わず興味を引かれてエリエスさんから離れるとお兄さんに近付き、じーっと書類を見詰めていたら一番上の書類をくれた。

受け取ってまじまじと観察してみたり何か仕込まれていないかと触ったりしてみたけど、間違いなく少し厚みがあるだけの紙だ。

これでどうしてさっきみたいな芸当が出来るの?


「ふふ…」


小首を傾げていたら、エリエスさんが笑みを零した。

思わずエリエスさんを見ると、楽しそうに微笑んでいる。


「間違いなくただの紙ですよ、ユーリ。マルスは紙を武器とした特殊戦闘を得意としています」


…前にエリエスさんが言っていた紙で戦う人か!

ただの紙でさっきの集団も撃退したってどんだけ凄いんだ、この兄さん。


って、私ってば紙にばっか気を取られてて挨拶してないよっ。


「おはようございましゅ。今日からおせわになりましゅユーリです」

「…おはよう。書類部隊副隊長のマルスだ。ようこそ」


慌てて挨拶をすると、表情こそ変わらないがどこか笑みを含んだ様な声で返ってきた。あり?


「ふふ、どうです、マルス。ユーリは可愛いでしょう?」

「隊長のお眼鏡に適う理由が分かりますね」


エリエスさんはその理由が分かってるみたい。私だけ仲間外れかぁ。

というか、明らかに私が理由みたいだ。何かしたっけ?


「マルしゅ・・ふくたいちょ?」

「今のまま大きくなれ」

「?」


声を掛けてもやっぱり意味不明だ。

でもマルスさんに頭撫でてもらっちゃった。くふ。







あの後、書類を返却して自分の机に座らせて貰った。例え即席で作製された物だとしても、自分の机があるのは嬉しい。椅子のモコモコなクッションがお尻を心地良くお出迎えしてくれた。さり気無く羊柄。よく見ると円らな瞳が付いてます。


「ユーリ、仕事をする前に簡単な試験をして頂きましょう」

「う?」

「どれだけ計算が出来るのかを確認させて下さい。それに合わせて仕事を決めます」


エリエスさんの言葉に、肩掛けポーチを外して中身を机の上に出す。ポーチは机の横のフックへ。

昨日確認した通り、少し変わった形のペン二本と小さな駒込ピペットの付いた赤と黒のインクと定規に算盤。全部私専用サイズです。

羽ペンじゃないよ。いや、使った事無いから、羽ペンじゃなくてラッキーなんだけど。


ペンの構造を見てみると、キャップを外したペン先は万年筆っぽい。後ろに何だか小さなインク壺みたいな部分がある。

インク壺に似た部分の蓋を開けてみると、そこにはインクが半分ほど入っていた。


「ジョットは随分張り切ったんですね。それは羽ペンみたいにインクを一々付けなくても書ける、鍛冶部隊で最近出来たばかりの筆記具なんです。まだ一部の隊員しか導入されていないんですが、ユーリが使い易い様に優先的に作らせたんでしょう」

「ジョットたいちょにお礼いうー」

「そうですね」


おう。やはり万年筆ですか。しかも出来たばかりとな。

インク壺の蓋をしっかり締めていると、マルスさんが一枚の紙を持って来た。

文具類を端に寄せると、目の前にその紙が伏せて置かれる。


「…問題は全部で五十問。制限時間は無いが、様子を見て切り上げる。計算道具の使用は自由だ。用紙への記入も認める」


マルスさんの説明は実に簡潔だった。物凄く久しぶりに学生の試験みたいな事をするよ。ちょっぴり緊張。

マルスさんが何処からか懐中時計を取り出して時間を確認すると、さり気無く裏の左下に時間とサインをしたから余計に緊張してきたかも知れない。


「隊長とオレは仕事に入る。切り上げるよりも早く出来たら声を掛けろ」

「あい」

「始めていい」


マルスさんの開始の合図に、目の前に置かれた紙を裏返して視線を向けた。

左右でエリエスさんとマルスさんが着席する音を聞きつつ確認したのは、文字。読んで書けなきゃ一発アウトだ。


私の記憶では見た事も書いた事も無い数字に記号だが、それがどういう数字で記号なのかを知っている・・・・・。どういう原理だろう? この体が知ってたって事??

でも、今は試験中だから詳しく考えてる時間は無いね。


ペンを手に取り、一問目から解いて答えを記入していく。文字も書けた。まぁ、少し字が頼りないのはご愛嬌だ。我ながら、読めるけど実に子供らしい字だと評価する。


上の十問は簡単な足し算引き算。次の十問で桁が増えて行く。更に次の十問は掛け算・割り算と十問ごとに難易度が上がっていくらしい。

まぁ、難易度が上がると言っても所詮は小学校レベルの算数だ。良かった。


取り敢えず一つずつきちんと解いて、最後に確認しよっと。




最後の確かめ算を終え、五十問全部の解答を終えた所でペンを置く。

桁数の多い掛け算と割り算だけは算盤に頼ってしまった。随分計算能力が落ちてる。子供の手も算盤に慣れてるとは言い難いし、これは少し訓練しないとダメかもしれない。


「おわりましたー」


それでも終わった事にホッとして声を上げると、エリエスさんとマルスさんが瞠目して書類から顔を上げた。

懐中時計で時間を確認したマルスさんが次いで動きかけるのを見て、それよりも早く席を立ってマルスさんの所に用紙を持って行く。

用紙を受け取ったマルスさんが赤ペンを手に取るのを見て、赤ペン先生を思い出してしまった。裏面に再び時間が記入される。

表に返して一問ずつ確認して採点していくマルスさんに、何故だか妙にドキドキしてしまう。


「………隊長、全問正解だ」

「………それはまた、凄いですね」

「しかも、検算までした跡がある」


マルスさんがエリエスさんに結果報告するのを聞き、心の中でガッツポーズをする。


「即戦力ですね。確認業務の八割方は回せるという事ですか」

「速度といい、申し分ないだろう。他の隊員に別の仕事が回せる」

「これは、思い掛けない金の卵を拾ったものです」


そんな中、エリエスさんが自身の目で確認する為にマルスさんの元へ足を運び、用紙を確認する。

…字が汚いのは大目に見てね?


「仕事内容が決定した事ですし、説明に入りましょうか」


無事エリエスさんにも合格を認めてもらえたらしく、麗しい笑顔のご褒美を頂きました。

美人の笑顔は三日見ても全く見飽きません!

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