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22 書類部隊初出勤!

おはようございまーす。

調理部隊での勤務を二日こなしたので、今日は書類部隊に初出勤の日。




昨日の夕飯の後にカラフさんとエリエスさんが来て、危なく無い様にと短めに作られた書類部隊の神官服モドキとレギンスな制服と靴、そして替えの新しい下着とハンカチとティッシュ代わりと思われるペーパー、私専用の小さな筆記具と算盤の入った肩掛けタイプのポーチが渡された。

ついでに朝にエリエスさんがお迎えに来て、一緒に朝食を食べる事が決まり。


そして迎えた今日。

ディルナンさんと一緒に起きて着替えて準備し、現在、ディルナンさんの部屋にある自分のベッドに座って待機中です。靴も履いて用意万端。二度寝の誘惑には負けないっ。








なんて意気込んだものの、あっさり誘惑に負けてウトウトしていたのでどれぐらい待ったかは定かでは無い。てへっ。

でも扉をノックする音にハッとし、迷わずに駆けて行って扉を開くと、そこには少し驚いた表情のディルナンさんとエリエスさんがいた。


「ユーリ。いきなり扉を開けるんじゃない」

「変な人物だったらどうするつもりですか。ちゃんと誰かを確認してから開けなさい」


…朝一番から二人に怒られてしまった。

思わずしょげていると、揃って溜息を吐きつつも頭を撫でてくれる。


「…ずっと待ってたんだもんな。怒って悪かった」

「次からは注意するんですよ」


苦笑してそんな風に言ってくれるディルナンさんとエリエスさん。心配させちゃったんだよな。


「あい。ごめんなさいー」


大人しく謝ると、エリエスさんが抱っこしてくれた。

今日も見目麗しくていい匂い。役得役得。


「おはようございます、ユーリ。書類部隊の服も良く似合ってますよ」

「おはよーごじゃいます、エリエしゅたいちょ」


エリエスさんと朝の挨拶をするが、エリエスさんの言葉には同意しかねる。

…だって、エリエスさんのローブと一応は同じ様なデザインの筈なのに、私にはエリエスさんの様な優雅さは欠片も無い。

肩掛けタイプのポーチも相俟って、例えるのならば幼稚園児のスモックだ。どうしてこうなった(泣)


「さぁ、朝食を食べに行きましょうか」

「ごはん!」

「アルフもお前が来るのを首を長くして待ってるからな」


でも、「朝食」という魅惑の響きに悲しみは霧散した。

さぁ、いざ行かん食堂!







エリエスさんに降ろして貰い、でも何故か手を繋いで食堂に向かう事に。

食堂に入ると、今日も食堂は混雑してる。

ディルナンさんは「仕事が終わったら迎えに行く」とだけ言い残して厨房に入って行った。


「ユーリ! おはよう」

「にーに! おはよーございましゅ」


エリエスさんと配膳口に歩いて行くと、途中で気付いたアルフ少年が爽やか笑顔で出迎えてくれた。

その声に釣られてか、調理部隊の人達が顔を覗かせて挨拶してくれる。…皆、良い人達だなぁ。


更に、厨房からオルディマさんが私の食事用トレーと木で出来た見た事の無い物を手に出て来た。それに合わせてアルフ少年がエリエスさんの食事を出してくる。今日も良い匂いー。


「おはようございます、エリエス隊長、ユーリちゃん」

「おはようございます」

「おはよーございます、オルしゃん」

「ユーリちゃんの食事はオレが運びます。連れて行ってあげて下さい」


オルディマさんの申し出に、エリエスさんが笑みを浮かべて歩き出す。

エリエスさんにくっついて空いていたテーブルに辿り着くと、オルディマさんが私の食事をテーブルに置き、椅子の上に持っていた物を下ろす。


「ユーリちゃん、ここに乗れるかな?」

「う?」

「普通に座ったらテーブルに届かないだろ? 即席で作ってみた補助椅子なんだけど」


え。その言葉からいくと、これはまさか。


「オルしゃんが作ったのー?」

「厨房にある椅子を出すと邪魔になっちゃうからね。鍛冶部隊か設備部隊にちゃんと作って貰うまでの繋ぎだけど」

「オルしゃん、しゅごい」


いや、本当に凄いよ、オルディマさん。

料理も出来て、三分洗濯も出来て、日曜大工もイケちゃう爽やか笑顔のイケメン男子。何、このモテ要素満載さ。

折角作って貰ったし、これは早速乗らせて頂かねば。


椅子を汚したら後の人の迷惑だから靴を脱いでから椅子に上がり、オルディマさんが置いてくれた補助椅子に腰かける。


「…目測だったから心配だったけど、大丈夫そうだね」

「あい。ありがとーオルしゃん」

「どういたしまして」


オルディマさんに見事にテーブルに届く様になった補助椅子のお礼を言ったら爽やか笑顔で返された。

更に、食事のトレーを目の前に合わせてくれるってどんだけ気遣い出来る男なんだっ。


「じゃあ、食事が終わったら補助椅子を厨房に持って来てくれるかな?」

「あい!」

「ん、良いお返事だね。しっかり食べるんだよ」


よしよしと頭を撫でて、エリエスさんに一礼してオルディマさんが厨房に戻っていく。


「良かったですね、ユーリ」

「あい」

「さぁ、頂きましょうか。食べたら書類部隊の執務室に移動しますよ」

「いたらきます」


優しい笑顔のエリエスさんを前に朝食。何て贅沢だろう。

今日の朝食は、魚介と野菜たっぷりのトマトスープっぽい物に、焼き立てであろう湯気がほんのり立つほうれん草の様な緑が練り込まれたパン。今朝はこの二品みたい。


スープの魚介はエビにイカ、白身魚に貝。程良い加熱加減でぷりぷりのナイスな食感。それにごろごろのタシ芋とベルモン、柔らかくなった甘いオル葱。そんな具に絡むトマトベースのスープは味の濃いトマトとエビの殻で取ったと思われる濃厚な出汁ブロード、香味野菜の風味が際立つ一品。それが大きな深皿いっぱいに入って提供されている。

これだけでもかなりのボリュームだよね。


そしてパン。

焼き立ての、外がサクッとして中がほかほかのパンはそれだけでもご馳走だと思うの。

仄かな酸味と香ばしい香りの後に、野菜と小麦の優しい甘みが口いっぱいに広がる絶品。

因みにこのパン、おかわり自由のコーナーがあるから追加で食べられるんだよ。

…後で、おやつ用に一個貰って行ってもいいかな。




エリエスさんに遅れる事約十五分。朝食をしっかり完食し、口回りをペーパーで拭いて「ごちそうさま」をしたらエリエスさんに補助椅子を持って貰い、トレーを返却口まで運ぶ。最後はエリエスさんに返却口にトレーを乗せて貰ったが。


それから補助椅子を受け取り、厨房内のオルディマさんに返すべく恐る恐る声を掛けると、忙しいのにそんな様子をおくびにも出さずに笑顔で取りに来てくれた。


更に厨房内の全員から「しっかりな」だの「頑張れよ」といった声が掛けられた。

全員が忙しそうに働きながらでも声を掛けてくれた事が凄く嬉しい。

皆様、私の表情筋を破壊する気ですか?


「いってきましゅ!」

『行って来い』


凄いデレデレに崩れてるであろう表情を晒しつつ、感謝の気持ちを込めて挨拶すると全員が一瞬でもこちらを見て揃って送り出してくれた。


「さぁ、いきましょうか」


黙って見守っていてくれたエリエスさんが挨拶を終えたタイミングを見計らって声を掛けてくる。

それに頷くと、再びエリエスさんと手を繋いで食堂を後にした。







食堂を出て、エリエスさんに手を引かれるまま歩いて行く。

お城の入口の正面にある大きな階段を上り、上の階へと上がるんだけど…子供には階段数が多いっ。

きっとエリエスさんだけなら息も切らさずに颯爽と登って行くであろう階段なのに、何も言わずに笑顔で私のノロノロペースに合わせてくれている。しかも然り気無い補助付き。素晴らしい。


それにしても、こうやって並んで歩いているとエリエスさんは見た目や印象と違ってやっぱり男の人だと実感する。


まず、繋いで貰ってる手。繋いでると言うか、私がエリエスさんの指を握ってから手を包まれてる様な状態なんだけど、さり気無く手が大きいな。ディルナンさんとそんなに変わらない気がする。

それにほっそりして見えても、握ってみると節のある男の人の指だ。


次に、身長。やはりというか、エリエスさんの腰に届いてない。そして実はエリエスさんの腰細い。悔しい…って、違うか。

ディルナンさんよりは腰に近いけど、エリエスさん実は180cm近くはあると思う。

でもね。身長はともかく、私は大声で叫びたい。

揃いも揃って足、長過ぎだから!


そんな事を考えつつどうにか登りきると、一仕事終えた気分になった。


「…大丈夫ですか、ユーリ」

「あい」

「結構です。後少しですからね」


はふぅと大きく息を吐いたら、エリエスさんに小さく笑み混じりに声を掛けられた。


エリエスさんに手を引かれて今度は食堂とは反対、医務室側へと歩いて行く。階が違うし、お城自体が直線では有り得ないんだけど、今の私にはそれ位しか方向指針がないから仕方無いか。

やっぱり城と言うだけあって敷地が広いなぁ。大人の足でもそれなりに距離がある筈だ。


そして、外見通り質実剛健なお城は華美な飾りは一切無い。お城として必要最低限の絨毯やシャンデリアがあった程度。それと、ガラスがステンドグラスになっていて、絵や鎧なんかが飾ってある位。

壁も、天井も、ヨーロッパのお城の様に素敵な装飾なんてされてないし。

ランプもあるけど、ガラスはおしゃれでもゴツイのだ。

…夜とか微妙に怖そうな雰囲気。


何だかんだで周囲を見回しつつ十分程歩いて漸くエリエスさんの足が止まった。


「ここが書類部隊の執務室です。取り敢えずユーリの計算能力を確かめてから仕事の説明をします。…それが終わったら、北の魔王城を案内しながらどんな構造なのかを教えて上げましょう」

「!」

「ふふ…目がキラキラしてますね。さぁ、入りましょう」


お城探検ツアー!

思い掛けないエリエスさんのお楽しみな言葉に、エリエスさんを見上げるとニッコリ笑みを向けられた。

嬉しくて笑顔を返すと、エリエスさんが私から手を放して大きくて立派な扉を開く。何故か扉の横に立つ様にして。

何故にこの位置?




『どわー!』




…と、疑問に思ってたら何だか沢山の人が倒れ出て来て目の前で山になった。


……なんて冷静に実況出来るのはいつの間にかエリエスさんに脇の下に手を差し入れて持ち上げられ、安全な位置に避難させて貰ってるからなんですけど。


「何をしてるんです、貴方達は」


倒れて山になった人達の正面に静かに移動したエリエスさんのとーっても冷たい声が、目の前でもがく人達に降り注ぐ。


「まさか仕事を放り出して覗き見なんてしてませんよね?」

『た、隊長…』


これには、山になってる人達の顔色が一気に悪くなっていく。そのまさかなのは目に見えて明らかだね。


何でだろう。エリエスさんは笑顔なのに場の気温が一気に下がっていってるんですけど。

私が怒られてる訳では無いんだけど、物凄く怖い。寒い。プルプル震えるのは不可抗力です。

うぅ、余りの怖さに泣きそうです。これが最恐隊長と言われる所以ですね。理解しました。


「あぁ、怖がらせてしまいましたね。すみません、ユーリ。どこも怪我はしてないですね」


宙にぷらぷらと浮いたままだった体が、エリエスさんにきちんと抱き上げられる。

恐る恐る見上げたエリエスさんは、さっきまでの冷気が嘘の様に優しかった。

思わず安心してエリエスさんにピッタリくっついてみる。


…美人が本気で怒ると夜叉になるって本当だ。私、エリエスさんを怒らせない様に気を付けよう。うん。


「それで、ユーリを危うく怪我させる様な真似をした理由は何です?」


でも、私から視線を移したエリエスさんに冷気が戻って来たー!

エリエスさんにくっついてて良かった。温かい。

その頃には倒れてた人の山もどうにか立ち上がっていたけど。

寒くないのかな? もしかしてこの冷気に慣れてるのかな?? …わぉ。


「実は我々、ユーリちゃんの親衛隊を立ち上げたんです! 親衛隊隊長のコーサです!!」

「『ユーリちゃんを見守り隊!』、昨日から正式発足致しました! 親衛隊副隊長のイルムです!!」

「ですので、お出迎えに上がった次第です! 隊員№3のタグです!!」

「ユーリちゃんが来るのが楽しみな余り、つい人が殺到しまして! 隊員№4のジェントです!!」


……………はい? 今、「親衛隊」って聞こえた気がするよ。しかも、私の。


『我々に癒しと愛を!』


…………………………何、この変な人達。どうしたらいいの。

しかも、部屋の中にも似た様な人達が沢山いる。この中に入るの微妙に嫌だ。

あ、エリエスさんがこめかみを押さえてる。頭痛がしてるんだな。


「エリエしゅたいちょ、だいじょぶ?」

「大丈夫ですよ」


笑って見せてくれているけど、エリエスさんの笑みがどこか疲れている。

…大変だね、隊長さんって。


そう思ってたら、ふわり、とそよ風が届いた。

優しい風に、風が吹いてきた室内に視線を向けると。




紙が、舞っていた。


A4サイズ位の用紙が、沢山。




『…ぎゃあ!』


ひらりひらり、心地良いそよ風に泳いでいた紙が次の瞬間変な人達に襲い掛かり、悲鳴が上がる。

まるで鎌鼬の様に切れ味鋭く襲い掛かる紙から変な人達が必死に左右に逃れると、あっと言う間にエリエスさんと私の前に部屋の奥へ続く道が出現した。


人を襲った勢いのまま地に刺さると思った紙は、役目を終えたと言わんばかりに鋭さを失って再びふわりと風に乗り、出現した道の先へと戻っていく。

その様子を目で追っていくと、紙が順番を揃えるかの様に一枚ずつ道の先にいた人の手の上に集まっていった。


エリエスさんと同じデザインだけど、少し色の違うローブ姿の男の人。

表情は乏しいけれど、冷たい感じはしない。どちらかと言うと、「静謐」とか「静穏」といった言葉がしっくりくる。

短く切った色素のかなり薄い金髪と細めの青い瞳が余計にその印象を助長してるのかもしれない。


「マルス」

「…どうぞ、室内へ」


その人を見てエリエスさんが声を掛けると、紙を回収し終えたその人が静かに促してくる。


ヤダ、何この人! カッコいいんですけど!!

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