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別視点17 部隊長会議①(ディルナン視点)

朝からヤエトとルチカがやって来て、ユーリの採寸をしていった。

その際、ユーリが三馬鹿の所為で変な事を覚えている事が発覚して本気でどうしたモンか考えてしまったが。


……取り敢えず、三馬鹿は仕事が終わったら〆る。







今日も厨房はいつも通りだった。

ユーリもオル葱の皮剥きに勤しんでいる。

小さな手にオル葱を持つと前掛けに乗せる様にして固定し、その手に合った小さなペティでするする皮を剥いていた。昨日よりも進むスピードが速い。もしかすると、2ケース以上剥いてのけるかもしれん。


厨房の連中全員がそんなユーリを時々見ては微かに相好を崩す。

ユーリも皮を剥きながら、周囲の状況を見ている。僅か一日で視点の動きが少しずつ定まり、その時必要とされている物を確実に見る様になってきていた。

本当に成長が楽しみでならない。




ユーリに昼食を前半組として取らせると、やはり昨日と同じく食後直ぐに昼寝に入ってしまった。

ユーリを寝かせて後半組と交代し、作業を調整しながら進める。


全員が昼食を取った所で前掛けを外し、シュナスとジジイに後の進行を任せて厨房を出た。




今日は月に一度ある、部隊長会議の日。

調理部隊ウチが一息吐く午後の一番に半刻程度、情報交換をする場でもある。


オレが今日、話す内容は勿論ユーリの仮入隊の事だ。


話は一日にして既に各部隊に行き渡っているのは分かっている。

これからの三ヶ月がユーリにとって、最大の試練になるだろうな。







大会議室に入ると、既に殆どの面子は揃っていた。


内勤部隊の十隊長の内、オレを含めて九隊長。

書類部隊のエリエス、医療部隊のヴィンセント、設備部隊のヤエト、鍛冶部隊のジョット、農作部隊のジーン、騎獣部隊のヤハル、清掃部隊のアスチ、情報部隊のヴァス。


外勤部隊の四隊長の内、三隊長。

外警部隊のウォルド、機動部隊のソフィエ、魔導部隊のシェリファス。


残るは、魔王であるカイユ様の側に控える二人。

近習部隊のロイスと近衛部隊のグランディオのみ。




「ディルナン、さっき飯を食いに行った時にユーリがいなかったがどうした?」


空いていたヴァスの隣に座ると、ジョットが声を掛けてきた。


「昼寝中だ」

「そうか。…カラフが、昨日の夕飯の時に世話になった様だな」

「本人は世話したとも思ってないから気にするな」


ジョットの言葉にそのままを告げると、意味を図りかねて器用に片眉を吊り上げるジョット。


「何だそりゃ」

「あの後夕飯食わせたから、綺麗サッパリ忘れてる」


更に言葉でも聞いて来るジョットに理由を告げると、ジョットが絶句した。

ヤエトがユーリの反応を聞いて噴出している。ヤエトは朝一番でユーリを見てるからな。

周囲が驚く程の鋭さと、幼子独特のずれた感覚を合わせ持つユーリを説明せずとも分かってるんだろう。


「ユーリちゃん、昨日も何かやったのか」

「お前にしたのと似た様な事をカラフにもしただけだ。因みに、本人は自分がどれだけ並外れた事をしたのか全く自覚してない。

そう言えば、お前の事も「かわいいねぇ」とか言ってたな。何が可愛いのかオレにはサッパリ理解出来んが」

「………は?」


興味深そうに聞いてくるヤエトに昼食時のユーリの言葉をそのまま伝えてやるとヤエトが耳を疑って問い返し、部屋の中に微妙な沈黙が広がった。他のヤツ等聞き耳を立ててやがったな。


「ヴィンセント、視力検査を受けさせた方がいいか?」

「少し考えておくか」


ヴィンセントに話を投げると、ヴィンセントは楽しそうに笑いながら返してきた。


「だが、ユーリが言ったのはヤエトの外見よりも内面だろう。もしくは、外見と内面の差異じゃないのか?」

「内面…ねぇ」

「お前の見ているものとユーリの見ているものは違う筈だ。…何せあの子は、人の内面に恐ろしい程に敏感だ」


ヴィンセントの言葉に同意しかねていると、ヴィンセントが続けた。

その言葉に、ユーリを知る顔ぶれが微妙に反応する。


「恐らく、食堂でカラフに向けられた悪意を誰よりも感じていた筈だ。だからこそカラフを守ったんじゃないのかと話を聞いて思っていたんだが。

しかも、その方法が大の大人でさえそう簡単に取れるものではないな。

 …私にはそうやってあの子は自分を守ってきたんじゃないかと思えて仕様が無い」

「………」

「まぁ、個人的にはそんな幼子に悪意を向ける馬鹿な騎士がいる事に問題を感じるが。

しかも、服飾部門を不用とまで言ったらしいじゃないか。外警部隊は今後、服飾部門に仕事を頼む必要が無いと言う事かな?

 カラフが何も言わないだけで、上官への侮辱罪を取られてもおかしくない事も分かっていないらしい。その辺をどう考えている?? ウォルド」


ヴィンセントがそのまま視線を外警部隊長のウォルドに向ける。

これには、傍観していたウォルドが微かに反応した。恐らくここまでは聞いていなかったのだろう。


北の魔王城ここの最多隊員数を抱えてるのも、全員の動向を把握しきれる訳が無い事も理解している。

 そして、ユーリ…調理部隊の幼い仮隊員に決して好意的では無い隊員が大多数いる事もだ。まだ外警部隊に何の実力も示せていないのだから当然だがね。

 だが、カラフに関しては別だ。仮にも副隊長になる実力者である事を格好だけで見下すと言う事は、鍛冶部隊に喧嘩を売ってるに等しい。


―――もう一度、隊を締め直せ。出来ないのならば、幾つかの隊を敵に回すと心得ろ」


ヴィンセントの警告に、ウォルドが表情を引き締める。

ヴィンセントの警告が無ければ、いきなり外警部隊への罰則が始まっていた可能性がある。

要は、外警部隊だけじゃなく、他の部隊にも釘を刺した訳だ。これで、正当な理由無くして隊として一切罰則に動けなくなった。

…このタヌキが。




そこへロイスとグランディオが揃って姿を現し、話の流れが切れた。






近習部隊長のロイスの進行で着々と報告が進んでいく。


「ここまではいつも通りの様ですね。後はディルナン、君かな」


次の部隊長会議迄の予定が出揃った所で、ロイスが話を振ってきた。

自然と視線が集まる。


「もう全部隊に話が回ってるとは思うが、調理部隊ウチに仮入隊の隊員が入った。三ヶ月の試用期間を昨日から開始してる。

 名前はユーリ。年は推定30位。出身地は不明。…『深遠の森』で拾った時には記憶喪失状態で、ヴァスに調査を依頼してる」

「…当然、エリエスの許可が出てますよね?」


ロイスがエリエスに視線を向けると、エリエスが口を開いた。


「えぇ。仮入城及び仮入隊の許可を出しています。

 ディルナンの目と、何よりもディルナンの騎獣のレツの洗礼をアッサリ抜けて来ていますから、人物的には問題無いでしょう。

 能力は完全に未知数ですが、現時点で幾つかの片鱗を見せています。後は三ヶ月以内にそれを見える形で私達が納得できる位に示せるかですね。

 保険として、ユーリの行動に関する全ての責任はディルナンが背負う事になってますし」

「おや、レツの洗礼を抜けたんですか。…ですが、幼子に調理部隊は荷が重すぎると思うのですが?」

「それに関してはヴィンセントにも相談した。

 調理部隊に加え第二所属として書類部隊に参加。更に週に一度、医療部隊で健診を受けさせつつ補助技術として応急処置を覚えさせる。勤務時間も普通より短い」


次々にロイスが場を代表して質問を投げ掛けて来るが、この程度は想定済みだ。


「…正直、そこまでして幼子に仕事をさせるのはどうかと思うが、取り敢えず話は聞こう」

「それよりも技術面で問題があるだろう」


話を聞いていた清掃部隊長のアスチが言えば、続いて近衛部隊隊長であるグランディオが珍しく口を開いた。


「…そうでも無いと思うぜ?」


オレがそれに答えるよりも先に、ジョットが声を発していた。


「あの刃の見方が出来るって事は、少なくとも基本の包丁の扱いは出来てる筈だ」

「だろうな。オレも仕事に賛成とは言い切れないが、今朝、トレーを拭いてる所を見た限りでは動きの無駄が少なかった。周囲も確認できてるみたいだったぞ。

 何より調理部隊として専用調理台を発注してくるって事は、調理部隊がその実力を認めたって事だろ」


ジョットに加え、ヤエトも一応はユーリの仕事ぶりを援護した。


「ディルナン、隊長としてどうですか?」

「特に問題は無い。寧ろ、ここ最近の新人の中では驚異的なスピードと言っていい。仕込み以外の仕事に関しても、他の隊員達から一定以上の評価が上がっている」

「エリエス、そちらは?」

書類部隊ウチでの仕事は明日が初日ですね。仕事に関しては集計及び集計確認を任せようと思っています。

 ですが守護輪の文字も読めていたそうですし、既に医務室で計算能力の一端を私、ディルナン、ヴィンセント、バクスに見せていますから仕事的には問題無いと思っていますよ。後は計算道具を何処まで使いこなせるかが鍵でしょうね」


ロイスが調理部隊の仕事ぶりを聞いた所で、エリエスに話を振る。

エリエスがあるがままを話せば、やはり他の面々に衝撃が走っていた。


「…30程度で、計算能力を持っているんですか?」

「えぇ。信じがたい事ですが、簡単な引き算とはいえ考える素振りさえ見せずに答えました。あの様子なら、それなりに計算をこなせると思います。」


エリエスの言葉に、ロイスがヴィンセントにも視線を向けた。


「間違いない。

 ―――それとこれは医者として全隊長に言っておかなければならない事だが、ユーリは中性体だ」


そんなロイスに、ヴィンセントが更なる爆弾を投下すると、初耳の隊長達は絶句するしかない。


「それも大切に育てられたのではなく、なんらかの理由で監禁に近い状態で放置されていた可能性も否定出来ない。幼子とは思えない知性と対応は、自分を守る為に身に着けたと考えるのが自然な程だ。高い知性とは逆に、恐ろしく物を知らない一面がある。

 栄養失調に近い状態だが、それはもしかすると『深遠の森』に連れて行かれる前からかも知れない。

 かなり特殊な子供だからこそ医者(わたし)としては手元で様子を見たい」

「……北の魔王領ではなく、東の魔王領の子供。それも、命を狙われている類の子供」


ヴィンセントが見解を示すと、ヴァスが追い打ちで情報を出してくる。


「何ですって?」

「どういう事だ、ヴァス!」


聞き捨てにできない情報に、思わずエリエスと共に反応してしまった。


「カラフが、子供の服から見付けた」


ヴァスが亜空間から取り出したのは、ユーリが一昨日まで着ていた服と靴。

その靴にヴァスが何やら細工を施すと、魔力で具現化した文字が浮かび上がる。


「カラフが言うには、巧妙に隠してあるけど超一流の素材と技術。

 金の守護輪を持ってる所からも、単なる貴族の子供では無い。何かしらの利用価値が十二分にある子供。…中性体と言うだけでも十分。

 でも、今、分かってるのはこれだけ」


ヴァスが出した情報に、それぞれが考える素振りを見せる。


「…現時点で一概に賛成も反対も出来そうにもないですね。子供は魔族にとって宝です。

命を狙われる危険を含んだ子供を簡単に近くの集落に放出も出来ない。せめて信頼出来る預け先を見付けるまではこのままが一番良いのかもしれません。北の魔王城も決して安心な場所ではありませんが。

 それにしても、まさか中性体をこの目で見られる日が来るとは思いもしませんでした。これ等の情報は一般隊員には伏せておいた方が良いと思うのですが、どうでしょう?」

「下手にあれこれ言うよりも、三ヶ月子供の資質を見極めつつヴァスの情報を待った方が北の魔王城としても危険は少ないと思うが」


ロイスが周囲の反応を見て簡単に問えば、魔導部隊隊長のシェリファスが賛同する。


内心はどうであれ、中性体という事とヴァスの「命を狙われている」との言葉と物証もあり、特に目立った反対は無い。

これなら、暫くは北の魔王城にユーリを置いておけるだろう。


今回の会議は何だかんだで一刻掛からずに終了する事になった。






会議の終了が告げられさっさと厨房に戻ろうとしたら、何故かいつの間にか背後にやって来ていたエリエスに肩を掴まれた。

…何故か、恐ろしくイイ笑顔を浮かべてやがる。だが、背後にはどす黒い物が滲んでいる。

これには、自然と冷や汗が背中を伝っていた。


「…何だ?」

「ディルナン、ちょっと顔を貸しなさい」


肩を掴んでいるエリエスの手に痛い程の力が加えられている。

これには、退出しようとしていた他の隊長達も視線を向けて来た。


「何でだよ。夕飯の用意が迫ってるっつーの」

「じゃあ、ここでもいいですよ」


…コイツ、絶対に逃がす気がねぇ。

思わず頬を引き攣らせたのは当然の反応だ。

ジョットとヤエトも微妙にエリエスの迫力に押されてやがる。


「ディルナン、貴方、ユーリに「あいちてるー」なんて言われたらしいじゃないですか」


エリエスが笑みを深くしながら言えば、会議室にエリエスの怒気以外の物も追加された。

嫌な予感に、怒気の増した方向…ヴィンセントに視線を向けると、ヴィンセントも笑ってやがった。

いや、笑ってるのは口元だけで、目は一切笑ってない。

…最悪だ。最凶部隊長二人がそろって敵に回りやがった。

つーか、周りのヤツ等、見てねぇで助けろよ。


「……そりゃ完全に餌付け的な意味でだ。お前だってやってんだろ」


取り敢えずエリエスの怒りを解くべく声を掛けると、エリエスが笑みで先を促してくる。


「ユーリの性格は分かってんだろ。アイツは食べ物に釣られて連れ去られかねない様な子供だぞ。何せ、カイユ様の謁見と飯を天秤に乗せたら飯に比重が傾く様なヤツだ。

 飯を食わせてる調理部隊ウチの隊員全員が「しゅき」だの「だいしゅき」だの言われてるっての。オレは単純に一番最初に餌付けしたからだ。

 お前のやった菓子をそれは美味そうに食ってたんだ。ユーリの中でもお前はかなり上位を占めてる」


ユーリの性格を分かりやすく説明出来る一昨日のエピソードを出せば、ロイスとグランディオが己の耳を疑う様な表情を覗かせる。感情をほぼ完璧に制御する二人にはほぼあり得ない反応だが、そうさせるだけの内容だ。


「…ユーリちゃん、カイユ様よりも飯を取ったのか……?」

「あぁ。流石に最初はバクスも幼子とは言え、ユーリを警戒して試したんだ。そうしたら、迷いもせずにカイユ様に会わなくて良いと言い切った。

 如何にカイユ様が素晴らしいかをバクスが力説しても、ユーリの選択は変わらなかったぞ。むしろキッパリとカイユ様より飯の方が良いと断言しやがった」

「まさかの反撃にバクスが撃沈してましたね。ユーリは自分の意見を素直に言っただけなので、反撃したつもりは一切無いでしょうが」

「あそこまで潔いと逆に笑えたな。まぁ、だからこそバクスも疑うのが馬鹿らしくなった様だが」


呆然とするヤエトの問いに昨日のユーリの反応を話せば、エリエスとヴィンセントの怒気が和らいだ。思い出して笑みさえ零す。

二人の反応に、それが事実である事が自然と周囲に知れる。

話だけで隊長数人を唖然とさせるユーリはやはり規格外な幼子だ。


「それに、ユーリは好意には最大級の好意で返す。そうでもなきゃあの猛獣(レツ)に初見で一切怯えずに懐く筈が無い」

「あの接触嫌いで有名なレツが自ら率先して昼寝用のベッドを務める事など、ユーリ以外はまず無いでしょうね。(ディルナン)でさえ特別な状況下のみじゃないでしょうか」


ダメ押しでレツの例を出せば、エリエスが妙に納得した。

その一方で、話を聞いていた騎獣部隊隊長のヤハルがギョッと息を飲む。…オレは騎獣部隊にもあの光景を見せてやりたい。

きっと阿鼻叫喚だろうが。


「お前が何を言わずとも、ユーリは間違いなく爆弾を落とす。何なら賭けてもいいぞ」

「…賭けになりません」

「ふん。書類部隊全員ユーリにやられて撃沈しやがれ」


どうにかエリエスが落ち着いた所で、エリエスの手を外す。


「先に戻るぞ」


言い残し、さっさと会議室を後にすべく歩き出す。


全く、とんでもない目に合った。

ユーリは良くも悪くもオレの寿命を減らす気らしい。


…明日のユーリの仕事に関しては、後で相談するとしよう。とてもじゃないが、少し時間を置かないと再びエリエスと話す気になれない。

どうせカラフと来るだろう。

隊長Sの容姿は主人公視点にてご案内します。

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