別視点15 兄の自覚 後編(アルファイス視点)
本編19〜21までと内容がほぼ重複しています。嫌な方は飛ばして下さい。
少しずつ食事の準備から仕込みに入っていく先輩達に焦る。副隊長からも檄が飛んでくる。
「にーに、がんばれー」
そんな中、ユーリから可愛らしい応援が飛んで来た。
一生懸命タシ芋の皮剥きをしていたのを少しだけど見ていた。
小さな手で、少しだけ危なっかしい手つきながらオレなんかよりも頑張るユーリに応援されたらやるっきゃないだろ!
…三馬鹿先輩がユーリの応援を羨ましく思ったのか、ユーリに声を掛けたけど、タイミングが悪すぎる。何でじーさんの補助に入ってるのにそれをやっちゃうんだよ!? 副隊長達だって呆れ果ててる。
「…アイツ等、どこまでバカなんだ?」
「すっかり”三馬鹿トリオ”で定着してますよねー」
「ユーリ、お前もアルフの応援なんざしなくていいから怪我するんじゃないぞ」
「あい」
「いい子だ。聞き分けの良い子供は嫌いじゃないぜ」
「一生懸命で、仕事の出来る子はもっと好きでしょう?」
「愚問だな」
「ボクもふくたいちょ、しゅきー」
副隊長が呆れつつも、ユーリに怪我しない様に注意した。それに素直に頷くユーリに副隊長とオルディマさんが続けば、ユーリが笑顔で爆弾を投下する。
余りの可愛らしさに、気付けば厨房にいた全員の手が止まっていた。
普段、憎まれ口には憎まれ口しか返ってこないから、まさかの好意返しに副隊長は撃沈していた。この人のこんな姿は本当に珍しい。オルディマさんでさえ目に見えて動揺していた。
「ちなみに、ユーリ。他の連中はどうだ?」
「?しゅき」
「ジジイも?」
「大すきー」
「…んじゃ、隊長は?」
「あいちてるー」
少しして落ち着いたらしい副隊長がユーリに問いを投げ掛ける。それに不思議そうにしつつもユーリが答えていく。
全く迷い無く「好き」と言えるユーリに思わず和んだが、最後の最後に副隊長が隊長の事を聞くと最上級が飛び出してきて全員揃ってずっこけそうになった。
た、隊長、なんて羨ましいっ。
「餌付けか?餌付けの効果なのか??」
「…ユーリ、これからも美味い物食わせてやるからな」
「若造が。ユーリ、じいちゃんが腕に縒りを掛けて作ってやるからな」
「あいっ!」
副隊長がやはり羨ましそうな表情をすれば、隊長が決意を新たにし、じーさんが隊長に敵愾心を燃やす。
さり気無く隊長に嫉妬心全開の三馬鹿先輩が気持ち悪い。
しかも、じーさんの飯の一言にユーリがキラキラと瞳を輝かせている。
何だ、この混沌。
…でも、仕事再開したら全員妙にやる気だ。これもユーリ効果なのか。
夕食の提供が始まって少しした所で、ユーリから声が上がった。どうやら、タシ芋を無事に剥き終ったらしい。
副隊長に言われて片付けをするユーリに、まるでタイミングを計ったかの様に客がやって来た。隊長と副隊長が苦手としている鍛冶部隊のカラフ副隊長。
相手にするのが嫌なのか二人揃って微妙に頬を引きつらせ、迷わずユーリをホールに出した。
カラフ副隊長に普通に接するユーリを凄いと思いつつつ配膳をしていると、不意に食堂の空気が変わるのを感じた。
食事中の外警部隊の騎士から上がったカラフ副隊長への嘲笑が広がる。
それはいつしか一緒にいたユーリにも向けられた。
これには厨房の視線がホールに向けられる。
そんな中、自分の事では一切何の反応も示さなかったカラフ副隊長がユーリへの嘲笑で動こうとした事で食堂の緊張感が一気に高まった。
仮にも上位管理職者の一人だ。どんな理由であろうとここで動いたら間違いなくカラフ副隊長が不利になる。下手をしたら責任問題だ。
誰もカラフ副隊長を止める事が無く、食堂の緊張感が最高潮になった時、ユーリがカラフ副隊長の服の裾を掴んで止めた。
「おねえちゃま、ご飯たべたー?」
「…っ」
「夕飯はね、たいちょとじーちゃがオムレツ焼いてくれるんだよー。焼き立てでね、とろーんでふわふわなのー」
状況が分かっているのかいないのか。
ユーリがカラフ副隊長にずれた事を話し掛けると、カラフ副隊長がユーリを無視出来ずに視線を向けた。だが、困惑しているのが端から見ていてよく分かる。
「―――おねえちゃまのお仕事は、とってもすごいの。誰にでもできることじゃないって、ボク、知ってるもん」
「ユーリ、ちゃん」
「おいしーご飯、食べていってね」
そんなカラフ副隊長にユーリが告げた言葉に、カラフ副隊長は勿論の事、厨房にも驚きが走る。
ただ一人、隊長だけが口元に不敵な笑みを浮かべてオムレツを再び焼き始めていた。
ユーリは、きちんと全部理解してカラフ副隊長を止めたのか。
ユーリのこの行動には、ホールで食事をしていた一部の隊員達が驚きつつも称賛の口笛を零す。
そんな中、当のユーリはにっこり笑顔で呆然とするカラフ副隊長に続けて告げていた。
「にーに、ご飯いちにんまえよろしくなのー」
「カラフ副隊長、いらっしゃい」
ホールの緊張感が薄まった所でオレを見てポーズ付きで宣言するユーリ。
その可愛い姿に思わず笑ってカラフ副隊長に迎えの言葉を告げると、ユーリが後ろから呆然とするカラフ副隊長を押して配膳口まで連れてきた。
「…参ったわねぇ。こんな若い子達に気を使われるなんて、アタシの立場無いじゃないのー」
「オムレツ、最高に美味いっスよ」
「ほっぺた落ちちゃうの」
「……ちょっとディルナン隊長、この可愛い子達どこに隠してたの」
「隠すか。そこのヤローは可愛らしい後輩が出来てようやっとまともになろうとしてるだけだ。ユーリは今日からだぞ」
オレが食事の用意を初めてようやく我に返ったカラフ副隊長が苦笑してぼやく。
オレとユーリがフォローすると、測った様なタイミングで焼き上がったオムレツ片手にやって来た隊長にカラフ副隊長が視線を向けた。
隊長のそつの無い切り返しに、カラフ副隊長がユーリに視線を落とす。
何か、嫌な予感がする。
「ユーリちゃん、調理部隊に愛想尽かしたら鍛冶部隊の服飾担当部門にいらっしゃい。」
「う?」
「大丈夫、材料を加工して作品にするっていう所は調理と一緒よん。貴方ならバッチリだわ…って、怖い!揃いも揃って本気の殺気を向けて来ないで頂戴ー!!」
嫌な予感的中のカラフ副隊長のユーリへのスカウトに、ユーリの不思議そうな声が配膳台の下から聞こえた。
まだ続けようとするカラフ副隊長に思わず殺気を放つと、どうやらオレだけじゃなく厨房内の全員が同じ様に殺気を向けたらしい。
その全員分の殺気は余りにも濃厚で、カラフ副隊長が絶叫しただけでなくホールでも顔色を悪くして硬直する人がチラホラいた。さっきカラフ副隊長とユーリを嘲笑した騎士達もテーブルの位置的にとばっちりを食らった所為で表情を強張らせている。
は、ざまぁみろ。内勤最強部隊を馬鹿にすんな!
ユーリへのスカウトを阻止すると、食事を手にしたカラフ副隊長が諦めてユーリと別れる。
ユーリが厨房に戻って来ると、副隊長がユーリを抱き上げた。
「ちび助、お前のオムレツは特別にチーズたっぷりにしてやろうな」
「ふわー」
「…お前はホンットに可愛いな。よし、オレ達の飯の準備に行くぞ」
「あいっ」
機嫌良くユーリの手柄を褒める代わりに食事の特別化を告げる副隊長に、ユーリが両手を上げて喜ぶ。
その拍子にカラフ副隊長から受け取ったらしい紙袋を落としたが、そんな姿も可愛くて厨房内の最後の不機嫌な空気さえも払拭された。
副隊長が隊長にユーリが落とした紙袋を投げ渡してじーさんが二人を睨み付ける一幕もあったが、何時もの様にじーさんの怒声が食堂中に響き渡る事は無かった。
副隊長にそのまま連れられて、一緒に昼食を食べられなかった面々とユーリが夕食に行った。
その間に、ユーリが少しでも楽を出来る様にと三馬鹿先輩が珍しく本気で働いている。
この人達、本気になれば相当な実力者なのに、残念過ぎる性格がそれを台無しにしてる。勿体無いよなー。
食事班と片付け班が交代しても、自然と視線はユーリに向かう。それはオレだけじゃない。
朝に用意してやったポムル箱に乗って一生懸命片付ける姿に、三馬鹿先輩の顔が大変な事になっている。性的な物とは別の意味で100禁指定するべきだと思う程だ。
そんな三馬鹿先輩を「気持ち悪い」と隊長が殴り付け、一悶着。
騒いだ三馬鹿先輩がオルディマさんにぶつかり、更にオルディマさんからも殴られていた。…ユーリに見えない様に計算してやるオルディマさんが少し怖い。
殴られたというのに三馬鹿先輩の一人、カインさんがユーリにデレデレした表情のまま恍惚としてるのがホントに気持ち悪くて思わず癒しを求めてユーリに視線を向け直した。
騒がしい食事を終えて片付け班に合流すると、驚くべき事に片付けは殆ど終わっていた。
副隊長がユーリの活躍を話し、ユーリの片付けた台の確認を隊長に促せば、思わず食事班全員で確認してしまう。
細かい道具はきちんと収納して片付けられ、良く使う調味料類はきちんと補充されていた。
台の上もしっかりと拭き上げられ、文句の付け様が無い。
これにはオルディマさんも感心した様に仕上がりを褒める。
それに我が事の様に満足そうに頷いた副隊長が、更にユーリの仕事ぶりを語る。
…いつの間にか副隊長がユーリを抱っこしてた。隊長がツッコミを入れるが、副隊長はどこ吹く風で理由を作り上げている。…ユーリが怯えてるけど。
それを見たオルディマさんがさり気無くユーリを副隊長から奪う。
副隊長が抗議するが、オルディマさんはどこ吹く風でユーリの頭を撫で、一緒に笑っていた。
そんな姿に三馬鹿先輩が自分もユーリを抱っこしたい!と名乗りを上げたが、オルディマさんがあっさり却下を食らわせる。
まぁ、それで諦める様な可愛らしい性格をしている筈も無く、やはりと言うべきか突撃していった。
これには思わず近くの調理台のフライパンを掴み出して三馬鹿先輩を殴り付けると、隊長と副隊長も鍋と麺棒で同じ様にしていた。
良い音がしたと我ながらずれた事を考えていたら、じーさんの怒声が食堂中に響き渡った。
…三馬鹿先輩の心配は皆無で、調理道具の事で怒られちまった。
最後の片付けと準備を終えて食堂を封鎖すると、全員で風呂に向かった。
他の部隊では殆ど無い事だけど、調理部隊では外に出た人間以外は仕事上がりに全員で風呂に入る。
裸の付き合いをして親睦を深める為だと入隊したばかりの頃に言われた。
今日はユーリがいるから、一人も欠ける事無く揃ってる。
何時もの様に、じーさんが真っ先に風呂に入って行くと、それにユーリが続いた。
…が、その後が誰も続かなかった。揃いも揃って思わず隊長を見る。
「おい隊長、ユーリに付いて無かったぞ?」
副隊長がオレ達の心の声を口にしてくれた。そう、確かにユーリには男の証が付いて無かった。
「そりゃそうだ」
「”そりゃそうだ”じゃねぇだろ! 北の魔王城は特例時以外は女の勤務は認められて無いんだぞ!?」
「ユーリは女じゃないから問題無い」
「男でもねぇだろうが!!」
「そうだ。どちらでもない。…ユーリは中性体だから、性別が無い」
淡々と服を脱いでいた隊長に副隊長が声を荒げたが、隊長の切り返しに絶句する。…と言うか、全員絶句していた。
おとぎ話じみた話で少しだけしか聞いたことの無い存在がすぐ側にいる現実に困惑するしかない。
「…ユーリ自身が記憶を失ってるから詳しい事は一切不明だが、間違い無くユーリを取り巻く環境は不穏だ。だが、調理部隊ならユーリの絶対的な安全地帯になる。仮隊員でいられる三ヶ月だけでいい。出来るだけ鍛え上げてやってくれ」
「マジかよ…」
「ユーリ自身は自分がどれだけ希少な存在なのか全く理解していない。だから、普通に接してやればいい。弟と思おうが、妹と思おうが、ユーリにとっては些細な事だ」
でも、続いた隊長の言葉が何だかストンと入り込んできた。
そうだ。ユーリは、オレにとって初めて出来た可愛らしい下の存在。別に性別なんかどうだっていい。
「隊長、ユーリの身辺はそんなに危ないんスか?」
「アイツは守護輪を与えられてる。それだけの家格に生まれた中性体が『深遠の森』なんぞに転がってる事自体が普通ではありえん」
「…分かったっス。オレの大事な”天使”である事には変わりないんで気にしない事にします」
確認すれば決定的な状況を告げる隊長に、オレも開き直る。
ユーリがユーリであればそれでいい。
「”天使”? …魔族のユーリが??」
「昔、何かの本で読んだんスよ。天使って性別が無いらしいんで。それに、ユーリは純真無垢っスから」
「ほー、アルフにしちゃ上手い事言うじゃねぇか。いいな、”天使”」
「調理部隊の”天使”ですね」
隊長が驚いた様に問い返して来るのに、理由を言えば副隊長とオルディマさんが同意してくれた。ラダストールさんもディオガさんも、三馬鹿先輩も頷いている。
「それでいいじゃないっスか。さ、風呂入りましょう」
話が纏まった所で、すっかりじーさんとユーリから遅れてしまった風呂に先に歩き出した。
中に入ると、じーさんに抱えられて湯船に浸かるユーリの姿がそこにあった。
温かい湯にほんわかした表情を浮かべるユーリに、じーさんも穏やかな表情をしている。
そんなユーリを見て余計に性別なんてどうでもよくなった。それに成人しない限り、性別など大した意味を成さないと思うし。
風呂でも三馬鹿先輩がユーリにちょっかいを掛けようとするが、全員で死守する。
それでも諦める様子の無い三馬鹿先輩に終にじーさんがキレてお仕置きしに動く時に、ユーリを預けられた。
当のユーリは何が起きているのか分かっていないらしく、キョトンとして大人しくしている。
横に置いてやろうかと思ったけど、抱っこしてるこの状態で既にユーリの顎近くまで湯があった。ダメだ、下手をすれば溺れかねない。
…溺れると言えば、ユーリって泳げるのか?
ふと浮かんだ疑問に念の為にユーリを湯に浮かべてみると、暴れも騒ぎもせずに上を向いてぷかぷか浮いていた。ぽっこりした腹が可愛い…じゃなくて、これは泳げなくても最低限どうにかなるな。
考えていると、三馬鹿先輩がじーさんから逃げつついつの間にかプカプカ浮いているユーリに接近してるのに気付き、慌ててユーリを回収して抱える。
三馬鹿先輩が盛大に舌打ちすると、じーさんに副隊長が加勢し始めた。
増々風呂場が騒がしくなる中、何故かラダストールさんとディオガさんにユーリと一緒にオレまで頭を撫でられた。
何だかんだが落ち着いて(?)風呂から上がると、隊長がさっさと自分の体を拭いて腰にタオルを巻くとユーリをバスタオルで包む様にして優しく拭き上げ始めた。
ある程度髪も乾かした所で着替えを渡すと、ユーリが一生懸命着替え始める。
そんな後ろ姿に無様に鼻の下を伸ばす三馬鹿先輩以外は微笑ましい表情を浮かべて見守る。
オレ達が暑さが落ち着くまでタオル一枚でいるのはいつもの事だ。
ユーリが白いワンピースの寝巻を着終えた所でラダストールさんがコップに水を入れ、ユーリに渡して飲ませた。
その間にオルディマさんが全員分の服を魔術で洗濯していた。
水を飲み終わったユーリからディオガさんがコップを回収し、他の面々に洗った服を渡し終わったオルディマさんがユーリにも渡す。
それを花柄の袋に仕舞うユーリを見て、思わず隊長に近付く。
「隊長、何でユーリの持ち物はあんなに女っぽい物ばっかなんスか?」
「そんなもん、カラフの趣味に決まってんだろ。適当に任せたらああなった」
「…まぁ、全く違和感無いどころか似合ってるっスけど」
「女っ気のなさと、ユーリの可愛さにいつも以上にはじけてやがったからな。下手すりゃその内、本気で女物の服でも作って来るんじゃないか? 現時点で看護師服はスカートタイプを作る気満々だしな」
「は? …ユーリ、調理部隊と第二特別部隊で書類部隊っスよね。何で医療部隊が」
「ヴィンセントに週に一度、健診がてら応急処置を習う事に無理矢理された。…ユーリを狙ってるトコは意外と多いぞ。夕飯時にはカラフまで言い出したしな」
「……ホント注意しててやんないと危ないんスね」
隊長と話して、ユーリの身辺は北の魔王城でもある意味危なそうな気がしてきた。
『あの子を見守り隊(仮)』とか言うユーリの親衛隊も昨日の時点で発足しそうだったし。
そこに、スカートタイプの看護師服を着た可愛いユーリが応急処置の特訓を始めるんだろ? 個人の親衛隊にしてはとんでもない規模が出来るんじゃないのか?!
オレと隊長がそんな話をしていると副隊長にじーさん、ラダストールさんとディオガさんも聞いていた。
ちなみに、三馬鹿先輩は訳の分からない遊びをしている。
「………三馬鹿」
そんな中、いきなりオルディマさんの恐ろしく低い声が三馬鹿先輩を呼んだ。
何事かとオルディマさんを振り返ると、そこには笑顔でキレているオルディマさんと、オルディマさんの腰に巻かれたタオルの裾を掴んでつんつん引っ張っているユーリがいた。
「ユーリちゃんがおかしな事を覚えるだろう? 君達、そんなに抹殺されたい訳??」
「よいではないかー」
どうやら三馬鹿先輩の遊びの真似をしていたらしいユーリだが、恐らく意味が分かっていない。
そんな姿が妙に可愛くて噴出したが、他の人達は眦を吊り上げている。
「「「よ…良いではないかー」」」
隊長達の怒気に顔面蒼白になって震え上がりつつもユーリが真似した台詞を紡ぐ三人に、遂には周囲の限界点を突破するのを肌で感じた。
ヤバいと思って慌ててユーリの元へ行き、オルディマさんのタオルからユーリの手を放させるとその目を塞いだ。ユーリに暴力を見せる事も無い。
オレがユーリの目を塞ぐなり、隊長達による制裁が三馬鹿先輩に発動した。
全員が一撃を加えた所で、オルディマさんが笑顔で締め上げる。オルディマさんの怪力で締め上げられたら、痛みの余り声など出ない筈だ。殴られるよりもキツイと思う。
〆終えたオルディマさんが三馬鹿先輩が脱衣所の片隅に積み上げたのを確認してユーリの目隠しを外す。
積み上げられた三馬鹿先輩を見てユーリが目を瞬かせる中、隊長が手早く服を着るとユーリの手を引いてさっさと脱衣所を出て行った。
オレ達も今更三馬鹿先輩に気遣う筈も無く、さっさと服を着て脱衣所を後にした。
そのまま自然解散になって部屋に戻り、ベッドに転がったものの眠気はまだ訪れない。
「…”にーに”、か。ホント、負けてらんないよな」
可愛いユーリの笑顔を思い出し、呟く。
明日からの仕事、また気合いを入れ直して行かないとと決意した。
[補足説明]
魔族と天使の関係
魔族と天使は属性が闇と光で真逆ですが、仲が悪くありません。関わりが無いので悪くなる訳が無いです。
(この世界の魔族は強い相手と戦うのが好きですが面倒は嫌いなので、態々天界に行ってまで天使に喧嘩を吹っ掛けたりしません。それなら同族を選ぶ物臭気質な設定)
なので、互いに嫌悪感はありません。
100禁=15禁と思って頂ければ。