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19 午後のお仕事

大きな声で昼寝から目覚めた。




起き上がると食事をとった調理台が目に入って来た。位置関係の確認に周りを見回してみると、後ろにはクッション、足元にはブランケットがあって昼寝をしやすい様にしてくれた事に気付く。横には机があり、その上には食材らしい名前と値段の書かれた紙類と私のポーチと畳まれたエプロンが乗っている。…どうやら、寝ていたのは発注用のスペースで、そこの椅子をベッド代わりに提供して貰っていたらしい。至れり尽くせりだ。


ブランケットを畳んでクッションと一緒に椅子の隅に寄せてから地面に下り、ポーチとエプロンを手に厨房に戻ると、アルフ少年が駆け付けて来た。もう少し寝てても良いと言ってくれたけど、そうも行かない。起きる事を伝えると午前中に仕込み作業をしていた場所に抱っこで連れて行ってくれた。そこでポーチとエプロンまで置いてくれるアルフ少年にお礼を言うと、トイレに行くだけなのに何故か変な人物に会ったら叫べとまで言われてしまった。トイレ、すぐ隣だよ? この至近距離で変な人が出たら逆に凄いよ。案外過保護だね、アルフ少年。お姉さんビックリした。


それはともかくトイレに向かうと、食堂にディルナンさんと共に青い作業服の馬鹿でかいスキンヘッドな強面マッチョマンが入って来た。設備部隊の隊長のヤエトさんだとディルナンさんに紹介されました。私も自己紹介するとヤエトさんが強面を緩ませた笑顔を見せてくれました。厳つい外見からは想像も付かない可愛さを見せて頂いて、ギャップ萌えにちょっと胸キュンです。

ディルナンさんに促されて自然に呼ばれていた事を思い出し、食堂を出て行く時に手を振ったらヤエトさんだけでなく後ろの青い作業服のお兄さん達まで手を振り返してくれたのは嬉しかった。


用を済ませ、顔を洗ってスッキリした気分で食堂に戻ってきたらヤエトさんはもういなくなっていた。…ちょっと大胸筋と頭を触ってみたかったです(ボソリ)




厨房に入り、さっきの場所に戻る。皮を剥いたオル葱や空のケースなんかはもう片付けられていて、代わりに別の新しいケースが置かれている。その上に包丁ケースと新しい布巾、ゴミ用と水を入れる用の小さなボールがそれぞれ設置されている。そしてすぐ側には空の樽。

それらを見ながらエプロンを巻き、ポーチを再び身に付けた所でディルナンさんがやってきた。


「ユーリ、今度はタシ芋の仕込みだ」

「お芋」


ディルナンさんが置いてあったケースの中から取り出したのは、ゴロンと大きなジャガイモ。その名もタシ芋と言うらしい。ディルナンさんが腰の包丁を抜きつつ、再び水の魔術でケースの側にあった空の樽に半分程水を入れる。流れる様な動作。


「皮を剥いて、凹みにある芽を抉ったら樽の中に入れろ。水に浸けておかないと芋の色が悪くなる。…オル葱と違って完全に包丁を使った作業になる。くれぐれも怪我だけは注意しろ」

「あい」


見本でタシ芋の皮を剥き、芽を抉って見せるディルナンさん。恐ろしく早く、剥いた皮が薄い。見事な職人技だ。


「これからは、他の連中が自分の作業を終えたら仕込みに合流してくる。何か分からない事があったら聞くんだ」

「あ、たいちょ」


教え終え、ディルナンさんが自分の作業に戻ろうとするのを慌てて呼び止めると左手を出して貰った。

ポーチに入れておいた、エリエスさんに貰ったお菓子。それを人数分取り出し、ディルナンさんの左手に乗せる。

本当はお昼に配ろうとしたけど、お昼は二部交代制だったし、私が昼食後直ぐに寝ちゃったからな。


「おやつ」

「…お前のだろう?」

「おいしーのは皆で食べるのー」


それに、これ、半生菓子だし。早く食べないとダメになっちゃう。

賄賂だなんて、そんな事はありませんよ? えぇ、多分。


「そうか。ありがとうな」


ディルナンさんに笑顔で頭撫でられました。うわーい、賄賂の効果抜群。







ディルナンさんからおやつが行き渡り、あちこちからお礼の声が上がる。そのお礼は私よりもエリエスさんにお願いします。

エリエスさんに貰った可愛らしく包装されたカステラの様なケーキは、とても高級な素材を使っていると直ぐに分かるお味でした。だって、甘みがちっともくどくないもん。凄く良い甘味料だと思う。砂糖でも蜂蜜でも、良い甘味料って高いんだよ。味が違うから納得だけどね。


うまうま食べてたら、他の人達から物凄く生暖かい目で見られてたけどキニシナーイ。


丁度食べ終わる頃、オルディマさんがカップにレモンらしい物の欠片を浮かべた水を用意して甘い笑顔付きのお礼を添えて渡してくれた。甘いもの食べた後の口の中がサッパリしました。気分もとても清々しいです。賄賂の効果その二だよ。ありがとう、エリエスさん。




おやつタイムが終わった所で、午前中にお世話になったペティナイフを取り出す。刃に全く鈍りが見られない。ボールに水を入れて準備を整えたら、早速作業に移る。

ディルナンさんには言われていないけど、どうせ皮を剥いたら水に入れるタシ芋だ。オル葱にしたみたいにケースに水の玉を入れ、軽く洗った。タシ芋を手に取ると、完璧ではないが大まかな汚れが取れていて良い感じ。水に浸けている時と違ってビショビショじゃないし。後は剥いた後に汚かったら軽く濯いで樽に入れればいい。

よし、午後の作業開始!


…って意気込んだのは良かったけど、子供の不器用さを舐めてました。

手が小さいから、大きなタシ芋を持つのが大変。そして何より、思った通りにナイフを動かせない。

取り敢えず皮の薄さとスピードよりも安全を重視しております。これまでのベストの感覚にこの体でどこまで近付けるか。食材とナイフの持ち方、角度、色々試しながら慣らしていくしかないな。これじゃ納得できる皮剥きが出来る様になるのにどれだけ時間が掛かる事やら。とほり。


それにしても、素朴な疑問。この世界には、集団調理に使う様な器具は無いのかな?

大量調理施設だと、ジャガイモは専用の皮むき機があった。表面が軽石みたいなドラム式の機械にジャガイモを入れて接続したホースで水を流しながらゴロンゴロンドラムを回転させると、皮が摩擦で剥けるんだよね。…ディルナンさん達に提案してみてOK出たら、鍛冶部隊に機械部分を魔術で代用して作って貰うのも良いかもしれない。でも提案出来るのはもう少し後だな。




「ユーリ、手伝うぞ」


一生懸命皮剥きに勤しんでいたら、作業の終わったらしい兄さん二人がやって来た。お昼、シュナスさんとオッジさんと共に後半に食べていて、朝も忙しそうで挨拶出来ず仕舞いだった二人。

三馬鹿トリオの兄さん達と違って黙々と仕事をしている印象だった。


「…悪くないな」

「比較対象が悪すぎる」


一人がゴミ箱の剥き終って捨てていた皮を手に取って呟く。それに注意するもう一人。…一体何と比較されてるんでしょうか?


「う?」

「「何でもない」」

「??」

「…俺はラダストールだ」

「ディオガだ。覚えられるか」


あれ、何か話逸らされたっぽいんだけど。…初回だから、突っ込まない方向にしておこう。

それに、名前分からなかったから自己紹介してくれたのはありがたいし。


「ラダしゅ・・トーりゅ・・しゃんと、ディぉガしゃん?」

「……ラダでいい」

「……ディーでいい」

「ラダしゃんとディーしゃん。ユーリでしゅ。おそくなりまちたが、よろしくおねがいします」


略称を許可してくれたので素直にそっちに変更。呼びつつ挨拶したら、二人に頭撫でられた。

ディオガさんが外に自分達の仕込み用のタシ芋のケースを取りに行くと、ラダストールさんが私のケースを覗く。進行状況ならかなりのスローペースですよ。


「ユーリ、タシ芋を濡らしたのは何故だ?」

「土でよごれちゃうの。だから、先に少しあらったー」


ラダストールさんがその間に私の皮を剥いているタシ芋が入っているケースから一つ取り出し、聞いてきた。別に知られて困る事じゃないから大人しく答えると、ラダストールさんが納得の表情を浮かべる。


「ラダしゃんは洗わない?」

「皮を剥いた後に洗いがてら水を替えるから必要ない。それに汚れが酷ければ途中で水を替える。…だが、悪くない」


成程、今張ってる水が洗い用の水なんだ。それなら私も納得する。けど豪快だな。

そんな事をお互いに納得していると、ディオガさんがタシ芋のケースを二ケース抱えて戻ってきた。オルディマさんといい、怪力の人が多いな。

ディオガさんがケースを置くと、ラダストールさんがさっそく私と同じ様に水の魔術で軽く汚れを洗い出す。これには何事かと目を丸くするディオガさんにラダストールさんが私のケースを示しながら説明する。


「成程な」


二人が早速ケースからタシ芋を取り出して皮を剥き始める。

ディルナンさん並みのペースと仕上がり。軽く私の五倍速って言ってもおかしくない。これなら機械が発達する筈が無い。異様な程に早いよ。


「慣れれば早くなる。焦らなくていいから怪我をするな」

「血塗れの水に浸かった芋を使う方が嫌だぞ」

「…あい」


…兄さん方、私はそんなに分かりやすいですか?でも、怪我しても痛いだけだしな。血塗れになった芋が料理に使われるのは私もご遠慮申し上げたい。


シャシャシャっと小気味良い音に紛れて、ショリ…ショリ…と私ののんびりな皮剥き音がする。

ラダストールさんもディオガさんも余り喋るのが好きでも得意でも無いみたいで、黙々と仕事してる。でも、ちっとも嫌な沈黙では無い。

少しして、さらにオルディマさんとシュナスさんが仕込みに加わってくる。

二人は近くの調理台でタシ芋ではなく、人参な外見のベルモンと言う野菜の皮剥きに入った。


「おいこら、アニキ! さっさと仕込みに入れ!!」


シュナスさんがニヤニヤ笑いつつアルフ少年に発破を掛ける。


「アルフよりもサム、バース、カインが頑張らなきゃだよね」

「三馬鹿、アルフと同レベルか?」

「どんだけ調理部隊にいるんだ、お前達は」


そこに、オルディマさんが三馬鹿トリオの兄さん達に声を掛けると、ラダストールさんとディオガさんもオルディマさんに続いた。三馬鹿トリオの兄さん達、サム、バース、カインって名前だったんだね。…って、名前も三馬鹿じゃん! 余りのインパクトに一発で覚えたよ。絶対忘れないって、この名前。


「にーに、がんばれー」

「ユーリ…兄ちゃん頑張るからなっ」


取り敢えずアルフ少年を応援すると、何だかやる気になった様だ。良かった良かった。


「「「ユーリちゃん、オレ等は!?」」」

「三馬鹿! 手を動かせ!!」


でも、三馬鹿トリオの兄さん達はいい加減に学習した方が良いと思うんだ。昔堅気っぽいオッジさんの作業手伝ってる最中にこっち向いちゃダメだからね。


「…アイツ等、どこまでバカなんだ?」

「すっかり”三馬鹿トリオ”で定着してますよねー」


シュナスさんとオルディマさんが笑いつつ言うが、その手は高速稼働している。


「ユーリ、お前もアルフの応援なんざしなくていいから怪我するんじゃないぞ」

「あい」

「いい子だ。聞き分けの良い子供ガキは嫌いじゃないぜ」

「一生懸命で、仕事の出来る子はもっと好きでしょう?」

「愚問だな」

「ボクもふくたいちょ、しゅきー」


チョイ悪な感じがとてもイケてます、シュナスさん。というか、調理部隊の人達嫌いじゃないよ。


「…すげえやられた気と負けた気がするのは何でだ?」

「…天然は最強ですからね」

「「………」」


喋りながらでも高速稼働していた皆様、揃いも揃って何故に手が止まってらっしゃるの?


「ちなみに、ユーリ。他の連中はどうだ?」

「? しゅき」

「ジジイも?」

「大すき」

「…んじゃ、隊長は?」

「あいちてるー」


なんちゃって。って、全員微妙にバランス崩してないかい? 大丈夫??


「餌付けか? 餌付けの効果なのか??」

「…ユーリ、これからも美味い物食わせてやるからな」


シュナスさんがどこか悔しそうにしていたけど、続いたディルナンさんの言葉にどうでも良くなった。これからも美味しい物食べさせてくれるなんて、ディルナンさん本気で愛してる!


「若造が。ユーリ、じいちゃんが腕に縒りを掛けて作ってやるからな」

「あいっ!」


何ですって!? オッジじいちゃん、勿論着いて行きますとも!!


これからも美味しい物が食べられるという期待に胸を躍らせている間に、他の人達が再稼働してた。

…何だかよく分かんないけど、皆してやたらと気合い入ってるのね。よし、私も頑張ろうっと。

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