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別視点12 服に隠されていた物(カラフ視点)

本編11と14と内容が半分ほど重複していますが、話の重要なポイントを含んでいます。

今までに無い異例の速さで仕上げたコック服の検品を終えて衣裳部屋を飛び出すと、医務室に駆け込んだ。


「出来たわよー! コック服第一号!!」

「…早いな、カラフ」

「アタシ達は服飾のプロよ。型は決まってるし、サイズさえ分かれば…特に、ユーリちゃんみたいに小さい子の服なら、ちょちょいのちょいってモンに決まってるじゃない。手の込んだ服は小さい分逆に手が掛かるから、時間がある時にゆっくり作るわー」


驚くディルナン隊長に胸を張って答えると、ヴィンセント隊長が楽しそうな表情をしているのに気付いた。


「カラフ、依頼追加だ。ユーリのサイズで看護師服も頼む」

「んまぁっ! ユーリちゃんのって事は、スカートタイプの看護師服を作っていいのね!?」

「カラフさん、是非スカートタイプで」


ヴィンセント隊長とバクスの思い掛けない追加依頼に、思わずテンションがまた上がってしまった。忙しいけど嬉しい!


「スカートタイプって…可愛すぎて危ないだろう!」

「ディルナン、子供ですから可愛い方がいいじゃないですか」

「士気上げに効果覿面だな」

「じゃあ、スカートとズボンタイプ両方作るわね」


ディルナン隊長がバクスの言葉に渋ったが、アタシとしてはこうなったら答えは一つだけよ。両方作ると提案すれば、大人達が揃いも揃って頷く。そんな中、ベッドに起き上がっていたユーリちゃんだけは周囲について行けずにキョトンとしていた。寝顔も可愛かったけど、起きてる時は更に可愛いわね、この子。


「はじめまして、ユーリちゃん。アタシはカラフ、鍛冶部隊副隊長で服飾担当をしているの。よろしくね」

「はじめまして、ユーリです。…カラフ、おにいちゃま? おねえちゃま??」

「まっ、いい子ねぇ、ユーリちゃん。カラフおねえちゃまでいいわよぅ」

「おねえちゃま、よろしくなのー」


自分が奇抜と言われる存在なのは分かっているから笑顔を心掛けて自己紹介をすると、ユーリちゃんが思い掛けない問いを発して来た。それにいつも通りに答えると、不思議がりもせずに笑顔で受け入れられてしまった。

それだけでも驚きなのに、ユーリちゃんは一切エリエス隊長を振り返ったりしなかった。もう何かやらかした後なのかとエリエス隊長を見ると、私がエリエス隊長に絶対零度の笑みを向けられてしまった。美人だけど、ホントにおっかないんだから。その一方で、ディルナン隊長やヴィンセント隊長はユーリちゃんをどこか驚きの表情で見ている。…まさか偶然ではなく、分かっていてエリエス隊長を見なかったと言うの?


「…成る程ねぇ、空気をちゃあんと読めるのね。エリエス隊長が気に入る訳だわ」


思い掛けない対応に感心してそう漏らすと、ユーリちゃんがにっこり笑った。そのまま余計な事を言う気配さえ見せないユーリちゃんに、頭に過ぎった考えが強ち外れていない事を思い知らされる。こんなにも幼いのに、場の空気を読んでいるし対応も的確。頭の回転が速いとエリエス隊長が言っていたのは紛れも無い事実だと思い知らされてしまった。これは、ディルナン隊長とエリエス隊長が推す訳だわ。


「そうそう、ユーリちゃんのコック服が出来上がったのよ。試着してみてくれるかしら」


話を変えるべく此処に来た用件を笑顔で切り出すと、持ってきた出来たばかりのコック服をユーリちゃんに差し出した。


「北の魔王城の仕事着は全て特殊素材で出来ているわ。布だから軽いけど、その辺のアーマーなんかよりもずっと強いの。ユーリちゃんの身を守るには持って来いね。それに、汚れにも強いのよ」


コック服の性能を説明すると、ユーリちゃんに嬉しそうな笑顔で「ありがとー」とお礼を言われてしまった。外見もだけど、中身も可愛い子じゃないの。


「あら、大胆」

「おやおや」


コック服を受け取るなり、ユーリちゃんがその場で勢い良く服を脱ぎ始めてしまった。普通、少し隠れてとかするものじゃないの?と思ったけど、性別なんてあって無い様な年頃だったわ。実際、今のこの子に性別なんて皆無なんだけど、こういう所は年相応なのね。

ただ気になったのは、この子…守護輪を付けてるって事はかなり良い家格の子よね?普通なら周りに世話係がぴったり張り付いて全部の世話をするから自分で着替えるなんて出来る筈が無いのに。人目があっても平然と着替えてしまえるのは分かるけど……。どういう環境で育ったのかしら。

でも、これはある意味好都合だわ。ユーリちゃんが着替えに夢中になっている間に、脱ぎ捨てた服を回収して、持って行く許可を得る為にヴィンセント隊長に視線を送る。視線に気付いて小さく頷くヴィンセント隊長に、服を畳んでさり気無く抱え持った。さて、どうやって自然に持ち出そうかしら。


「できたー」

「…完璧な着こなしだな」

「サイズもピッタリね」


ボタンなんかに梃子摺って時間が掛かったものの、一人で見事に着こなしたユーリちゃんがベッドの上で嬉しそうに飛び跳ねる。


「ユーリ、前掛けは外しておけ。それは、厨房だけで着用するのが暗黙の了解だ」


そんなユーリちゃんにディルナン隊長がストップを掛けると、ユーリちゃんが大人しく従う。

エプロンを外して小さく畳んだユーリちゃんはどうするかを少し考え、ディルナン隊長を見たかと思うと、エプロンをお尻のポケットに押し込んだ。

まさかの行動に思わず「男らしい」と呟いたら、ユーリちゃんに嬉しそうに笑って「男らしいのー」と返されてしまった。何て事なの!


「こんなに可愛いのに、ディルナン隊長がそんなエプロンの入れ方してるからユーリちゃんも真似しちゃったじゃないのっ! しかも、”男らしい”なんて言われて嬉しそうなんてっっ!!」

「…悪ぃ」

「ダメよ、こんなの絶対に許せないわっ! 大急ぎでエプロンとハンカチを入れられるポーチを用意してくるっっ!!」


思わずディルナン隊長にこの憤りをぶつけると、ディルナン隊長が気まずそうに謝ってきた。でも、許せる筈がないじゃないっ。

ユーリちゃんの服を持ち出す良い口実にはなったケド、更なる追加注文の山を抱えて医務室を飛び出す羽目になった。




衣裳部屋に戻って追加注文を伝えると、歓喜の悲鳴が上がった。

書類部隊と医療部隊の作業着は明日に回す事にして、小物担当の隊員に動きやすさを重視したポーチの作成を、他の隊員達に寝巻きや下着、靴下等を手分けして作成していく様に指示を出せば嬉々として隊員達が動き出す。中には鼻歌を歌う者、スキップして生地置き場に入っていく者達さえいるのが愉快だわね。

作成を指示し終えた所で衣裳部屋の中にあるアタシ専用のスペースに入ると、回収したユーリちゃんの服を机に広げる。


「…デザインはシンプルだケド、生地は青嵐織せいらんおりじゃない。縫製も上等。こんな服、おいそれと子供に着せたり出来る物じゃないわね」


デザイン、布地、縫製…己の持てる知識と照らし合わせていく。結果として、態と特殊生地で作った物をユーリちゃんに着せていたとしか思えない。


青嵐織は見た目だけは絹に似ているが、絹よりも一段上の素材を特殊な方法で紡いだ糸を超一流の職人が丹念に織り上げた値段・材質共に特別な生地。東の魔王領の王都でしか作られておらず、東の魔王領の代表色と通気性の良さを表現してその名が付けられている。アタシならこれだけの物をこんな使い方は絶対にしない。それこそ魔王様に謁見するレベルの機会に、特別な染色をして服を作るわ。


「これを用意したのは余程の馬鹿か、敢えてそうしたって事よね」


もしも、自分がこれを用意する立場だったならと仮定してみる。考えられる事態は大きく考えて二つ。そして、もし後者ならば…


「逆らえない立場の人物からの命令。それでも、万に一の可能性に掛けてギリギリのラインで逆らったって所かしら? 素人目には普通に見えて、専門家なら布から土地の特定がし易い。あら、イヤだ。それで言ったら、ユーリちゃんは東の魔王領の王都に屋敷を構える大貴族って可能性が大きくなっちゃうじゃない」


考えていて出て来た可能性に、悪寒を覚える。

東の魔王領は最年長にして最強と言われている魔王が完璧に統治している。その王都と言ったら北の魔王領とは全く違い、血筋が物を言う権力の魑魅魍魎の巣窟。そこでのお家騒動の凄惨さは魔族でさえ眉を顰める。


「…いいえ、まだそうと決まった訳じゃないわ。それに、まだ靴がある。その情報も合わせてヴァス隊長に知らせないと」


嫌な考えを振り払い、ユーリちゃんの服を鍵付きの棚に仕舞うと衣裳部屋の作業に合流すべくアタシの専用スペースから出た。







出来上がったポーチや寝巻きに下着一式、作業靴を見て隊員達が盛り上がる。丁度作りかけだった清掃部隊の隊員の作業靴と並べると、余りの小ささに更に盛り上がったわ。

出来上がった物を袋に入れて、三度医務室に向かう。


「ヴィンセント隊長、丁度良かった」


医務室に近づくと、丁度目の前からヴィンセント隊長が歩いてきた。その腕の中にユーリちゃんがいる事に気付く。方角と時間的に、食事にでも行ってきたのかしら?その目は泣き腫らして真っ赤になっていた。近くにディルナン隊長の姿が無く、思わず問い掛けるとユーリちゃんの瞳からまた涙がポロポロと零れ出してしまった。


「ヴィンセント隊長?!」

「ディルナンはユーリの日用品の注文に一人で行かせた。この子の体力を考えたら、もう風呂に入れて寝かせる時間だからね」


これには驚きの余りヴィンセント隊長を見ると、苦笑してユーリちゃんの涙をタオルで拭きながら答えてくれる。その言葉に納得していたら、ユーリちゃんをあやしつつヴィンセント隊長がアタシを見た。


「それで、カラフ、何か出来たのか?」

「えぇ、寝間着用のワンピースと着替えの肌着でしょう? それから明日の靴下も。靴は鍛冶部隊ウチの靴担当がさっき仕上げてね。もー、あんまりにも可愛らしいサイズだから、服飾担当達で凄い盛り上がったのよ。近い内に、帽子担当がユーリちゃんに作りたいって言ってたわ。それと、さっき言ってたエプロンを入れるポーチ。ハンカチはポーチに入れておいたわぁ」

「そうか。折角だから見せてくれ」

「勿論よー。」


持ってきた袋を掲げて見せると、ヴィンセント隊長に医務室に通された。

ユーリちゃんが休んでいたベッドに再びユーリちゃんを下ろすヴィンセント隊長。その広く空いた足元のスペースに持ってきた物を広げていく。ついでに、ポーチにユーリちゃんのエプロンを入れておいた。


「これでユーリを風呂に入れた後に綺麗な服を着せてやれるな。助かった」


出来た物の品質を確かめたヴィンセント隊長の合格の言葉に、少しだけホッとする。


「今回は急ぎだったからシンプルな物ばかりだけだけど、絶対に可愛い寝間着なんかも作らせて貰うわー。

それにしても、お洒落なレース編みやドレープを使った可愛らしいワンピースやドレスを真剣に一から構想して作るなんて昨日まで諦めきってたのに、ユーリちゃんが来てくれたお陰で色々な服が作れるのよ。それに合わせた可愛い靴に、装飾品類…アタシ達鍛冶部隊の服飾担当の腕が唸るってモノよ。こんな嬉しい事って無いわっ」

「…まぁ、昨日までの北の魔王城でワンピースやドレスなんて言ったら、大概が罰ゲームの為の仕様も無い使用目的だからな。極々まれに、カイユ様のお相手のドレス位か?」

「そーなのよ、ヴィンセント隊長! アタシ達だって作るからには気合を入れて作るんだから大切に着て欲しいのに、そのどれもが精々一、二回程度着られただけでお払い箱よ!! 折角面白い生地とか試供品で一杯貰ってるのに、通常業務で作るのは作業着ばかりっ。だからこそ、ユーリちゃんはアタシ達の希望っっ。こーんな可愛らしい子着飾らずして、一体何を着飾るのよー!!?」


ユーリちゃんの服について語ってたらまた熱くなっちゃったけど、ユーリちゃんの涙が少しだけ治まった気がした。よかったわ。あんなに泣いてたら涙と一緒に綺麗な瞳も零れちゃいそうだったもの。ヴィンセント隊長もそう思ったのか、更に話題を振ってきた。


「そんなに色々な布があるのか」

「あるのよぅ、ヴィンセント隊長。貰った生地の中には深緑色のベルベットとかすんごい上等な布もあるんだけど、カイユ様は日常的には余計な飾りの無い黒系統の服しか着用されないし。大人の女性物を作るには生地が足りないし、仮装用の為に使うにはたとえ一部でしか使わなくても勿体無さ過ぎ!

使われる事無く埃被って古くなっていくだけの生地なら、ユーリちゃんに可愛いワンピース作って着せた方が生地だって喜ぶわ。それでエナメルの靴を履いて、リボンで髪を飾って、ベッシュのぬいぐるみ状のリュックを背負わせるの」

「それは確かに最強に可愛いな」

「たとえ休みの日にしか着られなくても、それで城の周辺の集落にお披露目するの。なんなら、ヴィンセント隊長の奥様に可愛く飾って会わせてあげれば奥様だってとっても喜ぶと思うわ」

「嫁が手放さなくなりそうだが、実に良い」


色々やりたい事を語っていると、ヴィンセント隊長が凄く乗り気になってくれた。これは強力な理解者を得られたかもしれないわね。ヴィンセント隊長が味方ならとっても心強いわ。

そんな中、ユーリちゃんが落ち着いたら眠くなっちゃったらしくて小さな手で目を擦り始めた。


「そろそろ戻って、また次の作業に取り掛からなきゃ」

「そろそろ医務室の風呂の準備も出来るし、入ってから休もうな」


暇のタイミングが来ちゃったみたいね。ヴィンセント隊長が入浴に必要な物を持ったのを見て、他の物を片付けていく。出来たばかりの作業靴と今までユーリちゃんが履いていた靴を取り替えた。


「また明日、服を持って会いに行くわね、ユーリちゃん」

「…あい」


手を振ると、眠そうにしながらもユーリちゃんがきちんと応えてくれた。それを見てから靴を手に医務室を後にした。




衣裳部屋に戻ると、残業組以外は上がる様に促して再びアタシの専用スペースに入る。

服に続いて、靴のデザインに素材や縫製なんかもシンプルだが高級品である事を確認した。その途中で発見してしまった物に、思わず椅子に座り込んだ。


「…なーんで当たって欲しくない予想の方が当たってくれるのかしらねぇ」


思わずそうボヤかずにはいられなかった。

机から手にしたのは、調べる為に靴から取り出した中敷き。その裏には、どす黒いインクで模様に見せかけた伝言魔術が仕込まれていた。服飾の関係者でもスペシャリストしか知らない特殊魔術。

決められた法則に従って魔力を流すと、魔力の文字が宙に浮かび上がる。




―――東の魔王領に入れば命を狙われる。決して近付けるな―――




「この魔力の含有量は、インクじゃなくて間違いなく血ね。しかも、絶対に消えない様に書き込むんじゃ無くて針で刻み込んでる。相当必死だったのね」


縫製の癖をみるに、製作者は明らかに複数。全員が協力してユーリちゃんの為にある物を最大限に使い、工夫を凝らした事は明白だった。製作者達にとって、ユーリちゃんは間違いなく大切な存在だったんだわ。


「ヴァス隊長に報告に行かなきゃ…」


アタシが得た情報を伝えるべく椅子から立ち上がると、ユーリちゃんの身に付けていた服と靴を手に情報部隊へ歩き始めた。

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