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別視点09 ヴィンセントの考察 後編(ヴィンセント視点)

本編11~本編14と内容がほぼ重複しています。嫌な方は飛ばして下さい。


「そうそう、ユーリちゃんのコック服が出来上がったのよ。試着してみてくれるかしら。

北の魔王城の仕事着は全て特殊素材で出来ているわ。布だから軽いけど、その辺のアーマーなんかよりもずっと強いの。ユーリちゃんの身を守るには持って来いね。それに、汚れにも強いのよ」


今までの流れを断ち切る様にカラフがユーリに作ってきたコック服を差し出し、服の説明を簡単にする。それを聞き、ユーリが礼を言うと今まで着ていた服を豪快に脱いで着替えていく。

小さな手で必死に着替え、ボタンを止めていく。

…守護輪を与えられる家格で、この年で自分で着替えられるとなると、良い環境に置かれていたとは考えられないな。普通は使用人が全ての世話をしている筈だ。


そんな事を考えていると、カラフがユーリが脱ぎ捨てた服を回収し、視線を向けてくる。

服から情報を探る気だと直ぐに気付いた。小さく頷くと、畳んだ服をさり気無く抱え持つ。


「できたー」

「…完璧な着こなしだな」

「サイズもピッタリね」


だと言うのに、ユーリは新しい服に嬉しそうにベッドの上で飛び跳ねていた。

ディルナンが感心して言う通り、時間は少し掛かったが綺麗に着こなせている。


「ユーリ、前掛けは外しておけ。それは、厨房だけで着用するのが暗黙の了解だ」


ディルナンの注意に、ユーリが大人しくエプロンを外すとディルナンを見てから丸め、ズボンの後ろポケットに押し込んだ。ディルナンの真似をしたらしい。

思わずといった感でカラフが「男らしい」と呟くと、ユーリが嬉しそうに笑った。

これには、カラフが大きなショックを受けたらしく、ディルナンを睨みつける。


「こんなに可愛いのに、ディルナン隊長がそんなエプロンの入れ方してるからユーリちゃんも真似しちゃったじゃないのっ! しかも、”男らしい”なんて言われて嬉しそうなんてっっ!!」

「…悪ぃ」

「ダメよ、こんなの絶対に許せないわっ! 大急ぎでエプロンとハンカチを入れられるポーチを用意してくるっっ!!」


言うが早いか、再び医務室を飛び出して行ったカラフ。

ユーリは何が起こったのか分かっていないらしく、目を瞬かせている。


「さて、話も終わりましたし、私もそろそろ仕事に戻ります」


しかし、エリエスがカラフに続いて出て行く為に席を立つと、寂しいと言う感情は表情には出さなかったがユーリの瞳が微かに揺れた。

驚いた事に、こんな幼子が自分の感情を押し殺す術を身に付けているらしい。


……失われた記憶の中で、この子は一体どんな環境で暮らしていたと言うんだ。幼子と言うには余りにも異常があちこち目立つ。

まるで子供でいる事が許されていなかったかの様な言動だ。


「…そんな可愛らしい顔をしていると、さっそく連れて行ってしまいますよ? 大丈夫、私はこの北の魔王城にいます」

「あい…」

「ユーリは書類部隊の一員なんですから、いつでも私の執務室にいらっしゃい。ディルナンに愛想尽かしたらずっといてもいいんですからね」

「誰が渡すか!」

「ふっ、精々ユーリに愛想を尽かされない事ですね。では、ユーリ、仕事の日を楽しみにしていますよ」


エリエスはそんなユーリの瞳の揺れに気付き、そっとその頬を撫でる。

元々仕事に関係無く、人の感情を見極めて操る能力はずば抜けているヤツだ。

ディルナンをからかう事でユーリの瞳の揺れが収まったのをしっかり見届け、エリエスが颯爽と医務室から出て行った。

その鮮やかな手並みは流石としか言い様が無い。


「ユーリ、ディルナンに愛想を尽かしたら、医療部隊でも良いからな」

「おい、こらオッサン。テメェまで何を吹き込んでやがる」


念の為に私もディルナンをからかって告げると、ユーリが微かに笑みを浮かべた。

…それが嬉しくて、ついついこの後ディルナンで遊び過ぎた感があるのは否めない。




「さて、冗談はこれぐらいにして、ユーリに聞きたい事があるんだ」


気が済んだ所でユーリもすっかり落ち着いただろうと本題に入ろうとするが、ユーリはディルナンを心配そうに見つめている。


「ディルナンの事なら心配はいらないよ。…君は本当に可愛い子だね」


他人の気遣いもが出来るのはこの子の長所だろう。己の身の安全を守るという面では短所にもなりかねないが。


「ユーリ、君の記憶の始まりを言えるかな?」

「…んとね、おにいちゃまに会った日。目が覚めたら凄くお腹がすいてて、のど渇いてた。お水をさがして飲んで落ち着いたら、おかしかったの。何にもわからなかった。

 ―――ボクはだれだろう? どうしてあんな所にいたのかな…」


記憶喪失について、本人からどの程度の認識があるのかを確かめる為に問い掛ける。

すると、ユーリが少し考えて口を開いていく。だが、この子は幼くとも賢すぎたらしい。

話ながらどんどん考えの深みに嵌って行くのが目に見えて分かる。

自分自身が誰なのか分からず、誰よりも己を疑い、様々な不安の色が濃くその大きな瞳に浮かび上がっていた。今まで必死に考えない様にして己を誤魔化していたのか。


それでも感情に任せる様子は無い。大人でさえ取り乱してもおかしくないというのに。


「ユーリ、分からなくていいんだ。ただ、どこまで分かってるのかを聞きたかっただけだからね」

「え…?」

「ディルナンが北の魔王城へ連れて来て、エリエスが仮とはいえ入城許可を出した。その時点で君は此処で働く資格を得ている。だから投げ出される事も無いし、どうしても正式許可が出なかった時は私の家においで。子供は成人して家を出ているし、嫁さんも子供好きだからな。料理を習いたければその時に方法を考えればいい」

「…でも」

「いいんだよ。子供は素直に甘えて、難しい事は大人に任せておきなさい」

「ふぐ」


見かねてストップを掛けて気楽になる様にと提案したが、ユーリ自身が己の状況を冷静に認識していて遠慮しようとしていた。

そんな反応をするのは、記憶は無くとも無意識下にこれまでの環境が影響している。子供らしくないだけでなく、ここまで甘える事を知らないとは。


力加減をしつつ頬を摘んで考えを無理矢理断ち切らせる。

放して欲しくてじたばたしてるが、完全に考える事を止めさせてからでないとダメだろうな。

この子の場合、色々と考えてどこまでも我慢しかねない。

大人がこの子の瞳に浮かぶ色をしっかり見て、押し殺そうとする感情を認識してやる必要がある。


「ふむ、こうやっても可愛いとは中々の小悪魔になりそうだね」


逃れようと必死にもがくユーリも実に可愛らしく、そのまましばらく構っていた。







少し早い時間だが夕飯を取る事になった。


この後の事を考えて念の為に必要になりそうな薬を注射器と共にケースに入れてポケットに入れる。それに気付いたのは、バクス唯一人。


ユーリを抱き上げて食堂へと向かう最中色々な話をしていたが、ユーリは疲れきっていて腕の中でグッタリしていた。




食堂に着くと、ディルナンとバクスが食事を取りに行き、私がユーリと共にテーブルを確保していた。

椅子に座って暫くして、ユーリが厨房を見てニコニコ上機嫌に笑みを浮かべた。

視線の先にいたのは、調理部隊の大ベテランのオッジ。

オッジも笑顔のユーリを見て、いつもの不機嫌顔が嘘の様に穏やかな表情をしていた。


食事を手に戻って来たディルナンがそんなユーリに不思議そうに声を掛ける。

バクスは笑顔のユーリの可愛らしさに悶えるのを堪えていた。

理由をユーリの代わりにディルナンに伝えると、ディルナンだけでなくバクスも驚きに目を丸くする。

ユーリはオッジの厳つい外見に全く怯えた様子を見せない。


「オッジ老は大の男でも怖がるヤツもいる位ですからねぇ」

「う? …おじーちゃん怖くないよ??」


バクスが代表的意見を口にしても心底不思議そうな表情をするユーリにディルナンが感心すると、ユーリが満面の笑みを浮かべて特大の爆弾を落とした。


「おじーちゃん、だいしゅき」


ユーリの放った一言は肉体的被害は皆無だが、精神的被害が最大級だった。

可愛らしさは此処まで威力を発揮するのか。

ディルナンとバクスが食事のトレーをテーブルに置きかけて硬直し、周囲に至っては妙な表情で今にも狂喜乱舞するのを必死に堪えていた。

私も気付いたらユーリの小さな体を膝の上に抱き上げていたが。


「大好きなのかい?」

「あい。だいすきー」


もう一度極上の響きを聞きたくてユーリの顔を覗き込みながら問い掛けると、可愛らしい事この上ない笑顔で私の為だけにその言葉を聞かせてくれた。最高だ。

思わず我慢出来ずに小さな体を抱き締めると、バクスとディルナンを筆頭に食堂中から殺気の篭った目で睨みつけられた。だが、痛くも痒くも無い。


あぁ、「大好き」の後に「ぱぱ」とつけて貰える様になるにはどうするべきか。

本気でこの子を私の家の子供にしたい。


だがそんな時間も長くは続かず、ユーリのお腹の虫と言葉での訴えで食事を思い出す。

ディルナンが一息吐いてユーリの食事を差し出すのを見て、思わず笑いそうになった。ユーリ専用の食器が用意されていたのだ。

恐らく、昼食の後に鍛冶部隊に特急依頼を出したのだろう。特殊魔術がどれだけ使われた事やら。


テーブルの高さの関係上、ユーリを膝の上に乗せたまま食事が始まると、食事にキラキラと瞳を輝かせたユーリが懸命に咀嚼しながら食べ進めていく。

食べ方もきちんと躾けられているし、零したり汚したりも殆ど無い。ユーリのテーブルマナーは大人顔負けの立派な物だ。

バクスはユーリの食べる姿を可愛いとしか思っていない様だが、将来子供を持てばユーリがどれだけ並外れた子供かが分かるだろう。


「ユーリちゃんの存在がティチスみたいだ」

「外見だけならな。オッジのジジイを「大好き」なんて言える以上に、オレの騎獣に最初から懐く様な大物だぞ」


それに対して、食べ進めるユーリを見ながらディルナンは感心半分、呆れ半分に零す。

その内容に、思わずバクスと二人で問い返してしまった。

ディルナンの騎獣と言うと、あの・・レツだ。


「ユーリはレツの大のお気に入りになっちまってるし、ユーリもレツを全く怖がらない。レツの毛皮をベッド代わりにして平然と昼寝してた位だ。それを見たから、エリエスが仮入隊許可を出した」


ユーリの仮入隊許可を出したエリエスの根拠を教えられ、思わずバクスと二人そろって沈黙する。

それはさぞや衝撃的な光景だっただろう。私は想像すら出来ない。

当のユーリはそれがどれだけ凄い事なのか知る事も無く、我関せずで幸せそうに夕飯を食べ進めていた。

それでも一足先に私達が食べ終わったが、ユーリの様子を見て待つ時間はとても早く感じる。


「さ、ユーリ、医務室に戻ろうね。ディルナンとバイバイしようか」

「…ふえ?」


しっかりと完食したユーリを見て私が声を掛けると、ユーリが目を瞬かせた。


「ユーリはそろそろ休む時間だ。私が責任を持って預かって置くから、お前はさっさと用意をして来い」

「ちっ、分かってる」


まだ状況が掴めていないユーリを他所にディルナンを促すと、ディルナンが舌打ちをしつつも大人しく頷く。

そんなディルナンにユーリの瞳にあっという間に涙が浮かび、ボロボロと涙を零し始めた。

いきなり泣き出してしまったユーリに、ディルナンが本気でうろたえる。

冷静沈着で通っているこの男が此処まで焦った表情を他人に見せるのは非常に珍しい事だった。

ディルナンはユーリにとって自分がどういう存在か全く分かっていなかったらしい。


「普通、保護者と引き離されるとなると、子供は不安になって泣き喚いて抵抗する。それが当たり前だ。駄々を捏ねる様なら鎮静剤の投与も考えていたが、この子には必要無いな。

可哀想だとは思うが、今のユーリの体力を考えるとこの後もお前に同行させる事は医者として許可できん」


年長者として、保護者の先輩としてディルナンにしっかりと釘を刺しておく。

ユーリの最悪の反応を考えて食堂に持ってきたのは、鎮静剤。

私の用意していた対処法にディルナンが呆然とするが、バクスがディルナンに頷いてみせる。


ディルナンとエリエスではユーリにとって比重が違う。

記憶を失い、極限状態にあった己を救ってくれたディルナンはユーリにとって支えも同然だった筈だ。

いくら異常な程に内面が発達しているとは言え、やはり子供は子供で本能の方がどうしても強い。ここで強い不安を訴えて子供らしく泣き喚いても仕方の無い事だった。

流石に涙を我慢する事は出来なかった様だが、それでもユーリの自制は相当の物だった。此処まで来ると、感嘆せずにはいられない。


「…明日の朝、迎えに行くからな。しっかり寝ておくんだぞ」

「あい、にーちゃ…」

「よし、いい子だ。…ヴィンセント、くれぐれも頼んだぞ」


亜空間からタオルを取り出し、ディルナンがユーリの顔を拭きつつ声を掛ける。

そんなディルナンに懸命に答え、必死に様々な言葉を我慢するユーリ。

ディルナンがそんなユーリの頭を撫でるとタオルを渡してきた。何も言わずに受け取り、ユーリをしっかり抱き上げる。

これ以上別れを引き伸ばしてユーリの我慢を無駄にしない為にも医務室へと足早に向かう。


ぐずりつつも何の我が儘も言わず、ただ私の白衣にしがみつくユーリの様子が酷く痛々しく、胸に迫るものがあった。







医務室に戻ると扉の所でカラフに声を掛けられた。


泣き腫らした目のユーリに驚いたカラフが思わずディルナンの名前を出すと、ユーリの瞳から再び涙が溢れる。

これにはカラフも慌てたが、状況を説明してやれば納得して落ち着きを取り戻した。

またまたやって来た理由を尋ねれば、ユーリの着替え等を用意して来てくれたとの事だった。

風呂に入れた後に、きちんとした清潔な服を着せてやれるのはありがたい。

医務室に入り、ユーリをベッドに下ろしてから足元の有り余っていたスペースに出来立ての物を並べるカラフは非常に嬉しそうだった。


「それにしても、お洒落なレース編みやドレープを使った可愛らしいワンピースやドレスを真剣に一から構想して作るなんて昨日まで諦めきってたのに、ユーリちゃんが来てくれたお陰で色々な服が作れるのよ。それに合わせた可愛い靴に、装飾品類…アタシ達鍛冶部隊の服飾担当の腕が唸るってモノよ。こんな嬉しい事って無いわっ」

「…まぁ、昨日までの北の魔王城でワンピースやドレスなんて言ったら、大概が罰ゲームの為の仕様も無い使用目的だからな。極々まれに、カイユ様のお相手のドレス位か?」

「そーなのよ、ヴィンセント隊長! アタシ達だって作るからには気合を入れて作るんだから大切に着て欲しいのに、そのどれもが精々一、二回程度着られただけでお払い箱よ!! 折角面白い生地とか試供品で一杯貰ってるのに、通常業務で作るのは作業着ばかりっ。だからこそ、ユーリちゃんはアタシ達の希望っっ。こーんな可愛らしい子着飾らずして、一体何を着飾るのよー!!?」


カラフの心の琴線に触れまくっているらしいユーリに、カラフのテンションが上がっていく。

その勢いにユーリの涙が少し収まった気がした。

もう一頑張りしてもらうべく話を振る。


「そんなに色々な布があるのか」

「あるのよぅ、ヴィンセント隊長。貰った生地の中には深緑色のベルベットとかすんごい上等な布もあるんだけど、カイユ様は日常的には余計な飾りの無い黒系統の服しか着用されないし。大人の女性物を作るには生地が足りないし、仮装用の為に使うにはたとえ一部でしか使わなくても勿体無さ過ぎ!

 使われる事無く埃被って古くなっていくだけの生地なら、ユーリちゃんに可愛いワンピース作って着せた方が生地だって喜ぶわ。それでエナメルの靴を履いて、リボンで髪を飾って、ベッシュのぬいぐるみ状のリュックを背負わせるの」

「それは確かに最強に可愛いな」

「たとえ休みの日にしか着られなくても、それで城の周辺の集落にお披露目するの。なんなら、ヴィンセント隊長の奥様に可愛く着飾って会わせてあげれば、奥様だってとっても喜ぶと思うわ」

「嫁が手放さなくなりそうだが、それは実に良い」


…ユーリの気を逸らす為に振った話だったが、思いがけず素晴らしい案を出されて私も乗り気になってしまった。

だが、狙いは悪くなかったらしい。

少し落ち着いたら今度は眠くなったのか、目を手の甲で擦るユーリ。

そんな姿にカラフが手早く持ってきた物で必要な物以外を片付ける。その際、前の靴を回収する事も忘れない。

カラフが暇を告げて出て行くのを見送った所で、奥にある風呂場へとユーリを連れて行った。




風呂の前に行ったトイレに危うく落ちかけたユーリ。

上がった小さな悲鳴に駆けつけて見てしまったまさかの年相応な姿に、放っておく事など出来なくて全部の面倒を見てしまった。


鏡台の椅子に座らせて柔らかな髪の毛を丁寧にタオルで乾かす。

魔術で乾かすよりも、幼子の小さな体には此方の方が負担が圧倒的に少ないからだ。

全ての作業が終わる頃にはユーリは眠気に半分以上飲み込まれていた。

そんなユーリをベッドに寝かせ、子守唄を聞かせるとあっという間に寝付く。

それを見届けて、着ていたコック服を魔術で綺麗にしてから畳んでベッドの横の棚にポーチ等と一緒に入れた。


「隊長」


いつの間にか戻っていたらしいバクスがそっと顔を出す。


「少し出て来る。暫く頼むぞ」

「分かりました。ちゃんと見ています」


バクスに声を掛けると、医務室から出る。


向かう先はまず書類部隊のエリエス、続いて設備部隊。…流石のディルナンもユーリのトイレの準備まではしていないだろうからな。

ユーリの健康に関わる事だ。エリエスも許可を惜しまないだろう。







思った通りにアッサリと用事を済ませて医務室に戻った所でバクスを上がらせる。

他の昼勤の隊員達は既に上がっており、夜勤の者も隣の当直室で休んでいた。


一人医務室の奥で細々とした雑務を片付けていると、ふとユーリのいるベッドから泣き声が聞こえてきた。

駆けつけるとどんな悪夢を見たのか、酷く怯えて声を上げて泣きじゃくる姿があった。

その小さな体を抱き上げてあやしていると、泣き疲れた事もあり、暫くして再び眠りに就く。







一体どんな生活を送っていたらこんなにも内面が大人びた子供になるのだろうか。

失われた記憶の中で、この子は一体何を背負わされていたのだろうか。

私に分かるのはこの目で見て、感じた事のみ。

ただ余りにも異質で、同時に余りにも憐れな幼子と言う事だけ。




この先の事など誰にも分からない。

だが、この子にとって少しでも楽しく、優しい日々である事を『何か』に祈らずにはいられなかった。

【補足説明】魔族にとっての魔術の位置付け

 魔族にとって魔術は攻撃手段であると同時に、生活に密着しています。その為、職人達それぞれが仕事に扱う為に特化させた特殊魔術が数多く存在しています。仕事の異様な完成速度はこの為。また、特殊魔術から魔道具と呼ばれる生活機器にも発達。この辺は本編にて後ほど詳しく描いていきます。

 魔力持ちの魔獣も感覚的には魔族と同じく。レツも風系統の魔術を扱えますが、攻撃手段以外では空を駆ける時の空気抵抗の軽減等といった行動の補助に扱います。

 『特別な力』扱いしているのは人間だけ。

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