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14 黒い歴史の一ページ

微妙に下品な内容が含まれます。苦手な方、食事中の方はご注意下さい。

ぐずりつつ、ヴィンセントさんに抱っこされて医務室に戻ってきました。


「ヴィンセント隊長、丁度良かった」


医務室の扉を潜ろうとしたら、後ろからカラフさんの声が。

声に釣られて振り返ると、カラフさんがひどく驚いた表情になった。


「どうしたの、ユーリちゃん。お目々が真っ赤じゃないの。ディルナン隊長は何をしているの?」


ディルナンさん…。

名前を聞いたらまた泣けてきた。今まで失恋した時だってこんな事無かったのに。


「ヴィンセント隊長?!」

「ディルナンはユーリの日用品の注文に一人で行かせた。この子の体力を考えたら、もう風呂に入れて寝かせる時間だからね」


えぐえぐ泣いていたら、ヴィンセントさんがタオルで拭いてくれた。ありがとうございます。


「それで、カラフ。また来たって事は何か出来たのか?」

「えぇ、寝間着用のワンピースと着替えの肌着でしょう? それから明日の靴下も。靴は鍛冶部隊ウチの靴担当達がさっき仕上げてね。もー、あんまりにも可愛らしいサイズだから、服飾担当達で凄い盛り上がったのよ。近い内に、帽子担当も是非ともユーリちゃんに作りたいって言ってたわ。それと、さっき言ってたエプロンを入れるポーチ。ハンカチはポーチに入れておいたから」


私の背中を叩いてあやしつつヴィンセントさんがカラフさんに問い掛けると、カラフさんが答えながら作って来た物が入っているらしい袋を軽く持ち上げて見せてくれる。


「そうか。折角だから見せてくれ」

「勿論よー」


カラフさんが合流して医務室に入り、夕飯前に休んでいたベッドに連れて行かれる。

そこに下ろされると、足元の空いたスペースにカラフさんが持ってきた袋から色々取り出して広げた。

ついでに、エプロンをカラフさんがポーチに入れてくれる。ウエストポーチ型だ。


「これでユーリを風呂に入れた後に綺麗な服を着せてやれるな。助かった」

「今回は急ぎだったからシンプルな物ばかりだけだけど、絶対に可愛い寝間着なんかも作らせて貰うわー」


出て来た物を確かめ、ヴィンセントさんが言えば、カラフさんが上機嫌に答える。


「それにしても、お洒落なレース編みやドレープを使った可愛らしいワンピースやドレスを真剣に一から構想して作るなんて昨日まで諦めきってたのに、ユーリちゃんが来てくれたお陰で色々な服が作れるのよ。それに合わせた可愛い靴に、装飾品類…アタシ達鍛冶部隊の服飾担当の腕が唸るってモノよ。こんな嬉しい事って無いわっ」

「…まぁ、昨日までの北の魔王城でワンピースやドレスなんて言ったら、大概が罰ゲームの為なんて仕様も無い使用目的だからな。極々まれに、カイユ様のお相手のドレス位か?」

「そーなのよ、ヴィンセント隊長!

 アタシ達だって作るからには気合を入れて作るんだから大切に着て欲しいのに、そのどれもが精々一、二回程度着られただけでお払い箱よ!! 折角面白い生地とか試供品で一杯貰ってるのに、通常業務で作るのは作業着ばかりっ。だからこそ、ユーリちゃんはアタシ達の希望っっ。こーんな可愛らしい子着飾らずして、一体何を着飾るのよー!!?」


さっきまで上機嫌だったのに、今度は力説しまくるカラフさん。余程鬱憤が溜まってたらしい。

…カラフさんの格好はもしや、行き場の無い鬱憤の現われだったのか。鍛冶部隊の服飾担当全員がカラフさんみたいになってたらどうしよう。

なんか、考えてみたら脱力しちゃった。


「そんなに色々な布があるのか」

「あるのよぅ、ヴィンセント隊長。貰った生地の中には深緑色のベルベットとかすんごい上等な布もあるんだけど、カイユ様は日常的には余計な飾りの無い黒系統の服しか着用されないし。大人の女性物を作るには生地が足りないし、仮装用の為に使うにはたとえ一部でしか使わなくても勿体無さ過ぎ!使われる事無く埃被って古くなっていくだけの生地なら、ユーリちゃんに可愛いワンピース作って着せた方が生地だって喜ぶわ。それでエナメルの靴を履いて、リボンで髪を飾って、ベッシュのぬいぐるみ状のリュックを背負わせるの」

「それは確かに最強に可愛いな」

「たとえ休みの日にしか着られなくても、それで城の周辺の集落にお披露目するの。なんなら、ヴィンセント隊長の奥様に可愛く着飾って会わせてあげれば、奥様だってとっても喜ぶと思うわ」

「嫁が手放さなくなりそうだが、実に良い」


カラフさんのプレゼンテーションにヴィンセントさんがどんどん乗り気になっていく。

これ、どうしたらいいんだろう。私にこの二人は止められないよー。


盛り上がる二人について行ける筈も無く。

泣き過ぎて頭がぼーっとするし、目も腫れぼったいなぁと目をぐしぐし擦っていたら、カラフさんとヴィンセントさんがそれに気付いたらしく視線を向けて来た。


「そろそろ戻って、また次の作業に取り掛からなきゃ」

「医務室の風呂の準備ももう終わってる。入ってから休もうな」


カラフさんの言葉を皮切りに、ヴィンセントさんがベッドの上の寝間着と下着を手に抱っこしてくれた。何だか、今日一日まともに自分の足で歩いておりません。

カラフさんは他の物を片付けて、ベッドを整えてから靴を新しい物と取り替えてくれている。お母さんの様なまめまめしさで至れり尽くせりだ。

働き始めてからずっと一人暮らしだったから、ありがたみは一入かもしれない。


…お父さんとお母さん、今、どうしてるかな。

妹と弟がいるから大丈夫だとは思うけど。考えても仕方の無い事かも知れないけど、親不孝者で本当にごめんなさい。


「また明日、服を持って会いに行くわね、ユーリちゃん」

「…あい」


手を振るカラフさんに我に返って手を振り返すと、カラフさんが医務室から出て行った。

私はそのままヴィンセントさんに連れて行かれた。







ヴィンセントさんにお風呂に入れられました。今の私に失う物など何も無い。(死んだ目)


風呂の前にトイレに行かせて貰ったら、思っていた以上に体が小さ過ぎて危うくトイレに落ちそうになった事が敗因と言える。

まさか、この年になってそのまま下の世話をされようとは。


余りのショックに呆然としている間にそのまま丸っと脱がされて丸洗いにされておりました。

流石は息子一人を育て上げたお父さんというか、洗い終わったら手際良く体を拭き上げられ、寝間着を簡単に着られる様に誘導されました。

そして今、そのまま医務室に抱っこで戻され、鏡台の前に座らされて丁寧に髪の毛を拭かれている真っ最中です。


体は子供だけど、中身はいい年した大人。一応、性別は女。

いくら私でも最後の羞恥心までは捨てていません。

さっき平然と着替えたって? そりゃ下着を着てて裸じゃ無いからだよっ。

ナイスミドルなおじ様に下の世話されてそのまま丸洗いにされたなんて、今日の出来事は間違いなく私の記憶に黒歴史として刻まれたよーっっ(大号泣)


「よし、髪の毛も乾いた」


どうにか憤死寸前のショックから現実に戻ってきたら、ヴィンセントさんの大きな手が髪を拭くのを止めた。

タオルを外し、櫛を手に取って丁寧に髪を梳いてくれる。


「ユーリの髪は真っ直ぐで綺麗な亜麻色だな」


ヴィンセントさんの声に、そう言えば自分の今の容姿を知らない事に気付き、目の前にある鏡を見る。




…………ちょっと待て。落ち着こうか。




目の前の鏡に映るのは、私とヴィンセントさんしか居ない。

ヴィンセントさんの姿は客観的に見ているから間違えるはずも無い。

そして、大人と子供だから、子供が私の筈なんだけど。


肩口で切り揃えられた天使の輪が浮かぶサラッサラの亜麻色の髪に、大きなアーモンド型の紫色の瞳。

鏡台の椅子のサイズに全く合っていない、細い手足の白いワンピースを纏った小さな体。

そんでもってなんじゃらほい、見慣れた平凡顔から程遠いお人形の様なこの可愛い顔はーっ!?

ぶっ飛び過ぎて変な顔をしていても可愛いって、中身と外見のギャップが激しいにも程があるわーっっ!!!


「…もう眠いか」


イエ、現実逃避ヲシテルダケデス。スミマセン、声ガ出マセン。


「今日はもうお休み」


何を言う事も出来なくなっていた私は、結局そのままヴィンセントさんにベッドに運ばれ、寝かしつけられました。

ヴィンセントさんの子守唄は本気で聞き惚れる位に素晴らしいです。


何だかもう考える事が面倒臭い。眠気が…。







夢を、見た。




-お姉ちゃんでしょう?-


-有里ちゃんに任せておけば、安心だよね-


-アイツなら勝手にどうにか出来るって-


-あの子さ、絶っ対に生まれる性別間違えたよね-


-お前には可愛気がないんだよ! あいつは、お前と違ってオレを必要としてるんだ!!-




思い返せば昔から色々我慢してきた。生きていく上で、仕事する上で嫌でも我慢は必要だし覚えていく。けれど、必要以上に我慢を求められた時が結構な数である気がする。

理不尽だとは思っても我慢しなきゃダメだと思ったから私はじっと我慢してきたのだ。


だと言うのに、私が我慢をすればする程に周囲に”強くて頼もしい”とか、”可愛気が無い”といった印象を残していった。


本当の私は、強くなんか無い。必死に笑顔を貼り付けて虚勢を張らなければいつだって泣きそうだった。私だって「出来ません」って言って、誰かに押し付けてしまいたかった。

周りの状況を見なければ良かったんだろうか? 責任感なんて持たなければ良かったんだろうか??

頑張った挙句、他人の言葉に勝手に心の奥深くが傷付いて。


一体どうすれば良かったのだろう。







目を開いたら、漆黒の闇の中だった。一人ぼっちを連想させる闇。


いつもの癖で電気を点けようと起き上がり、自分の手の小ささに此処が現代日本の自分の家では無い事を思い出す。

暗闇とさっきの夢とディルナンさんがいないという記憶が相俟って、不安が一気に膨れ上がった。

夢でもう既に泣いていたのか、手に涙がどんどん落ちてくる。

何が怖いのかもよく分からず、気付けば声を上げて泣いていた。


遠くで泣き声とは違う音が聞こえた気がした。でも、それが何かを考える事さえ出来なかった。

頭の中はよく分からない恐怖感に支配され、こうして冷静に考える自分は小さな欠片の様だ。

体が浮遊感を覚え、温もりに包まれて初めて誰かが来た事に気付く。


「怖い夢を見たのかい?」


よく響く低い声が、泣き声に遮られる事無く真っ直ぐ届いた。

届いたのは、ヴィンセントさんの、声。


「ここには怖い物は無い。ユーリを脅かす物も、傷付ける物も何も無い」


落ち着いた低い声が、大丈夫だと力強く告げる。

大きな温かい手が背中を一定のリズムで軽く叩いてくれる。

それが私の恐れを、少しずつ溶かしていく。


「さぁ、ゆっくりおやすみ。もう、怖い夢は襲って来ないよ。目が覚めたらきっと朝だ」


まるで呪文の様にヴィンセントさんの声に導かれ、私の意識は再び眠りの中へと落ちていった。

[補足説明]

 ベッシュ…熊


 服飾関係が独自(?)の単語じゃない事に突っ込みは無しの方向でお願い致します。


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