11 装備その1を手に入れた!
「流石はユーリ。カイユ様より飯! なんて普通は言わないし、あそこまで即答もしないぞ」
バクスさんが点滴の片付けで離れると、話し合いが終わったのかディルナンさんとエリエスさんが笑いながら側にやって来た。
「…カイユさま、魔王さま?」
「そうですよ。我々の主である北の魔王様のお名前はカイユ様と仰います」
「ごしゅじんしゃま」
魔王様は雇い主でカイユ様ね。よし、覚えた。
「…ディルナン、是非この子を医療部隊に」
「やらねーぞ。エリエスの所だけで十分だ」
「この子が看護師服を着た姿が見たい。応急手当を覚えさせて治療出来れば、何かあった時に心強いぞ?」
「前半に本音だだ漏れしてるじゃねぇか! …応急手当を覚えさせるのは賛成だが」
「ユーリの為になるのならば、健診の時に昼まで応急手当の勉強をする位はいいんじゃないでしょうか。幸い、実践する機会は腐る程にありそうですし」
…何か、またやる事増えてるの気のせいか? いや、気のせいじゃ無いな。
「外勤連中か。確かに訓練で怪我は絶えんし、良い練習台だが」
「治療に来たら、可愛らしい看護師さんに治療して貰えるんですよ。士気も上がるでしょうから、外勤部隊の隊長にもユーリを認めさせやすくなるでしょう」
「そうと決まればカラフに即、看護師服も頼もう」
ディルナンさん、「練習台」って可哀想では?
エリエスさん、とっても計算高いですね。
ヴィンセントさん、話を捩じ込んだその手腕は年の功ってヤツですね。
所で、カラフって??
「え、ユーリちゃんが医療部隊にも来てくれるんですか!?」
そしてヴィンセントさんの言葉に食いついたバクスさん、いつの間に戻ってきたんですか。恐ろしく耳が早いですね。
「応急手当を学ぶ間だけだからな」
「ユーリには看護師服を着て貰うぞ、バクス」
「ユーリちゃんが看護師服……けしからん、もっとやれ!」
非常に嫌そうな顔をしたディルナンさんを無視してヴィンセントさんが言うと、バクスさんが意味不明な言葉をハイテンションで叫びました。
「けしからん、もっとやれ!」って、ヴィンセントさん上司なのにいいの?
色々勝手に決まっていくのを、好きにしてくれと諦めの境地で見守っていると、バーン!と勢い良く医務室の扉が開いた。
「出来たわよー!コック服第一号!!」
何事かと扉を見て、そこに居た人物に呆気に取られてしまった。
恐らくはワンピースが原型であろう、スカート風だがスリットが思い切り良く入った服にレギンスとショール。全体を上手く纏めていてあまり違和感を感じさせない仕上がりだが、服に使われている様々な布の色彩の嵐に目がチカチカする。
それだけでもインパクト大きいのに、更に長い金髪を綺麗に結い上げてから綺麗に宝飾されたピンや服と同じ布で飾って、化粧まできっちり施していた。
この人にとても似合ってるとは思うけど、男の人だよね? まさかのオネェ属性ですか。
凄いよ、北の魔王城。驚きが全く尽きない。
「…早いな、カラフ」
「アタシ達は服飾のプロよ。型は決まってるし、サイズさえ分かれば…特に、ユーリちゃんみたいに小さい子の服なら、ちょちょいのちょいってモンに決まってるじゃない。手の込んだ服は小さい分逆に手が掛かるから、時間がある時にゆっくり作るわー」
その人に声を掛けるディルナンさんはいつも通りで。
これは、気にしちゃいけないんだね。
「カラフ、依頼追加だ。ユーリのサイズで看護師服も頼む」
「んまぁっ! ユーリちゃんのって事は、スカートタイプの看護師服を作っていいのね!?」
そんな事を考えてたら、ヴィンセントさんが普通に注文してた。
え、ただ応急手当習うだけで専用の看護師服が必要なの? …私の意見、言っても間違いなく聞いて貰えそうに無いけどさ。
それにしても話の流れ的に、嬉々としてヴィンセントさんと話すこのお方がどうもカラフさんで、服を作る人みたいだね。
「カラフさん、是非スカートタイプで」
バクスさん、さっきから貴方のイメージが急激に変わりつつあります。
ちゃっかりしてると言うべきか、変態なのかと疑うべきなのか。
「スカートタイプって…可愛すぎて危ないだろう!」
「ディルナン、子供ですから可愛い方がいいじゃないですか」
「士気上げに効果覿面だな」
いや、全員イメージが変わったかもしれない。
ディルナンさんは過保護だ。
エリエスさんとヴィンセントさんは…深く考えると怖い気がするからやめよう。
「じゃあ、スカートとズボンタイプ両方作るわね」
そんな面々に「なら両方作る」なんて簡単に言い切るカラフさんは素敵過ぎる。
その意見に全員揃って頷いちゃったし。
看護師服の話が一段落したら、カラフさんの目が初めて私に向けられた。
「はじめまして、ユーリちゃん。アタシはカラフ、鍛冶部隊副隊長で服飾担当をしているの。よろしくね」
「はじめまして、ユーリです。…カラフ、おにいちゃま?おねえちゃま??」
「まっ、いい子ねぇ、ユーリちゃん。カラフおねえちゃまでいいわよぅ」
「おねえちゃま、よろしくなのー」
カラフさんは鍛冶部隊の副隊長さんなのか。それにしても鍛冶部隊に服飾部門? その格好が認められてるのは部門故か身分故か?? なんて疑問が浮かんだけど、取り敢えず右に置いて。
別のことが気になったので念の為にそっちを聞いたら大当たりでした。カラフさんはオネェ属性の様です。
外見で言ったらエリエスさんの方がお姉様なんだけど、言っちゃいけない気がするので口が裂けても言いません。エリエスさんの方も絶対見ません。
私の生存本能が特別警戒令を発令しているっ。
「…成る程ねぇ、空気をちゃあんと読めるのね。エリエス隊長が気に入る訳だわ」
…良かった、今のカラフさんの言い方だとエリエスさんを見てたら命が無かったかも知れない。
でも、ここで怯えを表に出しちゃダメだ。自分、堪えるんだ。
日本人の得意技、笑って誤魔化せっ。
「そうそう、ユーリちゃんのコック服が出来上がったのよ。試着してみてくれるかしら」
笑ってたらカラフさんが同じ様に笑って話を変えてくれました。助かった…!
そして、差し出されたのは、ディルナンさんと同じコック服。私が働く様になってずっと身に付けていたのと同じ、純白の上着に、黒いズボンとサロンエプロン。
上下共に白い服の職場もあるけれど、荷物を持ったり、作業を色々しているとどうしても足元やお腹周りって汚れやすい。
仕方の無い事だけど、人の印象って見た目が大きく占めるから出来るだけ清潔に見えた方がいいしね。
但し食に関わる以上、いくら汚れが目立たなくても不潔は論外。常に清潔な物を身に付けるのは当然の事です。
「北の魔王城の仕事着は全て特殊素材で出来ているわ。布だから軽いけど、その辺の鎧なんかよりもずっと強いの。ユーリちゃんの身を守るには持って来いね。それに、汚れにも強いのよ」
え、コック服が鎧よりも強いですと!? 何だ、その出鱈目な素材は。そんなの扱ってるから鍛冶部隊に服飾部門があるのか。
そんでもって、だからこそディルナンさんがコック服であの森に来ていたんだね。
いくつかの疑問が一気に解消したよ。
カラフさんからコック服を受け取り、礼を言うとその場で着替え始める。
「あら、大胆」
「おやおや」
カラフさんとエリエスさんのそんな声はスルーです。だって、子供だもん。下着も着てたし。
視線は特に気にせず着替えていく。私が脱いだ服は、さり気無くカラフさんが回収して畳んでいた。ありがとう。
このコック服は着てみると綿みたいに着心地がいい。厚みもそこそこあるけど、コレで鎧並みに丈夫なのかと驚いた。
ボタンなんかに手間取って時間が掛かったが、無事に着慣れた服に着替え、仕上げにサロンエプロンの紐を縛ってから解けない様に丁寧に纏めて捻り込んでおく。
「できたー」
「…完璧な着こなしだな」
「サイズもピッタリね」
ディルナンさんとカラフさんに着こなしのオッケーを貰い、顔が緩む。
前途多難なのは良く分かってるけど、またこの服を着られた事が嬉しくて堪らない。
調理師の仕事着、コック服を手に入れたどー!