表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/122

10 そんな常識知らないもん

すっかりホットミルクとクリルを平らげた私を他所に、隊長三人の話し合いは続行中。なので、バクスさんが私の相手をしてくれた。

飲み終わったカップを片付けてくれたり、口元を拭いてくれたり、話相手をしてくれたり。


「ユーリちゃんは北の魔王城の全部の部隊を知ってるかな?」

「全部はしらないです」

「内勤と外勤があるのは聞いた?」

「あい」


バクスさんも面倒見が良いね。良いお父さんになれるよ、本当に。


「北の魔王城には全部で十四の部隊があるんだよ。

 外勤部隊で四部隊。魔王様の身辺警護の近衛部隊、城全ての警備を担当する外警部隊、騎獣に乗って誰よりも早く前線に立つ機動部隊、魔族の中でも特に魔術に優れた者が所属する魔導部隊の四つ。数は少ないけど、この四部隊が隊員の半数以上を占めているんだよ」

「がいきん部隊はせんとうけい部隊なの」

「そうだね。内勤部隊は、十四から四を引いて幾つか分かるかな?」

「じゅー部隊」


にこやかに話してくれるバクスさん。

良心が疼いて、何だか子供の振りが段々辛くなってきた。

かといって素を曝け出したら、こましゃくれた子供にしかならない気がして無理。

放り出されて生きていく自信はほとんど無い。

ここは我慢して、某漫画の主人公の如く子供やくになりきるんだ、私!


「お、ちゃんと計算できるんだね」

「えへへ」


褒めて貰った上に頭まで撫でて貰えたのは嬉しいんだけど、中身は…ですから。

加減乗除は当然出来るし、算盤経験もあるから暗算も困る事は無い。

店の売上管理をする上で必要な廃棄率計算とかメニューの原価計算とか諸々の計算もパソコン無しでも出来る様に叩き込まれてるし。


「じゃあ、内勤の十部隊をお話しようか。ユーリちゃんはいくつ知ってるかな?」

「んと、御飯のちょうり部隊と、エリエスおにいちゃまのしょるい部隊と、此処が治りょうするいりょう部隊で…。あとはね、レツのお世話してるきじゅう部隊とー、武器をつくるかじ部隊! えとえと…ほうきが武器のせいそう部隊に、おやさいが武器ののうさく部隊!!」


これまでディルナンさんとエリエスさんの話に出てきたのって、確かこんなモノだったよなー。

指折り数えつつ挙げてみたら、七部隊。あと三つは何だろ。


そう思ってバクスさんを見上げたら、凄い必死に笑うの堪えてた。話していた三人も微妙に肩が震えてるのは何故だ?


「……っディルナン隊長、エリエス隊長、一体どういう教え方を…ぶふっ」

「くく、武器の件は、エリエスだ」

「…例を挙げただけ、だったんですが。まさかこんな覚え方をされるとは…っ」

「可愛くて、いいんじゃないか…?」


四人揃って物凄くニヤニヤ笑ってるよ、コノヤロウ。笑う要素がどこにあったのか全く分からないんだけど。


「…め、なの?」


首を傾げつつダメか確認したら、四人が更に肩を震わせ始めたし。いっそ爆笑すればいいじゃんっ!!




「あー、ごほん。きちんとディルナン隊長とエリエス隊長の話を聞いて覚えていたんですね。七つちゃんと言えて偉いですよ、ユーリちゃん」


暫くして落ち着いたらしいバクスさんが咳払いして戻ってきた。

他の三人も小さく咳払いして何事も無かったかの様に元の話に戻ってるし。

こんなの一々気にしてたらやっていけない気がするから、流すもん。べ、別に傷付いてなんかいないんだからねっ。


…ダメだ。私がやっても可愛くも無ければ、楽しくも無い。中途半端にも程がある。


「あとみっつはー?」

「あと三つの内勤部隊は、魔王様や他の魔王城なんかからのお客様のお世話担当係の近習部隊と、城の保守や増改築を筆頭に大小様々な備品を準備・作成する設備部隊、情報関連を一手に司る情報部隊だよ」


気を取り直し、改めてバクスさんに残りの部隊について質問した。

返ってきた答えに、改めて北の魔王城の部隊系統を記憶する為に頭の中で反芻する。


正直、近衛部隊とか近習部隊には関わらないよな。下っ端に引っ掛かるのかも怪しい私が魔王様に会う筈も無いし、近付く事すら無いだろうし。


「ユーリちゃんは魔王様に会ってみたい?」

「う?会えないと思うから別にいいー」


おぉう、ジャストなタイミングで突っ込んできたね、バクスさん。

まぁ、気にならないと言ったら嘘になるけど、リアル魔王様なんて怖そうだし、会うなんてマジで無理。精々遠目から見る位で十分です。


「…いいの?」

「はい」


いいに決まってるよ。”魔王”って”魔族の王”で、間違いなくチートってヤツだよね?? それで言ったら私は間違いなくモブってヤツに属してるってのに。

何を勧めてくれちゃってるのさ、バクスさん。自分の身の程は分かってるよ。


「珍しい子だね、ユーリちゃんは。普通は魔王様に会ってみたいって言うものなのに」

「どーして?」

「魔王様っていったら、強いだけじゃなくて途轍もなく美形なんだよ。東西南北、どの魔王様もタイプは全く違うんだよ」


現時点で私の周りには十二分な程に美形がいるってのに、途轍もない美形? 何それ、超コワイ。目が潰れちゃうよ。

美形は遠くで見るもので、近くには美味しい御飯って言ってるじゃないか。

凄いプッシュしてくるバクスさんには悪いが、美形じゃ腹は膨れないし。


「ボク、御飯のほーが良い」

「………魔王様より、御飯…………?」


思わず本音を零したら、バクスさんが頬を引き攣らせて絶句した。

呆然自失ってこういう反応を言うんだね。よく分かります。

バクスさんと違ってディルナンさん達は思い切り良く噴出していたけど。




そうこうしている内に点滴が終わり、針が抜かれた。

その間もバクスさんは「魔王様よりも御飯なんて…信じられない」ってブツブツ呟いてたけど、知らないもんねー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ