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07 糧を得よう 前編

分かりにくい言い回しを修正致しました。

只今、私は伏せの体勢のレツのお腹の辺りでもふもふを堪能しております。

さっき見回したら門に入ってすぐの所にいたのを発見したので、エリエスさんの笑顔攻撃から逃れるべくレツの傍らに撤退したであります。

レツは嫌がる事なく受け入れてくれました。ありがたや。




「それで、ディルナン。あの子は一体どうしたんです?」

「…『深遠の森』で、魔獣に食われかけてたのを保護した」


私がもふもふに触れてる間に、大人のお話が始まったらしいよ。

お前も大人だろうって?

今は子供だもん。…多分。




「肉を狩りにいったら、獲物に追われて来てな。落ち着いてから周囲を探ったが、庇護者の気配・魔力共に皆無。ガリガリに痩せ細って、なのに飯が小鳥の餌レベルしか食えなくなるまで放置されてた。ショックがデカすぎたせいか、何も覚えていない。守護輪がなきゃ名前さえ分からなかったしな」

「『深遠の森』にあんな幼子を放置なんて、そんな事が…」

「連れて来る前に魔力測定したら、魔力は最低ランク。唯一まともに扱えるのは、水系統だけだった。決定的な攻撃力の無い子供を一人きりであんな場所に残すなんざ論外だから連れて来たが、状況から見て東のお家騒動の被害者が一番有力だろ」

「………刺客だとは考えられない?」

「最初にオレが名乗ったが、北の魔王城の役職持ちに反応ゼロ。むしろ首を傾げてたな。他への警戒心もゼロ。心配になる位他を疑うって事を知らん。何より、あのレツが一切警戒せずに初見でなついた」




…?

変なの。レツってば、やたら人懐っこいし、反応も人間味溢れてるのに。

今だって、レツが私をお腹に置いたまま丸くなってくれたので、もふもふに包まれております。

毛皮好きのおば様がいるのも凄い納得。レツの毛並みは最高の肌触りです。たまらんわー。




「−−−」

「−−−」


あー、もうダメ。眠い。声も遠くに聞こえる。







くるるー




私の腹時計が正午をお知らせします。




「がうっ」

「レツ?」


レツの鳴き声と、ディルナンさんの声。


ぐーーーぅ


少し遅れて、私のお腹の虫の鳴き声が。


「…くっ、はははははっっ! 寝てても本当に正確だな、ユーリの腹時計は!!」

「おや、これは大変ですね。何処に配属するかは後にして食事にしましょうか」

「御飯」


聞き捨てならない単語に、レツのお腹からむくりと起き上がる。

まだ少し眠いけど、御飯なら起きなきゃ。


「書類部隊には行かねーと思うぞ。ユーリが興味を持つのは食い物だ。飯の一言で起きる位に」

「では、毎日美味しいお菓子を用意しましょう」


お菓子とな。

クッキーも、マフィンも、ケーキも、ゼリーも甘いもの全般が大好きです。酒飲みだったけど甘い物は別腹ですから。

あ、考えたら




ぐーぎゅるり




「おにいちゃま、お腹空いたの」


我慢出来ずにお腹を抱えてディルナンさんに訴えてしまいました。


「“おにいちゃま”、ですか?」

「あい。おにいちゃまって呼ぶと御飯くれるのー」

「お兄様だろうが。コイツ最初は“おじちゃん”呼ばわりしたから、修正した」


聞き返してくるエリエスさんに頷けば、ディルナンさんが加わった。あ、エリエスさん噴出した。

笑われた当のディルナンさんは、無視して私を左腕に軽々と抱き上げる。

え、歩けるんだけど。


「う?」

「腹減ったんだろ? お前の足じゃ飯まで四半刻はかかるぞ」

「お願いします」


見上げると、正確に読み取ってくれたディルナンさんに迷わず頭を下げてお願いした。

四半刻がどれ位か定かでは無いけれど、御飯が遅くなるのはイヤン。

食い意地張ってる自覚は十二分にあるので、二人して笑わないで。






お城に入る前に、門の所でレツと別れた。

騎獣は基本的にお城には入れないんだって。専用の獣舎に門の警備員さんが連れて行くらしい。

凄く淋しそうにションボリしてたから、「またね」って言っておいた。

それだけで機嫌を直すなんて、でかい図体してるのに可愛いじゃないか、レツ。少し胸キュンした。


ディルナンさんに抱っこされて連れてきてもらったのは、食堂。

お昼御飯の時間帯だから、門の所にいた人達みたいに騎士の格好をした人達やエリエスさんみたいにローブ姿の人達、普通の作業着の人達と大勢で賑わっていた。

見た感じ、社員食堂なんかと同じで配膳と片付けがセルフサービス形式。お金は払ってなさそう。

座席は木製だけどファミレスみたいな作り。


エリエスさんが席を取って置いてくれるから、先に御飯貰って来いだって。なんていい人だろう。




「隊長っ、もう戻ってきたっスか!?」


ディルナンさんが配膳口に行くと、そこにいた十代後半ぐらいの少年が声を掛けてきた。

その声に釣られて、厨房にいた人間の視線が集まる。


「あぁ、狩って来た。完全に戻るのは明日になる。今からエリエスと一戦交えるからな」

「えっ! エリエス隊長とっスか? また何で」

「新人の取り合いだ」




ぐーぎゅぐーぎゅ




少年とディルナンさんがお話し中だと言うのに、何処までも自己主張の激しいお腹ですみません。

そんな珍生物を見た様な目で見ないでおくれ、少年。


「腹の虫に抗議されたのは初めてだぜ、ユーリ。…アルフ、多めに盛り付けて一つ用意しろ。それと、大皿とマグと小さいフォークとスプーン」


ディルナンさんはすっかり慣れたみたいだね。むしろ楽しんでないかい?

少年に注文つけて御飯の用意をさせた。




ディルナンさんは左腕に私を抱えたまま、右手には私とディルナンさんの御飯が乗ったトレーを持ってエリエスさんの待つテーブルへと歩いていく。

全く顔色も表情も変化無し。

重さをまるで感じていないかの如く、腕なんかがプルプル震える兆しさえ無い。歩きもスムーズ。

…身長に比例して腹が立つ程に長い足のせいか、普通に歩いてるのにとても速い。スマートですね。けっ。


「私も頂いて来ますから、先に食べていて下さい」


テーブルに着くと、そう言い残して入れ替わりに席を立つエリエスさん。本当にいい人だよね。


ディルナンさんがトレーをテーブルに置いてからベンチタイプの椅子に下ろしてくれる。

…子供だから椅子と机の高さが合わにゃい。私の御飯が遠い。


「ちょっと待ってろ。用意してからな」


むーむー唸ってたら、取り分けてたディルナンさんにたしなめられた。レツと同レベルか…。


それでも大人しく待っていると、取り分け終わったディルナンさんが隣に座る。そのまま、オンザディルナンさんの膝。なんか、定位置になってきた。

高くなった視界には、ワンプレートに綺麗に盛り付けられた御飯とティースプーンとデザートフォーク。それと、マグカップに入れたスープがあった。その奥にディルナンさんの御飯のトレー。


「ほれ、食え。足りなかったら分けてやるから、遠慮しないで言うんだぞ」

「あい…」


ディルナンさんの声に一応返事をする。微妙に聞いてないけど。

フォークを握り、お腹の虫が最高潮に騒ぐのを堪え、美味しそうな御飯に目が釘付けになりつつ、でも我慢。

何故かディルナンさんに頭撫でられた。うは。


「おや、ユーリ、“待て”と言われた騎獣の様になってどうしたんです?」


しばらくして、エリエスさんがトレーを手に戻って来た。その例えは微妙な心境になります、エリエスさん。またレツと同レベルと言われた様で。


「早く座ってやれ。お前を待ってたんだ」

「…え?」

「一緒に食べたかったらしい」


ディルナンさんにはバレてたらしい。

何で驚いてるんだろ、エリエスさん。一緒に来た人と一緒に御飯食べるのはおかしいのか?


「大変お待たせしました、ユーリ。じゃあ、食べましょうか」


食べていいの?

うわっ、エリエスさん、そんな今までで一番輝く笑顔を何故向ける。溶けるでしょっ。…否、この美味しそうな御飯を食べずして溶けてなるものか!


エリエスさんがきちんと座ってフォークを持つのを見てっと。


「いたらきます」


挨拶は大事。仮令舌足らずでも。

よし、食べるぞ!

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