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65 本日の予定その7 オヤツが新たな扉を開いたかもしれない

ソフィエさんが来るまでまだ時間に余裕がありそうなので、そのまま防御術を捏ねくり回し。


そうしている間に子竜達もお昼寝から目覚めて、まだ挨拶しきれてなかったらしいドラゴン達と戯れていた。


そんな穏やかな空間だったが、外から会話しつつ複数人の気配が近づいてくるのが分かった途端に私の周囲にいたドラゴン達が一斉に外への警戒を露にする。

そしてさり気なくママさん達を守る態勢に入った。


同時に、私も側で見守ってくれていた大人三人に一時中断させられてドラゴンから守るように囲われる。


ドラゴン達に当たり前のように迎えてもらえたけど、卵が孵化したばかりの子竜達に自衛能力がある訳ないんだからこれが本来の姿なんだろう。


そうして暫く。

竜舎の扉が開いた先にいたのは騎獣部隊の隊長・副隊長の二人と何故かディルナンさんだった。


「ほら見ろ。やっぱりオレが入っていい雰囲気じゃないだろうが」

「そうは言うが、渡されても儂等もユーリに近付けんぞ」


ドラゴンからの敵意にも似た警戒を一身に浴び、ディルナンさんが呆れたように隣のヤハルさんを見る。ツェンさんは苦笑。

いつも通りでびくともしてない三人、凄い。

私ならビビる自信しかない。


「たいちょ!」

「おー、……元気みたいだな。」


そんなディルナンさんに声を掛けると、ディルナンさんが私の姿を見てどこかホッとしたような声を出す。

ゔ。ここにも心配掛けてた……。


「ところでユーリ。そこにいられるとお前のオヤツが届かないんだが」

「おやちゅ! 今すぐ行きましゅ!」


そんな反省をしていたのに、ディルナンさんが自身の右手に鎮座している紙袋を掲げて見せながらの台詞に即反応する私がいた。


丁度お腹空いてたのよね。うん。

そろそろお腹の虫がクルクル鳴き始めてるし。

騒ぎ出すのは時間の問題というか。


側の大人達からの生温い視線に気付かないフリをしつつ、魅惑のオヤツにルンタッタとスキップをして一緒に入口へと進む。

何故かドラゴン達まで生温い視線を向けて来たのは知らんぷり。


「……何だこりゃ」

「ユーリに揃いも揃ってメロメロじゃぞ。弟妹共々、両親に長老をはじめとしたジジババ連合、何ならちょっとした遠縁の伯父伯母と親戚揃い踏みじゃ」

「たった半日でどんだけドラゴンに馴染んでんだ」


ディルナンさんの元へ辿り着いた勢いのままその脚に抱き付くと、ディルナンさんがドラゴン舎の中の様子に真顔になった。


「その辺は訳ありじゃ」

「ヴィンセントが言ってた一つか」

「扱いきれんなら、騎獣部隊(ウチ)が喜んで貰い受けるぞ?」

「飯がある限り、ユーリが調理部隊(ウチ)から出ると思えんが。なぁ?」

「ねぇー」


ヤハルさんがニヤリと笑うのをサラリと流しつつ、ディルナンさんが左腕に抱っこしてくれた。

そうして向けられた同意を求める声にニッコリ笑顔で返す。


今の所、調理部隊のご飯以上の魅力は他の部隊に見出せておりません。あしからず。


「お前はまだ調理部隊(ウチ)の本気の飯を食ってないしな」

「ほ、本気のご飯……っ?」


そして聞き捨てならない、その言葉!

今でさえ美味しいのにまだまだ上がある、だと?!


「賓客向けのコース料理のアレやソレのオマケだ。いつもの賄い飯とはそもそも食材からしてレベルが違う。それをオレ達が持てる技術を総動員してより味わい深く調理する。これを味わえるのは、隊長格でもごく稀でな。調理部隊の隊員ならではの特権だ」


つまり、農作部隊が育ててたあのモコロシレベルの美味食材がゴロゴロしてて。

それをディルナンさんやオッジさん達が加工する、と。


そ、そんなの、絶対に美味しいヤツに決まっているジャマイカ!

あ、想像しただけで涎が……っ。


「たいちょ、ボクを捨てないでー!」


ひっしとディルナンさんの首に齧り付いたのは最早条件反射に近い。

これにはディルナンさんが声を上げて笑い出した。








一頻りディルナンさんとコミュニケーションを取った所でその腕から降ろされた。


「今日のオヤツも特別だぞ」


そう言ったディルナンさんがその手にある紙袋の口を開くのを見上げる。


途端に微かな香ばしさと甘さが入り混じった芳香が鼻をくすぐる。

こ、この匂いは……


「やきいもっ!」

「農作部隊のとっておき。石室貯蔵で甘さマシマシの甘芋だぞ。低温のオーブンでじっくり焼き上げた逸品だ」

「ふおおおぉぉぉぉぉっ!」

「昼飯でパンが食えてなかったからな。その代わりだ」


その匂いの心当たりを叫ぶと、ディルナンさんがご名答と言わんばかりにニヤリと笑った。

ヤバい。絶対に美味しい確定。テンション上がりますわぁ。


「チッ。完全にユーリの胃袋を掴んでおるの。反応からして勝てる気がせんわ」

「飯がなかったら騎獣か農作が優位だったろうが、残念だったな」


そんな私を尻目に、ヤハルさんとディルナンさんが言葉を交わす。


それよりも、私に焼き芋を下さい。


そう主張すべく、ディルナンさんにずいっと両手を差し出す。


「…………ん?」


そんな中、ディルナンさんが何か違和感を覚えたような声を上げた。

その視線が私の左右少し後ろに向くのに釣られてその視線を追いかけると、いつの間にか紅白の小さな子竜が私の左右へ出て来ていて、私の真似をしてか同じように両手(両前足?)をディルナンさんに差し出していた。


これには大人のドラゴンに全く怯まなかったディルナンさんが何事かと瞠目する。

それはヤハルさんとツェンさんもだった。


キラキラと期待に満ちた無垢な二対の瞳はディルナンさんに真っ直ぐ向けられている。


「……マジか。初対面の人型がこんなに子竜に近付いて大丈夫なのか? というか、この反応はオレは子竜にまでオヤツを強請られてるのか?」

「そ、そのようじゃのぅ」

「いや、ユーリのオヤツとは別に残ってるが、ドラゴンはそもそも焼き芋を食えるのか?」

「えーっと……これまで騎獣部隊(ウチ)で用意した事はありませんねぇ」


まさかの事態にディルナンさんがヤハルさんとツェンさんを見るが二人も初めての事らしく困惑してる。

うん、そりゃそうよね。


「長老、エスメリディアス、ミルレスティ」


ヤハルさんがいつの間にかすぐ後ろに控えていた面々に声を掛けるが、ドラゴン達は何故か興味津々と言った風だった。


何か最初と打って変わってもの凄くディルナンさんに好意的?

私のオカンだから??


そんな事を考えていると、ディルナンさんにジロリと睨まれたのでそっと目を逸らした。


〈焼き芋、とはどのような食べ物なんじゃ?〉

「…ドラゴンに芋は分かるか?」

〈植物の根の一部であろう?昔の祖先が食べた際はエグくて美味くも無かったと聞いておるぞ〉

〈儂等、基本的に獲物丸齧りじゃからのぅ〉

〈そうさの。精々たまの甘味に木の実を摘む程度よ〉

〈後は人型のモノで好んでおるのは酒じゃのう〉


そんなやり取りの後、赤の長老ドラゴンがディルナンさんに問い掛ける。 

それにディルナンさんが問い返せば、他の長老ドラゴン達が口々に答えた。


ドラゴンだもんね。潔くバリバリムッシャアと完食するのは納得。体の構造的にも調理なんて概念がそもそもあるはずもないわ。

ドラゴンがお酒好きなのは二次元・三次元問わずなんだ。へぇ〜。


「木の実は食べるのか。なら焼き芋もいけると思うが、子竜にやる前に大人のドラゴンにまず試食して欲しい。焼き芋はその名の通り、長老達の知識として知る芋を焼いたものだ。芋は生だと味も悪いし腹を下すが、加熱すると食味が良くなる。そして芋にも種類があって、今回のは甘味の強い品種だ」

〈なら、儂がまず食そう〉


ディルナンさんが基本を確認して簡単に焼き芋を説明すると、赤の長老ドラゴンが首をディルナンさんの近くへ下ろして軽く口を開く。


「成竜とは言え、初対面なのにそんな気軽に貰い食いして大丈夫か?」

〈んぁ? 其方は愛し子が自分からおねだりする人型の大人じゃ。どこに問題がある?〉

「基準はあくまでもユーリってか」


ディルナンさんがコチラをチラリと見やる。

ちなみに、私と子竜達はまだディルナンさんに手を出したままです。


お芋、早く食べたい。


そんな私達の無言の訴えに、ディルナンさんが亜空間から別の大きめの紙袋を出してそこから焼き芋を取り出した。

そのままポイっと赤の長老ドラゴンのお口に放り込む。


〈こ、これは……っ!〉

〈何事じゃ!?〉

〈長老っ!〉


目を閉じて味わうようにモグモグする事、暫し。

カッと目を見開いてワナワナと震える赤の長老ドラゴンに、エスメリディアスとミルレスティが続きを促す様に前足で赤の長老ドラゴンを激しく揺さぶる。


〈い、芋とはこんなに美味い物じゃったのか……っっ!〉


揺さぶられつつ、鼻息荒くも告げる赤の長老ドラゴンに、エスメリディアスとミルレスティが揺さぶるのを止めて顔を見合わせる。


「問題なさそうだな。母竜の二頭も試食するといい」


これにはディルナンさんの方が先手を打ってエスメリディアスとミルレスティに手招きした。

呼ばれた二頭もやはり子竜に食べさせる物が気になるらしく、大人しくディルナンさんに頭を寄せる。


その二頭の口にも焼き芋をポイっと。


……まだかなぁ。


〈〈!!?〉〉


恐る恐るモグモグ咀嚼した母竜二頭だったが、舌がその甘味を感知したらしく衝撃に硬直する。


〈こ、こんな美味な甘味が……芋!?〉

〈何てことでしょう……!〉


焼き芋のお味に恍惚とさえする二頭。

そうだよね。ドラゴンだって女性だもの。

甘味、美味しいよねぇ。


そして、そんな大人三頭に子竜達の方が限界だった。


赤い子竜がテシテシと足を踏み鳴らし、白い子竜が「ちょうだい?」と言わんばかりに小首を傾げて上目遣いにディルナンさんに訴える。

ついでに私もちょっぴり涎を垂らしつつ、笑顔で更にずずい! と手を出しておねだり。

一緒にぐぎゅーっ! とお腹の虫も辛抱ならんと主張した。


「……結局やって問題無しって事でいいんだよな?」

「……ドラゴン達の新しい扉を開いただけで問題ないみたいじゃな」

「……ドラゴン達の焼き芋、どうやって確保するか後で相談させて下さい」


ディルナンさんがドラゴンの返答を諦めて騎獣部隊の二人に答えを求める。

それに、ちょっとお疲れモードでヤハルさんとツェンさんが答えた事でようやっと私達も焼き芋にありつけそうだ。


「ユーリ、手を洗って子竜達にはお前から渡してやれ」

「あい」


まず先に手洗いを促され、水の魔術でキレイに。

そして後から出てきた大きめの紙袋を渡され、中から同じくらいの大きさの小ぶりな焼き芋を選別する。

焼き芋が熱々ではなく、ほどほどに冷めているのは元々私向けだからだろうなぁ。


「あい、どーぞ」

「「きゅっ。きゅい!」」


ちょうだい、と差し出されていた前足()に焼き芋を一本ずつ乗せてあげると、まるでお礼を言うように私とディルナンさんに向けて可愛らしく鳴いた。

これには思わず笑顔で子竜二頭を撫でる。

こんなにもドラゴンの弟妹がお利口さんで可愛い!


「ドウイタシマシテ。……なるほど、子竜と一緒にどこまでもドラゴン達の新しい扉を開きまくりな訳だ?」

「基本的に可愛いモノに無縁ですから、ちょっとした事で狂喜乱舞しちゃうみたいで」

「知らんモンが見たら、ドン引きじゃがな」


子竜達の可愛いさに和んでいると、その横で三人がそんな会話をしていた。


「たいちょ、ボクのお芋くだしゃい!」

「ほれ」


そんな三人を他所に私のオヤツをディルナンさんに要求すると、持っていた紙袋と交換で小さな紙袋が渡される。


中を覗くと、コチラも小ぶりな焼き芋が二個。

一個を取り出し、残りの紙袋はお腹の大きなポケットへ。


ほんのり温かなそれをパカリと真っ二つに割ると、オレンジがかった美しい黄金色がその姿を現した。


「うへへへへぇ〜」


思わず笑みの形に緩んだ口元から、変な笑い声が漏れ出た。

気にせずそのままパクリと一口。


本当に美味しいモノを食べると語彙って無くなるよね。

そのまま無言の無心でパクパク食べちゃうし。


冷めてても甘い〜。美味い〜。

蜜をたっぷりと蓄えて、しっとり通り越してネットリに近いこの食感がまた堪らんわぁ。


「……ユーリを見とると、儂等も食いたくなるのぅ」


ヤハルさんのそんな言葉に、ディルナンさんが大きめな一本をパスする。

それをツェンさんと半分こするヤハルさん。


そんな私達を見て子竜達も焼き芋を半分に割り、その黄金色に齧り付いた。

その甘味に、クリクリの瞳が美味しそうに蕩ける。


その美味しそうな断面とリアクションに、まだ食べた事のないドラゴン達がゴクリと唾を飲む音がちょっぴり聞こえた。


「おいしぃねぇ」

「「きゅぅ」」


言葉の壁も易々と越える、この焼き芋の美味しさは本当に偉大です。


「……ドラゴンってのは狂喜乱舞を通り越すと溶けるんだな」

「こんなにも簡単に無力化したドラゴン、未だかつて誰も見た事なかろうて」

「ドラゴン攻略に武力よりもっと効力高いモノがあるなんて、この光景見なきゃ信じられないでしょうね」

「ーーー…………何だ、コレは」


ある種感嘆する三人に、そこへ仕事を一段落させて戻ってきたソフィエさんが困惑した声向ける。


「幼児のオヤツによるドラゴン攻略の図だ」

「何故お前がいるんだ、ディルナン。益々意味が分からないんだが」

「他に説明しようがない。考えるな、感じろ。何ならお前も焼き芋食っとけ」

「……は?」


全くドラゴンに関わりのないであろうディルナンさんが子竜の側にいるの、確かにソフィエさんからしたら謎と言うか納得いかないだろうなぁ。


まさか私のオカンが故に問題無しの認定受けたなんて、ディルナンさんがいるこの場で言ったら拳骨落ちそうだし。


ディルナンさんも説明しにくいから原因の焼き芋渡してるし。


ソフィエさんの手に渡った焼き芋ってば、ドラゴン達からあからさまな熱視線浴びてる。

うん、いくらソフィエさんと言えどビビるし食べ難いよね。


そんなやり取りの傍らで焼き芋を齧りつつ、今度は焼き立て熱々で食べたいなーと思いました。まる。

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