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62 本日の予定その4 晴れのち嵐の予感

頬をくすぐるように何かが撫でる感覚に、沈み込んでいた意識が浮上していく。


「キュ」

「キュー!」


思わず身動ぎすると、少し高さの違う可愛らしい鳴き声二つが聞こえた。

…鳴き声?


うん? と心の中で首を傾げていると、再び頬をくすぐる感覚。今度は小さなモノでチロチロ少しずつ撫でられている。


「んにゅ…?」


少し重たい寝ぼけまなこを押し上げると、ぼんやりしていた視界の左右に紅白の何かが映り込んだ。


…ここ、どこだっけ。

明らかに明るい視界に、寝てた場所と理由に思考を巡らせる。


一気に眠る前の記憶がフラッシュバックし慌てて起き上がると、左右にいた紅白の何かがコロンと転がる。

それに視線を向けると、そこには眠る前に生まれた小さな竜が二頭いた。


健康そうな朱色の子竜と、私が光の魔力を送っていた卵から産まれた二回りほど小柄な白い子竜。

視界の左右に映り込んでいた紅白は、この子達だったのか!


「キュッ!」


元気に直ぐに起き上がってくる朱色の子竜に対し、転がったまま目を丸くしている白い子竜。

何て事だ!


「ほわぁー、ゴメンねぇ!」


慌てて白い子竜を抱き起すと、そのまま抱き着いてスリスリと擦り寄ってくる。

それを見て、朱色の子竜まで反対側からピッタリくっついてきた。


思い浮かべていた欲望通り子竜が二頭揃って孵っている光景が、こんなにも素晴らしいなんて!

可愛い。最高。尊い。

…ダメだ、語彙が死んでいる。

そして表情筋も仕事放棄してユルユルになっている。


何となく朱色の子竜が雄で、白い子竜が雌かな?


「……ボクの弟と妹がこんなにもかわいいでしゅ」

〘んん゛〙


思わず二頭纏めて抱きしめて呟くと、二頭もギュッと同じ様に返してくれる。

天国かな?


いや、それよりも周囲の上の方から咳払いにも似た声が幾つも重なって響いてきたけど何だろう?

咳払いと言うには余りにも大きな声量だった気がするけど、他に似てる音が思いつかない。


竜舎だから大丈夫だとは思いつつも二頭に害を及ぼす様なモノが周囲に無いかを確認していると、子竜二頭も一緒にキョロキョロと周囲を見回す。


だから、可愛いが過ぎる!


そんな事を思いつつ念の為に視線を上にも向けると、周囲を巨大な成竜達に完全に囲まれていた。


おぅ。改めて見ると、物凄い迫力。

でも、なんか挙動不審?

揃いも揃って長い首が微妙にグネグネしてるような……。


〈あー、ゴホン。…“竜の愛し子”、目が覚めたかの。体調はどうじゃ?〉

「赤いおじいちゃま。大丈夫でしゅ!」


今度は明らかに咳払いと分かるソレをしてから、近くにいた赤い長老ドラゴンが声を掛けてくれるのに答える。


うん、寝たらすっかり元通り元気です。

そう言えば、どれくらい寝てたんだろう。


〈ふむ。見た感じは元気そうで何よりじゃが…ちょっと心配じゃの〉

〈人型の子は人型に診てもらうのが一番じゃろ。丁度控えておるしのぅ〉

〈どれ、子等よ、“竜の愛し子”から少し離れるんじゃ〉

〈エスメリディアス、ミルレスティ〉


四頭の長老ドラゴン達が口々に言うと、一番近くにいた子竜二頭のお母さん竜達が自分の子供を優しく銜えてその足元へと引き取る。


〈ユーリ、献身的な助力を心から感謝する。…改めて礼を言いたい故、まずはしっかり診察を受けてから戻るが良い〉

〈“竜の愛し子”、また後で子供達に会ってあげて〉

「ママしゃん達、おめでとうございましゅ! 一緒に遊ぶのはボクからもお願いしましゅ!」


更にお母さん竜達にも促され、取り敢えずお祝いの言葉とお願いを伝えると優しく目を細めて頬を舐めてくれた。

あ、これ、さっきの起こしてくれたのと同じ感触だ。


そんな事を考えていると、赤い長老ドラゴンに優しく銜えられた。

牙が全く刺さらない。これは一体どういう原理なんだろうと思いつつ、のっしのっしと歩く長老に入口の方へと運ばれていく。

一歩一歩の歩幅が広いので、あの広い竜舎の入口にあっという間に辿り着いた。


「ユーリちゃん!」

「あ、ツェンふくたいちょ」


入口の傍にいたのは、騎獣部隊のツートップであるヤハルさんとツェンさん、機動部隊のソフィエさん、そして伝言を頼んでいた医療部隊のヴィンセントさんにバクスさんとフォルさん、魔導部隊のシェリファスさんにアルガさんとリシューさん。


その中から真っ先にツェンさんが飛び出して来て、赤い長老ドラゴンから私を素早く受け取る。


「ツェン副隊長、ユーリちゃんをこちらへ」


私を抱えて他の面々の元へ戻ったツェンさんにフォルさんが声を掛ければ、直ぐ様ツェンさんからフォルさんへとパスされた。

そのまま流れる様な滑らかな動作で、片膝をついたフォルさんの膝の上に着席状態へ。


「はい、ユーリちゃんバンザイ」


フォルさんのちょっと迫力のある笑顔とお声に、考えるよりも早くその通りに体が動いていた。

それと同時に上着が引き上げられ、既に聴診器を装着していたヴィンセントさんが診察を始めると同時にバクスさんに右手を取られる。


健康診断というよりも本当に診察されてる状態。


「フォル、医療部隊の診察が終わったらそのままリシューに回せ。魔導部隊こちらでもユーリの魔力回路の精密確認をしよう」

「はい、お願いします」


更にシェリファスさんからフォルさんにそんな声が掛けられる中、ヤハルさんとツェンさん、ソフィエさんはと言うと赤い長老ドラゴンとお話を始めていた。

所々で私の名前が出てるけど、三人共その表情はとても硬い。


あれ、思った以上に大事になってるのかしらん?


「…セリエル殿の言っていた“回復系統は自己犠牲の傾向”というのはこういう事か」

「本人の自覚と危機感が薄い。というか、全く分かってないな。これなら物理的に限界を覚えさせる必要があると言っていたのも納得しかない」


小首を傾げていると、診察が終わったらしく、聴診器を耳から外しつつヴィンセントさんが厳しい表情で告げる。

それにシェリファスさんまでが似た表情で頷いていた。


「「セリエル殿待ちだな」」


ピタリと揃った隊長二人の言葉に、ゾワリと悪寒が走る。


この後の展開がどう考えても荒れ模様だった。


声のニュアンス的に、セリエルさんを待つのは私への効果的な教育的指導の為に言いたい事を一度飲み込むよ、的な?

それってつまり、セリエルさんが到着したらしっかり相談した上で後から教育的指導(お説教)が確定したって事に他ならない訳で。


だって、医療・魔導部隊の他の四人がめっちゃ頷いてるんだもの。

そして揃いも揃って笑顔でお怒りのオーラ出してる。

何なら「いいぞ、もっとやれ」と言わんばかりだ。


と言うか、ヴィンセントさんとシェリファスさんの二人のお説教を想像するだけでもガクブルしちゃうのに、ここにいないセリエルさんが誰よりも怖い予感しかしない。

前回の口ぶりからして、明らかにお説教に慣れてますよねー?(白目)


逃げ出したいけど、フォルさんとバクスさんに身体的に拘束されてるので逃げられない。

まだ魔導部隊の診察もあるみたいだし。

そもそも逃がす気自体が無さそうだしなぁ…。


百万が一逃げられたとしても、後が恐怖百倍でしかないだろうなぁ。


そんな現実からの逃避を兼ねて、寝る前の自分の行動をもう一度振り返る。


報・連・相、一応したよ?

だから皆様ここにいるし。


うん、頑張ったのも自分の出来る範囲内です。

完全にストップかかる前に白い子竜ちゃん孵化してくれたし。


……やっぱり怒られる理由が分からない。

どうしてこうなったのー!?(泣)

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