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61 本日の予定その3 お兄ちゃんに立候補してみました

魔力を送り始めてどれ位経っただろう。


気付けばヤハルさんとツェンさん、それとソフィエさんの声の他にヴィンセントさんとシェリファスさんの声もちょっとだけ聞こえた気がする。

あれ、フォルさんとリシューさんの声もする? 結構な大所帯になってるのかな?


ただ、こちらに近付いてくる気配は今の所ない。まぁ、本来近付ける状況じゃないものねぇ。

申し訳ない。ちょっと振り返って周りを確認する余裕は無いかな。




ずっと送り続けている光属性の魔力と思しき魔力の糸は細く長く、未だに続いている。

何となくこれを絶対に切っちゃいけないと本能が叫んでいる。

その位この子はギリギリのラインで命を繋いでいるのだろう。

せめてセリエルさんが来るまで、どうにか持たせなければ。


汗が額を、頬を、いや全身を伝い落ちている。

意識がちょっと朦朧としているのか、視界は少しゆらゆら揺らめいている。

でも、思考は止まっていない。

まだ大丈夫。


ここで心が挫けちゃいけない。

某元プロテニスプレイヤーが言ってた。「崖っぷち、だーい好き!」って。

うん、その心意気だ。

頑張れ私。

今こそ自分の想像以上の力を発揮する時!


自分より小さな子供ドラゴン、絶対可愛い。しかも二頭。最高だ。

それを見ずしてどうする。

叶うのならば、二頭に囲まれたい。


自分の欲望に忠実に妄想しつつ心を奮い立たせていたら、目の前ににゅっとストローの刺さった子供用カップが差し出された。


「このままでは君が先に参ってしまう。飲みなさい」

「……ソフィエ、たいちょ?」

「ほら」


問答無用と言わんばかりに銜えさせられたストローを吸えば、爽やかな柑橘系の香りと共に少し甘しょっぱい味が口の中に広がった。途轍もなく美味しい!

それを感知すると、物凄く喉が渇いていたんだと少し遅れて実感する。

気付けばカップの中身を一気に空にしていた。


「もう少し飲めるか」

「あい」


もう一杯飲み物を貰って一息入れると、再び卵へ集中を戻す。

あ、しまった。飲み物のお礼言ってない。


…終わったらちゃんとお礼しないと。







あれからどれ位経ったんだろう。


気付けばポタリ、ポタリと温かな雨が降ってきた。

最初は少し濡れただけだったのに、あっという間にびしょ濡れになってしまう。

おかしいな。私、外にいたっけ?


〈―――……人型の子、其方の限界が近い。もう…〉


遠くで、涙にくぐもった声が聞こえる気がする。

他にも、少し焦った声がいくつか。

小さく可愛い鳴き声も聞こえた。


心配掛けてごめんなさい。

でも、もうちょっとだけ待って。

だって、ほら。


「―――…ようこそ、小さなドラゴン。ママは、ここだよ」


疲労感にクタクタになりつつも掌に伝わった感覚に微笑んで声を掛ける。

それに応えるように卵の表面がピシリ、と音を立てて亀裂を入れた。


それを見て撫でていた手を離し、エスメリディアスを見上げる。


あぁ、降り注ぐ雨はエスメリディアスの涙だったのか。

今もまだ降り続く、涙。

温度こそ温かいが、酷く冷たく感じる。

絶望に暗く染まった蒼い瞳から次々とそんな雫が溢れ続けていた。


でも、今から流れるのはそんな悲しい涙じゃないから。

どうか、涙を流しながらでもいいから。笑って。


「呼んであげて。いま、生まれる」

〈………………っ!〉


私がエスメリディアスに声を掛けている間にも、卵の亀裂は少しずつ広がっていく。

命が、確かに生まれようとしていた。

そこに確かな存在かがやきがあった。


涙で歪んだ視界でもエスメリディアスもそれを認めたのだろう。

息を飲んだ。


〈吾子…?〉


エスメリディアスのどこか恐る恐るといった呼び掛けに、亀裂から穴が開き、小さな鼻先が覗く。

その鱗は、純白。


そして鼻先が穴を起点に必死に押し上げる様にして殻の上半分を破り、その姿を見せる。


〈キュゥ〉

〈吾子!〉


小さくとも確かな鳴き声に、エスメリディアスの瞳から更に涙が溢れ出す。

エスメリディアスが再び子竜を呼んだその声は力強く、喜びに満ちて。


降り続く涙の雨は先程までと異なりとても優しく温かく、まだ少し殻を纏った純白の小さなドラゴンと私を濡らしていく。

その間にも残っていた卵の殻を必死に破って、小さなドラゴンは遂にその姿を完全に現した。


〈キュ〉

「よくがんばったねー。ボク、人型のおにいちゃんよー」


エスメリディアスに続き、私にも視線を向けてくる純白の小さなドラゴンに笑い掛ける。


セリエルさんが来る前でもどうにか無事に孵化できて、良かった良かった。


結構必死に頑張ったから、取り敢えず北の魔王城なのでお兄ちゃんに立候補させて下さい。


〈キュ……〉

「ボクも疲れちゃったの…。一緒にお昼寝しゅる……」


孵化するのに体力を使い果たしたのか、私の体に擦り寄って寝る体勢に入る純白の小さなドラゴン。

それを見て、私も気持ち程度の汚れ防止に首の後ろのフードを被って一緒に転がった。


後の事は、少し休んでから。

その頃にはセリエルさん、来てくれてるかなぁ。

光属性のドラゴンの事、何か知ってると良いな。


そんな事を考えて寝転がったけど、横になった瞬間に思ってたよりも疲労がピークに達していた事を思い知る。

正にお休み三秒状態で意識が暗転した。

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