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60 本日の予定その2 卵を抱えたママさん達にも会いまして

入り口付近の長老達四頭とヤハルさんとツェンさんが話しているのを横目に、取り敢えず卵を抱えている二頭以外は撫で終わりました。

なんだかんだで獣舎の奥の方へとやって来た訳ですが、そこには先に獣舎に入っていたソフィエさんと噂のエスメリディアスと思われる綺麗な水色のドラゴン、そして深紅のドラゴンがいた。

二頭の足元には、大切に抱え込まれた卵。

ドラゴンと並ぶと小さな卵だけど、私からしたらそれは大きな卵だった。


ソフィエさんがエスメリディアスに話し掛けているけれど、それに答えつつもエスメリディアスの視線が向かうのは足元の卵でどこか上の空。

その瞳に浮かぶのは焦燥感と不安、だろうか。


深紅のドラゴンの卵は力強い光の様なモノを纏っているけれど、エスメリディアスの卵にはそれが殆ど無い様に見える。


そんな状況だからか、卵を抱える深紅のドラゴンもどこか不安を帯びた瞳をしている。


…と、深紅のドラゴンが私に気付いた。


〈人型の子、どうかした?〉

「綺麗などらごんしゃん達、おはようございましゅ。…ここからなら見ててもいいでしゅか?」


長老達と比べると高い声。

その声にそっとお伺いを立てる。


〈あら、まぁ。随分と礼儀正しい子が来たのね。…エスメリディアス様、よろしいですか?〉

〈………………えぇ〉


深紅のドラゴンも隣のエスメリディアスにお伺いを立てると、辛うじて聞こえる位の小さな声で答えが返ってきた。エスメリディアスはひどく憔悴してる様に見える。

そんな様子に、胸が痛くなる。


ドクン、ドクン、と心臓の鼓動の様に卵が纏う微かな光が強弱を見せる。

それを静かに見つめていると、いつの間にか私の横に入口の近くにいた赤い長老ドラゴンが近付いていた。


〈何か見えるか? “竜の愛し子”〉

「赤いおじいちゃま。…あの子、頑張ってるの」

〈……エスメリディアスの子か?〉


卵の光を見つつ、赤い長老ドラゴンの声に答える。


深紅のドラゴンの卵の光は朱色で力強いのに、エスメリディアスの卵は今にも消えそうになりながら必死に白い光を覗かせている。

その美しさを、ただ見つめる。


「赤いママさんの卵は赤い光。水色のママしゃんの卵は…白い光」

〈!? 白、じゃと…っ!〉


見たままを伝えると、赤い長老ドラゴンが動揺するのが分かった。

その声に、ドラゴン達にも動揺が広がっていく。

それはソフィエさんもで、焦った表情で私を振り返った。


「?」

〈“竜の愛し子”よ、そなたが見ている光は恐らく生まれ出づる子竜の適性魔力の色よ。赤ならば良い。同じ火属性が我を含め何頭もおる故。だが、白は…〉

「光属性…?」


ついさっき、ツェンさんに聞いたお話だ。

光属性の白いドラゴンは、魔大陸にはいない。

過去に存在したのも一頭のみ。それも完全な白いドラゴンではなかったみたいだけど。


〈我等ドラゴンは卵に在る間は周囲の魔素を得て成長する。…何という事だ。それではエスメリディアスの前の卵も…………〉


呆然とした赤い長老ドラゴンの言葉に、入口の傍にいたヤハルさんとツェンさんも駆け寄ってくる。

そして、卵を抱える二頭の瞳には絶望にも似た色が宿る。


状況を理解すると、卵が孵化するには適性魔素を周囲から得る必要があるんだね?

で、元気な卵は適性魔素が同じドラゴンがいるから問題ないけど、弱っている卵は魔大陸では絶望的な光属性が適性魔素で、必要だと。


…光属性、ここにいるジャマイカ。

そんでもって、午後にはもう二人増えるジャマイカ。


って事は、やる事は一つだ。卵の母親であるエスメリディアスの許可が得られれば、だけど。


「ねーねー、赤いおじいちゃま」

〈…何かの、“竜の愛し子”〉

「ママさん達の卵、もうすぐ生まれる?」

〈そうじゃな。予定では、明日にも生まれる筈だ……〉


まずは一つ確認。

ヤハルさんがギリギリ孵化前って言ってたから、どの位で生まれるのか確認してみた。

ここまで生き延びているんだから、まずは卵から出られる力が残っているかが問題だよな。


でも光属性が絶望的だから、何だか場がお通夜かと思う位に沈んでいる。

エスメリディアスの瞳からはハラハラと涙が零れていた。

…ドラゴンでも、美人の涙は見てて凄く辛い。


「―――…水色のママしゃん、ソフィエたいちょ、ボクにその卵を触らせてもらえましゅか?」


ギュッとパーカーの胸元を握り締め、覚悟を決めて卵の母親とその相棒に声を掛ける。

すると、一頭と一人が私に視線を向けて来た。


「ボク、光属性の適性がありましゅ! だから、その卵に触ってみてもいいでしゅか?」


にぱっと、笑顔を心掛けて言葉を紡いだ。


助けられるかは全く分からない。

でも午後までこの子が生き延びていれば、セリエルさんの助けが得られる可能性が出てくる。

そうなれば孵化できる可能性も生まれる。


「ユーリちゃん……」

「ツェンふくたいちょ、午後になれば天使族のお医者さん達が北の魔王城にくるのー。だから、ボク、それまでがんばってみる!」

「なんじゃと!?」


ツェンさんとヤハルさんに私の考えを伝えると、二人が目を瞠った。

うん、凄い偶然だよね。

でも、こう言うのを運命とも言うんじゃないかしらん?


「……それは、本当か?」

「あい、ソフィエたいちょ。…ボク、大したことはできないと思うけど、ここで諦めちゃったらおしまいだから。どらごんのあかちゃん、二頭そろって見たいのー」

「エスメリディアスの子を、諦めなくていいのか?」

「その子はまだがんばって生きてる!」


そう、生きてるんだよ。

例え弱々しい光でも、確かに卵は光を放っている。だから、まだ諦めるなんてしたくない。


「だから水色のママしゃん、ボクに、許可をくだしゃい」


静かに、絶望に涙を零すエスメリディアスを見つめて真剣にお願いする。


獣舎にいる存在全ての視線が私達に集まっていた。

エスメリディアスの隣にいる深紅のドラゴンも今にも瞳から涙が零れそうになりながら必死に成り行きを見守っている。


〈―――……吾子が、助かるのならば…妾は何でもする〉

「!」

〈人型の子…………どうぞ、助けておくれ…〉

「がんばる!」


よし、そうと決まれば私も出来る限りの努力をしよう。

そして、その前に最後にする事は。


「ヤハルたいちょ、ヴィンしぇ(・・)ントたいちょにセリエルしゃんが来たらこの獣舎にきてもらうように伝えてもらえましゅか?」

「勿論じゃ! だがユーリ、無理だけはするんじゃないぞ」

「ツェンふくたいちょ、シェリファしゅ(・・)たいちょにも伝えてくだしゃい。何かいい方法教えてくれるかもしれましぇん」

「承ったよ、ユーリちゃん」


取り敢えず、確実にセリエルさんに伝わらないとマズイ。

って事で、ヴィンセントさんに状況を説明して貰う事が必須事項です。

それと、魔力監視員を派遣されている位だから魔導部隊にも光属性の力を使う事を伝えておいた方が後々の問題になりにくい。

って事で、丁度状況説明に向いているお二人がいるので伝言をお願いする。


上位役職者なのに、パシリの様で本当に申し訳ない。

でも、こうなったら早く取り掛かりたいし。


そこまで終えてからエスメリディアスにそっと近付き、その足元の卵に寄り添う。

私の身長の半分ちょっともある、大きな卵。

強い衝撃にならない様に、そっと卵の表面に触れて優しく撫でる。


前回はトゥートとモコロシに「おいしくなーれ」ってナデナデして成長促進させちゃったらしいから、同じ様に撫でてみる。

お腹の真ん中から温かな魔力が撫でている右手に伝わってくるのを感じながら、細心の注意を払って少しずつ少しずつ卵へと送り込んでいく。

卵に優しい光が満ちるイメージ。それ以上はダメ。


焦りは禁物。

時間が掛かってもいい。正確に、安全を最優先で表面を優しく撫でる。

私が卵の殻を割る訳にはいかないからね!


「ママが待ってるよー。がんばれー」

〈吾子…〉

「元気にでておいで」


もうすぐ生まれるのなら、きっと声は聞こえていると思う。

そう思って撫でながら声を掛ける。


まだ光は弱々しいけど、今にも消えそうな危うさは無くなってきた。

これが正しいのかなんて分からないけど、今は出来る事をやるだけだ。

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