58 本日の予定確認
皆様、おはようございます!
本日も快晴なり。空が真っ青で高く広がっております。
気付けば北の魔王城にやって来て早一ヶ月が経とうとしております。
最近の変化と言えば、元々医療部隊での活動は健康診断後の午前中だけ治療のお勉強とのお話だったんだけど。
つい最近、丸一日医療部隊でお世話になる事が決定しました。
というのも、医療部隊の指導員のフォルさんに加えて魔導部隊から魔力監視員としてリシューさんが加わったのが原因。
私が魔大陸では絶滅した(?)と思われていた光属性保持者だった事が判明した事で、魔導部隊の隊長であるシェリファスさんにヴィンセントさんが相談した事でこんな流れになった。
先日、ヴィンセントさん宅にお泊りした際のルートヴィヒ少年の師匠であるセリエルさんによるあの不思議体験。
あれが実は光属性の魔力の扱いを覚える為の行動で、天界では“循環”と言うらしい。
天使であれば本能的にそうする事を知っていて、無意識に体が動くんだそうな。
だからセリエルさんに勝手にへばりつきに行ったとの事。
光属性は回復術の他にも結界術や攻撃術があり、扱いが非常に複雑らしい。
更にその力は巨大かつ様々な反動があり、生半可に扱っては危険が伴うからこそ“循環”が欠かせない、と。
そうなると定期的に“循環”させつつ、光属性の教育も受けさせる必要があるとセリエルさんとヴィンセントさんの間でお話があったそうな。
で、どうも私にはご先祖様に天使がいるらしく、その遺伝が色濃く出現したが故の光属性保持らしい。
ただ私の髪や瞳の色、闇属性の魔力保持も考えると親とか祖父母よりもっと前のご先祖様みたい。
だから翼は生えないと思われる、と。
これは余談か。
そんな訳で、魔大陸で扱える者がいない光属性の術を既に無意識とはいえ数回発動させていると思われる私というのは扱い要注意という事になる。それ故に魔導部隊から魔力監視員の派遣となった訳だ。
ユーリ、設定モリモリだな!
この子、ただでさえ監禁されてここまで育っているって事はまだまだ複雑な因果関係が絶対に出てくるでしょ。
まぁ、私も時々夢の中で出会うユーリを介した夢でちらりほらりと状況を知ってるだけで、穴だらけの状況確認なんだけど。
取り敢えず夢で見た事は雑記帳のノートにメモして、出て来た人達は下手くそながらも人相書きというか、いくつかのポイントも書き込みつつお絵描きして残している。
何が正しいかも分からないから念の為にその情報をディルナンさんにも全く出さないでいるのに、北の魔王城の面々ときたら次々と側面から新たなるユーリの状況を探り出していく。
有能な人達って本当に半端ない。
まぁ、それだけ私が異端分子で下手な扱いが出来ないって事なんだろう。
恐らく仮入隊の三ヶ月でユーリの持つ実力については丸裸にされる事は覚悟している。
必要があれば、その時に私の知っている状況なんかも表に出していくつもりだ。
但し私の役目はこの体の主であるユーリを守る事なのだから、いくらディルナンさんが保護者と言えど現時点では何でも馬鹿正直に話すつもりはない。
そんな物思いに耽っている私ですが、本日はお休みです。
ただし、本日の予定は既に目白押しです。
因みにディルナンさんは既に厨房へ出勤済み。
まず、午前中は騎獣部隊で遂にドラゴンとご対面。
憧れのファンタジー生物、本当に存在してるんですよ。
テンション上がりすぎて、鼻息荒くなりそう。
獣舎には朝食に来た騎獣部隊の人と一緒に朝食を食べてから向かいます。
続きまして、午後。
セリエルさんとルートヴィヒ少年が出張訪問で北の魔王城にやって来る予定。
これは北の魔王城に来て二回目。
前回は初めての“循環”から二週間くらいの時に様子を見に来てくれたんだけど、色々とカオスだった。
うん、医務室で医療部隊と魔導部隊に取り囲まれた時は流石のセリエルさんのあまり動かない表情筋も引き攣っていた気がする。
対してルートヴィヒ少年は凄く楽しそうだった。
私の治療時のアレコレは関わった全ての部隊の面々に「流石はヴィンセントさんの息子」だと認識させたんじゃなかろうか。
取り敢えず、これからもお二人にはご迷惑とお手数をおかけします。
そしてもう一人、薬屋のシエルさんも気付けばアレコレに加わっていたり。
そんなこんなで、騎獣部隊からお迎えが来るまで現在お部屋待機なう。
いつも通りの時間に起きてるから、お腹空いたなぁ。
空腹から今度は今朝の朝食メニューへと思いを馳せていると、部屋の扉がコンコンコンと三回ノックされた。
「ユーリちゃん、おはよう。騎獣部隊からお迎えに来たよ」
それと同時に、高すぎず低すぎない男の人の声。
座っていたベッドから飛び降り、そっと扉を開くとそこには灰色のツナギを着たお兄さんがいた。
年の頃、身長、体格ともにエリエスさん位だろうか。
短い髪と優しく細められた瞳は稲穂に似た濃い黄金色だ。
「おはようございましゅ」
「はい、おはよう。改めまして騎獣部隊の副隊長のツェンです。今日はよろしくね」
「よろしくおねがいします!」
にっこり微笑むお兄さん…ツェンさんはとても暖かくて優しそうな印象だった。
オルディマさんが近い気がするけど、それよりももっと物腰が柔和というか。
まぁ、騎獣部隊の副隊長という時点で絶対に只者じゃないけど。間違いなくとんでもない実力者だけど。
流石にこれだけ北の魔王城で色々な人達見てれば私だって学習する。
平隊員さん達だって凄く仕事出来る人ばかりだ。
そんな人達を取りまとめる上位役職者達はまさにカリスマ。
どの部隊でも思わずその仕事ぶりに見惚れる事だって少なくない。
今日はどんなお仕事が見れるのか。
騎獣やドラゴンもだけど、隊員さん達の仕事ぶりも楽しみにしている。
ニコニコしていると、ツェンさんも一緒にニコニコしていた。
「今日の格好は、ドラゴンが意匠かな?」
「あい! どらごんに会いに行くって言ったら、カラフおねーちゃまが作ってくれたのー」
「うん、可愛いね」
そう、ツェンさんのご指摘通り、本日の格好はドラゴンがモチーフなのです。
真っ白な丈の長いパーカーと七分丈のズボンと動きやすい靴。
そのパーカーの帽子がドラゴンの顔と角付きで、お尻辺りには長めの尻尾が付いていたり。
「白いドラゴンは北の魔王領に限らず魔大陸にはいないから、獣舎のドラゴン達もケンカにならないだろうしね」
「…白いどらごん、いない?」
「ドラゴンは四大属性の代表色と言われる赤・青・緑・茶に類する色の個体が多いかな。白は光属性だから魔大陸では基本的に生まれないし、過去に一頭だけ白というか、黄白色のドラゴンがいた記録があるけど育つのが凄く大変だったという記録が残っているよ。凄く珍しい闇属性の黒竜は北の魔王城には一頭だけいるんだけど、今日は出掛けてるからね」
「しょーですか…」
そうかー。同じ色のドラゴンいないかなーって思ってたけど、ケンカとかにならない様にきっとカラフさんが気を利かせて確認してから作ってくれたんだろうなー。
カラフさん、本当に気配り上手。
「さて、じゃあ朝ごはんを食べて早速獣舎へ行こうか。隊長がドラゴンの様に首を長くして待っているよ」
「ヤハルおじーちゃん!」
「そうだね。よく覚えてたね、ユーリちゃん。きっと隊長も喜ぶよ」
ちょっとショボンとしてたら、ツェンさんが笑顔で左手を差し出してくれた。
その手を繋ぎ、部屋を出る。
今日の第一目的の前に腹ごしらえをすべく、すぐ傍の食堂へと二人で歩き出した。