①悪魔将ヘカトンケイル
その日の夕方、リーザスでは緊急会議が開かれた。
オルグの殲滅しようという話ではない。
村長が言う。
「この場合は巣穴の規模が小さかったとしても早い段階で報復に来る」
巣穴の規模が小さい。
よくあることだ。
だが、その巣穴の主がオルグの上級種だった場合は組織的に展開している可能性があり、裏で操る闇の眷族がいる。
「不思議かもしれないが、人間同士の戦争でも戦死体から微量の魔素が放出する。その日の夜に限っては地上に悪魔が現れることもあるんだ!」
リーザスの警備が甘いことなど、誰だって知っている。
確かに優秀な聖騎士を赴任させたのはエスタミル公爵の計らいかもしれないが、同時に疎まれている者であるかもしれない。
とある騎士が言う。
「そのボロを着ている黒い冒険者よ。オルグどもが報復に来たらどう責任を取るつもりなんだ?」
「お前のような冒険者は金貰えりゃ、どっかに行っちまう。尻拭いをするこっちの身にもなれってんだ!」
「だいたい聖騎士殿、オルグを討伐しろなんて本部から命令されたことじゃねーんだ。黒い戦士を連れてきたのは俺たちに当てつけじゃねーのか?」
会議室には村長や騎士たち、村の有力者が集まり、ことの責任をアユリアに追及している。
「やっぱり、血は争ねーな」
誰かが放った一言。
「そう言えば、聖騎士殿の父親はブランシュバイク様から勲章まで授与されたって名騎士だったが、その祖父は旧帝国軍の聖騎士で中隊長まで上り詰めたのに戦争になったら逃げちまったって話だったよな」
「き、貴様ら……」
アユリアは立ち上がる。
抑えられない涙。
そのとき、外から聞こえる悍ましい喧噪。
建物から出てくると、村人たちが恐怖で悲鳴をあげている。
そう、村の外柵沿いに潜むこともなく、オルグの大群がいるのだ。
夕焼けに染まる空の下、明らかに通常のオルグとは違う闇の眷族が立っていた。
「我が名はヘカトンケイル! ネメシス様の使徒にて悪魔将のひとりだ」
その声は魔力を秘めているのか?
村々の隅々にまで広がる。
「俺の子分の巣を襲った冒険者を差し出せ。子分どもを〇された恨みを晴らす!そうすれば貴様ら愚民どもの命は助けてやるよ」
悪魔将と聞いて、全員が凍り付く。
だが、悪魔将とは地下迷宮最下層にいる存在だ。
あの魔族が吹聴している可能性はあるが、それそうとうの上級悪魔であることは戦いを知らない村人でも察した。
「な!? 冒険者を出せってんなら、そうすればいいじゃねーか?」
「そ、そうだよ。あの魔族は黒い戦士に用があるってんだったら、突き出せばいいじゃねーか!」
警備兵や村人たちからの視線が黒い戦士に突き刺さる。
「そもそも、俺たちはオルグを〇してくれなんて頼んでねーんだぞ!」
周囲から罵詈雑言を浴びされ、黒い剣士は大剣を背負うと歩き出した。
「ちょ……アイツらは悪魔だ! 黒い戦士を倒したら、ここに攻めてくるんじゃないのか?」
外柵に近づくと、黒い戦士に石つぶてが投げ付けられる。
「この疫病神が!」
その勢いは女性から子供らにも広がり、みんなで拾った石を黒い戦士にめがけて投げつけた。
「や、やめろー!」
彼は村のために命を賭けた戦ったというのに何故、村人たちからこんな仕打ちを受けるの?
アユリアは本当は彼の後ろに立って手を広げ、盾になりたかったが、この大軍を見て足がすくみ動けなかった。
これが……戦争……。
あんな大軍、どうやって……。
村の外に出ると額から流れる血も気にせずに、ヘカトンケイルを睨みつける黒い戦士。
そして、彼の周りを1000体ほどのオルグが囲む。
「……その鎧は……ダークヴィルダー……暗黒教団の戦士か?」
この軍勢を見せつけられ、抵抗することもなく、たったひとりで目の前に迫る黒い戦士にヘカトンケイルも驚愕する。
「暗黒騎士か?名を聞いておこうか?」
「お前は目の前のゴキブリを踏み潰すとき、いちいち名を言うのか?」
黒い戦士はドラゴンスレイヤーを構えた。




