表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】退魔師JKに拾われた俺、生霊のまま同棲することになりました  作者: 秋夜紙魚


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/30

第3話

「っ……」


 夢から覚めた雅兎が瞼を押し上げると、そこには知らない天井があった。

 ガバ、と身体を起こす。掛け布団がばさりと音を立てて落ちた。


 六畳の和室。

 あるのはタンスと炬燵、そして自分が寝ていた布団だけ。

 窓の外に目を向けると、空はほのかに白み始めている。


「あ、起きた……」


 バタン。開き戸が閉まる音。

 音のした方に目をやると、セーラー服の上にカーディガンを羽織った少女――観海寺里見かんかいじさとみが立っていた。


 少女は靴を脱いで部屋に上がると、無表情のまま聞いてきた。


「身体は大丈夫ですか?」

「あ、えっと、うん。平気みたい」

「すごいですよね。脚、切断されていたはずなのに」

「そうだね……うん、あれ、そう……だった!」


 その言葉で、雅兎の脳裏に公園での惨劇がフラッシュバックする。

 どうして忘れていたんだ?  雅兎は慌てて布団を剥ぎとり、下肢に目を向けた。


 ――ある。

 そこには傷ひとつない右脚が、きちんと付いていた。


「あ、あれ?」


 不思議に思いながら、膝を立て、足首や指を何度も動かしてみる。

 痛みも、違和感もない。


「というか、脚、千切られて転んだんだっけ? 石に躓いたんだっけ……?」


 混乱して記憶があやふやになっているのか。

 雅兎は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようとした。


 ふと、熱烈な視線を感じる。

 この部屋の主であろう少女が、雅兎の顔をじーっと見つめていた。


「え、えっと……ど、どうかした?」

「……」


 返事はない。

 彼女は映画やドラマに見入る子どものように、一心不乱にこちらを凝視している。

 さすがに気恥ずかしくなり、雅兎は顔を伏せて頬を掻いた。


「……はっ」


 数秒後。ようやく我に返ったように少女が動いた。

 部屋の真ん中で立ち止まり、蛍光灯の紐を引っ張る。

 チカチカと瞬いた後、室内に明かりが灯った。


 まぶしさに思わず目を細める雅兎をよそに、彼女はキッチンへと向かい、冷蔵庫を開けて振り返る。


「えっと、その……朝ごはん、いりますか?」

「あ、えっと……うん。いる」

「はい」


 彼女はエプロンを身につけ、手際よく調理を開始した。

 カチャカチャと卵を混ぜる音。ジューッという焼ける音。

 食欲をそそる香りが立ち昇り、雅兎の腹が小さく鳴った。


「あ」


 そういえば、と雅兎は辺りをキョロキョロと見回した。

 気にかかることがあったのだ。

 三途の川から一緒にやって来た、あの人懐っこい魂のことだ。


「うわ」


 ブンッ!  待っていたとばかりに、魂が眼前に飛び出してきた。

 元気だぞ、とアピールするように雅兎の周りを飛び回る。


「よかった」


 相棒の無事に安堵して、その丸っこい身体を優しく撫でる。

 そうこうしているうちに、女性が完成したおかずを持ってやって来た。


「えっと、どいてもらっていいです?」

「あ、うん」


 彼女は雅兎が座っていた場所の布団を脚で払いのけ、手近にあった炬燵を引きずってくる。

 次いでキッチンからロールパンの袋を掴んで戻ってくると、炬燵に入り、「出来た」と視線で訴えた。


「うん」


 雅兎は彼女の対面に座り、手を合わせる。

 お皿にはスクランブルエッグと、カリカリに焼かれたベーコン。


「いただきます」

「パンもどうぞ」


 二人は黙々と朝食を消化していく。

 味付けはしっかりしていて、十分に美味しい。うま味調味料はすごいな、と雅兎は感嘆した。

 三つのロールパンを食べ終えた頃、彼女が立ち上がった。


「珈琲淹れるけど」

「じゃあ僕の分もお願いします」


 コトッ、と白いカップが置かれる。


「砂糖とミルクは?」

「いや、ブラックでいいよ」

「はい」


 カップを口元に近づけると、インスタント特有の安っぽい香りが漂った。

 ずずっ、と啜り、ひと息つく。


「それで、キミは?」

「観海寺里見、高校一年生です。貴方は?」

「あ、ごめん。僕は柴石雅兎。大学三年生」

「はい」

「うん」


 会話が続かない。

 肝心なことは何一つ聞けていない。

 雅兎が意を決して「聞きたいことがあるんだ」と切り出した、その時だった。


 コンコン、とノックの音が響き渡る。


「失礼するわね、里見。お邪魔だったかしら?」


 ドアが開け放たれた先。

 そこに立っていたのは、雅兎が見惚れるほどの美女だった。


 幻想的な白い髪。光輝く青い瞳。透き通るような肌。

 豊満な肢体を包む西洋風のドレスが、その夢幻的な美しさを際立たせている。

 不自然な点があるとすれば、この古びたアパートにそんな人間が訪ねて来たことくらいか。


「別に」

「なんだか、良い雰囲気だったわよ? 昨日出会ったばかりだというのに、初々しさの欠片も無い感じがグッドだわ」


 うふふ、と来訪者は笑う。

 言われてみれば、確かに雅兎はこの空間に安心していた。枕が変わると眠れないほど繊細な雅兎にしては珍しい。


 だが、その安堵感は、旅行先の開放感とは違う。

 どちらかと言えば、捕食者から逃げ延びた兎が巣穴で感じるそれに近い。

 あの化け物の少女に狙われながらも、生き延びたことに起因する安堵だ。


「まさか、手は出していないわよね?」


 どこから出したのか、黒い扇子で口元を隠し、彼女は汚物を見るような目で言った。


「いや、いやいやいや。ありえないですって」

「あら! 里見は手を出すには値しないって言いたのかしら?」

「そんなこと、言ってないですって!」

「……ふふ、冗談よ」


 微笑む美女とは対照的に、雅兎はどっ、と疲れて項垂れた。


「ま、見るからに草食系な男子だし、ありえないわね」

「えー……」


 ナンパ野郎の自覚など皆無だが、それはそれで男としてどうなのか。雅兎は少しだけ気落ちする。


 女性は部屋に上がると、まるで我が家のようにいそいそと炬燵に入った。

 白いドレスと炬燵と扇子。

 非常にミスマッチだが、それでも絵になる美しさだ。


「はぁ……やっぱり日本人としては炬燵よねぇ……この暖かさは狂気だわ」

「……風情もへったくれもない体質のくせに」


 はふっ、と息を吐く女性に、里見がそっぽを向いて言う。


「あら、わたしだってれっきとした日本生まれの日本育ち。情緒というものを心得ているわ」

「この炬燵、電源入ってないけど。大体、もう夏だし。炬燵の布団はわたしが面倒くさくて片付けていないだけ」

「さて、そこの貴方」


 里見の視線から逃げるように、女性が雅兎の方を向いた。

 突然矛先を向けられ、雅兎はごくりと生唾を飲み込む。


 こちらから切り出すべきだ。

 雅兎は大きく息を吸い込んで、口を開いた。


「ぼきゅ、」


 噛んだ。

 顔を真っ赤にする雅兎を見て、白髪の女性がしとやかに笑う。

 ちらりと部屋の主を見れば、彼女はどこから出したのか、せんべいをボリボリと無表情で貪っていた。


 雅兎は咳払いをして言い直す。


「……ぼ、僕は今、そのですね、どういう状況なのでしょうか?」

「ふむ」


 女性は顎に指先を添えて、思案げな声を漏らす。

 バリバリと聞こえてくるせんべいの音が、緊張感を奪っていく気がした。


「それを聞くべきは、わたしたちなのだけど?」

「そう……です、よね」


 雅兎がガックリと肩を落とすと、せんべいの音が止まった。


ぎん


 里見の声が響く。


「苛めるのはそれくらい」

「……そうね。まだ判明していない事もあるし、憶測まじりになってしまうけれど、よろしくて?」


 雅兎は力強く頷いた。

 里見は小さくため息を吐くと、再びせんべいを口元へ運ぶ作業に戻った。


**************************************


応援コメント、レビューが励みになりますので、お時間があれば是非。


☆評価もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ