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【悲報】退魔師JKに拾われた俺、生霊のまま同棲することになりました  作者: 秋夜紙魚


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第27話

「……正解、みたいね。どうやったの?」

「管理人さんが、そこにいる世界を探した」


 雅兎は不敵に笑った。


 雅兎が能力の対象として捉えたのは、この部屋そのもの。

 細かく言えば、銀が立っている空間だ。


 別の世界の、同一時間軸。

『雅兎が刀を振り下ろした瞬間に、観海寺銀がその場所に立っている世界』を探し出し、現在に上書きしたのである。


 パチン。


 銀が指を鳴らすと、鎖が砕け散った。

 解放された人魂が、心配そうに雅兎の周囲を飛び交う。


「わたしの事をチートだとか言ってたみたいだけど、貴方も大概だわ」

「どうだか。僕は五分間を計四回、俯瞰で別の世界からこの光景を見てきた。割に合わない程、疲れる」


 二人は距離を取り、刀を下げた。

 極限の緊張が解け、重苦しい空気が霧散していく。


「たぶん、僕はずっと、無意識の内に時間的制限を設けていたんだと思う」

「なるほど。どこまでの時間を遡った上で、平行世界を覗きこむのか、ってことね」


 銀はこれまで、雅兎の力でも里見が元に戻らない理由を、『災厄と里見の魂が癒着しているから』だと解釈していた。霊体は時間の概念に左右されないからだ、と。


 しかし、前提が間違っていた。

 そもそも雅兎の力は、霊体である彼自身の身体ですら治療(修復)していたのだ。


「アリシアとの戦いが一ヶ月前。貴方の力は、どれくらい過去を遡れそうなの?」


 銀の問いに、雅兎は迷いなく頷いた。


「たぶん、どれくらい前でも大丈夫だ」

「なら、里見の中の災厄が目覚めてしまった原因がアリシアにあるのだから、あの出来事が無かった世界を見つければ良い、か」

「いや、それだと意味がない」


 雅兎はきっぱりと言い放った。

 銀も、すぐにその意味を悟る。


「……ええ、その通りね。連合は里見を探している。どちらにせよ、里見が災厄を具現化させた事には感付かれているわ。里見を救うとしたら、もっと確実な『何か』が必要」


 しかし、その『何か』が何なのか。

 万策尽きた銀には、見当もつかなかった。


 けれど、雅兎は「そう難しいものでもないですよ」と事も無げに言った。


「え?」

「連合には、里見の中の災厄が、あとどれくらいで目覚めるのか判別が可能な技術がある。そうですよね?」

「ええ。で、でも、どちらにせよ期限まで残り二年。だったら、里見が元の状態で現れてそれを引き合いにだしたところで、処分されてしま――」

「残り数十年後、とかだったらどうです?」


 銀は息を呑んだ。

 雅兎の言葉を反芻し、その真意に辿り着く。


「まさか」


「里見が六つの時――あの時まで遡ります」


 雅兎の瞳に、強い光が宿る。


「里見の力が目覚める原因となった事故。あれを回避した世界を見つけます。必ずあるんです。だって、現に僕は一度、里見が死んでしまった世界を、この目で見た。結末が違う世界は有り得るんです」


 もし、あの事故のトラウマがなければ。

 災厄の覚醒は早まらず、本来の「成熟」まで数十年を要するはずだ。

 そうなれば、連合が里見を処分する理由は消滅する。


「……本気なの?」

「はい」


 雅兎は頷き、刀を握りしめていた手を開いた。

 カラン、と乾いた音を立てて、刀が地面を転がる。


 そのまま、獣のように唸る里見の前に進み出る。

 生唾を飲み込む。


「……貴方に全てを委ねるわ」


 背後からの声。

 雅兎は振り返った。


「え?」

「どうか――里見を助けてあげて」


 最強の退魔師であり、絶対的な管理人である観海寺銀が。

 一人の学生である雅兎に向かって、深々と頭を下げていた。


 雅兎は慌てて否定しようとして、口を噤んだ。

 ここで謙遜するのは、彼女の覚悟に対する侮辱だ。


 顔を上げた銀は、どこか吹っ切れたような笑顔を見せた。


「……早く戻ってくるのよ」

「どうせ、こっちでは一瞬のことですよ」


 雅兎もまた、笑顔で返す。

「そういう意味じゃないわよ」と呟かれた銀の声は、聞こえないふりをした。


「そういえば」


 と、雅兎は人魂の方を向いた。


「ありがとう、助けようと頑張ってくれて」


 人魂は照れたように、身をよじってぷるぷると震えた。

 銀がくすくすと笑う。


「その子は、貴方に感謝しているのよ。初めてだったんだって。貴方みたいに身を挺して守ろうとしてくれた人」

「……僕の、知り合いだったのか?」


 人魂から答えは返ってこない。言葉を持たない彼に、術はないのだ。

 代わりに、銀が口を開く。


「そうじゃないわ。その子は――」


 言いかけた銀の口を、人魂が体当たりして塞いだ。

「言うな」という強烈な意思表示。


「むぐ……ふふ、止められちゃったから、言わないわ」


 ペロリと舌を出し、銀はおどけてみせた。


 雅兎は向き直り、里見へと手を伸ばした。


 血走った眼。

 涎まみれの口元。

 眉間に刻まれた深い皺。

 普段の涼やかな里見からは想像もできない、異形の姿。


 それでも。

 そこにいるのは、確かに観海寺里見なのだ。


 雅兎はその頬に、優しく手を添えた。


「絶対に、守ってみせる」


 ――青白い光が世界を塗り潰す。


 柴石雅兎は、長い、長い旅に出かけた。

 たった一つの、幸福な結末こたえを探して。


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