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【悲報】退魔師JKに拾われた俺、生霊のまま同棲することになりました  作者: 秋夜紙魚


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第23話

 暗い室内。

 照明が点いていないその部屋を照らす明かりは、パソコンのモニターから溢れる光のみ。


 そこはフォーブル観海寺にて、新しい住人に分け与えられた部屋。

 L字デスクの上に四つも並べられたモニターを前にして、アリシアはマウスをカチカチ、キーボードをカタカタと叩いていた。


 長く美しい赤髪は雑に一つ結びされ、モニターの光で照らされた顔には、目の下の大きな隈が目立つ。

 ディスカウントストアで売っているような、安っぽいジャージが妙に似合っている。


 サツキは部屋の主に向かって、これみよがしにため息を落とした。


「……少しは掃除しなさいよね。何で一ヶ月かそこらでこんなに汚れるのよ……」

「もう、片付けんなって言ってるじゃんか。物の場所がわかんなくなるんだよ」

「思春期の男子高校生かい、あんたは」

「……そうだけど」


 あっけらかんと言ってのけるアリシアに、サツキは頭を抱えた。


「……そうだったわね。どう見たって女の子にしか見えないのに、あんた、男の子なのよね」


 その事実を初めてアリシアの口から聞いた日、サツキの中では驚天動地の大騒ぎとなった。

 きめ細やかで透き通った肌、耳に残るような優しい声質、どこをどう取っても女性のそれだ。

 唯一、男性と女性の分別が可能となる部分もある事にはあったが……サツキは胸の上に手を置きながら息を吐く。


「……というか、口調から何から、豹変しすぎよ」

「外面が良いんだって」

「無差別に人を攫って監禁。そんな事をした分際でよく言うわね」


 丸められたティッシュ、飲みかけで放り投げられたペットボトル、その他アニメ関係の雑誌や漫画、エトセトラエトセトラ。

 足の踏み場も無いとはこの事だ。

 サツキはまず座る場所を作ろうと、テーブル周囲のゴミを拾い始めた。


「うわっ、このペットボトル中身どうなってるのよ」

「キミは私のおかんか……って、あーっ! よそ見したら殺されたじゃんか!」

「ゲームばっかりしてないで、外の光を浴びなさいな」

「吸血鬼に日光の下に出ろって?」

「あんたの身体、四分の三は普通の人間でしょうが」


 呆れた、といった様子でいながらも、サツキはどこか楽しげだった。


 彼女の母は、サツキを産んで即離婚。歳が六つになる頃までに、覚えているだけで父親が三人出来た。

 そんな恋多き母親に育てられたサツキは、幼少期より「ダメ人間製造機」として機能していた。

 失恋した母の愚痴を聞きながらご飯を作り、泥酔した母をベッドまで運び、男に騙された母を慰める。


 そんなサツキは、友人たちから「お母さんみたい」と思われており、本人も誰かの世話を焼くことを好んでいた。


 一方、アリシアはまるで対極の環境で育った。

 実家は祖国でも有数の名家。幼少時より何事も使用人任せ。

 ハイスクールに入学してからは日本の深夜アニメに嵌まり、部屋から一歩も出なくなった。

 家を追い出されるその日まで、炊事掃除洗濯、何から何まで使用人に任せっきりだったのだ。


「っていうか、あんたは何でこんな極東にまでやって来たの?」

「そんなの、深夜アニメをリアルタイムで見る為に決まっているじゃないか」

「徹底してるわね、あんたって。こんなどら息子に大金持たせる親ってのが、もうね」

「いいんだよ、うちはお金が余っているんだから」


 なんとか座るスペースを確保したサツキは、座布団をひっくり返して腰を下ろした。


「でもそんな親なら、使用人の一人くらい付けていそうなものだけどね」

「…………」


 アリシアは押し黙って、「私から断ったんだ」と漏らした。


「へえ、独り立ちを決意したってわけ?」

「違うよ。そんな殊勝な心構えがあったなら、とっくに地元で就職するなり進学するなりしていた」

「ま、そうよね。でも、だったらどうして、わざわざ一人を選んだの?」

「罪滅ぼし……とは、違うかな。たぶん、私は逃げたかったんだと思う」


 アリシアはマウスやキーボードから手を離し、ぶらりと垂れ下げた。

 暗い天井の一点を見つめる。


「……私が吸血衝動に目覚めたのは、つい最近。私には一人、お付の使用人がいた。親友みたいに思ってた。……吸血鬼として最初に吸血した相手が、そいつってだけの話」


 ピタリと、サツキのゴミ拾いの手が止まる。


「お祖母様が吸血鬼だっていうのは、使用人から吸血してしまった後に聞いた。父はハーフのわりに吸血鬼の特徴が出なかったから、私にはあえて知らせないまま生きてもらおうと思ってたみたいだね」

「まあ、そうでしょうね。貴方のお祖母さん、大変だったんじゃない?」

「そりゃあね。なにせ人々から忌み嫌われる化け物だし、若い頃はそれなりにやんちゃもしていたらしいよ。……ま、お祖母様は『もう何十年と禁血してるから』とか言って、無い胸張ってたけど」

「それで? あんたは禁血が出来なかったわけか」

「……うん。私はあの味を覚えて以来、事ある毎に使用人の血を啜るようになった。あいつも快く身体を差し出してくれたから。でも……日中にあいつが貧血で倒れる現場を見て、青ざめたよ。だから私は、あいつの前から去ろうって決めた。……ま、事情を知らない母さんから『いい加減出て行け』って言われた直後だった、ってのもあったけど」


 自嘲気味に語るアリシア。

 サツキはさも「どうでもよいことだわ」といった風を装いつつ、ゴミ袋の口を結んだ。


「ふーん……大変だったのね、貴方も」

「まあね。でも、大変だったのは、この国に辿り着いてから。二週間は吸血していなかったんだけど、あれが禁断症状なんだろうね。我慢できずに最初の一人を吸血してからは、泥沼状態。枯渇するとひどく気分が悪くなるし、逆に補給するとハイな気持ちになれた」

「今は、どうなの?」

「一ヶ月も吸血してないのなんて初めてだしね。胸がもやもやする上、途方も無い苛つきもあるけど、もう慣れた。また血の匂いでも嗅いだら、我慢できなくなるかもだけど」


 そこでアリシアは椅子をくるりと反転させ、サツキと目を合わせた。

 モニターの逆光背負った美貌には、不思議な魅力がある。


「キミって奴は、どうしてそんなにその……お気楽なんだ?」

「お気楽って……」

「だって」


 アリシアは俯き、何度か息を吐いた。そして意を決して顔を上げた。


「あの生霊は、私の事を絶対に許さないと言った。貴方にしてみても、それは同様と言えるだろ……なのに、どうして?」


 サツキの両腕を奪い、多くの人を監禁した張本人だ。

 普通の感性なら許せるはずがない。わざわざ部屋を訪ねて世話を焼くなんて、ありえない。


 サツキは「なんででしょうね」と、首を傾げた。


「……貴方の生い立ちとか、私も雅兎も、管理人さんに伝え聞いた。放っておけないな、って思っちゃったのよね」

「なにそれ。まあその……助かってるから、いい、けど」

「素直じゃないな」

「うるさいなぁ」


 サツキは再び椅子をくるん、と反転させた。

 一瞬見えた顔は、きっと赤くなっていたはずだ。


「まあそれに……私の『怪我』っていうのは、完治したみたいだし」


 サツキは「あはは」と笑って言った。

 両手の切断。軽く言える怪我ではない。

 しかし、サツキはその時のことを「良く覚えていない」と語る。


 普通ならありえない。

 だが、心当たりはある。


「ところどころに、私たちとは違う記憶が混じっている、だっけ」

「うん。私の記憶だと、里見が駆けつけて来たタイミングって、私が壁に背中を打ち付けられた瞬間なのよね」


 サツキの記憶が曖昧になったのは、切断された両腕が「復活した」日からだった。

 それは、雅兎が彼女に向かって能力を発動させた日でもある。


 実際に現場を見たアリシアは、雅兎の力に対して恐れに似た感情を抱いた。

 あれは、人間が手にしてよい力ではない。


「あの力は、回復能力なんてものじゃない」


 アリシアは断じる。

 サツキも同意して頷いた。


「傷が癒える事に加えて、使用された対象――私と周囲の間における、歴史の齟齬。仮に貴方の想像通りだとするなら、確かにそれは副作用として定義付けてもおかしくないわね。……雅兎の妹に聞いたんだけど、あいつ、昔に今の私と同じような体験をしているらしいの。入院中に、現実の記憶と夢の記憶に悩まされていた、って」

「ああ、事故に遭いかけたけど、殆ど無傷で済んだって奴ね。仮にその当時、あいつが自分自身にその能力を発動させたとすれば――」

「ええ。雅兎は『その当時にも臨死体験をした』ってことね。雅兎程度の霊力量だと、肉体からアウトプットが出来ない。死の直前……肉体と魂の繋がりが希薄となる瞬間を除いてね」


 つまり、柴石雅兎という人間の臨死体験は、今回で二回目ではないか。

 十二歳の時に遭遇したという体験は、死の間際に無意識で力を発動し、能力による副作用だけが残ってしまったのではないか。


「人が生霊化するケースは様々だって聞くわ。雅兎の場合は、それが死の瞬間に起こりやすい、あるいは起こってしまう」

「ああ。そしてその能力の正体は、過去への回帰能力」


 雅兎の力におけるアリシアの推測。

 それは、サツキはおろか当の本人である雅兎すらも同意したものだった。


「これまでは能力を無意識で使ってしまってたから、結果が違うんだろうね。幼少期はフルに発動して肉体の損傷を完全に元に戻したけど、今回は不完全な発動をしてしまって、生霊化してしまった」

「私の記憶が不透明な事は、力の副作用なんでしょうね。無理やり過去の世界から連れてきたのだとしたら、その程度で済むなら逆にすごいくらいだわ」


 そこで、室内は無音となった。

 不意に静寂を打ち破ったのは、アリシアだった。


「……あいつ、今日もか」

「みたいね」


 アリシアは頭を掻き毟って唸り、サツキは悲しげに目を細めた。

 二人が案じているのは、他の誰でもない、雅兎の事だった。


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