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【悲報】退魔師JKに拾われた俺、生霊のまま同棲することになりました  作者: 秋夜紙魚


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第21話

「ふふ、美味しいなぁ」


 カプリ、と右肩に走る痛み。

 雅兎は苦悶の表情を浮かべる。

 二本の鋭い犬歯が皮膚を貫き、鮮血が溢れ出す。

 吸血鬼――アリシアと名乗る女は、滴る血液を陶酔した様子で舐め取った。


 雅兎の意識が戻って以来、ずっとこの状態だ。

 動きたいのに、金縛りのように身体が動かない。夢の中で必死にもがいている時のような、焦燥感と無力感。

 アリシアは雅兎にしなだれかかり、貪るように吸血を続けている。


「ぷはっ。……ふふ、大抵の人間は一口試したらもうポイなんだけど。キミは特別。生霊だからかな」


 アリシアは上機嫌に語る。


 曰く、吸血鬼が血を好むのは、そこに魔力が含まれているから。加えて、あの鉄臭い味と匂いがたまらないのだとか。


 雅兎の血は、味も匂いも血液そのものでありながら、成分は純粋な霊体。つまり、極上のヴィンテージワインのようなものらしい。


「その上、傷はすぐに癒えるし、私が吸血したはずの霊力までも蘇る。原理はわからないけれど、まるで私の為にあるかのような身体だね」


 その言葉通り、雅兎は吸血される度に回復能力を強制発動させられていた。


 能力を使う度、記憶がかき混ぜられる感覚がある。

 泥酔した時のように思考が重く、沈み込んでいく。

 けれど、そんな中で雅兎は自身の能力の正体に気づき始めていた。

 無意識とはいえ、短時間に十数回も発動し続けたことで、感覚的に「それ」を掴みかけていたのだ。


「……連れ去った人たちは……皆、死んだのか?」


 辛うじて開く口で、雅兎は聞いた。

 アリシアは「ああ」と興味なさげに見上げた。


「生きてるよ。誰も死んじゃいない。地下に閉じ込めてある。血の味は千差万別だからね。あの時のあれが飲みたいって思った時に、すぐに飲めるようにしているんだ。至れり尽くせりとは言わないけど、健康状態ではあるはずだよ」


 ゾクリと、背筋が凍る。

 アリシアの長い舌が、雅兎の首筋を這うように舐めた。


「キミは特別扱いをしてあげるよ。肉体が死んで、生霊として消滅するその時まで、たーっぷりと吸血してあげる」


 雅兎の意識が覚醒する。

 見上げてくる赤い瞳を、強い意志で睨み返した。


「ふふ、抵抗しようとしてくれたほうが、こっちとしては美味しいんだよね。食事にもシチュエーションは大事だし」


 もがこうとするが、見えない鎖に縛られた身体はピクリとも動かない。

 結局は、されるがままだ。


 ボゥッ。

 雅兎の身体が煌めき、首筋の歯型が消える。霊力が回復する。

 それを見て、アリシアが歓喜に震えた。


 今度は左肩を噛まれた。

 チクリとした痛みを、少しだけ心地よいと感じてしまった自分が悔しい。


「ぐっ」


 その時。

 雅兎の耳が、遠くから近づく足音を捉えた。

 アリシアも気づいたのだろう。唇を離し、入り口のドアを見つめた。


「誰かな」


 ドォォォォン!!  アリシアの声と同時に、轟音が響く。

 ホールにあった巨大な鉄扉が、まるで豆腐のように切り刻まれ、崩れ落ちた。


 舞い上がる土煙。

 その向こうから、聞き慣れた凛とした声が届く。


「まさか、ショッピングモールの地下にこんな城を作っていただなんてね」


 現れたのは、精巧なビスクドールを思わせる金髪の美女。

 その周囲には、武器を携えた十体の人形が浮遊していた。


 サツキだ。


「キミ、人間だろう? 人間風情が、吸血鬼に立ち向かおうって?」


 面白い物を見た、と言わんばかりにアリシアは笑う。

 ひとしきり笑い終えると、サツキは小さく息を吐いて、雅兎を指さした。


「そこの幽霊は、大事な人なの。返してもらうわ」


 アリシアの顔つきが一変する。

 一触即発の空気。


 先に動いたのは、サツキだった。


 シュバババッ!


 サツキが腕を交差させると、十体のドールが一斉にアリシアへ殺到した。

 四方八方からの波状攻撃。


 だが、アリシアはその場から一歩も動かない。

 最小限の動きで、全ての攻撃を避けていく。軌道が見えているかのような余裕だ。


「っ、」


 サツキが腕を振るう。

 五体のドールが軌道を変え、特攻を仕掛ける。


 アリシアは一瞬微笑んだかと思うと、翼を広げて高く飛び上がり、距離を取った。


「……なるほど、人形使いか」

「古典的だとでも?」

「いいや。現代の魔法使いにしては、中々に『やる』と思った。褒めているんだ」


 刹那。

 剣を構えたドールが超高速でアリシアに突撃した。


 アリシアはそれを横にスライドして避け――『ドールの背後の空間』を爪で切り裂いた。


 プツン。

 光る糸が切れたような感覚。


 しかし、切れた糸は瞬時に再接着され、ドールはサツキの元へ戻っていった。


「……指先から魔力糸を伸ばし、人形に接続。感覚を同期させて動かしているといったところかな?」


 アリシアの分析通り、サツキの魔法はただの念動力とは次元が違った。


 サツキは、ドールの瞳に埋め込まれた宝石を媒介に、視覚を同期している。

 十個のモニターを同時に見ながら、別々のキャラを操作するような神業。


 それを可能にしているのは、彼女の並外れた空間把握能力と魔法技術だ。


「自分と人形、計十一の視覚を同時に処理しているわけだ。……それにしても、切断された魔力糸を一瞬で修復するなんてね。やっぱり、お祖母様から伝え聞いただけの知識じゃ、わからない事ばっかりだ」


 余裕の解説。


 それは、どうあがいても負けるはずがないという絶対的な慢心。

 だが、サツキも理解していた。

 長期戦になれば負ける。勝機は今しかない。

 この慢心を突く以外に、勝ち筋はない。


「ああああ!」


 サツキは十体のドールを従え、自らアリシアの懐へ飛び込んだ。

 加速魔法による超高速戦闘。

 ドールを操りながら、自身の体術で隙を突く。


「魔法使いが肉弾戦! いいね、想像もしてなかったよ!」

「魔法使いが後衛職だった時代は、とっくに終わったのよ!」


 端から見れば、攻勢に出ているのはサツキだ。

 しかし、真綿で首を絞めるように、着実に追い詰められていた。


 アリシアはただ、遊んでいるのだ。

 勝利が確定したゲームを、あえて引き伸ばして楽しんでいる。


「くっそ!」


 隙を見て放ったサツキの回し蹴り。

 だが、アリシアはそれを羽虫を捕まえるように受け止めた。

 足首を握り締めると、ゴキリと嫌な音が鳴る。


「っ!」

「いかに魔力で強化しても、私にダメージを与えるには至らないね」


 アリシアはドールから奪った武器で、サツキの腹部を蹴り飛ばした。


「うぐっ」


 壁に叩きつけられるサツキ。

 ドールの動きが一瞬止まる。


 その隙を、アリシアは見逃さなかった。


 ヒュッ! 投擲された剣が、サツキの左掌を貫通し、壁に縫い付けた。


「あがあああ!」


 絶叫。

 続いてアリシアは槍を奪い取り、ニヤニヤと笑った。


「そら、もう片方もだ」


 ドスッ!  右手の甲を貫いた槍が、サツキを壁に磔にする。


「あああああ!」

「ははははは。いい声で鳴く」


 アリシアはサツキに歩み寄り、顎を持ち上げて顔を覗き込んだ。


「ふふ、絶対的な力の差を魅せつけられた気分はどうかな?」

「……ふふ」


 笑い声。

 それは、サツキの口から漏れたものだった。


「壊れたか」


 つまらない、と手を離そうとした瞬間。

 サツキの顔が上がり、口元が獰猛に吊り上がった。


「驕ったわね、ヴァンパイア!」


 ヒュンッ!


 アリシアの背後から迫る影。

 十体のドールとは違う。砂煙に紛れて隠していた『十一体目』

 サツキの切り札だ。


 心臓を狙って飛び込む凶刃。

 しかし。


 あと数センチ。

 その距離が、永遠のように遠かった。

 アリシアは背後を見もせず、裏拳でドールを粉砕したのだ。


「そん、な……」

「この程度で私を倒せると思った時点で、驕っていたのはキミだよ、魔法使い」


 バラバラになった残骸が床に散らばる。

 秘策は潰えた。


「正真正銘、テレキネシスだけの操作か……。こんなものが切り札だなんてね。……ま、兎にも角にも、これで終わりかな」


 アリシアが腕を振り上げる。

 鋭い爪が、サツキの心臓を狙う。


「やっ、あっ」


 一部始終を見ていた雅兎。

 もがくが、鎖は解けない。

 雅兎の絶望は、悲痛な叫びとなってホールに響き渡った。


「やめろぉぉぉぉ!」


 その声を聞いたサツキが、俯いて微かに呟く。


「ごめんなさい……」


 振り下ろされる死の一撃。


 だが。


 ガキィィィン!!


 重金属音が響き、爪は止まった。

 二人の間に割り込んだ、黒い影によって。


「なんだ、キミか」


 アリシアは少しだけ驚いたように目を見開く。


 そこに立っていたのは、黒を基調としたセーラー服の少女。

 不釣り合いな日本刀を構えた、その背中。


「殺させないっ」


 雅兎と初めて出会った時と同じ姿をした、観海寺里見が立っていた。


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