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【悲報】退魔師JKに拾われた俺、生霊のまま同棲することになりました  作者: 秋夜紙魚


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第18話

「なんだか、随分人の多い所に来たね」


 里見と雅兎が訪れたのは、近隣で一番大きなショッピングモールだった。

 日曜日という事もあり、家族連れをはじめとした客でごった返している。


「ん」


 里見は雅兎に、モールで購入したたい焼き一つと、一枚の紙切れを手渡した。

 雅兎が抹茶餡のたい焼きを齧りながら紙切れに目を落とすと、そこには簡潔な表が印刷されていた。

 被害者名、年齢、性別、そして神隠しに遭ったと思われる場所。


「……なるほど」


 一目瞭然だ。

 神隠しに遭ったほぼ全ての人たちが、このショッピングモールで消えている。

 ここまであからさまなら、表には出ていない「いつの間にか居なくなっていた」人間たちも同様だろう。


「まるで見つけてくださいと言わんばかりだな」


 里見は周囲を見渡し、人気の少ないベンチを見つけると腰を下ろした。

 近くのゴミ箱にたい焼きの袋を捨て、小声で答える。


「余程、腕に自信があるのかもしれません。こんな大規模な事件を起こしてしまえば、人間側も黙ったままではいられない。銀の話だと、退魔連合本部も動き始めているようですし」

「……前にも聞いた事あるけど、なんなんだ? その怪しげな名前の組織は……」

「言葉の通り、退魔師の組合の事です。この時代、自営業の退魔師は生活に困窮する程度の給金しか稼げませんから」


 里見は淡々と説明を続ける。


「かと言って、退魔師の家系が廃業すれば、妖怪側への抑止力が減る事に繋がります。そうした観点から生まれたのが『退魔連合』。一応、法人企業らしいです」

「前から思ってたけど、神秘って案外所帯じみているのな」

「まあ、現代で生活を営むには社会的地位も必要ですし……銀もよく『これも時代の流れね』と言ってました。でも、退魔連合に居る人たちは手練揃いですよ。そこらの低級な妖怪じゃあ、足元にも及ばないくらい」


 雅兎が思い出したのは、里見と出会ったあの夜。

 夜雀と呼ばれた化け物を、流麗な剣技であしらった姿。


「連合の大きな目的は、人々の安寧を守ること。それに仇なす存在は、全て斬って捨てるのが原則。基本は各地に配属された部隊長が割り振りを決めて事にあたるんですけれど……今回の件は、それだけでは厳しいかもしれません」


 里見は無表情ながら、どこか落胆した様子を見せた。


「管理人さんもそうだったけど……里見も、ある程度犯人の予想がついているのか?」

「まあ、残された情報がありますから」


 里見はそう言って、先ほど雅兎に手渡したプリントの一番下を指さした。

 表の下に記された一文。雅兎はそれを読み上げる。


「……神隠しにあった他、昏睡状態で発見された少女が一ヶ月の間に二名。首元に鋭利な刃物による刺し傷が二つ確認される」

「神隠しとこの昏睡事件が同一犯によるものとされるなら、導き出される結論は一つです」


 雅兎にも、嫌な予感があった。

 賽の河原の鬼、夜雀、座敷わらし。

 この二ヶ月で色々な怪異を目にしてきた雅兎の中では、「まさか居るわけがない」なんて常識はとっくに崩壊している。


「……ん」


 そこで、雅兎は足元に転がっている何かが気になって、拾い上げた。


「狛犬ストラップ……」


 デフォルメされた可愛らしい狛犬のキーホルダーだった。

 二つのキーホルダーが一つの商品として売られているタイプのもので、未開封のビニールに包まれている。

 誰かが落としたのだろう。


「それ……」

「ん、落ちてた」


 里見が興味津々な様子で身を乗り出した。


「そういえば、里見はお前の事も気に入ってたな」


 肩に乗るドールに雅兎が顔を向けると、ドールはこくりと頷いてみせた。


「ほら、あげるよ」


 雅兎は里見の手にキーホルダーを乗せた。

 この人混みの中で落とし主を探すのは不可能に近いし、そもそも雅兎は普通の人には見えない。


「いいの?」

「いいよ。別に僕はあまりそういうの興味ないし」


 里見は受け取った狛犬をじっと見つめ、ふわりと花が咲くような笑顔を見せた。

 そのあどけない表情に、雅兎の心臓が跳ねる。

 雅兎は首をぶんぶんと振った。女子高生相手に何を考えているんだ、と自らを叱責する。


「はい」

「ん?」


 と、里見がストラップの封を開けて、狛犬を一匹、雅兎の目の前にぶら下げた。

 目をぱちくりとする雅兎に、「あげます」と念を押す。


「いや、いいって」

「二匹いるので。それに……」


 里見は俯き、消え入りそうな声で言った。


「……雅兎さんと、お、お揃いのものが、欲しかった、から」

「あ……」


 顔から火が出るかと思った。

 雅兎も、分かっていた。里見が自分を気にしつつあることを。

 二ヶ月も行動を共にすれば、お互いの好意のベクトル――それも異性に対するそれに気づかない方が難しい。


 もっとも、鈍感な雅兎が気づいた最大の理由は、自分もまた里見に対して同じ想いを抱き始めていたからなのだが。


「あ、ありがと」


 受け取ると、里見は茹でダコのように顔を赤くした。


「ちょ、ちょっとト、トイレに行ってきます!」


 脱兎のごとく走り去る里見。

 一人残された雅兎は、右手で顔を覆って天を仰いだ。


 かわいすぎるだろ……。


「ん、」


 そこで、頭を撫でられる感触があった。

 見れば、肩のドールがよしよしと、軽いタッチで雅兎の頭を慰めてくれていた。

 雅兎は頬を赤くしたまま、微かに微笑んだ。


「……そういえば、お前って何で僕に付いて来たんだ?」


 ドールは身振り手振りで何かを伝えようとしたが、残念ながら雅兎には解読不能だった。

 思い出されるのは、三途の川での出来事。

 鬼がこの人魂を覗きこんだかと思えば、勝手に納得して、付いて行く事を許可したのだ。


「もういいよ、ありがとう」


 ドールはしょぼんと項垂れる。

 それがあまりに可愛くて、雅兎はその小さな体を抱き寄せ、再び肩に乗せた。


「でも、お前が居てくれて、すごく助かってる。ありがとう」


 ドールは力こぶを作る動作をした。

「任せておけ」と言っているようで、雅兎は頼もしさと同時に心苦しさも感じた。

 この子にも目的があって現世へ戻ってきたはずなのに、自分は何一つ手助けできていない。


「ねえ、そこのお兄さん」


 不意に、声をかけられた。

 女性の声だ。ベンチに座る雅兎のすぐ前に立っている気配がする。


 雅兎は顔を上げようとして――途中で気がついた。


 ――自分が「視えている」のだ、と。


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