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【悲報】退魔師JKに拾われた俺、生霊のまま同棲することになりました  作者: 秋夜紙魚


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第15話

 雅兎のフォーブル観海寺での生活は、すでに二ヶ月が経とうとしていた。


 肉体に戻るため、様々な事件に関わってきた二ヶ月間。

 もっぱら、眠っている力を使いこなす事が目的であったが、依然として覚醒には至っていない。

「回復能力がある」

 ただそれだけのことが判明している現状に、変わりはなかった。


 唯一の僥倖だったのは、雅兎の肉体が順調に回復してきている、という事実だ。

 運び込まれた当初の危篤状態からは脱し、その後の経過は驚くほど良好。

 ICUから救急病棟へ、そして一般病棟に転棟する程度には回復していた。


 自分の肉体の様子を確認するべく、銀の付き添いの元、雅兎は毎日病院に通っていたのだが――。


「悪いけれど、これから少し忙しくなるから、同行は難しくなるわ」


 ある日、銀がそんなことを言い出した。

 その言葉に対して、雅兎は軽く「一人でも大丈夫ですよ」と答えたのだが、銀は扇子で口元を隠し、不敵に笑った。


「悪い事は言わないから止めておきなさい」


 曰く、霊体である雅兎は、とにかく幽霊に襲われやすいらしい。

 普段はそこらの低級な妖を食べている奴らにとって、高純度のエネルギー体である雅兎と、彼に追従する人魂は、三ツ星レストランのフルコースも同然だという。


 しかし、雅兎としてはできればこれからも毎日病院に通い、経過を見たい気持ちがあった。

 そこには、同じくお見舞いに通っている家族たちの顔が見たいという、ささやかな欲もあった。


 そこで雅兎が頼ったのが、同じアパートの住人となったサツキであった。


   ◇ ◇ ◇


「今日も悪いな」

「別に良いわよ。貴方には借りがあるわけだし」


 今日も今日とて、二人は病院に来ていた。

 受付は素通りし、入院病棟へ向かうエレベーターホールに立つ。

 近くに人がいないのを確認して、雅兎は小声で言った。


「借りって、別にそこまで気にしなくても」

「……いいのよ。私が返したいと思っているんだから」


 サツキはそっぽを向いて言った。

 美しい金髪がさらりと揺れる。


 借りとは、二ヶ月前に二人が出会った時の事。

 倒れてきた巨大な食器棚と、そこから落下したダンボールから、雅兎が身を挺して彼女を庇った一件だ。


 実際、雅兎はそのダンボールを首で受け止めて、派手に骨を折った(即座に治ったが)。

 雅兎としては、カエルのような潰れた声を出してしまったし、格好悪い所を見せてしまったから、早く忘れてほしいと思っている。


 しかし、サツキにとってそれは、かつて祖母に守られた記憶と重なる、何より尊い行動だった。

 サツキと雅兎の考える「借り」には、大きな齟齬がある。

 ただ、鈍感な雅兎がその事実に気づく事はなかった。


「あ」

「うん?」


 不意に、サツキの背後から声がかかった。

 振り返ると、そこには私服姿の少女――亀川亜李州の姿があった。

 野暮ったい黒縁メガネは外し、コンタクトにしているらしい。服装も清楚なワンピースで整えている。


「野外用、対人モードだな」


 雅兎は苦笑した。

 雅兎の妹分である亜李州は、家族の前と人前とでは、生物としての構造が違うのではないかと疑うほど変貌する。


 外ではどう見ても深窓の令嬢、あるいは優等生。

 整った顔立ちに、成績優秀な頭脳、人当たりの良さ。学校ではアイドル扱いされていると、風の噂で聞いたことがある。


 一方、自宅での彼女は正反対だ。

 雅兎が高校時代に着ていたダボダボのジャージがデフォルト装備。

 コンタクトは面倒だからと外し、瓶底のようなダサいメガネを装着。

 家では大抵寝転がってスルメを齧っているから、髪の毛もボサボサである事が多い。


 生霊となってしまった雅兎にとって、数少ない良かった事の一つは、噂に聞いていただけの「外行きモード」の亜李州を垣間見ることが出来た事だった。


「ども」


 亜李州がサツキに上品に会釈する。

 サツキは余裕のある笑顔でそれに答えた。


「亀川さんもお見舞い?」

「ええ。サツキさんも、毎日ありがとうございます」

「ううん、全然苦じゃないから」


 チン、と軽やかな音がしてエレベーターが到着する。

 雅兎を含めた三人が乗り込んだ。サツキが五階のボタンを押し、扉が静かに閉まる。


 密室。

 そこで口火を切ったのは、亜李州だった。


「それにしても、兄に『こんな美人の彼女さん』が居ただなんて、驚きです」


 ニコリともしない、絶対零度の声。

 サツキも負けじと、優雅な笑みを浮かべる。


「ふふ、ありがとう。でも、私も驚いたわ。まさか『隣に住んでいるだけの赤の他人』に兄って呼ばせているなんてね。ごめんなさいね、亀川さん。無理強いをされていたのなら、これからは無理しなくても良いのよ?」

「い、いいえお気遣いなく。あ、ああ兄と呼んでいるのはわ、私の勝手ですし? サツキさんこそ、無理してあんな頼りない人と付き合わなくても良いんですよ?」

「あら、そうかしら。確かに雅兎は頼りない風だけど、あれで結構男の子だし、格好良いと思うけれど」

「うぐう、た、確かにそうなんだけどっ、そうなんだけどっ」


 クリティカルヒットを受けた亜李州が言葉を詰まらせる。


「……なんで二人共、一々棘々しい会話をするの?」


 雅兎の心からの溜息は亜李州には届かず、サツキは平然とした顔でスルーした。


「……ていうか、サツキさん本当にお兄ちゃんの彼女? 普通に美人だし……それに、この間の観海寺さんって人も結構綺麗だったような……もしかして、お兄ちゃんってもてるの?」


 ブツブツと亜李州が何やら不穏なことを呟いている。

 当の雅兎は「亜李州も兄に彼女が居たとか突然知ったら、困惑するよなぁ」などと脳天気に考えており、彼女の複雑な乙女心が届くことはなかった。


 ちなみに、サツキが雅兎の彼女というのは仮の身分だ。

 当初は以前の銀のように「大学の同級生」という設定にするはずだった。


「というか、なんで彼女だなんて言っちゃったんだよ……」

「……だって」


 亜李州が傍にいたからか、サツキは小声で呟いた。


 サツキの中に芽生えたばかりの小さな、小さな想いの欠片。

 その正体を彼女自身が自覚するよりも先に現れた、雅兎の妹と名乗る幼馴染。

 彼女が吐いた嘘は、その場のノリや対抗心が理由の大半を占めつつも――まったく本心とかけ離れた所にあるものでも、なかった。


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