第1話
宇留鷲 浅葱。
高校3年生の17歳。
似ている俳優をあげるとするなら窪田なにがしで、背は高く、細身。
普通の高校生ならば違和感しかないディレクタースーツでさえ着こなしてしまうオーラがある。
その場の空気が締まるというか。
これは家族のひいき目だろうか、……多分違う、数年も会っていなかったのだから。
車に揺られながら外を眺めている 浅葱。
それから何度も腕時計を確認している。
「東京と違って、高い建物が無くて周り広い。捕まる場所が無くて空に落ちそうだね」
「随分と詩的で、変わった感性だな」
「あと180度、山ばっかだ」
「そのくらいの感想の方が子供っぽくていいぞ」
まるで怪物の子供に人間の反応を教えるような会話。
再会してから数分も経っていないが、こっちの甥はあやうい。
少し間違えたら取り返しのつかない道をまっしぐらのような気がしてならない。
声は低く、それでいて優しく。
視線は相手を分析するように観察している。
「それで、youはなにしに長野県に? 碧依を連れ戻しに来たのなら大歓迎だ」
「明日は日曜日だからね」
そのひと言で察しがついた。
兄貴から聞いていたのだ、この甥の変わった習慣を。
パンツは7着しか持っておらず日にちによって着る物が決まっているらしい。
「碧依が家を出てしまった日から日曜日の下着が見当たらなくてね。間違って持って行かれたんじゃないかって思ったんだ。だから確かめに来たのさ。もちろん久しぶりに青葉さんにも合いたかったし」
「モテたいなら後者を先に言っておけ」
なぜだろう、面倒は面倒だが碧依に比べてだいぶ気が楽だ。
やはりイケメンは家族と言えども目の保養になるからだろうか。
それとも単純に〝探偵〟とかまどろっこしい存在じゃないからか。
「ごめんだけど、もし本屋があったら寄ってくれると助かるよ。欲しい本があってさ」
「わかった」
再び腕時計を確認している。
買ったばかりなのか、欲しい本になんらか制限時間があるのか、ただいま16時。
観たいテレビ番組があっても、最近じゃ見逃し配信が当たり前だから時間は気にする必要はないだろう。
まあ、兄貴も時間通りの人だしな。
遺伝だろう。
車を駐車し、ふたりで本屋の中に入る。
親子と思われやしないだろうか、いやまだカップルでも通用する容姿のはずだ。
「私はDVDコーナーを見ている。買ったら呼びに来てくれ」
「うん。ありがとう」
本屋に来たのは久しぶりのような気がする。
どちらかと言えば古本屋の方が行く、行ったとしても本は見ないで中古DVD目的なのだが、それでも1店舗でだいぶ時間を潰すことが出来る。
だから焦らなくていいぞ甥よ、ゆっくり見たまえ。
………………と思ったのだが、なんだこれは。
DVDコーナーちっっっさ。
前(と言っても私が小さい頃だから20年以上前)はもっと豪華だったぞ。
やっぱりサブスクとかの影響で円盤って売れんのかな。
なんか寂しいな。
あ、でも観たかった映画が80%OFFで売ってる。
割引率が売れなさを物語っている。
全然時間を潰せなかったから仕方なく、本売り場の方へと移動する。
お、大好きな海外俳優の写真集、しかもヌードありか。
これも買いだな。
「 浅葱──……」
売り場で見付けた甥を呼び止めようとしたが、なにやら虚空に向かって目を閉じている。
眠いのか、買うか迷っているのか。
手には週刊グラビア誌〝PB〟。
表紙は『絶賛大人気中のアイドル、遂にきわどい水着に挑戦!!』。
男の子だねぇ、そういうの嫌いじゃないよ。
兄貴はそういう雑誌をまったく隠し持っていななかったから逆に新鮮だ。
悩み終わったのか目をかっと開き、レジまで持って行く。
有人レジのハラハラはなく、セルフレジで済ませる。
しかもレシートを挟んだだけでそのままの状態の本を持ちながら、私に気付いて近づいてくる。
「袋で隠せよ、可愛くないな」
「 だって有料だし」
「それな。エコバック持ってるから貸してやる」
「流石」
なんの恥ずかしげもなく私からエコバックを受け取り、中に入れる。
そういう世代なのかね。
思春期の感じもっと出せよ。
「グラビア好きなのか?」
「んー、まあ、嫌いではないよね」
さらっと、無難に、そういった。
「青葉さんもヌード写真集」
「ば、人様の買い物見るな礼儀知らず」
『ニュースの速報です。先ほど16時15分ほど松本駅ホームのゴミ箱にて爆破事故が起こりました。モバイルバッテリーなどの電子機器の投棄、また故意の可能性があるとして捜査が進められています。怪我人は出ていません』




