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00.あわいとの出会い

小学校5年のある夏の日、私は“あわい”と出会った。


 それは、妖邪と呼ばれる魔物のような存在との境界線.。


 7月18日 午後13時頃。

 補習授業の帰り道、照り付ける夏の日差しにうんざりしながら、一人で帰っていた。

 帰り道にある小さな神社の脇を歩く、少し日陰になっているのが救いだ。

 脇道は坂になっていて、帰り道は上り坂で自然と息が荒くなる。

 京都の夏は、とても暑く風はもはや温風で汗が滝のように流れる。

 

 上り坂の頂上の手前で、暑さのせいか鹿の形をした蜃気楼が目の前に見えて瞬きをしたら、消えていた。

 ついに暑さでおかしくなったのかと思った。

 

 その蜃気楼があった頂上へ歩いていくと見たことないカードのようなものが落ちていた。

 好奇心で思わず、拾ってしまった。


 それが全ての、始まりだった。




 「これって……鹿?」


 紅葉柄に鹿のイラスト書いてある、少し小さなカードで少し光っていた。

 キラキラのカードとは少し違う輝きかただった。

 「君は、僕が見えるのかい。」


 「だれ?」と叫んで辺りを見渡す。

 日は高いのになぜか、誰もいなくて妙に不気味で背筋が寒くなった。


 「ここだ、札を見ろ。」


 札?……。

 カードを見るとしかもイラストがなくなっていた。

 鹿さんがいないと思って、また辺りを探そうとして顔を上げると、目の前にイラストの鹿さんがいた。

 びっくりして動けなくなっていると、鹿さんはこういった。


「お主、私が見えているな……ならば、君は破魔の力がある。私に力を貸してはくれまいか。」

 はま?……力。

 頭が混乱していると、鹿さんは迫ってきた。

 思考がおぼつかないまま、知らない人や、決められない難しいことは……。

 「お母さんに聞かなきゃ……」

 とっさにでた言葉で鹿さんは、少し不思議そうに言った。


 「君は、母という存在に許可を得ないと何も決められないのか?」

 この鹿さんは一体、何を言っているんだろう。

 そして鹿さんはこう続けた。


「君に自分の意志はないのか?やりたいならやる。嫌なら断る。こんな当たり前のことが今の子供はできないのか、世も末だ……それで、どうするんだ。」


 私は、恐怖心に怯えながら言った。

 自分で決めることは、そんなに偉いのだろうか。

 初めて対峙する感覚に驚いていた。

 「えっと……鹿さん。鹿さんはなんで力を貸して欲しいの?それを聞いてから決めたい。」

 

 すると鹿さんの声が優しくなった。

「なんだ、ちゃんと聞けるじゃないか。ここではなんだから、君の家にお邪魔しようかな。」

 そういって、鹿さんは光出してカードに戻っていた。

 さあ、行くんだ。

 何とカードからさっきの鹿さんの声が聞こえる。

 

 少しの強引さを感じながらも、こんな不思議なことがあるんだなとドキドキと少しわくわくと恐怖心でいっぱいで、家に向かって歩いていた。


 ただいま、と言っても誰もいない我が家。

 両親は共働きで、いつも帰りは21時頃。

 カードをリビングの机に置いて洗面台で手を洗っていると少し透けた鹿さんが声をかけてきた。

 今の家は頑丈そうだと、物珍しそうにあたりを見渡す。

 自分の部屋へ行くといち早くクーラーをつけて涼んだ。

 クーラーの前で、鹿さんは不思議そうに涼んでいた。

「今の時代は、かなり快適なんだな」と関心そうに言っていた。

 

 私は鹿さんに話しかけた。

「ねえ、なんで私の力が必要なの?」


 鹿さんは、これはこの町……いや日本が危ないんだといった。

 大きなお話だなあと思いながら、耳を傾けた。


「妖邪という化け物が、最近また夜に徘徊しはじめているんだ。しかし、今の時代には妖邪払いがいない。そこで僕は、半年間妖邪払いになれる子を探していたんだ。そしてその素質のある君を見つけた。妖邪払いになった君には残りの仲間も探して欲しいんだ。」

 

「えっと、化け物から町を守って欲しいのと、仲間も探して欲しいってこと?よう……じゃってなあに?」


 大方あっておると言って、説明を始めた。

「妖邪とは、人の心のおりや、古の悲しみから生まれし、荒ぶる魂の類。町の陰に潜み、人に災を成し、時に形なき怪異を呼ぶ、忌まわしき存在。」


「お化けとか、心霊現象とか?」私の質問に嬉しそうに答える。


「そうだな。これを鎮め、もとに戻すのは『破魔の力』。闇を払い、真を護る、珍しい力じゃ。」


 「どれくらい、珍しいの?」と質問した。

 

「昔は、この力を持つ者も少なくなかったが、今の世では、見つけることすら難しくなってな。わしが見えるほど、その魂が清く、破魔の力に満ちた者でなければ、この花札の役目は託せぬのだ。」


 私にしか頼めないとはいっても、私に何ができるのだろうか。

 すごく迷っていたら、鹿さんは夜までに返事を待ってやろうと言って、カードの中に消えて行った。

 化け物退治なんてしたことないし……怖そうだし私には出来っこないよ……。


 お母さんには、なんでも話してきたけど……秘密が出来てしまう事に悪く感じて少し気持ちが重たくなりつつも、ほんの少しの好奇心があった。

 考えても仕方がないと思い、お母さんが作ってくれた昼ご飯を食べてリビングのソファーでお昼寝をしてしまっていた。


 「起きろ。おい起きてくれ、大変なんだ。」


 起きると、目の前にはカードの鹿さんがいた。

 寝ぼけて何が大変なのかと聞くと、窓から空を見ろといわれ窓を開けると。

 空が、雨雲にしては青く夜のような紫がか空だった。


「鹿さん、何この色どうなってるの。」

 思い切って、外に出ると。近所の人が次々と倒れていく。

 みんな、どうしたのと鹿さんに聞いた。


「さっき、説明した妖邪の仕業だ。さあ、どうする嬢ちゃん。今ここで君が妖邪払いにならないともうみんな目を覚まさない。」


「なんで、私なの……他の人じゃ……」


「君しかできない事だ。何を迷っている、このままじゃ君の大切な人も……」


 大切な人、お父さん、お母さん…………。

 両親が居なくなる、恐怖心や寂しい気持ちが襲う。

 いなくなるくらいなら。


「それは、嫌だ。大好きな人を守りたい。だからその力をちょうだい鹿さん」


「よく言った。僕の言葉に続くんだ。」

 少しずつ、教えてくれた言葉は難しいのに、何故かすっと私の中に入ってきた。


うつし世とかくり世のあわいにて、我が心、花札に宿らん。かの妖邪をはらい清め、この世を護るちぎり、今結ばん。」


 鹿さんは嬉しそうに私に言った。「契りはこれで交わせた。今から、僕を斑と呼んでおくれ。」

 幻影だった鹿さんは、ほのかに銀色へ輝く姿に変わっていた。

 とても綺麗で見とれていると、ぼさっとするな。これを持てと言われ手元が光ると弓矢が出てきた。

 大河ドラマで見るような日本の弓矢だった。


 「こ、こんなの使ったことないよ。」と泣きそうになりながら言うと 「大丈夫だ破魔の持ち主なら感覚で学べる」と返されてしまった。

 妖邪の気配がすると案内され斑についていくと、10分くらい走ったところにある広大な田園へ来た。

 

 ここは、もともと巨椋池という大きな池があった土地で今は広大な田んぼがある場所だ。

 そこの上空に大きな液状のような黒い塊がいた。私はおそるおそる聞いた。

「まさか、あれじゃないよね。」


「残念ながら間違いなさそうだな。」


「まじ?」ありえないと思いながらも見ていたら。

 黒い液状の塊が、ぎょろっとした1つ目がこちらを向いて襲ってきた。

 これには真夏の暑さを忘れるスリルが背筋を凍らせる。

 

 液状の本体から、銃の玉のようにバンバン玉が飛んでくる。

 ひっ……と言いながら、田んぼ道を走って抜ける。


 後ろをちらっとみると、地面が焦げている。

「ちょ……鹿さん!これ、どうしたら……」

 鹿さんは私の隣に並走して、声をかけてきた。


「斑とよべ」


「気を使っていたら、私が丸焦げになちゃうよ。で、どうするの」

 切羽詰まりながら、声をかける。


「その弓を、やつに当てるしかない。真ん中だぞ。」


 真ん中って無理だと思いながら走る。

 とにかく隙を作らないことには弓を構える事すら難しい。

 考えるのはとても苦手だけど……。すると鹿さんが言った。


「耳をすませ、音を聞くんだ」

 

「おと……。」


 走りながら耳を澄ませる。

 敵の攻撃音は3回に1度少し間があることに気づいた。

 5秒くらい間があるかもと思って、走りながらタイミングを計る。

 

 ここだ!


 震える手で、私は素早く弓を構えて矢を引く。

 矢は、風にあおられ右へそれた。

 「もい1回」


 手汗と震える手で、もう一度弓を弾く。

 今度は、妖邪の体には当たったものの効いてはなさそうだ。


 私の弓にあきれたのか斑が話してきた。

「君、僕の力を少し貸してやる。」

 私はうなずいて、から3回の攻撃を回避する前に斑は2回私の周りをクルっと回った、攻撃から逃げた後に素早く弓を引いた。


 弓を弾く力が軽く、矢が光輝いていた。

「いけえええ!」と叫びながら、弓を放つ。


 銀色に光る矢は、まっすぐに敵の真ん中に吸い込まれるように伸び射抜いた。

 射抜かれた妖邪は、矢の放つ光に溶けていった。


 私は、終わった安堵で地面にへばり、大きく息をした。

 空は晴れ、夜の生ぬるい風がほほを撫でる。

 今はその風すら心地よく感じてしまう程に、先ほどの矢を射る時は緊張していた。

 

 いつの間にやら弓は消え、鹿の斑さんがそばに寄ってきた。

「初めてにしては上出来じゃないか、よくやった。おや……。」


 斑さんが空を見上げる。私もつられて空を見上げると……。

 キラッと輝く空から落ちる光が見えた。


「仲間だ!、花札に戻す文言を唱えるんだ。」


 そういわる慌てて立つ。

「えええ!?唱えるって言っても何を……」


「光を見て、声を拾うんだ」

 えええ……といいながら疑心暗鬼で光をよく見た。


 すると、“戻してくれてありがとう。私の力をそなたの為に……”声が確かに聞こえた。

 

 「彩の理、その姿を還す。うつし世とかくり世のあわいにて、我が心、花札に宿らん。かの妖邪を祓い清め、この世を護る契り、今結ばん。」

 

 光は花札に戻り、私の手元に降ってきた。

「これは?」カードには、何かの植物ツタのようなイラストと『放』と描かれていた。


 斑さんがカードを覗いてきて言った。

「我が花札の仲間だ。萩のカス札、位は一番下の札になるが使い方次第では化けるぞ。」


 ほへーと、言いながらズボンのポケットに入れて家へ戻ることにした。

 「斑は、花札に戻らないの?」と聞くと、僕は基本的には見えないからと堂々と私と家に帰った。


 斑はそういえばと言わんばかりに、聞いてきた。

「そういえば、君の名前は?」

 

「私は、壬生みぶ蓮花。宜しくね、斑さん」


 家に着くと、何もなったかのようにいつもの日常が戻っていた。

 ただ、私には日常と怪奇現象のあわい《境目》が取り巻くようになっていた。


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