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メメントモリ 〜白星よ、死を忘る勿れ〜  作者: 光合セイ
第1部 ヴァク・ガグンラーズ編
14/24

13話 とある一室にて

 それから数分後。

 泣き止んだロヴンの腕から俺の肩は解放され、

 腰まで沈む柔らかいソファに座って落ち着いた。

 強く抱かれた肩には、まだヒリヒリと感触が残っている。


 落ち着いた雰囲気のある第一印象だったが、

 この数分で百八十度ガラリと変わった。

 きっと家族愛から来るものだろう。

 俺の肩に落ちた涙は温かく、人のぬくもりを感じられた。


「落ち着いたか」

「うん。突然ごめんね、甥っ子くん」

「……いえ」


 フードを目深に被って顔を隠すロヴン。

 俺が生まれる前から家を出ていて、

 俺が生まれた後も一度も帰郷しなかった。

 だから家族愛に無頓着なのかと思っていたが、

 杞憂どころか、愛情深そうな人で安心した。


「んでよ。話を戻すが、ヴァクはロヴンが引き取るってことで相違ないな?」

「うん。ヴァクの面倒はあたしが見る」

「本当に大丈夫? ロヴンちゃんのメイン収入って依頼の受注でしょう? 私みたいに商人ギルドに所属でもしてないと、二人暮らしは厳しいんじゃないかしら」

「問題ない。いま錬金ギルドから名工(マスター)待遇で声を掛けられてる。あとルーン学会から博士号試験免除って誘いも来てるから、このふたつだけでも収入はV」

「アナタねえ……」


 よくわからないが、なんか凄そう。てか多分すげぇ。

 勇者と懇意にしているというだけでも名前は囁かれそうなのに……。

 もしや思っている以上に名声を博しているのかしら、うちの叔母。


 その叔母に歩み寄っていくノットを横目に、

 隣に座っていたヴァーレイグが囁きかけてくる。


「ロヴンはな。ヴェラチュール王から直々に、王宮の宮廷魔導士に抜擢された魔法使いなんだ」

「え?」

「彼女は魔法3種全部をマスターしてるし、錬金術も出来る。そんなやつはこの広い国を探しても、片手の指だけで収まる程なんだぜ」

「……ママは出来ましたよ?」


 ポーション作りを収入源としていたユミルは、

 日常的にルーン石を使っていたし、

 詠唱魔法のポルターガイストで家事をしていた。

 あと儀礼魔法で結界を張って村の守護も担当していた。


 ……うちのママ、やっぱりすごいな?


「言っちゃなんだが、ガグンラーズ家は特別だからな。

 ヴァクのお祖父さんもすごい人だったぞ。

 なんせ魔法を”神”に認められた御仁だからな」

「…………神?」


 何そのふざけた二つ名。

 神なんて厨二病でも今時名乗らんぞ。



「知らないのか? ()()()()()()っていう、正真正銘の神様だよ」



 ………………アルファズル? は?

 俺をこの世界に連れてきた白いやつだよな。

 そういえば”神”とか名乗ってたような、なかったような。


 え。下界に降りてんの、あいつ?


「……この世界、神様がいるんだ」

「普段どこでなにしてんのか知らないけどな。

 偶に現れてはヴェラチュール王を揶揄ってまた出ていくんだよ」

「なにしてんのあいつ」


 王様で遊んでんじゃねえよ。

 てか本当に神様やってんのか。


 まぁ王だの神だの、

 文字通り雲の上の存在は、

 俺には関係のない話か。


「あいつ?」

「……あ。いえ、なんでもないです」


 「そいつ俺の知り合いなんです」とか、

 口が裂けても言えない……言いたくないな。


 平気で王様をイジるような、

 感性のイカれたヤツと同類に思われたくない。


 これ以上の追求を避けるために視線を戻す。

 どうやらノットとロヴンは、

 これまでのロヴンの生活態度について言い争っているようで――


「本当に大丈夫? また無駄に魔法機材アイテムを買い足さない?

 食事のバランスは考えられる? やみくもに研究に没頭したりしない?」

「ノットは心配しすぎ。これでもあたしは一端のレディ。自分のことくらい自分で出来る」

「アナタ、過労で教会に運ばれた回数は覚えてる? この3年で13回よ。これで私が心配しないわけないでしょう!?」


 13回もぶっ倒れてんのかよ。

 しかも過労って。このお姉さん、相当なワーカーホリックなのか?

 ……え、あれ、もしかして俺()保護者じゃなくて、俺()保護者だったりする?


「……一応俺、料理、洗濯、掃除……だけなら出来ますよ」

「家で手伝ってたのか?」

「ええ、まぁ……。

 ママの仕事の納期が遅れた時は、

 いつも俺がやっていたので……」


 嘘である。


 前世の知識で出来る範囲だし、

 掃除洗濯はともかく料理は多少アレンジしてしまうだろうが。

 王都で村と同じ食材が手に入るなら、味は覚えてるし問題ない。


 まぁ、すべてが揃う街だし、

 心配はしてないけれど。


 今更ながら母の強さを知った。


 俺の言葉を聞いたロヴンは立ち上がり、

 俺とヴァーレイグの間に割り込んで来た。


「甥っ子くん偉い。お姉さんが撫でてあげる」


 なでなで。幼児期以来の愛撫だ。

 エルフの綺麗に整った顔も近いし良い匂いするし、

 あれでも実生活はかなりぐだぐだって聞いたんだけど。


 もしかして今日俺のために生活リズムを戻してきてくれたのかな。ヤダ、ナデポしちゃう。


「甥っ子くん顔赤くなってる。かわいい」

「かわいくありません。やめてください」

「俺の隣でイチャコラすんな」

「む」


 鬱陶しそうにしっしっと手で払うヴァーレイグに、

 むすっと頬を膨らませたロヴンは俺の体を抱えて立ち上がる。


 最近持ち上げられることが多いのだけれど、

 俺の体ってそんなに軽いのかしら。


「とにかく親権はあたしが貰うから。問題ないよね、ふたりとも」

「ああ。俺たちといるよりは、後方待機のロヴンと一緒にいた方が、ヴァクのためにもなるだろうしな。俺は異存ないぜ」

「ええ、私もよ。……ただし条件がひとつ。ヴァッくんには迷惑をかけないこと。アナタは目を離すとすぐに仕事を始めるんだから、家族とは関わってあげなさい」

「それはもちろん。甥っ子くんはあたしが幸せにする」


 ウチの叔母さんイケメンすぎるだろ。

 エルフの中性フェイスも相まって麗人でしかない。

 ただちょっと敗北感のが強いな。男心がズタズタである。

 ずるいよエルフ、顔が良すぎる。


 見上げて目に入るエルフの美貌に見惚れていると、

 持ち上げられていた体がストンと降ろされた。


 頭に?を浮かべて困惑していると、袖を掴まれ手を引かれる。


「さ。行こうか、甥っ子くん」

「え、あ、はい」


 ヴァーレイグ達の方を見ると、

 「じゃあな、ヴァク」

 「また今度ね」と手を振っている。


 2人の見送りを受け、俺は新たな家へと向かうのだった。



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