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メメントモリ 〜白星よ、死を忘る勿れ〜  作者: 光合セイ
第1部 ヴァク・ガグンラーズ編
11/22

10話 勇者vs仮面の男

 ヴァクが逃走した後、

 さらなる激戦が行われていた。


 無数の金色の剣が飛翔し、

 仮面の男目掛けて滑空する。


 それを悠々と躱わす仮面の男は、

 ヴァーレイグの隙を探すように、

 左右へ移動しながら様子を見ている。


 剣は殴れば壊れる程度の強度だが、

 繰り出される数こそが最たる脅威だ。


 壊しても壊しても、剣は無尽。

 ヴァーレイグの手数は無限に近い。


 いまは回避しつつ、

 攻撃の隙を探すしかない。


 そう思って避け続けるのはいいが、

 流石は勇者、隙が一切ない。バケモノめ。


「確か勇者一党最初の魔法使いは、

 勇者と同郷だったと聞く。

 それがガグンラーズか?」


 精神攻撃で揺さぶってみる。

 ユミルが死んでいる現状、

 勇者はガグンラーズという名に敏感なはず。

 手元が狂って隙が生まれれば万々歳だが……


「ああ、そうだとも。

 お前が殺したユミルもガグンラーズだ。

 故に殺す。あの世でアイツに詫びを入れろ。

 それが貴様に課せられた義務と知れ」


 一手、遅れたか。

 やはりヴァク・ガグンラーズ(あのクソガキ)を取り逃したのが余りに惜しい。

 そのせいで勇者の精神安定剤になってしまった。


 まぁ起こったことを悔いても仕方ない。

 今は何をするべきか模索してる時点で、

 俺が勇者に勝つ未来はない。


 ので、撤退するのが一番。

 その隙を見つけるor作るべきなのだが……


「……チィッ。しつこい……!」


 如何せん、この黄金剣(ファンネル)が厄介だ。

 避けても旋回して再突撃してくるし、

 壊しても補充されるとかクソゲーか?

 弾幕ゲームやってんじゃねぇんだぞ。


「……弾幕ゲームか」


 OK。戦闘イメージは固まった。

 相手がバカほど弾幕を打ち込んでくる場合、

 必要、遠距離戦になると相場は決まっている。


「お前、その紋章は……!?」


 ならば、と六芒星に青白い輝きを灯す。

 そして握る手の中のルーン石に魔力を通す。


 ()()()()()()()()()

 赤いルーン石を投擲する。


「【カノ】――」


 だけならば、多少の問題もなかったろう。

 だが()()()()は現れた。


 ヴァーレイグの背丈を超える、

 ドラゴンの炎息(ブレス)をのような、巨大な炎の波。

 さしものヴァーレイグであっても、油断は出来まい。


「炎の厚みが、足りないな!」


 一刀両断。

 炎の大波が叩っ斬られた。

 うっそだろ。炎って現象だぞ?

 力だけで切り捨てるって、

 どんな膂力してんだこの勇者。


 だが予想内ではある。

 この属性:主人公なら、

 奇跡の一つでも起こすだろう。


「そうか。なら次を叩き込むだけだ」


 切り飛ばされた炎の合間を縫って、

 黒い球体がヴァーレイグへと射出される。

 指先くらいの大きさの小さな黒い球体。

 しかし闇より暗い黒が内包されている。

 そう。俺が放とうとしている魔法は――


「【狂狼よ、喉笛を砕け(ガンド)】」


 放つは一つ。けれど放てる最大出力で。

 恨みつらみや憎しみや妬みを全部乗せ、

 たった一発、然れど必殺足り得る殺意の塊。


「……生半可な威力ではなさそうだな」


 そうとも。

 俺の【ガンド】は並大抵の物ではない。


 戦術級の魔法だ。

 一個師団程度なら消し飛ばせる。

 勇者戦でも最適となる攻撃魔法。

 切り捨てられるものなら、やってみろ。


「【ガンド】か。

 なるほど、威力だけなら一級品だな。

 だがその程度の魔法で、

 俺を倒せると思うなよ青二才!」


 重力に抗って切り上げられた剣先は、

 狙いを定めた猛禽類の如く【ガンド】に食ってかかる。


 だが流石自慢の我が【ガンド】。

 勇者の大剣に当たっても尚、

 その力に怯むことなく押し返した。


「何? 押されている?」

「俺の【ガンド】を甘く見るなよ。

 王宮魔導士が出せる威力の倍はあるぞ」

「ほう……倍か。――ならば!」


 仮面の男の行動を阻害していた黄金剣の一部が、

 【ガンド】に押される勇者の下に集結する。

 そして次々に大剣へ融合するように消えていき、

 やがて大剣は強烈な黄金の光を放って【ガンド】を浄化した。


「ほう、浄化か」

「相当の怨念が籠っていたのだろうがな、俺は勇者だ。この程度なら問題ない。――さあ襲撃者よ。これでタネ切れだろう。ユミルの仇撃ちと行こうか」

「……それは無理な相談だな。生憎と、脱出手段が整った」


 そう言う仮面の男の足元に金色の魔法陣が現れる。


 儀礼魔法【虹の橋(ビフレスト)】。

 指定の魔法陣の上に乗った物体を、

 違う場所へと瞬間移動させる魔法だ。


「……いつ詠唱したんだ?

 喉の震えも見えなかったぞ」

「さてな。見逃したんじゃないか?

 お前もそろそろ年だろう、

 勇者ヴァーレイグ」

「まだ29だバカタレ。

 俺の耳は衰えていないし、

 向こう20年は戦える自信しかないな。

 だからこそお前の魔法(ソレ)が気に掛かるんだよ。

 一体、何をした?」

「……」


 鼻を鳴らし、回答拒否。

 目的達成。脱出準備も完了、

 勇者の問いに付き合う道理はない。


「答える気はないか。

 ならば問いを変えよう。

 お前、()()()()()()()()()()()な?」

「っ!?」


 …………流石に驚いた。

 口を噤んで勇者を睨む。

 それだけで答えを示してしまった気もするが、

 それも仕方のないことだろう。

 野生の感、恐るべしと言うべきか。


「最近、とあるヒトに()の話を聞いたんだよ。

 荒唐無稽だと思っていたんだが、

 どうやら合っているようだな?」

「…………」

「雄弁は銀だが、沈黙は金だぜ。

 仮面を付けて顔を隠してる割には、

 お前、隠し事が苦手なんだな」


 俺が隠し事が苦手なのではない。

 この勇者には隠し事ができないだけだ。

 これ以上の情報は落とすまい。

 俺は【虹の橋】を起動して、この場から脱出した。



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