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メメントモリ 〜白星よ、死を忘る勿れ〜  作者: 光合セイ
第1部 ヴァク・ガグンラーズ編
1/22

0話 世界間

『ボンジューカリメラグッモーニン! ニーハオ世界! こんばんは見知らぬキミ!』


 目が覚めたら、視界いっぱいの白い空間だった。

 そんなありがちな意識覚醒イベントは、フィクションでしかありえない出来事だと思っていた時期が俺にもありました。


 無論、今でもその感性は変わらないというか、

 実際起きている()()()()は夢の中としか思えないけど。

 いや、でも振り返ってみると、俺は夢の中で「自分は夢を見ている」と思えたことはないのであって、逆にちょっと現実味があるというか何というか。


『あれ反応ない。もしもーし、おはこんばんにちは?』


 兎も角、目の前にいる真っ白い()()()

 角膜が黄色い以外は、全部真っ白で統一された格好の、少年?

 人間味のある白ではなく、白磁のように熱の薄れた白い肌や髪を、

 古代ローマのトーガのような白い薄着で隠した、少女?


 転がった鈴のように軽快な中性的な声を鳴らし、

 伸びた白髪で俺の鼻を擽ぐりながら、

 白磁のように小さな手を俺の眼前で振っている。


『うーん、聞こえてないのかな。しょうがない。

 気は進まないけど、耳元で爆音を鳴らして意識の覚醒をばーー』

「グッモーニン世界。そして誰だお前は。

 いきなり他人ヒトの耳をぶっ壊そうとすんじゃねえ」


 いそいそとラジカセの準備を始めたのを確認し、

 眠気と怠けを一気に吹き飛ばして白い子供を静止する。


 それにこんなに話かけられていたら、おちおちと眠っていられない。なんせ耳と心臓に悪すぎる。


「あと、世界のあいさつをごちゃまぜにするな。グローバリズムの成れの果てかお前は」

『しょうがないじゃないか。キミの言語がわからないんだから。

 キミの国でのあいさつは何だい? オラ? はいさい? ナマステ?』

「こんにちは、だよ。あとおはよう、こんばんはもな。時間によって使い分け……なんで俺は日本語の授業をしてるんだ」


 起床早々見知らぬ外国の子供に日本語教室を開いている自分に疑問を持ち、どうにか頭の回転を開始する。ここまで脳みそ無回転。本能と反射神経だけで行動していた。……俺、変なこと口走ってないよな?


『じゃあこんにちは。よく来たね!』

「……ここは何処だ? 俺は何でここにいる?」

『端的に言えば死んだからだよ。御愁傷様です。

 あ、御愁傷様は違うかな? 故人相手にはなんて言えばいいと思う?』


 白い子供が日本語の謎について聞いてくるが、

 そんなトンチキなことを考えている場合じゃない。


「待て待て、死んだ? 俺は確か自分の家の、自分の部屋の、自分のベッドで寝ただけのはずだぞ。死ぬ要素が何処にある?」

『寿命だよ。享年17歳。天寿を全うして没したんだ。

 病も怪我も事故もなく、キミは寿命を迎えたんだよ』

「は?」


 17歳没。死因=寿命?

 いくらなんでも早すぎる……というか、唐突が過ぎないか?

 10代で天寿を全うするなんて話、聞いたことがない。……いや、欧米とかでは事例があったか? ハプスブルクの遺伝性疾患的な。


 我が家は近親婚とかもない、

 普通の家だったはずだけども。


『キミは早熟型。それも超が付くほどのね。

 子供の頃に言われたんじゃない? 覚えがいいね、天才じゃないか、神童だ!』

「いや、ないけど。生憎と身体を動かすのが好きなタチでね。勉強も習い事も昔から嫌いなんだ」

『おうマジか。本当に? 成長型の早い人間は、その分頭を使うのが好きなイメージだったんだけど。ま、人間の神秘かな。ここは僕の認識を改めるとしよう』


 勉強で誇れることと言えば、小学校のテストで百点しか取らなかったとか、

 次の範囲まで理解してるから友人にノートを見せてとせがまれた、とかくらいしかないけども。


 英検とか漢検みたいな国家資格も持っていないし、やりたい勉強も成したい事とかもない。最近では大学進学がどうたらと言われ続けて辟易していたくらいだ。


 「しゃんとなさい」親の声を思い出してため息を吐く。

 言われなくてもやるっつーの。てか、やんなくても何とかなんだろ。


 ……まあ、俺は死んだらしいし、もう関係ないけど。


『とはいえキミの成長型ソレが変わるわけじゃない。

 キミに備わっているであろう天才性は、

 神によって作られたもの。

 謂わば時代の特異点となるべくしてね。

 その代償として、寿命が短く設定されたんだよ』

「短すぎだろ。何を為せんだよ17年で。

 ジャンヌダルクのオルレアンでも19だぞ」

『パスカルは16歳で定理を発表したし、

 モーツァルトは5歳で交響曲を奏でてるよ。

 どっちも早逝したしね。要は力の使い所さ』


 本物の天才と比べないで欲しいのだが。

 というか、さっきから過剰評価甚だしい。何故俺は子供にここまで誉められているのだろうか。


「なんでそこまで俺をおだてる?

 俺は結局、何も為せなかった男だぞ。お前の言葉は、俺にとっちゃ裏があるようにしか聞こえないんだよ」

『ザッツライト! ボクの言葉には裏がある。

 キミにやって貰いたいこともあるし、

 ボクの味方でいて貰いたいからね!』


 安易な暴露きた。ここまで大声で言えば、裏も表も糞もないな。


 ……いやいや騙されるな。絶対まだ何か思惑はある!

 こんな胡散臭い子供に、詐欺られたりなんかしないぞ!


「……何が狙いだ?」

『いま言った通りさ! これがボクの全部だよ。いまの言葉に嘘偽りはない』

「隠してそうなことが多すぎんだよ。言葉の節々の虫食いが多い。ちょっと台詞が抽象的過ぎないか?」

『事が事だからね。

 キミは偉業を為す人物となる。

 それは“神”であるボクが断言しよう』

「……は? 死人に何を――」



 ――瞬間。

 黄金の幾何学模様が、

 俺の足元に描かれる。



「…………は?」

『汝、異世界からの来訪者よ。巡り巡る世界の終末――すなわち終末論を調停せよ』

「何言ってんだコイツ。腕でも疼いた?」

『ちょっと今シリアスだからフザけないで。

 ……コホン。これは神命である。――繰り返す、これは神命である。汝、彼女いない歴イコール年齢の大和男児よ、こたえよ』

「OK。お前も色んな意味でふざけてんな、ぶっ飛ばす!」

『汝、異世界を救う意志はあるか?』


 ないが? なんでここまでボコボコに言われて、協力すると思われてんの? コイツ舐めてる? 処す? 処す??


「絶対に断る。

 そりゃあ異世界転生とか、血湧き肉踊る程度には面白そうだが、なんで言葉のナイフでぶん殴ってきた奴に協力しなきゃいけないんだ。

 そんなことより天国行かせてくれ。俺窃盗とか殺人とかしたことないし、地獄にゃいかないだろ? ほら早よ」

『そんなことはないさ。殺虫経験がある時点で地獄行きの条件は満たしてるし、そもそも親より早く死んだら賽の河原で石積み刑だよ』


 そういえばそうか。

 あれ。もしかして俺って、いま詰んでる?


『ジャパンの地獄は、ルールが多過ぎるからね。ここで元の輪廻に戻したら、文字通りの()ごっこが始まるんじゃないかな?』

「おし。ちょっと世界救ってきます。異世界楽しみだなあ! ほら異世界転生はよ。はよ」

『現金だなあ。嫌いじゃないけどね』


 死後にわざわざ苦しみに行く馬鹿が何処にいる。

 そもそも虫を殺したり、神に定められた天寿を全うしただけで地獄に行かなきゃいけないとか、そっちの方がフザけてる。ジャパンの地獄ねえわー、まじねえわー。


『それじゃあ、再開しようか――』


 白い子供が手を翳す。

 掌の先にあった金色の魔法陣は、

 その行動に反応したように輝き始める。


『我が名はアルファズル。

 極星七大権能(セブン・センス)第一席を預かる“神”アルファズル。

 我が根源たる万能恵者(オールマイティ)の名の元に、異世界からの来訪者に祝福を授けん』


 金色の魔法陣が粒子分解され、

 蛍のように俺の身体へ纏わりついてくる。


 ペタペタと俺の身体に光粒がくっ付いてくるのを確認して、アルファズルと名乗った白い子供は更に言葉を紡いだ。


『刮目せよ、此の稚児を。

 刻み込め、世界の声を。

 立ち向かえ、終末の刻に!』


 アルファズルの眼が紅く染まる。

 ギシギシと何処からか軋みの音が鳴り、

 ゴオゴオと嵐のような風が吹き荒れる。


 さながら台風の中で立っているような、

 あるいは地震の大揺れを体感しているような。


『さあ、勇士よ。剣を()れ。

 万象総てを薙ぎ倒し、

 世界の終わりを駆逐せよ。

 【リィンカーネィション】』


 浮遊感を感じる。


 魔法陣の上に立つ俺の身体は、

 ふわりと海月のように揺蕩い浮かび出す。


 無重力、というやつなのだろうか。

 身体に力を入れても意味はなく、

 ふわりふわりと制御が効かない。


「お、おお? おおお?

 なんか身体浮いてきた?」


 おおおー! と、はしゃぐ俺を見て、

 アルファズルはふっと微笑んで言った。


『いってらっしゃい、

 名前のないキミ。

 新たな名前を得て、また会おう』

「あ? ――え?」


 瞬間、急降下。

 魔法陣が刻まれていた床が抜け、

 身体を浮かばせていた無重力が()()()()()


「ギヤあああぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!?」


 これは、不味い。

 身体が刻まれるように痛い。

 顔が火に焼かれているかのように熱い。

 肌が凍ってしまっているように冷たい。


 強い風を全身で受ける。

 星の重力に引き寄せられ、

 下へ下へと落下していく。


「たす、たすけ……! これ、やばい!」


 大気圏を抜け、雲を抜け、

 未開拓なのか、なんなのか。

 森か林か、緑に覆われた大地を視認する。


 遠い山に、あれはドラゴンか?

 蜥蜴のような尾を持つ翼竜が、

 三体ほど翼を羽ばたかせている。


 その逆の方向には大きい街。


 白亜の城壁が取り囲む城の城下町は、地の果てまで続くかのようだ。

 そして、その先の荒野の、さらに先に見える禍々しい黒い巨大な城。あそこに魔王でもいるのだろうか。


 空を見ると、2つの太陽が並んでいる。

 この世界には、恒星が2つあるのか?

 


 こんなの、日本では絶対に見れやしない。



「…………すげえ」


 これが異世界か。本当に異世界に来たんだ。

 そう自覚すると、胸の奥からふつふつと込み上げてくる物が感じられた。


 ふと、下を見る。

 家々が離れた場所にあり、

 田園が広がる田舎のような光景が見えた。


 ちょうど真下に一軒の小屋。

 石造、茅葺き屋根の小さな家。


「あれ。これぶつかるんじゃ……?」


 …………。


 ……不味い。


 不味い、不味い不味い不味い!?


 地面に衝突どころか、家屋破壊から始まる異世界生活とか絶対に嫌だ!

 いや、というかこの勢いのまま突貫するのか!? これ異世界生活始まるどころか、始まる前に落下死で終了するんじゃないか!?


「アルファズルうううう! たすけてええええ!!」






「この子の名前は決めた?」

「ああ、もちろんだとも」






「ギヤァァァァぁああアア!! じぬううううう!?」






「そう。聞かせてくれる?」

「もちろん! この子の名前は――」






「ヴァク。この子は今日から、

 ヴァク・ガグンラーズだよ」


 ……へ?



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