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2.愛の都 メロリウス

 

 城門は意外にもすんなりと通ることができた。

 一度止まれと言われ、一分も立たないうちに通ってよしと言われた時は却って不安になってしまった。


 門をくぐり抜けた先には、華やかな光景が広がっていた。


 真っすぐ伸びた道に沿って多くの屋台が並んでいる。お腹が空くような匂いが漂っており、つられた人々が屋台に並んでいる光景だ。何よりも、そこにいるのは人間だけでなく、獣人も同じくらいの数を占めていた。


 あちこちに置かれた花壇が、メロリウス全体を明るくしているように見えた。


「ここが……愛の都」


 見たこともない世界に、胸が高鳴るのがわかった。色々な髪色の人がいる中で、金髪は見当たらなかった。


(目立たないようにしないと)


 ぐっとローブを被り直して存在感を消そうとした時、お腹が鳴った。


(そうだった、もうすぐお昼の時間ね)


 まずはお腹を満たそうと屋台の方へ歩き出した。

 食欲をそそられるものばかり売られており、どれにするか迷ってしまうほどだった。


(美味しそうな焼き串……あれはいくらするのかしら)


 気になったお店に視線を向けると、一人のお客がお店に近寄った。耳を澄ませれば「焼き串一本」と頼む声が聞こえた。


(それにしても、アドルフさんの言っていたことは本当だったわ)


 ここに来る前、言葉が通じるかということが不安事の一つとしてあった。しかし、アドルフさんの話では問題ないということだった。

 彼は、「元々帝国にいた人間が、戦いに敗れ逃げた先に行きついたのが西の大陸でな。だから言葉は同じものを使うみたいだ。まぁ本当かどうかはわからないけどな」と話した。

 史実がどうかはわからないが、言葉が通じることに胸をなでおろした。

 焼き串を購入しに屋台へ向かうと、無事手にいれることができた。


(……うん、美味しい)


 お腹が満たされていくのを感じて、今度は違う味付けの焼き串を頼んだ。


 食べ終えると、都の散策をすることにした。


 まずは屋台通りを抜けて広場に出たのだが、至る所で男女が楽しそうにしていた。男女といっても、人間と人間の組み合わせがあれば、獣人と人間、獣人と獣人の組み合わせもあってどこか新鮮だった。見るからに恋人の雰囲気で、なんだか圧倒されてしまった。


(これが愛の都なのね……凄いわ)


 あらゆる場所から幸せな空気が漂ってきた。最初は微笑ましく思っていたのだが、漂ってくる空気が段々と濃くなり数も多くなってきたことで、胸やけがしそうになった。


(でも、私もここで恋愛ができるという証拠よね。頑張らないと)


 そう気を引き締めれば、徐々に恋人の数が減ってきた。見当たらなくなったところで、建物が並ぶ通りに入った。看板を見ると、建物の正体が宿だということがわかった。


(ここは宿が集まる通りということね。丁度良かった。今日泊まる場所を探しましょう。予算は……)


 硬貨の入った小袋を取り出す。袋の中には数枚しか硬貨が入っていなかった。


(それにしても、そろそろお金がなくなりそうね……)


 一日宿に泊まる分はあるのだが、底をつくのは時間の問題だった。

 乗船や乗合馬車など、ここにくるまででほとんどのお金を使ってしまった。ここから先は、お金を稼がなくては生きていけない。 


「まずは宿を見つけてから、お仕事探しをしないと……!」


 先の見通しが全くないのだが、どこかわくわくしている自分がいた。

 早速宿探しを始めると、できるだけ安い場所を見つけた。荷物はトランクだけだったので、宿に置かず手にしたままお仕事を探すことにした。


 先程通った広場に戻り、来た道とは別の方向へ曲がった。すると、少しずつ華やかな服装の人が増えてきた。屋台通りの時とは違って、高貴な雰囲気が漂い始める。そして、奥の方に馬車が止まっているのが見えた。


(ここから先は、貴族御用達のお店みたいね)


 働き口としては適さないだろうと、分かれ道を曲がることにした。すると、少しずつ穏やかな空気を感じ始めた。すると、大きな建物が目に入る。


「何を売っているお店なのかしら」


 好奇心に駆られて近付くと、お店の近くに看板が立ててあった。


「ハリス商会……」


 店ではなく商会であったことがわかると、その場から離れた。別の場所に向かおうとすれば、近くにあった掲示板が目に入る。


「……お針子募集中。住み込みも可」


 その文字を見た瞬間、私は目を見開いた。そしてすぐに笑顔を浮かべると、トランクを握り締めた。


「あったわ……!」


 再び看板の方へ戻ると、そのまま玄関へと進んだ。

 小さく息を吐くと、扉を叩いた。


「ごめんください」


 できるだけ大きな声で訪ねると、中から「はーい」という返事が聞こえた。

 微かに聞こえる足音が、こちらに近付いてくるのがわかる。


 そして扉が開くと、中からは女性が出てきた。


「こんにちは。何か御用ですか?」

「こんにちは。そちらにあった、お針子募集という紙を見まして」


 もう募集を締め切っているかもしれないと思いながらも、期待を抱いて女性を見た。すると彼女はじっと私を見つめて、言葉を考えているようだった。断られると感じ取れば、女性は優しい笑顔を浮かべた。


「求人を見てくださったんですね。中へどうぞ」

 

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